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9月新刊『ウタヨミ!』先行ためし読み/第6回「歌の思いと物語」


「サキヨミ!」シリーズで大人気★七海まち・待望の新作『ウタヨミ! 呪いの百人一首を封印せよ!』は、闇の百人一首の封印をといちゃったヒメと、謎のクール男子・嵐(らん)がいどむ、和歌バトル×学園ストーリー! 9月9日(水)の発売にさきがけて、ドキドキの【ためし読み】を特別に先行公開するよ★



『ウタヨミ! 呪いの百人一首を封印せよ!』

(七海 まち・作 ぎんいろ・絵)

9月9日発売予定




6 歌の思いと物語

「おせーぞ、澄人」

 東堂くんににらみつけられ、校長先生は小さくため息をついた。

「嵐。中学生になったら言葉づかいに気をつけるよう言っただろう」

「知らね」

 そう言って、ふいっと顔をそむける。

「仕事を放り出してすぐ駆けつけたんだ。感謝してほしいくらいだけどね」

 校長先生が家の中に足をふみ入れた。

 すると、お父さんがろうかに立てかけてあった木刀を取った。

「澄人。何の用だ」

「ちょ、ちょっとお父さん⁉」

 木刀を鼻先につきつけられても、校長先生は表情ひとつ変えない。

「回収した闇札を預かりにきた。わたしが責任を持ってほこらにもどす」

「それだけか?」

「いや。ヒメさんに、封じ手として必要なものを渡しにきた」

 言いながら、校長先生はカバンの中から古びた本を取り出した。

「おれはヒメに、封じ手なんてものをやらせるつもりは――」

「もう聞いたんだろう、京太郎。ヒメさんがほこらをけっとば――たおして、闇札の封印を解いてしまったことを」

「うっ……」

 お父さんが、静かに木刀を下ろす。

「――わかった。あがってくれ」

 校長先生は「おじゃまします」と涼しげな笑みを浮かべた。

 リビングにもどると、わたしはあらためて、ほこらをたおしてしまったときのことを話した。

「というわけで……本当にごめんなさい!」

「謝ることないよ! 腕だめしできるから、あたしはサイコーにワクワクしてる!」

 冬希先輩が声をはずませると、南戸先輩もうなずいた。

「むしろ、お礼を言いたいくらいだ。秘伝書でしか知らなかったことをこの目で見られて、胸が震えたよ」

「ひでんしょ?」

「これです」

 校長先生が、さっきの古びた本を差し出した。

「秘伝書は、わが東堂家に伝わる古文書です。これは昭和の中頃に作られた、内容はそのままに文章をわかりやすくしたものです。封じ手の歴史などについて書かれているので、ぜひ目を通してください」

 それと、と校長先生がわたしを見る。

「ヒメさんには、『かるた部』に入ってもらいます」

「かるた部?」

 きょとんとする。まほろば中に、かるた部なんてあったっけ?

「今年度から創設した部です。部員は、封じ手の四人。部長は、南戸くんにやってもらいます」

 校長先生が言うと、南戸先輩が「よろしく」とほほえんだ。

「表向きは、普通の競技かるた部だよ。でも裏の顔は、まほろば町を守る特殊部隊ってとこだね」

「つまり、あたしたち封じ手の秘密の作戦基地ってこと! やばっ、ワクワクしすぎてどうにかなりそう!」

 先輩たちが、楽しそうに顔を輝かせる。

 特殊部隊に、秘密の基地? なんだかわたしも、ちょっとワクワクしてきたかも……!

「おい、忘れんな。闇札は、まだ九十九首残ってる。百首回収するまで、ぼんやりしてるヒマはねえぞ」

 東堂くんが、けわしい目つきで言う。ひゃ、百首……!

 すると、南戸先輩がきらりと目を光らせた。

「もちろん、わかってるよ。部長として、しっかり活動計画を立てないとね」

「副部長はあたし! いっしょに楽しみながらがんばろうね、ヒメちゃん!」

 冬希先輩に「はい」と答えるわたしの胸は、どきどき震えていた。

 闇札は、残り九十九首。

 さっきのおそろしい「封札」を、あと九十九回やらなきゃいけないんだ……!

「じゃあ、わたしはこれでおいとましよう。ヒメさん、かるた部の活動は明日から始まります。われわれ封じ手の家の人間もサポートするので、よろしくお願いします」

「は、はい!」

 テーブルの闇札をカバンに入れると、校長先生は立ち上がった。

「じゃましたね、京太郎」

「さっさと帰ってくれ」

 涼しい顔の校長先生とともに、お父さんは部屋を出ていった。

「あの二人、ほんと仲悪いよねー」

 冬希先輩が苦笑いする。たしかに。お父さんと校長先生、どういう関係なんだろう?

「おっさん二人はほっとけ。ところで、西園。おまえ、百首ぜんぶ言えるのか?」

 東堂くんが、わたしの顔をのぞきこむ。

「あっ、それはばっちり! 決まり字さえ言ってもらえれば、ぜんぶ言えるよ」

「じゃあ、『め』は?」

「めぐりあいて みしやそれともわかぬまに くもがくれにしよわのつきかな」

「えっ、すごい! じゃ、『あさぼらけ あ』!」

 冬希先輩に言われて、「あさぼらけ ありあけのつきとみるまでに よしののさとにふれるしらゆき」と答える。

「なるほど、本当に覚えてはいるみたいだな」と東堂くんがあごに手を当てた。

「じゃあ、さっきの『きみがため は』の歌の意味は? 言えるか?」

「え? 意味?」

 とつぜん言われて、ギクッとする。

 いや、落ち着けわたし。考えれば、きっと答えられる!

