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第2回 『サキヨミ!⑭ 大ハプニングのお泊まり会!』|完結巻発売記念★特別ためし読み連載!


私、如月美羽は、未来が見える「サキヨミ」の力を持っているーーー!
角川つばさ文庫の大人気・学園ラブミステリー「サキヨミ!」シリーズが、6月11日発売予定の第15巻でついに完結! 発売を記念して、クライマックスにつづく11巻~14巻を大公開します! 期間限定でまるごと読めちゃう、このチャンスをお見逃しなく★
(公開期限:2025年7月25日(金)23:59まで)


※これまでのお話はコチラから

 

5 探検!


「えっ?」

「かくれんぼ?」

 いきなりの展開にとまどう私たちをよそに、レイラ先輩は壁に頭をついて「いーち、にーい」と数を数え始めている。

「おい、瀬戸。初めての場所なんだ、最低でも百は数えてくれよ」

「大丈夫! 二百数えるから、ゆっくり隠れて! さーん、しーい」

 深谷先輩の声に、レイラ先輩は目隠しをしたままで答えた。

「よっし! 絶対に最後まで見つからねえぞ!」

「それはおれのセリフだ、チバ!」

 先輩たちが、廊下を奥へ向かって走り出す。

「じゃ、美羽ちゃん、あとでね!」

「如月さん、しばしお別れだね。がんばろう」

「ええ!?」

 夕実ちゃんと瀧島君も、さっさかこの場を離れていく。

 気がつけば、深谷先輩の姿も消えていた。

(みんな、すごい……! 私も早く、隠れなきゃ!)

 きょろきょろとあたりを見回してから、私はひとまず廊下を奥に向かって進んだ。

 柱時計を通り過ぎ、階段の裏側を見てみる。

 廊下のつきあたりにあるドアをそっと開けてみたら、中には掃除用具が入っていた。

 ここは、物置きみたいだ。物がいっぱいで、体を入れられる隙間はなさそう。

 書斎、リビング、応接間も、死角になりそうな場所はなかったよね。

 数を数え続けているレイラ先輩をちらりと見ながら、そっとキッチンのドアを開けてみる。

 正面の窓の下に、シンクとガス台、調理台がならんでいた。壁ぎわに、食器棚と冷蔵庫。ここも隠れられる場所はなさそうだ。

 となりの食堂ものぞいてみたけれど、中心に置かれた大きなテーブルと六脚のイス以外は、小さな飾り棚があるだけ。テーブルの下に隠れても、すぐに見つかっちゃいそうだ。

(となると、上かな?)

 そっと廊下に出て、すぐそばの階段を静かに上がる。

 上がってすぐ目の前にあるのは、母屋へつながる渡り廊下のドアだ。折り返す形で廊下を進むと、左側に私たち女子の泊まる部屋、次に男子メンバーの部屋がある。

 右側にあるドアは、ひとつは物置き。もうひとつは、レイラ先輩の言っていた「ベッドの部屋」みたいだ。

 そこに行ってみようと思ったとき、廊下のつきあたりに何かあることに気づいた。

 小さな机くらいの大きさの何かに、布がかけられているようだ。

(なんだろう。気になるけど、勝手にさわらないほうがいいよね)

 私は、「ベッドの部屋」のドアをそっと開けてみた。

(わっ……!)

 部屋の中を見て、私は息をのんだ。

 まず目に飛びこんできたのは、木製のりっぱなベッドだ。

 頭側、足側の部分にそれぞれ大きな板があって、おしゃれな彫刻がほどこされている。

 マットレスや布団もセットされていて、きれいな白いカバーでおおわれていた。

 ベッドの他には、オルガンみたいなフタのある不思議な形の机、大きなキャビネット、ドレッサー、壁かけの鏡……どれも物語の世界に出てきそうなほどデザインがこっていて、長い年月を越えてきた風格がある。

(すてき……これも、おばあさんの趣味だったのかな)

 部屋はカーテンが閉められていて薄暗かったけれど、私はしばらくの間、隠れることも忘れてすてきな家具をじっくりとながめた。

 家具にはホコリが積もっていない。鏡も、きれいにみがかれていた。

 おじいさん、お泊まり会があるから離れをきれいに掃除してくれたって言ってたけど。きっと普段から、まめにお手入れをしてきたんだろうな。

 レイラ先輩のおばあさんって、どんな人だったんだろう。

 おじいさんもレイラ先輩みたいに楽しい人だったけれど、きっとおばあさんも、おもしろいことが好きな人だったんじゃないかな。

 おじいさんとおばあさんのいいところを、きちんとレイラ先輩が受け継いでるって感じがする。

(レイラ先輩、どんな大人になるんだろう。結婚するのかな? するとしたら相手はやっぱり、深谷先輩なのかな)

