4
誕生日パーティーが終わって、わたしは実咲たちとわかれると、家に向かう。
お父さんは、片づけをしてから帰るらしい。
わたしも手伝おうかと言ったんだけど、お店のキッチンには、部外者は勝手に入れないことになっているんだって。
それで、1人で家に向かって、歩いているところだったんだけど……。
少し先の道のはしに、あやしい男が立っていた。
帽子をやけに目深にかぶって、色の濃いサングラスをかけている。
帽子からはみだしているのは、きれいな金髪だ。
警戒するなっていうほうが、無理がある。
だけど、わたしはそのあやしい男のところへ、スタスタと近づいていく。
「…………ここで、なにしてるわけ?」
わたしは、ジト目であやしい男を見る。
「有名人には変装も必要でね」
男がサングラスをずらすと、そこには思ったとおり、怪盗ファンタジスタこと、織戸恭也の整った顔が見えた。
本当に、こんなところでなにをしてるんだろう? この人……。
「それで、なんの用? またラドロからの連絡?」
最近は、ラドロの連絡役として、わたしに会いにくることが多い。
「つれないなぁ。今日は子猫ちゃんの誕生日だときいてね。お祝いにお茶でもどうかなと思って」
「ことわるって、わかってて言ってるでしょ」
わたしは、ため息をついて恭也を見る。
「そんなこともないんだけどな。とにかく、お祝いぐらいは受けてくれるだろう?」
「なに?」
わたしは、警戒する。
恭也のお祝いなんて、ろくなことじゃない気がしちゃうんだけど……。
恭也は、きざなしぐさで、左手をわたしの目の前まであげると、そこで、くるりと手首をひねってみせる。
ポンッ!
すると、手のひらの上に、小さなくまのぬいぐるみがあらわれる。
恭也が得意なマジックだ。
「誕生日おめでとう、子猫ちゃん」
恭也が、うやうやしく頭を下げて、ぬいぐるみをわたしてくる。
「……ありがとう」
わたしは、ぬいぐるみを受けとる。
ここまでくれば、恭也にほかに狙いがなさそうなのは、なんとなくわかる。
「それじゃあ」
恭也は、わたしがぬいぐるみをうけとると、すぐにくるりと背を向ける。
「もう行くの?」
「用事は、これだけだからね」
恭也は、背中越しにひらひらと手をふって、そのままさっていく。
本当に、わたしの誕生日のお祝いのためだけに、きてくれたんだ。
なんだか調子がくるっちゃうけど、うれしいのは、まちがいない。
――ありがとう、恭也。
もう見えなくなった、恭也に向けて、わたしは心の中で、もう一度お礼を言った。
5
家に帰ると、ケイが部屋にいる。
いつもと変わりなく、パソコンに向かって、キーボードをたたいている。
ま、ケイは変わるわけないよね。
わたしは、そんなふうに考えつつ、もらったプレゼントをながめたり、トークアプリで送られてくる「おめでとう」のメッセージに返事をしたりして、時間をすごした。
夜になって夕食とお風呂をすませてから、自分のベッドに入る。
ケイは、変わらずにパソコンに向かっている。
「はあ~あ」
わたしは、すぐに眠気がおそってきて、ぐっすりと眠りについた。
それから……どれぐらい眠っていただろう?
「――――――ハッピーバースデー、アスカ」
ん?
今、ケイの声がきこえたような……。
「……あ~~うん……?」
「…………いつもありがとう」
えっ?
わたしは一瞬だけ目が覚めたような気がするけど、すぐにまた眠りに落ちてしまった。
6
「んん~」
窓からさしこむ朝日に、わたしは目を覚ます。
ベッドから上半身だけ起こして、ぼんやりと考える。
あれ、昨日の夜、ケイに話しかけられたような気がするけど……。
夢だったのかな。でも、たしかにきこえた気がする。
……って、待って!
「ケイがわたしに『ハッピーバースデー』って言った!? まさか!……夢? 現実? ええっ、寝ぼけてたからどっちかわかんないよ!」
わたしは、ベッドの上で頭をかかえる。
記憶が、ぼんやりしてる。どうしたら……。
「そうだ、ケイに直接、きけばいいんだ!」
わたしは二段ベッドからおりて、下をのぞく。
そこには、ケイがすやすやと、寝息をたてて眠っている。
「ねえ、ケイ。昨日の夜、わたしになにか言わなかった?」
わたしは、ケイの肩をゆらして起こそうとする。
「…………」
だけど、ケイはまったく起きる気配がない。
「ケイが眠ったら、午前中はまともに話せないんだった……。しかも起きないし!」
わたしは、さらに頭をかかえる。
「ああもう! あれは夢だったの!? 現実だったの!? 気になるよぉ~!!」
アスカ、誕生日おめでとう!
おそくなっちゃったけど、記録係からの誕生日プレゼントです。
アスカとも長い付き合いになったけれど、これからもよろしく。
怪盗レッド20巻でも、活躍を期待してるよ。
記録係・秋木真より
おわり
【怪盗レッドスペシャルはまだ続くよ、お楽しみに!】
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