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ものがたり

【最新20巻発売記念・ためし読み】『世界一クラブ 最強の小学生、あつまる!』第2回


どの巻から読んでもおもしろい! 世界一の特技をもつ、5人の小学生が大活躍! 
事件と笑いがいっぱいの人気シリーズ「世界一クラブ」、待望の【20巻】が10月に登場! 発売を記念してトクベツに【1巻】と【19巻】を大公開! 期間限定でまるごと読めちゃうチャンスをお見逃しなく★(公開期限:2025年12月26日(金)23:59まで)



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5 美少女もラクじゃない?


 結局、光一たちはいったん調査を中断して、商店街へ行くことになった。もちろん、美少女の眼鏡を修理するためだ。

 健太に尋ねられて、その女の子は日野クリスと名のった。そして、今日から三ツ谷小の六年一組に転校してくるはずだったと。

 すみれの予想は、大当たりだったわけだ。

 最初は正門に向かったけれど、何が起きているかわからず、聞く人もいない。ぐるりと学校の周囲を回っていて、裏門に偶然やってきたらしい。

 クリスは、この街に昨日引っ越してきたばかりで、道も、お店の場所も全然知らない。

 眼鏡を壊したあげく、放置するわけにはいかない、となったのだった。

 でも、すごく気まずいな……。

 四人の先頭を歩く、光一の足どりは重い。

 とりあえず、まずは自己紹介。

 光一、すみれ、健太の三人は名前と、同じクラスであることをクリスに説明した。

 クリスは、自分の名前と簡単ないきさつこそ話したものの、それ以外はほとんどしゃべろうとしない。まるで隠れるように、すみれの後ろについて歩いていた。

 微妙な雰囲気の中で、健太だけがクリスに果敢に声をかける。

「えーっと、クリスちゃんはさ。どうして三ツ谷小に転校してきたの?」

「親の仕事の関係で……」

「そそそ、そうなんだ~。えっと、髪の毛の色きれいだね! 茶色っていうかなんていうか」

「祖父がイギリス人だから……」

「へえ! イギリスかあ。ぼくもいつか行ってみたいなあ。ローストビーフを、お腹いっぱい食べたいんだ。クリスちゃんは、イギリスに行ったことあるの?」

「あの……わたしに気をつかって、話しかけてこなくてもいいですよ……」

 ピキーンと、辺りの空気が固まる。健太は、力なくがっくりと肩を落とした。

「うーん。ぼくは別に気をつかってるわけじゃなくて、そっちの方が楽しいからなんだけど」

 すみれが、光一の横に早足でやってくる。クリスに聞こえないように、声をひそめた。

「ねえ、なんかとっつきにくくない? 見た目はウワサ通り、すっごいかわいいんだけどさ」

「引っ越してきたばかりで、緊張してるんじゃないか?」

「でも、テレビで見た時と全然違うんだけど」

 そう言いながら、すみれはさらに一歩足を速めて、光一の前に出た。

「美少女コンテストのVTRではハキハキしゃべってたから、今とフンイキが全然違うっていうか……」

「どっちかっていうと、おどおどしすぎてて、声がかけにくいくらいだな」

 光一が振りむくと、クリスは目を合わせないように、さっと視線をそらす。

 重い沈黙の中、学校から歩くこと十分。

 たどりついた商店街の入り口で、光一はほっと胸をなでおろした。

 商店街の真ん中くらいに、修理もできる眼鏡屋がある。店主のおじいさんとは、母親が親しいこともあってそこそこ仲がいい。

 そこに行けば、なんとかなるだろう。

 先生を助ける作戦も早く立てたいし、さっさと行くか。

 光一は、アーケードの下を一歩踏みだす。

 学校が休みになったこともあって、商店街はいつもより人通りが多かった。あちこちに、家でじっとしていられない子どもたちの姿が見える。

 それにしても、さっきから視線を感じる。すれ違う人が、みんなこっちをチラチラ見てるような。

 周囲から集まる視線に気づいて、健太がうれしそうに胸をそらした。

「なんかさ、すごく注目浴びてない? もしかして、ぼく有名人になっちゃったのかなあ!」

「いや、それはないと思う」

 多分、注目されてるのは健太じゃなくて……。

 光一は、後ろを歩くクリスをちらりと盗みみる。

 って、いない!? いや、そうじゃない。

「ちょっとー! 二人とも、置いてかないでよ!」

 気がつくと、すみれとクリスのまわりに小さな人垣ができていた。正しくは、クリスに声をかけにきた人にすみれは巻きこまれて、だけど。

 老若男女、いろんな人が二人を囲むように集まっている。

 なんだこれ、美少女効果ってやつか!?

