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中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
音楽や部活の物語、恋の物語が好きな人はチェックしてね♪
#9 朝練の誘い
顔ははっきり見えなくても、少しがに股でドスドス向かってくるミニ丈のスカート姿で、一発で晴美だと分かった。涼万(りょうま)は晴美の方に向かって、足音に気をつけてダッシュした。
晴美は駆け寄ってくるのが涼万だと分かると、パッと顔を明るくさせて何か言おうとした。が、涼万はそれを制するように口もとに人差し指を立てると、晴美の腕をいきなりつかんで階段の方に走り続けた。そして、一階と二階のあいだの踊り場までくると、ようやく腕を離した。
「ど、どしたの? 涼万」
晴美はつかまれていた腕のあたりをさすった。
「あ、ごめん。えっと、先生が残っている生徒がいないか見回ってたから」
涼万の目がうろうろ泳いだ。
「そうなんだ。じゃ、早く校門出ようよ」
晴美は一瞬腑に落ちないような表情を見せたが、すぐにまた駆け降りだした。階段を一段飛ばしで降りながら、晴美はひそひそ声で続けた。
「涼万が教室に弁当箱取りに行ったって、岳から聞いたから。しばらく待ってたんだけど、なかなか来ないからさ」
「なんで俺待ってたの?」
「んー。まずは、学校出よ」
「おぅ」
ふたりは手早く下駄箱に上履きをしまうと、校門を一気に駆け抜けた。
「キンタ、足はえーな」
涼万が弾む息を整えながら言うと、
「わたし、学年で一番足速いし」
晴美が得意気に眉を上げた。
「さすが女バスだな」
「まぁね。涼万だって速いじゃん。一番じゃないの?」
「いや、岳の方が速いんじゃね。ってか、なんで俺のこと待ってたんだっけ?」
涼万は横を歩く晴美に、ちらりと視線を送った。晴美は間を取るように、ショートカットの髪を右手でくしゃっとつかんだ。
「合唱コンのことだよ」
「へ?」
喉の奥から変な声が出た。
「明日の合唱コンの朝練のこと。岳のやつ、涼万と俺は部活の朝練に行くからって、言い張ってたんだけど、ねっ、そうなの?」
「んぐっ」
また変な声、というより音が出た。それを肯定と取ったのか、晴美は突然歩みを止め、顔の前で両手を合わせた。
「涼万、お願い。合唱コンの朝練に来てよ」
「な、なんでお前、そんな急にやる気になってんの?」
今日の音楽の時間、水野が声かけたとき、最初はシカトしてたくせに。
という続きの言葉は飲み込んだ。
「だってさ、わたし負けたくないんだよ。他の組、結構マジで練習してるらしい」
晴美の顔がバスケのときみたいに、急に戦闘モードになった。
「ふーん」
「ふーんってさ。うちのクラス、井川もめちゃ伴奏うまいしさ。今からでも頑張れば、結構いけるんじゃないかって思うんだよね」
井川、という名前は涼万の胸をプスッと刺した。
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
#10へつづく(2022年4月7日 7時公開予定)
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