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9月新刊『ウタヨミ!』先行ためし読み/第1回「白水晶の数珠」


「サキヨミ!」シリーズで大人気★七海まち・待望の新作『ウタヨミ! 呪いの百人一首を封印せよ!』は、闇の百人一首の封印をといちゃったヒメと、謎のクール男子・嵐(らん)がいどむ、和歌バトル×学園ストーリー! 9月9日(水)の発売にさきがけて、ドキドキの【ためし読み】を特別に先行公開するよ★



『ウタヨミ! 呪いの百人一首を封印せよ!』

(七海 まち・作 ぎんいろ・絵)

9月9日発売予定





1 白水晶(しろずいしょう)の数珠

  あまのはら ふりさけみれば かすがなる

 呪文みたいな不思議な音の連なりを、口の中で転がしてみる。

  せをはやみ いわにせかるる たきがわの

 すごく心地よくて、ドキドキしていた心がしずまっていく。

  ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ

 お母さんも、よく口ずさんでいた。

 白水晶の数珠をくるくるといじりながら唱える声を、よく覚えてる。

 あったかくて、優しいひびき。

 赤ちゃんの頃から聞いているうちに、わたしも自然と覚えちゃってた。

 といっても覚えたのは「音」だけで、意味はぜんぜんわからないんだけどね。

  かいなくたたん なこそおしけれ

  ものやおもうと ひとのとうまで

 そう、これは百人一首。

 五・七・五・七・七の三十一音でできている「和歌」を、百首集めたもの。

 お母さんはいつも、百人一首を歌ってた。

 料理をするときや、散歩をするとき。

 わたしを寝かしつけるときも、子守歌みたいに。

 でも――お母さんはもう、この世にはいない。


***


「ヒメ! 荷物、ここに置くぞ」

 はっとしてふりかえる。

 ろうかに、段ボール箱をかかえたお父さんが立っていた。

「あ、ありがとう、お父さん」

「大丈夫か? ぼーっとしてたみたいだけど」

 言われて、えへへと笑う。

「この部屋、なつかしくて。ちょっと、思い出にひたっちゃった」

「そうか。よくここで、お母さんと百人一首をして遊んでたもんなあ」

 お父さんが、なつかしそうに目を細めた。

 チェックのカーテン、机やタンスも、ぜんぶ昔のままだ。

 お父さんは箱を置くと、「あとでお墓参りに行こう」と言って一階へ下りていった。

 わたしは、西園(にしぞの)ヒメ。

 今日、お父さんと二人で、ここ「まほろば町」に引っ越してきた。

 というより、「もどってきた」って言ったほうがいいかもしれない。

 ここはわたしが五歳のころまで住んでいた、なつかしい家なんだ。

 二階建てで、裏には広い庭がある。階段を上がってすぐのここが、わたしの部屋。

 開いた窓からは、あたたかい春の風が吹きこんでいる。

「よし、やるぞ!」

 気合いを入れて、わたしは段ボール箱を開けた。

 本や服、ぬいぐるみを取り出して、ひとつずつかたづけていく。

 最後に残ったのは、一冊のアルバム。

 そして、紅葉もようの刺しゅうが入った巾着袋だ。

 アルバムには、お母さんの子ども時代からの写真がはられている。

 笑顔のお母さんが手にしているのは、華道やお琴の賞状に、テニス大会のトロフィー。

 料理もおさいほうも得意だったし、お母さんは何をやってもすごい人だったんだ。

「あさぼらけ ありあけのつきとみるまでに……」

 っと、いけない。また、このクセが出ちゃった。

 お母さんに会いたくなったり、気持ちが弱くなったとき。わたしはついこんなふうに、百人一首を口ずさんじゃうことがある。お母さんの声を思い出すから、なんだか安心できるんだ。

