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中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
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#11 既読(きどく)スルーの言い訳
3
翌朝、涼万(りょうま)はバナナを半分だけかじると、十秒で歯を磨いて家を飛び出した。
「やだっ、涼万。間違えて制服着てるよ!」
まだパジャマ姿の母親が、閉まりかけた玄関の扉を手で押さえて慌てて叫んだ。
「いや、だいじょうぶ」
涼万は走りながら、少しだけ振り返って答えた。いつも部活の朝練がある日は、朝からトレーニングウェアを着て出かける。
昨日の夜は早紀のことなどが気になって、なかなか寝付けなかった。そのせいで、今朝は目覚ましが鳴っても気づかず、おまけに母親までが寝坊した。母親は、まだ寝ぼけていた涼万がうっかり制服を着て出かけてしまったと、勘違いしたようだ。
ゆうべから涼万の心は、明日の朝は合唱コンの練習に行くと決めていた。だから、岳の執拗なメッセージも、既読をつけると面倒だから、未読状態のままスルーした。
スマホのロック画面には、何度も岳からの通知が流れた。
明日の朝練、部活行くっしょ
おーい
帰り、キンタに会えた?
おーい
もう寝た?
涼万はため息をついて、スマホを裏返した。
そっか、疲れて寝たことにすればいいんだ。だから気づかなかったってことで。
心の中で岳への言い訳を考えながら、「明日は合唱コンの練習に行く」ってはっきり断れずにいる自分にイラついた。
言い訳考えてホッとしている自分、ちっちぇー。
くそっ。
そのとき何の脈絡もなく、音心(そうる)のセリフが急に脳内でリフレインした。
──あいつら、どうせ音楽なんて分かってないっしょ。
──いい子いい子。
さっきとは別の種類のイライラが、また発生した。
そんなことを繰り返していたから、なかなか寝付けなくなったのだ。
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
#12へつづく(2022年4月9日 7時公開予定)
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