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中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
音楽や部活の物語、恋の物語が好きな人はチェックしてね♪
#10 音楽室のふたり
「指揮者の水野さんがさー、もうちょっと仕切れればいいんだけどね。あの子じゃねー。やだ、指揮者が仕切るとかって、ダジャレじゃん」
黙っている涼万(りょうま)をよそに、晴美は笑い声を立てた。笑い声は涼万の耳をつっかえながら通っていった。
「あの子、ふだんから影薄いから」
晴美が嘆くように顔をしかめた。思わず晴美を横目で睨んだ。
「いや、水野は……」
言いかけて、何を言えばいいのか分からなくなって、口をつぐんだ。早紀が影が薄いのは、本当のことかも知れない。でも、何か弁護するようなことを言ってやりたかったのだが。
涼万はくちびるをとがらせて、学校の方を振り返った。夕焼けをバックに古びた校舎がそびえている。
まだ音楽室にいるのかな。
見えないと分かっているのに、三階の奥の方に目をこらした。
──いい子いい子。
井川のやつ……。
鼻の両穴が膨らみ、首筋がカッと熱くなった。
「ね、涼万、どしたの? 変だよ、さっきから上の空で。返事もしないし」
晴美の声に我に返った。
「いや、別に」
晴美の怪訝そうな目を振り切るように、涼万は歩き出した。涼万はずんずん前を歩き、晴美はその後ろを小走りでついてきた。
しばらくして、後ろから足音が聞こえないことに気づいて、涼万が振り返ると、少し離れた四つ角のところで晴美が立っていた。
「あ、ごめん。速すぎた?」
涼万が首をすくめながら晴美のところまで戻ると、
「うぅん」
晴美は少しうつむいて小さく首を振った。らしからぬ乙女っぽい仕草に、涼万はどぎまぎして目を泳がせた。
「わたしんち、ここ曲がるから。涼万、明日の朝練、本当にお願い。涼万たちが来ると、クラスのみんなもやる気になると思うんだ。だから、考えといて」
「……ん」
一語で返すと、晴美はからりとした笑顔を作った。
「じゃぁねー」
元気な声で両手をぶんぶん振ると、くるりと背を向けて道を曲がった。後ろ姿でも、がに股で闊歩しているのが分かる。足音まで聞こえてきそうだ。
やっぱり、キンタだな。
晴美の後ろ姿はあっという間に小さくなった。
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
#11へつづく(2022年4月8日 7時公開予定)
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