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2 最悪の地へ
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ドサッ!
春馬と未奈の入った檻は、強い日差しが照りつける砂浜に着地した。
ゆるやかな波が寄せては返している。
のどかな風景だ。
「無事に地上に降りられたけど、檻からは出られないんだな」
春馬が、ゴーグルをはずして言った。
「……ごめん。あたしは、まだなにも考えられない」
未奈が、疲れた顔で言った。
「そうか、それもそうだな。それと、これは、もういらないと思うよ」
春馬は、未奈のゴーグルをはずしてやる。
「ありがとう」
「もう、なるようにしかならないな」
春馬が開きなおったように言うと、未奈が笑顔になって聞く。
「ねぇ、あの暗証番号の解説をして」
高所恐怖症の未奈は、落下中はなにも考えられなかったようだ。
それでも、ディスプレイに映っていた問題と、それを解く春馬の活躍はしっかりと見ていた。
「あれなら、冷静になるとそれほど難しくないんだ。暗証番号は□-□となっていただろう。真ん中に『-』がはいっているので、スポーツなどの点数じゃないかと推測したんだ」
「1つ目のヒントは『白い犬』だったわね。もしかしてだけど、白い犬は『尾も白い』で『おもしろい』とか?」
未奈が、半信半疑で聞いた。
「うん、そうだ。つまり、あるスポーツのおもしろい点数ということだ」
「次のヒントは『米』ね。これは、米国。アメリカという意味かな?」
「それも正解だ。『スポーツの点数』、『おもしろい』、『アメリカ』で、ある点数が思いうかんだんだけど、ミスは許されないから、3つ目のヒントまで待ったんだ」
「最後のヒントは『32』よね」
未奈は、まだわからないようだ。
「『32』は、アメリカ第32代の大統領を示しているんだ」
「それなら、あたしにもわかるわ。フランクリン・デラノ・ルーズベルトね」
「それで、なにか思いあたることはない?」
「……ルーズベルト大統領は、たしか、野球が好きだったのよね」
「よく知ってるね」
「テレビドラマにもなった『ルーズヴェルト・ゲーム』という小説を読んだことがあるの……。そうか、ルーズベルト・ゲームね」
未奈が、大きな声で言った。
「うん、それだよ。野球好きだったルーズベルトは、新聞記者に送った手紙に、『一番おもしろいゲームのスコアは、8対7だ』と書いたんだ」
「そうか。なるほどね……」
春馬と未奈が話をしていると、ドクロの仮面をつけた男たちが数人やってくる。
「ヘルプ・ミー」
春馬が話しかけるが、男たちはなにも答えない。
そして、檻に設置されていたパラシュートを手際よくはずした。
「あの……、日本語はわかりますか?」
未奈が声をかけても、だれも答えてくれない。
男たちは、2人の入った檻を持ちあげると運んでいく。
「ぼくたちを、どこに運ぶんですか?」
春馬が聞くが、男たちは無視だ。
「運んでもらえるのなら、ゆっくり休みましょう」
未奈は能天気に言うと、ごろりと横になった。
すぐに寝息が聞こえてくる。
「……ぼくも、眠たくなってきたな」
春馬も、檻の中で横になった。
どれくらいたっただろう?
ぐらーりぐらーりと体がゆれて、春馬は目を覚ました。
となりを見ると、未奈が先におきていた。
2人は、まだ檻の中だ。
「……ここは、どこ?」
春馬が聞くと、未奈がため息まじりに答える。
「船の中みたいよ」
「飛行機の次は、船か……」
「しかも、荷物あつかいよ」
未奈に言われて、春馬がまわりを見る。
たくさんの木箱などの荷物がおかれている。
そのとき、ドンと音がしてドアが開いた。
春馬と未奈が目をむけると、ドクロの仮面の太った男がやってくる。
その男は聞いたことのない言葉をつぶやきながら、春馬と未奈にスプレー缶をむける。
いやな予感がした。
太った男はにやりと笑うと、スプレーを噴射した。
春馬と未奈は、また眠りにおちた。
ガタガタガタ……
「うわぁ!」
上下に激しくゆさぶられて、春馬は目を覚ました。
「今度は、なんなんだ!」
春馬が体をおこす。
「このゆれは、なに?」
となりで寝ていた未奈も、目を覚ました。
2人のはいった檻は、2頭の馬が引っぱる馬車の荷台に載せられている。
荷台の前にはフードをかぶった御者の大男がいて、2頭の馬をあやつっている。
「飛行機、船の次は、馬車だよ」
春馬はそう言って、まわりの景色を見る。
うっそうとした森の中を、馬車は走っている。
「ねぇ、雪よ?」
未奈が、空を見あげて言った。
4月だというのに、雪が降ってきた。
いったい、ここはどこなんだ?
馬車は、森の中の細いでこぼこ道を走りつづける。
「目的地に着いたみたいだ」
前方に、石造りの要塞のような大きな建物が見えてくる。
4階建てのビルくらいの高さがあり、隅に円柱状の塔が建っている。
まわりは深い堀になっているようだ。
馬車が堀の前にくると、木製の、粗末なはね橋が下りてくる。
「これって、古い刑務所かなにかかな?」
未奈が、不安げに聞いた。
「いや、おそらく城だ」
春馬の答えに、未奈が不満そうに聞きかえす。
「お城……って、ディズニーランドにあるシンデレラ城みたいなもの?」
「あれは、おとぎの国の城だ。これは、中世にヨーロッパで建てられた古城じゃないかな」
「それじゃ、ここはヨーロッパということ?」
「いや、それは、断定できないよ。以前、日本の俳優がスコットランドの古城を、北海道に移築しようとしたことがあるんだ」
「そうなの!?」
「北海道への移築はうまくいかなかったようだけど、今、その古城は群馬県にある」
馬車ははね橋をわたり、門の前でとまった。
御者の大男が振りむくと、顔にドクロの仮面をつけている。
「あの、ここが『奈落』ですか?」
春馬が声をかけた。
御者の大男は、なにもこたえないまま、荷台から春馬と未奈の入った檻を降ろす。
そして、檻の中になにかを投げいれてきた。
「なにかな?」
未奈がそれを拾う。
──鍵だ。
御者の男は馬車をUターンさせると、すごいいきおいで帰っていく。
「……どういうこと?」
未奈が首をかしげる。
「その鍵で、この檻が開けられるんだよ」
春馬は鉄格子から手を出して、鍵穴をさがす。
「ここに鍵穴がある!」
「まかせて」
未奈が鉄格子から手を出して、鍵穴に鍵を差しこんで回す。
カシャと音がして、鉄格子のドアが開いた。
「やったわ。これでやっと、出られるわね」
2人は、あたりを警戒しながら檻から出る。
ウオォォォォ……
森から、獣の遠吠えが聞こえてくる。
木々のうしろから、数匹のオオカミがあらわれる。
「未奈、急ごう!」
春馬は未奈の手をとると、建物へ駆けていく。