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中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
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#12 バスケへの情熱(じょうねつ)
学校に着くと、昇降口に向かう途中の体育館から、単独でバスケットボールをドリブルする音が聞こえてきた。ドリブルしているのは岳に違いない。涼万(りょうま)は足を止めた。
岳は朝練の集合時間よりも早く来て、よく先にひとりで練習している。一年生は朝練といっても、ボール拾いや声出しが中心で、なかなかメインの練習には加われない。
小学生のときからミニバスケットのクラブに入っていた岳はそれが不満らしく、もっとうまくなって一年でもまともな練習に加われるように、早くレギュラーの座を奪いたい、と涼万に豪語していた。
ダン、ダン、ダン、ダン……。
床を打つドリブルの音は背骨にずんと響く。ドリブルの音が離れていって最後に消えると、シュポッというボールが網をすり抜ける音がした。胸のすく音だ。
ナイッシュー。
涼万は心の中でつぶやいた。
最初はデッカいことを言うやつだと思ったけど、岳のバスケに対する熱は半端ない。
岳だったら、本当に一年生のあいだに、レギュラー取れるかも知れないな。
ん? ……俺は、どうなんだ? 自分も同じバスケ部員なのに、ひとごとみたいに岳に感心している俺ってどうなんだ?
バスケは好きだ。でも岳ほどではない。これは確かだ。ただでさえ朝早く起きるのが苦手なのに、集合前に練習しようなんて発想は、さらさらない。
スポーツが得意だから、中学に入ったら運動系の部活に入ろうと決めていた。バスケ部に入ったのは、サッカーや野球は小学生からやっていたやつにかなわないと思ったし、陸上はただ走っているだけで地味だし、くらいの感じだった。
バスケは初心者が多い。なんでも器用にこなす涼万は、最初から経験者と間違われるほど、それなりにうまかった。
でも、岳みたいに熱くなれない。
ドリブルの音が、気づけば耳から遠のいていた。涼万は軽く頭を振ると、後ろ髪を引かれる思いを振り切って、昇降口に向かって一歩を踏み出した。
学校に着くまでは、体育館に顔を出して、岳に部活の朝練を休むって伝えるつもりだった。このままじゃ無断欠席になるし、岳からのメッセージもスルーしたままで、さすがに申し訳が立たない。
でも今は、良心の痛みよりもおっくうな気持ちの方が勝ってしまった。昇降口に入り、下駄箱で上履きをつかむと、後ろからバンッと背中をはたかれた。衝撃でおでこを下駄箱にぶつけそうになる。
眉間にしわを寄せて後ろを振り返ると、
「おっはよー。涼万、やっぱり来てくれたんだ」
満面の笑みの晴美がいた。目をくりくりさせている。
「岳は?」
涼万は無言で体育館の方向にあごを向けた。
「そっか、あいつは部活の朝練ね。ま、涼万が来てくれただけで、うっれしーな。昨日涼万のこと待ち伏せしたかいがあったよ」
目が点になった。
「早く教室行こ。朝練の言い出しっぺのわたしが時間に遅れちゃ、話になんない」
晴美はさっさと上履きに履き替えると、昇降口に敷かれたすのこをバンバン鳴らしながら駆けていった。
別にキンタに言われたから来た、ってわけじゃないんだけど……。
晴美が勝手に解釈して嬉しそうにしていることに、決まり悪さを感じながら、涼万も晴美のあとを追いかけた。
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
#13へつづく(2022年4月10日 7時公開予定)
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