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中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
音楽や部活の物語、恋の物語が好きな人はチェックしてね♪
#21 火照(ほて)るココロ
晴美が反射的に振り向くと、涼万(りょうま)が右手の指先を左手で包んでいた。突き指かも知れない。ゲームが中断され、先輩が、
「だいじょうぶか? 見せてみ」
と、涼万に近づいた。
「いや、だいじょうぶっす」
涼万は言ったが、先輩は涼万の手に顔を寄せると、
「爪割れてんじゃん。伸びてるからだよ。テーピングしてこい」
と、コートの外に向かってあごをしゃくった。
「あ、はい」
涼万が首をすくめると、先輩はすぐに指示を出した。
「相田、またゲーム入って」
涼万がコートの外に出ると、
「爪くらい切っとけよ」
岳の声が今度はやたら響いた。涼万はとぼとぼとコートの端を通って、晴美たちのいる倉庫の方にやってきた。
「ほらみんな、注目。キンタ、よそ見しない」
女子キャプテンが手を打った。名指しされた晴美は、慌てて向き直った。
涼万は倉庫に入るとすぐに出てきた。そのへんをきょろきょろ見回しているのが、目の端にうつる。気になって、女子キャプテンの話が、そのまま耳を素通りしていく。
涼万、救急セット探してるんだよね。倉庫になんかないよ。部室だよ。
言ってあげたい。
「ちょっと山東くん、どうしたの?」
女子キャプテンも涼万が気になったらしい。
「あ、すんません。テーピングってどこでしたっけ」
涼万はすまなそうに左手で頭をかいた。
「あぁ、女子部室にはあるけど。男子の方は管理が悪いからどうかな。ね、誰か女子部室から取ってきてあげて」
女子キャプテンの言葉に、
「はい!」
晴美は弾かれたように手を挙げると、すぐに回れ右をした。となりの校舎の一階にある、運動系の部活の女子が共同で使っている部室に向かって走り出した。すると、後ろからも軽やかな足音がついてくる。振り向くと、涼万だった。
「涼万、取ってくるから、待ってればいいのに」
晴美が言うと、
「いや、だってそうしたら、また戻しに行かなきゃだろ」
「そっか。涼万、賢いね」
「キンタほどではないけどな」
ふたりはフッと頬を緩めて、並んで小走りを続けた。がに股のせいか、晴美のバタバタとした足音が目立った。晴美は昨日もいっしょに校舎を走ったことを、思い出した。弁当箱を取りに教室に戻った涼万を、捜しに行ったときのことだ。
涼万は先生が見回ってるからと言って、晴美の腕をつかんで駆け出した。晴美は今、走りながら昨日涼万につかまれたあたりの腕を、そっとさすってみた。
女子部室の前に着くと、晴美は涼万に外で待っているように伝えて、部室の中に飛び込んだ。換気がされていなくて、むぁっとした空気に包まれる。体がカッと熱くなっているのは、走ってきたせいだけだろうか。
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
#22へつづく(2022年4月19日 7時公開予定)
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