KADOKAWA Group
NEW ものがたり

【先行ためし読み!】怪盗レッド30 第5回

8 笑顔でいる、約束!



 そのあと、こまかい作戦を詰めてから、解散してわたしたちはラドロのビルを出た。


 街中の荒れ具合はあいかわらず。

 っていうか、わるくなる一方。

 あからさまに、あちこちで争いの声や音がきこえていた。


 水や電気は、まだかろうじてある。

 でも、食料は日に日に減っていくし、日常が壊れたことは、心をすさませる。

 自然災害なら、被害を受けていない地域から支援が受けられるけど、助けはこない。


 明るい見通しをもっている人はだれもいないんだ。

 それが、人の心を追い詰めていってる……。


「世界をもとにもどせるのかな?」


 たとえ、ウィルスをとりのぞけても、世界がもとにもどるのか不安だった。

 もうとり返しのつかないところまで、世界は壊れてしまったんじゃないかって。


「大丈夫だ。人間はしぶとい。

 それに、世界を救おうとしているのは、ぼくたちだけじゃない。

 直接『戦う』という方法じゃなくても、この状況に心を折らずに行動する人たちもいる」


「……!

 そうだよね。自分たちだけが、世界を救おうとしてるなんて思いあがりだもん」


 わたしたちは、たまたま、タキオンという今回の元凶の近くにいて、事情を知っていたから、一番近い場所で戦うことになった。

 でも、それだけなんだよね。

 もし、どこかちがう場所にいたら。ちがう行動をしていたら。

 タキオンと戦うのは、べつの人だったかもしれない。

 それでも、わたしたち以外にも、たくさんの人たちが「世界をこのまま終わらせない」ために行動しようとするって、わたしは信じてる。

 だから。

 わたしたちは、そういうみんなから託されて、今回たまたま、戦う立場になっているだけだって。そう思うんだ。


 わたしたちの団地が見えてきて、その前に、人影があった。

 ……あれ?

 近づいていくと、団地の前に立っている人影が、実咲、優月、水夏、それに奏だとわかる。


「ちょっ⁉ みんな、どうしたの⁉」


 かけよって、実咲たちに声をかける。

「どうしたの、じゃないよ! こんなことになってから、ぜんぜん会えてないし、連絡もとれないから、心配してきたの! アスカのことだから、きっとムチャするんじゃないかって……!」


 実咲が、心配した顔をむけてくる。

「そうですよ、アスカ先輩!

 家にきてみても、だれもいないし。心配してたんですからね!」

「演劇部のみんなは、おたがい近くの家の人同士で連絡とるようにして、少しずつ、安全確認がとれたんんだけど。最後がアスカだったの」

「連絡がとれなかったの、アスカちゃんだけなんだよ。

 しかも、こんなことになってから、だれもアスカちゃんと話ができてないってきいて、もう心配で……」


 みんなの輪が、自然とせばまって、わたしを中心に、ぎゅっと抱きあう。

 すっごく、心配をかけていたみたい……。

 そうだよね、あれからわたし、あちこちにいってて、家にほとんどいなかったし。


「でも、みんなだけだと危ないよ。いまは……」

 変わってしまった街の様子を見まわす。

 団地のまわりは、比較的安全かもしれないけど……。


「そこは心配ないです! ママの警備会社の人をお願いしてきましたから!」

 奏が言って、少しはなれた場所にいる、黒スーツすがたの男の人たちを指さす。


 屈強な体の男の人と、それより小柄の男の人、それに、鍛えていそうな女の人がいる。

 そういえば、白里家のお母さんって、警備会社の社長だったっけ。

 あの人たちだれなんだろうって、ちょっと気にして警戒してたけど、そういうことならよかった!

