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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第1回

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2    最悪の地へ

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ドサッ!

 春馬と未奈の入った檻は、強い日差しが照りつける砂浜に着地した。

 ゆるやかな波が寄せては返している。

 のどかな風景だ。

「無事に地上に降りられたけど、檻からは出られないんだな」

 春馬が、ゴーグルをはずして言った。

「……ごめん。あたしは、まだなにも考えられない」

 未奈が、疲れた顔で言った。

「そうか、それもそうだな。それと、これは、もういらないと思うよ」

 春馬は、未奈のゴーグルをはずしてやる。

「ありがとう」

「もう、なるようにしかならないな」

 春馬が開きなおったように言うと、未奈が笑顔になって聞く。

「ねぇ、あの暗証番号の解説をして」

 高所恐怖症の未奈は、落下中はなにも考えられなかったようだ。

 それでも、ディスプレイに映っていた問題と、それを解く春馬の活躍はしっかりと見ていた。

「あれなら、冷静になるとそれほど難しくないんだ。暗証番号は□-□となっていただろう。真ん中に『-』がはいっているので、スポーツなどの点数じゃないかと推測したんだ」

「1つ目のヒントは『白い犬』だったわね。もしかしてだけど、白い犬は『尾も白い』で『おもしろい』とか?」

 未奈が、半信半疑で聞いた。

「うん、そうだ。つまり、あるスポーツのおもしろい点数ということだ」

「次のヒントは『米』ね。これは、米国。アメリカという意味かな?」

「それも正解だ。『スポーツの点数』、『おもしろい』、『アメリカ』で、ある点数が思いうかんだんだけど、ミスは許されないから、3つ目のヒントまで待ったんだ」

「最後のヒントは『32』よね」

 未奈は、まだわからないようだ。

「『32』は、アメリカ第32代の大統領を示しているんだ」

「それなら、あたしにもわかるわ。フランクリン・デラノ・ルーズベルトね」

「それで、なにか思いあたることはない?」

「……ルーズベルト大統領は、たしか、野球が好きだったのよね」

「よく知ってるね」

「テレビドラマにもなった『ルーズヴェルト・ゲーム』という小説を読んだことがあるの……。そうか、ルーズベルト・ゲームね」

 未奈が、大きな声で言った。

「うん、それだよ。野球好きだったルーズベルトは、新聞記者に送った手紙に、『一番おもしろいゲームのスコアは、8対7だ』と書いたんだ」

「そうか。なるほどね……」

 春馬と未奈が話をしていると、ドクロの仮面をつけた男たちが数人やってくる。

「ヘルプ・ミー」

 春馬が話しかけるが、男たちはなにも答えない。

 そして、檻に設置されていたパラシュートを手際よくはずした。

「あの……、日本語はわかりますか?」

 未奈が声をかけても、だれも答えてくれない。

 男たちは、2人の入った檻を持ちあげると運んでいく。

「ぼくたちを、どこに運ぶんですか?」

 春馬が聞くが、男たちは無視だ。

「運んでもらえるのなら、ゆっくり休みましょう」

 未奈は能天気に言うと、ごろりと横になった。

 すぐに寝息が聞こえてくる。

「……ぼくも、眠たくなってきたな」

 春馬も、檻の中で横になった。


 どれくらいたっただろう?

 ぐらーりぐらーりと体がゆれて、春馬は目を覚ました。

 となりを見ると、未奈が先におきていた。

 2人は、まだ檻の中だ。

「……ここは、どこ?」

 春馬が聞くと、未奈がため息まじりに答える。

「船の中みたいよ」

「飛行機の次は、船か……」

「しかも、荷物あつかいよ」

 未奈に言われて、春馬がまわりを見る。

 たくさんの木箱などの荷物がおかれている。

 そのとき、ドンと音がしてドアが開いた。

 春馬と未奈が目をむけると、ドクロの仮面の太った男がやってくる。

 その男は聞いたことのない言葉をつぶやきながら、春馬と未奈にスプレー缶をむける。

 いやな予感がした。

 太った男はにやりと笑うと、スプレーを噴射した。

 春馬と未奈は、また眠りにおちた。


ガタガタガタ……

「うわぁ!」

 上下に激しくゆさぶられて、春馬は目を覚ました。

「今度は、なんなんだ!」

 春馬が体をおこす。

「このゆれは、なに?」

 となりで寝ていた未奈も、目を覚ました。

 2人のはいった檻は、2頭の馬が引っぱる馬車の荷台に載せられている。

 荷台の前にはフードをかぶった御者の大男がいて、2頭の馬をあやつっている。

「飛行機、船の次は、馬車だよ」

 春馬はそう言って、まわりの景色を見る。

 うっそうとした森の中を、馬車は走っている。

「ねぇ、雪よ?」

 未奈が、空を見あげて言った。

 4月だというのに、雪が降ってきた。

 いったい、ここはどこなんだ?

 馬車は、森の中の細いでこぼこ道を走りつづける。

「目的地に着いたみたいだ」

 前方に、石造りの要塞のような大きな建物が見えてくる。

 4階建てのビルくらいの高さがあり、隅に円柱状の塔が建っている。

 まわりは深い堀になっているようだ。

 馬車が堀の前にくると、木製の、粗末なはね橋が下りてくる。

「これって、古い刑務所かなにかかな?」

 未奈が、不安げに聞いた。

「いや、おそらく城だ」

 春馬の答えに、未奈が不満そうに聞きかえす。

「お城……って、ディズニーランドにあるシンデレラ城みたいなもの?」

「あれは、おとぎの国の城だ。これは、中世にヨーロッパで建てられた古城じゃないかな」

「それじゃ、ここはヨーロッパということ?」

「いや、それは、断定できないよ。以前、日本の俳優がスコットランドの古城を、北海道に移築しようとしたことがあるんだ」

「そうなの!?」

「北海道への移築はうまくいかなかったようだけど、今、その古城は群馬県にある」

 馬車ははね橋をわたり、門の前でとまった。

 御者の大男が振りむくと、顔にドクロの仮面をつけている。

「あの、ここが『奈落』ですか?」

 春馬が声をかけた。

 御者の大男は、なにもこたえないまま、荷台から春馬と未奈の入った檻を降ろす。

 そして、檻の中になにかを投げいれてきた。

「なにかな?」

 未奈がそれを拾う。

 ──鍵だ。

 御者の男は馬車をUターンさせると、すごいいきおいで帰っていく。

「……どういうこと?」

 未奈が首をかしげる。

「その鍵で、この檻が開けられるんだよ」

 春馬は鉄格子から手を出して、鍵穴をさがす。

「ここに鍵穴がある!」

「まかせて」

 未奈が鉄格子から手を出して、鍵穴に鍵を差しこんで回す。

 カシャと音がして、鉄格子のドアが開いた。

「やったわ。これでやっと、出られるわね」

 2人は、あたりを警戒しながら檻から出る。

ウオォォォォ……

 森から、獣の遠吠えが聞こえてくる。

 木々のうしろから、数匹のオオカミがあらわれる。

「未奈、急ごう!」

 春馬は未奈の手をとると、建物へ駆けていく。


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