 鏡に映る自分の顔を見ながら、そんなことを考えたとき。

 背後で、何かが動いたのが見えた。

(えっ、何──)

「ミウミウ、確保ー!!」

 がばっと抱きつかれて、「ひゃっ!」と思わず声を上げる。

「れ、レイラ先輩……! いつの間に!」

「んふふ。ミウミウ、あたしが入ってきたことにも気づかないぐらい物思いにふけっていたねえ。どうしたの?」

「い、いえ、べつにそういうんじゃなくて……!」

 レイラ先輩の結婚について考えていたなんて言えず、声がうわずった。

「すてきな家具だなって、見とれちゃってたんです。物語に出てきそうだなって」

「わ、ほんと? うれしいなあ。あたしもこの部屋、大好きなんだ。おばあちゃんが使ってた寝室なんだけど、おじいちゃんの希望でほとんど当時のままなの。この鏡も、白雪姫に出てくるやつに似てない?」

 レイラ先輩が顔を寄せる。鏡に、私とレイラ先輩の笑顔が映し出された。

「あっ、そうだ、あれあれ!」

 とつぜんレイラ先輩が後ろをふりかえる。鏡の真向かいに置かれている、オルガンみたいな机。それを指さし、

「あの中にだれか隠れてるんじゃないかなって思って、ここに来たの。昔、あたしも隠れたことがあるんだ」

 レイラ先輩は机の前に歩みよると、フタをガラガラと引き上げた。フタはゆるやかなカーブを描きながら、シャッターみたいに奥の部分へと収納されていく。

 中から現れたのは、机の天板だった。正面奥には、小さな棚や引き出しがついている。

「これ、こういう仕組みだったんですね……!」

「ロールトップデスクっていうんだ。あたしも昔よく、ここでお絵かきさせてもらったの。ミウミウくらい小柄なら、ひざをかかえれば隠れられそうでしょ?」

「さすがにそんな勇気はないです!」

 言いながら、心がふわっとあたたかくなるのを感じる。

 本当にどの家具にも、レイラ先輩の思い出がつまっているんだな。

「とりあえず、残りのみんなを捜そっか! ミウミウ、協力してくれる?」

「あ、はい!」

 レイラ先輩といっしょに、ベッドの部屋を出る。和室に入って押し入れを開けてみたり、下に下りてトイレやお風呂をのぞいてみたりしたけれど、だれも見つけることはできなかった。

「おっかしいな。ミウミウ、何かヒントくれない?」

「私、あの部屋に行くまで、だれも見かけなかったんです」

「靴はこっちに持ってきてないから、外には行ってないはずなんだよね。まさか母屋まで行ってる? うーん」

 リビングで途方に暮れていると、一瞬カーテンが動いたように見えた。

(もしかして……)