「もちろん、わたしたちの家族もついてきてくれたよ」

 その近くには、実咲たちの身内のおとなのすがたがある。

 かなりの大人数の移動だけど、こうでもしないと安心して移動できないのが、いまのこの街であり、世界なんだよね。


「でも、変わりなさそうで安心した。アスカも紅月くんも」

 水夏が、表情をゆるめた。

「そうですね! 世界はこんなになってるのに、先輩は『いつものアスカ先輩』って感じだから、なんかホッとしちゃいました」

「本当だね。こうしていると、いつも学校で話してるときみたい」

 優月のおっとりとした口調をきくと、よけいにそう思うよ。


「でも、アスカのことだから、おとなしくは、してないんでしょ?」


 ギクッ。

 実咲はあいかわらず、するどい。

「……あまりきかないけど、むりはしちゃだめだからね」

 わたしは顔に出さないようにする。

「うん、わかってるよ!さすがにわたしだって、こんな状態でフラフラ出歩いたりはしないって」

「どうだか。いまだって紅月くんと帰ってきたところだったでしょ」

 実咲は、信用ならない、っていう顔だ。

「ちょっと用事があって、いってきただけ。2人なら大丈夫かなって」

「……もう。そういうところを、心配しているんだけどね」

 水夏が、ため息をつく。


「もっとゆっくり話したいけど、暗くなるとみんなも危ないし」

 実咲が、うながすけど、みんな、はなれがたいみたい。

 なにか言いたそうだけど、なにを言っていいかわからないって顔で、うつむいてる。


 わたしは、明るい声と、明るい表情で、言った。

「……世界がもとにもどったら! また、ゆっくり話そう!」


「……え、もどるのかな?」

 優月が不安そうだ。みんなも、同じ。

 なにが原因でこんなことになっているのか、わからないんだ。

 不安になってとうぜんだよね。


「大丈夫だよ! 絶対もどるから」


 わたしは、言いきる。

「やけに自信たっぷりじゃない。まるで自分がもとにもどす! って言ってるみたい」

 茶化すように言う水夏に、わたしは、あわてつつ、こたえる。

「そ、そういうわけじゃないけど、ずーっと、このままなわけないじゃない、ってことだよ!」

「なにあわててるの、アスカ。冗談に決まってるでしょ」

 水夏が、いぶかしげな目をむけてくる。

「アスカ先輩は、正義の味方ですからね! こんなときは、気合いが入っちゃうんですよね!」

 奏がそう言って、わたしの腕に、だきついてくる。


「でも――アスカの言うとおりだね。

 また学校で元気に再会できるように、暗い気持ちにならないようにしながら、安全にすごそう。

 ――ほら、約束してた年越しのお祝いも、初詣もいけていないでしょ。改めて、約束!」


 実咲が、真っ先に手を出す。

 その上に、わたしたちは、1人ずつ、片手を重ねていく。

「――次も笑顔で会おうね!」

 言いあったわたしたちは、ひさしぶりに大きな口を開けて笑った。



 警備会社は、いまとなっては少なくなってしまったけど、動く車を持っているらしくて、みんなを車に乗せて走っていった。


「――絶対、いつもの世界にもどそうね」

 わたしは、遠ざかって見えなくなった車のほうを見つめる。


「まだ卒業式に間にあう」

 となりに立つケイも、ぽつりと言った。


 そうだよ。

 とんでもない年越しになってしまったけど、卒業式までには2か月ある。


「日常」なんて、まだ想像もつかない状態だけど。

 世界の終わりを止められれば、大丈夫!

 みんなで力を合わせて、もとにもどせる、きっと。

 世界をもとどおりにして、理央先輩やアリー先輩の卒業式を迎えなくちゃ!


このつづきは6月10日(水)発売の完結巻『怪盗レッド30 1パーセントの希望があるなら☆の巻』でチェックしてね!

いよいよ始まる、ブラック・タキオンとの最終決戦。
バラバラの個性が組み合わされた3つのチームで、どんなふうにカオス・キャッスルを攻略するのか? どんな敵が立ちふさがるのか? そして、その結末は――。
この先も、絶対に見のがせないっ!!



書誌情報


作: 秋木 真 絵: しゅー

定価
880円(本体800円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323910

紙の本を買う

電子書籍を買う


その他の連載はこちらからチェック!▼



この記事をシェアする

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • LINEでシェアする
ページトップへ戻る