8 笑顔でいる、約束!
そのあと、こまかい作戦を詰めてから、解散してわたしたちはラドロのビルを出た。
街中の荒れ具合はあいかわらず。
っていうか、わるくなる一方。
あからさまに、あちこちで争いの声や音がきこえていた。
水や電気は、まだかろうじてある。
でも、食料は日に日に減っていくし、日常が壊れたことは、心をすさませる。
自然災害なら、被害を受けていない地域から支援が受けられるけど、助けはこない。
明るい見通しをもっている人はだれもいないんだ。
それが、人の心を追い詰めていってる……。
「世界をもとにもどせるのかな?」
たとえ、ウィルスをとりのぞけても、世界がもとにもどるのか不安だった。
もうとり返しのつかないところまで、世界は壊れてしまったんじゃないかって。
「大丈夫だ。人間はしぶとい。
それに、世界を救おうとしているのは、ぼくたちだけじゃない。
直接『戦う』という方法じゃなくても、この状況に心を折らずに行動する人たちもいる」
「……!
そうだよね。自分たちだけが、世界を救おうとしてるなんて思いあがりだもん」
わたしたちは、たまたま、タキオンという今回の元凶の近くにいて、事情を知っていたから、一番近い場所で戦うことになった。
でも、それだけなんだよね。
もし、どこかちがう場所にいたら。ちがう行動をしていたら。
タキオンと戦うのは、べつの人だったかもしれない。
それでも、わたしたち以外にも、たくさんの人たちが「世界をこのまま終わらせない」ために行動しようとするって、わたしは信じてる。
だから。
わたしたちは、そういうみんなから託されて、今回たまたま、戦う立場になっているだけだって。そう思うんだ。
わたしたちの団地が見えてきて、その前に、人影があった。
……あれ?
近づいていくと、団地の前に立っている人影が、実咲、優月、水夏、それに奏だとわかる。
「ちょっ⁉ みんな、どうしたの⁉」
かけよって、実咲たちに声をかける。
「どうしたの、じゃないよ! こんなことになってから、ぜんぜん会えてないし、連絡もとれないから、心配してきたの! アスカのことだから、きっとムチャするんじゃないかって……!」
実咲が、心配した顔をむけてくる。
「そうですよ、アスカ先輩!
家にきてみても、だれもいないし。心配してたんですからね!」
「演劇部のみんなは、おたがい近くの家の人同士で連絡とるようにして、少しずつ、安全確認がとれたんんだけど。最後がアスカだったの」
「連絡がとれなかったの、アスカちゃんだけなんだよ。
しかも、こんなことになってから、だれもアスカちゃんと話ができてないってきいて、もう心配で……」
みんなの輪が、自然とせばまって、わたしを中心に、ぎゅっと抱きあう。
すっごく、心配をかけていたみたい……。
そうだよね、あれからわたし、あちこちにいってて、家にほとんどいなかったし。
「でも、みんなだけだと危ないよ。いまは……」
変わってしまった街の様子を見まわす。
団地のまわりは、比較的安全かもしれないけど……。
「そこは心配ないです! ママの警備会社の人をお願いしてきましたから!」
奏が言って、少しはなれた場所にいる、黒スーツすがたの男の人たちを指さす。
屈強な体の男の人と、それより小柄の男の人、それに、鍛えていそうな女の人がいる。
そういえば、白里家のお母さんって、警備会社の社長だったっけ。
あの人たちだれなんだろうって、ちょっと気にして警戒してたけど、そういうことならよかった!
「もちろん、わたしたちの家族もついてきてくれたよ」
その近くには、実咲たちの身内のおとなのすがたがある。
かなりの大人数の移動だけど、こうでもしないと安心して移動できないのが、いまのこの街であり、世界なんだよね。
「でも、変わりなさそうで安心した。アスカも紅月くんも」
水夏が、表情をゆるめた。
「そうですね! 世界はこんなになってるのに、先輩は『いつものアスカ先輩』って感じだから、なんかホッとしちゃいました」
「本当だね。こうしていると、いつも学校で話してるときみたい」
優月のおっとりとした口調をきくと、よけいにそう思うよ。
「でも、アスカのことだから、おとなしくは、してないんでしょ?」
ギクッ。
実咲はあいかわらず、するどい。
「……あまりきかないけど、むりはしちゃだめだからね」
わたしは顔に出さないようにする。
「うん、わかってるよ!さすがにわたしだって、こんな状態でフラフラ出歩いたりはしないって」
「どうだか。いまだって紅月くんと帰ってきたところだったでしょ」
実咲は、信用ならない、っていう顔だ。
「ちょっと用事があって、いってきただけ。2人なら大丈夫かなって」
「……もう。そういうところを、心配しているんだけどね」
水夏が、ため息をつく。
「もっとゆっくり話したいけど、暗くなるとみんなも危ないし」
実咲が、うながすけど、みんな、はなれがたいみたい。
なにか言いたそうだけど、なにを言っていいかわからないって顔で、うつむいてる。
わたしは、明るい声と、明るい表情で、言った。
「……世界がもとにもどったら! また、ゆっくり話そう!」
「……え、もどるのかな?」
優月が不安そうだ。みんなも、同じ。
なにが原因でこんなことになっているのか、わからないんだ。
不安になってとうぜんだよね。
「大丈夫だよ! 絶対もどるから」
わたしは、言いきる。
「やけに自信たっぷりじゃない。まるで自分がもとにもどす! って言ってるみたい」
茶化すように言う水夏に、わたしは、あわてつつ、こたえる。
「そ、そういうわけじゃないけど、ずーっと、このままなわけないじゃない、ってことだよ!」
「なにあわててるの、アスカ。冗談に決まってるでしょ」
水夏が、いぶかしげな目をむけてくる。
「アスカ先輩は、正義の味方ですからね! こんなときは、気合いが入っちゃうんですよね!」
奏がそう言って、わたしの腕に、だきついてくる。
「でも――アスカの言うとおりだね。
また学校で元気に再会できるように、暗い気持ちにならないようにしながら、安全にすごそう。
――ほら、約束してた年越しのお祝いも、初詣もいけていないでしょ。改めて、約束!」
実咲が、真っ先に手を出す。
その上に、わたしたちは、1人ずつ、片手を重ねていく。
「――次も笑顔で会おうね!」
言いあったわたしたちは、ひさしぶりに大きな口を開けて笑った。
警備会社は、いまとなっては少なくなってしまったけど、動く車を持っているらしくて、みんなを車に乗せて走っていった。
「――絶対、いつもの世界にもどそうね」
わたしは、遠ざかって見えなくなった車のほうを見つめる。
「まだ卒業式に間にあう」
となりに立つケイも、ぽつりと言った。
そうだよ。
とんでもない年越しになってしまったけど、卒業式までには2か月ある。
「日常」なんて、まだ想像もつかない状態だけど。
世界の終わりを止められれば、大丈夫!
みんなで力を合わせて、もとにもどせる、きっと。
世界をもとどおりにして、理央先輩やアリー先輩の卒業式を迎えなくちゃ!
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いよいよ始まる、ブラック・タキオンとの最終決戦。
バラバラの個性が組み合わされた3つのチームで、どんなふうにカオス・キャッスルを攻略するのか?
どんな敵が立ちふさがるのか? そして、その結末は――。
この先も、絶対に見のがせないっ!!
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