「あなた、ときどき雑誌モデルやってる子だよね! スゴーイ、実物もめっちゃかわいい!」

「ね、このお洋服すっごくステキね! どこで買ったの? 教えて!」

「前にテレビに出てた女の子だよね。もしかして、この近くに……」

 話しかけられたクリスがこわごわ足を止めると、見る間に、むくむくと人垣がふくれあがる。

 光一も巻きこまれそうになって、早々に、その人垣からはいだした。

「どうなってるんだ? クリスって、そんなに有名人なのか? 健太」

「光一はテレビより本ってかんじだもんね。ぼくは、特集番組で何度か見たことあるよ。いいなあ、ぼくもあんなふうに注目されたいよ~!」

 今度はなんとかうまいこと抜けだせた健太が、心底うらやましそうに叫ぶ。

 たしかに、健太はいっつもモテたいって言ってるからな……。

 光一は、緊急用に持ちあるいているスマホを取りだして、検索画面を開いた。

 日野、クリス……っと。

 すぐに、いくつかの動画が見つかる。

 タイトルに『美少女コンテスト 結果発表』と書かれているものをタップすると、スマホの小さな画面に、きれいに着飾ったクリスがぱっと映しだされた。

 今は三つ編みにしている髪の毛を、さらりとおろしている。

 まさに、美少女って雰囲気だ。ずらりと並んだコンテストの参加者の中でも、ひときわ輝いて見える。

 画面の中、満面の笑みのクリスは、自信たっぷりの足どりでステージの前に進みでると、うれしそうにトロフィーを受けとった。

「『Thank you very much. It is an honor to receive a wonderful award. I am so touched.』」

 スマホをいっしょにのぞきこんだ健太が、難しい顔になった。

「光一、何て言ってるの? 英語で、全然わからないんだけど……」

「ありがとうございます。すばらしい賞を受賞できて光栄です。とても感動しています。ってさ。受賞コメントみたいだ」

「かっこいいなあ。でも……」

 健太の言いたいことはわかる。

 光一はスマホを掲げると、映像と実物を見くらべた。

「全然違うな」

 たくさんのフラッシュを浴びながら、にっこりと笑みを浮かべたクリス。

 たくさんの人に囲まれて、あわてふためきながら縮こまっているクリス。

 まるで別人だ。

 一体、どっちが本当なんだ?

「あ、あの……わたし、眼鏡を」

 クリスが一生懸命に声を上げるけれど、小さすぎてすぐに周囲の人たちにかき消されてしまう。

 だんだんと二人の周りの人垣が狭まって、一番手前にいたおばさんが、すみれにどんとぶつかった。

「ああもう! みんな、離れて!!」

 すみれがお腹から大声を出すと、近くに集まっていた人たちが、くもの子を散らすようにさっと距離をとる。

 そりゃあ、すみれの強さは、ここらへんでは知れわたってるからな。

 すみれはクリスの手をぎゅっとつかむと、迷わず駆けだした。

「行こう! クリス」

「え、ちょっと……」

「ほら、早く!」

「早くって、待って……そんなにっ、走れな……」

 ばたばたと音を立てながら、二人の姿があっという間に商店街の奥へと消えていく。

「待って!」

「少し、話だけでも!」

 二人の後を、あきらめきれない数人が追いかけていく。たまたま居あわせたおばさんが、何事かと目を白黒させた。

 まったく、何か問題を起こさないと気がすまないのか!

「……おれたちも行くか」

 光一は仕方なく、二人を追って、のろのろと走りだしたのだった。


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