 そっと近づき、カーテンを開ける。すると、

「あっ、ユミりん!?」

「うわーん! 見つかっちゃった」

 カーテンの後ろに隠れていた夕実ちゃんが、残念そうに天をあおいだ。

「よし、二人目確保!」

 レイラ先輩につかまった夕実ちゃんは、他の人たちの隠れ場所についての情報をくれた。

 それによると、叶井先輩と深谷先輩は二階。瀧島君とチバ先輩はおそらく一階に隠れている、ということだった。

「ええ、二階見たのに! くやしいなあ。まずはタッキーとチバっちから確保しよっか」

 応接間や食堂をもう一度ていねいに捜す。そうしてキッチンに来たとき、

「あ。見てないところがあった」

 レイラ先輩が、シンク下の収納扉に手をかけた。

「やった! チバっち、確保!」

「くそ……やっぱダメか」

 体を折り曲げて隠れていたチバ先輩が、くやしそうに姿を現す。

 そのまま食堂に行くと、レイラ先輩は奥のガラス戸を開けた。気づかなかったけど、そこにも小さなテラスがあって、外に出られるようになっていたんだ。

「おっ! タッキー確保!」

 壁の陰に隠れていた瀧島君は、「残念です」と言いながらも笑顔だった。

 その後、みんなで二階に上がる。手分けして、三つの部屋を捜すことになった。

「如月さんはどこに隠れていたの?」

 階段を上がったところで、いつの間にかとなりにいた瀧島君が聞いてきた。

「私は、ベッドの部屋にいたんだけど……家具に見とれてて、隠れる前に見つかっちゃったの」

 改めて言葉にして説明すると、自分のぼんやり加減に恥ずかしくなる。

 けど、瀧島君は笑ったりしなかった。

「家具? どんな?」

 好奇心が垣間見える、自然な笑顔。その表情を見ると、恥ずかしさがたちどころに消えていく。

「鏡とか、ドレッサーとか……フタつきの、めずらしい机もあったよ」

「へえ。見てみたいな」

「じゃあ、いっしょに行ってみる?」

 ベッドの部屋に入ると、チバ先輩がキャビネットの中を調べていた。

 他に隠れられそうな場所を捜しつつ、瀧島君に家具の説明をする。

 するとレイラ先輩もやってきて、もう一度机のフタを開けてくれた。「もしかしたら」って思ったけれど、中にはだれの姿もなかった。

 女子部屋からやってきた夕実ちゃんとともに、みんなで男子部屋へと向かう。

「おっかしいなあ。押し入れはさっき、ミウミウと見たしねえ」

「まさか家の中で行方不明なんてことはないっすよね」

「やめてよ、チバっち。そんな怖いこと、起こるわけな……」

 レイラ先輩が不安げな顔で押し入れを開けた、そのとき。

 ──パーン!

「きゃっ!?」

 とつぜんの大きな音に、レイラ先輩がのけぞった。

「ふっ、ふかやん!?」

「見つかったな。が、サプライズ返し、成功だ」

 クラッカーを手にした深谷先輩は、押し入れの中で不敵な笑みを浮かべていた。

「サプライズ返しって、去年の誕生日の?」

 夕実ちゃんが言って、思い出す。

 レイラ先輩、深谷先輩の誕生日に生徒会室で待ち伏せして、クラッカーを鳴らすサプライズをしたんだって。

 深谷先輩は、そのお返しをしようって考えていたらしいんだ。

「ばっちり成功ですね、深谷先輩」

 瀧島君の言葉に、「ありがとう」と満足そうな表情を見せる深谷先輩。

「え、え、なんで!? だって、さっき見たときはいなかったのに!」

「あのときは、布団の中に身を隠していたんだ」

 深谷先輩はクラッカーを持ったまま、のっそりと押し入れから出てくる。

「さて、と。残るは、叶井君ひとりのようだな」

「そうなんです。深谷先輩、何か知ってますか?」

 夕実ちゃんに聞かれ、深谷先輩は首をかしげる。

「いや、見ていないな。ここに隠れてから、この部屋にはだれも入ってきていない」

「とすると、となりの女子部屋か、ベッドの部屋ですか」

 瀧島君の言葉で、手分けして叶井先輩を捜すことになった。

「おーい、ヒサシ君! そろそろ出てきてよー!」

「もうお昼になっちゃうよ! おなかすいたでしょ?」

 夕実ちゃんとレイラ先輩の声かけにも、いっこうに答える声は聞こえてこない。

「まさか、さっきの『行方不明』って冗談が現実になった……ってことはねえよな」

 廊下で、チバ先輩がつぶやく。すると、

「なんだって!? 行方不明!?」

 渡り廊下につながるドアがばたんと開いて、おじいさんが勢いよく飛び出してきた。

「ちょっと、おじいちゃん!? 何してるの!?」

 レイラ先輩の声にはっとすると、おじいさんはごまかすように頭をかいた。

「いや、その……楽しそうな声が聞こえたから、ちょっと気になったっていうか……まぜてもらいたいと思ったというか……」

 もじもじと言うおじいさんに、レイラ先輩が怖い顔でつめよる。

「今日はこのメンバーで楽しみたいって話、したよね? さびしいのはわかるけど、ちょっとだけガマンできない?」

「だけど、行方不明って聞こえたぞ? 大丈夫?」

「かくれんぼで最後のひとりが見つからないってだけだよ。何かあったらすぐに言うから、おじいちゃんはのんびりしてて!」

「うう……さみしい……」

 おじいさんを渡り廊下へと押し出すと、レイラ先輩はドアを閉めてカードキーを押しつけた。

 ピッという音の後で、ドアノブが動かないことを何度もたしかめる。

「何も鍵をかけることはないんじゃないか?」

 深谷先輩の言葉に、「いいの!」とレイラ先輩。

「おじいちゃん、ほっとくとイタズラとかしかけてきそうなんだもん。それより、早くひー君捜さないと!」

「それなんですが、まだ見ていないところがあると思うんですよ」

 瀧島君が、男子部屋を指さす。

「見てないところ? もうないと思うけど……」

 みんなで部屋に入ると、瀧島君は押し入れの上を指さした。そこにも横長の小さな収納がある。

「天袋です。物が何も入ってなければ、人ひとりくらい、横たわれそうですよね」

「たしかに。押し入れの二段目に足をかければ、上れそうだな」

 言いながら、チバ先輩が手を伸ばして天袋の戸を開けた。すると、

「わっ! ヒサシ君!?」

 天袋の中で、あおむけになった叶井先輩がぐっすりと眠りこけていた。


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