 アルバムを閉じて、わたしは巾着袋を開けた。

 中に入っているのは、白水晶の数珠ブレスレット。

 お母さんは、ずっとこの数珠を身につけていた。歌を読むときも、よくいじっていたっけ。

 五歳のとき、「それ、大事なものなの?」って、お母さんに聞いたことがある。

「ええ、とっても。ヒメが大きくなったら、あげるわね。その後は、ヒメが大事にするのよ」

 そう言われて、すごくうれしかった。

 でも、そのすぐ後にお母さんは死んでしまって、数珠はわたしのものになった。

 ふだんは大事にしまっているけれど、お母さんのお墓参りと、明日の入学式にはつけていこうって決めていた。

 数珠を持ち上げて、じっとながめる。水晶が、窓から入る日の光を反射して、すごくきれいだ。

(お母さん。わたし、明日から中学生になるよ)

 そっと、心の中で呼びかけたとき。

 とつぜん、黒いものが部屋の中に飛びこんできた。

「ひゃっ! 何!?」

 バサバサッという羽音がひびく。

 カラスだ!

 真っ黒じゃなくて、羽の先が少し白くなっている。

 カラスはクチバシを開けると、サッとわたしの手から数珠をうばいとった。

(え、ウソ⁉)

 あわてて手をのばしたけれど、遅かった。カラスはそのまま、窓から飛び立ってしまった。

「ダメ! 返して!!」

 せいいっぱいの大声でさけぶ。でも、素直に引きかえしてくれるはずもない。

 大あわてで階段を下りたわたしは、クツをはいて外に飛び出した。

「ヒメ⁉」

 お父さんの声が聞こえたけど、説明はあとだ!

 お母さんの形見の、何より大事な数珠ブレスレット。

 絶対に、あれをなくすわけにはいかないんだ!


***


「お願い、待って!!!」

 カラスはたまに木の枝や電線にとまりながら、わたしを待つようにして飛んでいく。

(何だろう。わたしのこと、からかってる?)

 息を切らして走りつづけると、大きな白い建物が見えてきた。

 わたしが明日入学する、まほろば中学校だ。

 カラスを追って、校舎の裏へ回る。

(……いた!)

 どろっとした小さな池を囲む、草むらの真ん中。

 カラスは、そこにある木の枝にとまっていた。

 フェンスの破れたところから中に入り、音を立てないようにそっと近づく。

 と、カラスがこっちに気づいたのか、バッと飛び立った。同時に、クチバシをパッと開く。

 くわえられていた数珠が、池に向かって落ちていく――!

(だめ――っ!)

 腕をのばしながら、全速力で駆ける。と、そのとき。


 ――ドカッ!


 足元でニブい音がして、体が前に大きくかたむいた。

 ズサァァァッ!

 池のふちにダイブしながら、わたしは数珠をキャッチした。

(ああ、よかった……!)

 数珠を取りもどした安心で、一気に力がぬける。

 そういえば、何かにつまずいたみたいだけど。あれ、何だったんだろう?

 ドカッと音がしたほうをふりかえる。

 すると、そこから黒いもやが立ち上っているのが見えた。

(え、何? 虫? ……じゃない!)

 もやは、みるみるうちに大きくなり、やがて黒い渦になった。

 とつぜんあたりが暗くなり、風もないのに、空気が冷たくなっていく。

(何、これ……⁉)

 ぞっと、全身に鳥肌が立った。逃げなきゃ。でも、足が動かない……!

 そのとき、渦の中に四角いものが見えた。たくさんの、四角い何か。

(あれは――百人一首の札?)

 ううん、まさか。そんなわけない。

 そう思った、次の瞬間。

 渦がぶわっとふくらみ、すごい勢いでわたしのほうにせまってきた。

「ひゃっ!」

 反射的に、数珠を持った手で顔をかばう。指が、一瞬冷たい何かにふれたような気がした。

 おそるおそる顔を上げると、黒い渦がぐんぐん空に上っていくのが見えた。

 そうして校舎の屋上より高く上ったかと思うと、バッと散らばり、そのまま消えてしまった。

 残ったのは、穏やかな春の空と、静かな草むら。

 わたしはひざをついたまま、わけもわからずまばたきをした。

(今の、いったい何だったの――?)


★<ためしよみ・第2回>へ続く★

書籍情報


作: 七海 まち 絵: ぎんいろ

定価
880円(本体800円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046324221

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