「ぼくの落ち度です。反省はあとでしますが、今は計画を組み立てなおします」
『ああ、頼む』
ぼくは、すぐさま頭の中で、計画の修正案の構築をはじめる。
――――これはダメ、あれはリスクが高すぎる、これはいい線か……よし、これだ。
「で、どうするの? 圭一郎お兄ちゃん」
美華子ちゃんが、ワクワクしたような表情で、ぼくにきいてくる。
この、トラブルを楽しんでるみたいな顔は、やめてほしい。
「兄さん、きこえる?」
『ああ、きこえてるぞ』
「兄さんは、そのまま屋敷の連中を引きつけて、派手にあばれまわって。ただし、屋敷の西側からなるべく遠ざかるように移動して。気づかれないように」
『ふむ。誘導するってことだな。まかせろ。……だが、1つ問題があるな』
「なに?」
ぼくの計画に、なにかまずい部分が、あっただろうか。
『西がどっちか、わからん』
うっ。
「…………兄さん、窓から外は見える?」
ぼくは頭をかかえながら、たずねる。
『ああ、見えるぞ』
「タワーがあるのが、西の方角だよ」
『わかった! 連中の相手は、まかせとけ』
通信が切れる。
「翼お兄ちゃんらしいね」
美華子ちゃんが、くすくす笑いながら言う。
そして、その笑みが、すっと消えて、真剣な表情になる。
「それで、わたしたちも動くんだよね? 圭一郎お兄ちゃん」
「うん。ぼくたち2人で、盗品売買の証拠をおさえにいく」
「りょーかい! 窓の鍵はどうするの?」
美華子ちゃんが、きいてくる。
翼兄さんは、まだ窓の鍵を開けていないから、予定していた潜入ルートはつかえない。
「見つからないように潜入する計画だったからつかえなかったけど、今は翼兄さんが派手な誘動をしてくれている。出る音を最小限におさえて、窓ガラスを割って潜入する」
「わかったよ! それならまかせて。潜入するのによさそうな窓はこっちだよね」
美華子ちゃんは、さっそく動きだす。
翼兄さんとちがって、美華子ちゃんは屋敷の見取り図が、頭に入っているみたいだ。
本当なら、打ち合わせのときに翼兄さんもきいていたんだから、覚えているはずなんだけど……。
そのまま、ぼくと美華子ちゃんは、翼兄さんのおかげで、すかすかになった警備の穴をついて、盗品売買の証拠の品を1つ盗んで、証拠写真を撮り、屋敷を脱出する。
翼兄さんは、少しおくれて、ぼくらと合流した。
当然のように無傷なのがすごい。
「あとは、この証拠を、警察に届ければいいんだな」
翼兄さんが、満足げに言う。
「怪盗レッドの名前でね!」
美華子ちゃんも、うれしそうだ。
「べつに、名乗らなくてもいいと思うんだけど……」
「「それはダメ(だ)!」」
翼兄さんと美華子ちゃんが、声をそろえて言うので、ぼくはあきらめる。
この2人にとっては、「怪盗レッド」の名前を使うのも、重要なことらしい。
その後、盗品と証拠の写真などを「怪盗レッド」の名で、警察に届けると、警察は、うたがいつつも屋敷を調べるために動きだし、盗品売買にかかわった者たちが、次々と逮捕された。
――以上が、今回の怪盗レッドの活動の記録である。
3
「わあぁ! ……お父さんたちって、こんなふうに怪盗レッドの仕事をしてたんだぁ」
わたしは記録を読むというかたちでだけど、初めて知った、初代怪盗レッドの活躍ぶりに、興奮する。
「それに、圭一郎おじさんも、現場までいってたんだね。はじめて知ったよ!」
「父さんたちのころは、通信が、まだ短い距離でしか送れなかったんだと思う。それに、距離が長くなると、それだけ盗み聞きされるおそれが高まるから」
「そうなんだ」
技術が進歩した今、わたしたちは恵まれてるってことなのかも。
そのぶん、お父さんたちは、わたしたちよりも1人多い、3人組だったわけだけどね。
「でも、お父さん、屋敷の見取り図を覚えてないなんて、わたしのことをとやかく言えないよ。さすがにわたしだって、いつも覚えるようにしてるし」
「それでも計画が中断にならない、父さんの計画を見直す判断力や、翼おじさんの身体能力の高さには、目を見張るものがある」
「だね。うちのお父さん、そのころから強そうだもんなぁ」
当時のお父さんは、今のわたしと、年齢はそんなに変わらない。
だけど、わたしより、そのころのお父さんのほうが強かったんだと思う。
「ねえねえ、ケイ。ほかの記録は?」
「ああ、見てみるか……ん?」
ケイが、別のファイルを開こうとして、まゆをひそめる。
ピ―――。
とつぜん、パソコンから警告音のようなものが鳴り、ケイはなにも操作していないのに、さっきまで開いていたフォルダが閉じて、デスクトップ上から消えてしまう。
な、なにごと!?
「なに、どうしたの、ケイ!?」
わたしはびっくりして、ケイにきく。
「…………やられた」
ケイは、パソコンを操作していた手を止めて、つぶやく。
「え?」
「父さんのしかけたワナだ。最初に、ぼくでもギリギリ破れるくらいのセキュリティを解除させて、安心させたんだ。それで、2つめのファイルを開こうとすると、フォルダごと、もっと強固なセキュリティが再設定されるようになっていた。今度は、びくともしない」
「それって、わたしたちがファイルを読むことまで、おじさんが予想してたってこと?」
「そうなる。父さんに、してやられた」
ケイは、くやしそうに言う。
うーん。
さすがは、初代怪盗レッドだよ。
ケイの裏をかくなんて。
でも、ほんの少しだけど、初代怪盗レッドのことを知ることができて、わたしはうれしかったけどね。
おじさんも、きっと意地悪でこんなことをしたんじゃなくて、自分たちの活動の記録を、ちょっとだけ、わたしとケイに見せたかったんじゃないかな。
だって、ケイだって、くやしそうでいて、おじさんに挑めたことを、どこか楽しんでいたように見えるし。
それにしても、お父さんたち初代怪盗レッドだって、ぜんぜん失敗がなかったわけじゃないんだね。
ちょっと、ホッとしちゃったかも。
わたしたち2代目怪盗レッドも、これからもっともっと、成長しなくっちゃ。
「がんばろうね、ケイ」
わたしがケイに声をかけると、ケイは一瞬、けげんそうな顔をする。
だけど、すぐにわたしの言った意味を理解したらしい。
「ああ、当然だ」
ケイが、深くうなずいた。
〈おしまい〉
【怪盗レッドスペシャルはまだ続くよ、お楽しみに!】
初代怪盗レッドの活躍はこの本を読もう!
作:秋木 真 絵:しゅー
- 【定価】
- 1320円(本体1200円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B6判
- 【ISBN】
- 9784041087664