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中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
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#22 まぶしすぎる笑顔
棚から救急セットを取りだし、小さく深呼吸してから扉を開けた。背後から日が差し込んで、涼万(りょうま)のすらりとした体がシルエットになって目に迫った。腰から生えているようなすらっとした長い脚。八頭身を思わせる小さな顔。
晴美は思わず目を伏せてしゃがみこむと、救急セットのふたを開けた。中からテーピングテープとはさみを取りだした。
「キンタ、サンキュ」
涼万はテープを受け取って、となりにしゃがんだ。テープを引き伸ばし、割れた人差し指の爪にあてがった。
「あ、右手だよね?」
晴美が涼万の手元をのぞきこんだ。
「そう」
「出来る?」
「おぅ、だいじょうぶ」
と言いつつ、やはり利き手でない左手でテープを綺麗に巻くのは難しく、なかなかうまくいかない。晴美は思いきって言った。
「巻いてあげるよ」
さすがに涼万は照れて、
「いいよ」
と断ったが、そのときテープがねじれて互いにくっついた。
「ほらぁ。貸してみ。こないだ先輩のテーピング、やったばっかだから、任せて」
晴美は涼万から奪うようにテープを取ると、失敗した部分を切り取った。爪のところだけだから、そんなに長くいらないので、最初に適当な長さに切る。本当はガムテープくらいのもっと幅のあるテープだと、切り込みを入れて指先を包み込むようにすれば簡単なのだが、今はちょうど切らしてしまっているようだ。
「はい、手出して」
ドキリとした。遠慮がちに出された涼万の手は、白くて細長くて、彫刻のように綺麗な手だった。
晴美は思わず、自分のゴツゴツした手を引っ込めたくなった。涼万の手は、男子の手とは思えない、それほど綺麗な手だった。
晴美はからからになった口の中に、つばを集めるようにして飲み込むと、右手の人差し指の爪の先からていねいにテープを巻いていった。
この繊細な手に、バスケットボールが吸盤みたいに吸い付くと思うと、不思議だった。そして、この繊細な手が、昨日自分の腕に触れていたかと思った瞬間、体の芯が熱くなった。
胸の動悸が激しくなってきた。いつも軽口をたたきあっている涼万なのに、鼓動は収まる気配がない。ドキドキが指にまで伝染して、指先が震えてしまわないかと思うと、よけいに緊張した。
わずか十センチあまりのテープを巻き終わったとき、晴美の顔からは玉の汗が噴き出していた。晴美は汗っかきなのだ。
恥ずかしすぎる。タオルで顔を拭きたいが、今は何も持っていない。サッカー選手みたいに、まさかシャツのすそをまくって拭くわけにもいかないし。
涼万は気づかないふりをしてくれているのか、本当に気にしていないのか、テープが巻かれた人差し指をくるくる回して、
「キンタ、完璧。ありがと」
と、笑顔を作った。見慣れた笑顔のはずなのに、今日は光源を見ているみたいにまぶしくて、思わず目をそらせた。
そのとき、廊下の先の方から体操服姿の集団が見えた。
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
#23へつづく(2022年4月20日 7時公開予定)
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