 ええと、お父さんが野草の天ぷらを作ろうとして「共感者」になったわけだから……。

「春の野原に出ていって、『わかな』……野草をつんで」

 うんうん、と南戸先輩がうなずく。

「その野草で天ぷらを作っているところに、雪が降っている……とか……?」

「――はあっ? 天ぷら⁉」

 東堂くんの目がくわっと見開かれる。

「まさか『ころも』が天ぷらのころもとか言うんじゃないだろうな」

「そ、そのまさか、です」

「じゃあ『きみがため』は何なんだよ」

「さ、さあ……? 固い黄味、とか?」

 あっははは! と、冬希先輩がおなかを押さえて笑い出す。

「なるほど、これは驚かされたな。すごい発想力だ」

「感心してんなよ、清史郎!」

 東堂くんはハーッと長く息をついてから、わたしをぎろりと見た。

「いいか、よく聞け。まず『きみがため』は君、つまり『あなたのために』。『春の野に出でて』は、そのままだな。『若菜』は春の七草のことで、『わがころもで(衣手)』は『私の袖』って意味だ。天ぷらじゃない」

「えっ、そうなんだ! じゃあつまり、あの歌の意味は……」

「『あなたのために春の野に出て若菜を摘む私の袖に、雪が降りかかっている』、って意味だ」

 東堂くんが言った瞬間、はっと息が止まった。


 ――君がため 春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ――


 呪文だった歌が、意味を持って心にせまってくる。

「あれ? それじゃあもしかして、封札の後に見えた映像って……」

 わたしが言うと、東堂くんが「ああ」と答えた。

「あれは、元の歌にこめられた『思い』がおれたちに見せた、歌が生まれたときの『物語』だ」

「物語……って、あの映像、みんなにも見えてたの?」

「封札すると、四人全員に見えるみたいだな。野草を摘んでいたのは親王時代の光孝天皇。歌の作者だ。あの歌は、摘んだ野草とともに恋人へ贈られた歌だと言われている。諸説あるけどな」

(歌の、思い……か)

 お母さんの思い出が、頭の中によみがえってくる。

 きみがため――はるののにいでてわかなつむ――

 庭で野草を摘むお母さんの、優しい横顔。優しい手つき。

 わがころもでに、ゆきはふりつつ――

 野草を手に、わたしをふりかえって笑うお母さんの顔。

 それが、さっきの映像の男の人の顔と重なった。

 ――同じだ。

 わたしのために野草を摘んでくれた、お母さんの思い。

 それと同じものを、昔の天皇が歌に詠んでいたんだ。

「きみがため は」の歌は、天ぷらの歌でも、呪文でもなかった。

 大切なだれかを思った、このうえなく優しい歌だったんだ……!

「東堂くん、すごい、すごいよ! さっきまで呪文だったのに、もう呪文じゃない!」

「呪文? どういうことだ?」

 東堂くんが、眉を寄せる。

「えっとね、今までは意味を知らなかったから、ずっと呪文みたいに聞こえてたの。でも、東堂くんのおかげで歌の景色が見えて、それでなんか、すっごくこう、世界が変わったっていうか!」

 言葉が追いつかなくて、わたしは両手をぎゅっとにぎった。

「大げさだな。そんな、感動するほどのことか?」

 東堂くんが首をかしげる。するほどのことだよ‼

 すると、冬希先輩がにーっと笑ってうなずいた。

「そっかあ。ヒメちゃんは、『歌詠みの姫』だもんね。歌の思いに寄りそう力を持ってるんだ」

「うたよみの、ひめ?」

 冬希先輩の言葉に目をぱちくりとさせる。

「西園家の封じ手は、そう呼ばれているんだよ。百人一首の歌の思いを深く知ることで、『歌詠みの力』という不思議な力にめざめると言われている

 南戸先輩が言う。不思議な力……?

「くわしくは秘伝書にも書かれていないんだけど、封じ手の力をさらに高めたような、奇跡を起こす力らしい。難しい封札のときは、歌詠みの力が必要になることもあるそうだよ」

「つまり、四方の封じ手の中でも、ヒメちゃんは特別な存在ってわけ!」

 と、トクベツ⁉

「でも百人一首の歌の意味を知らない『歌詠みの姫』なんて、許されると思うか?」

 東堂くんが、きびしい顔つきでわたしを見る。

「明日から、百人一首の特訓だ。いいな」

「は、はいっ‼」

 タカのような目にとらえられて、びくっと震える。

 正直、ぜんぜん自信はないけれど。

 こうなったら、ちゃんと「歌詠みの姫」になれるよう、全力でがんばるしかない!



****
東堂くんの特訓ってーー!?
そして、ヒメはほんとうに…「歌詠みの姫」なの…?

いよいよ、ヒミツのかるた部が始動!
次々とあらわれる闇札に、ヒメたちが立ち向かうよ!
続きはぜひ、
9月9日(水)発売予定の
『ウタヨミ! 呪いの百人一首を封印せよ!』
を読んでね!

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***
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****


書籍情報


作: 七海 まち 絵: ぎんいろ

定価
880円(本体800円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046324221

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