2人1組の正義の怪盗「怪盗レッド」をやっている、アスカとケイの物語、とうとう完結!
1%の希望があるなら、つかみとる――それが、怪盗レッドだ!
全世界にむけ、はなたれた「終わり」の仕掛け。世界が壊れるまでの残り時間は、たった7日。平和だったこれまでの日常が、終わる!? そんなこと、わたしたちが、させないっ! 動くのは、たった6人の精鋭。一度以上、「敵」として、全力でぶつかったことのあるもの同士だからこそ……背中をまかせて戦える!
角川つばさ文庫の歴史に輝く「怪盗レッド」が、とうとう最終決戦。どうか、見届けて!(全5回、公開は2026年6月30日(火)まで)
■幕間
白里響は、拘置所(こうちしょ)にやってきていた。
むかうところは決まっている。
前回きたとおりに手つづきをすませて、中を進む。
わびしく、ひんやりとした空気が満ちた通路を進み、面会室で待っていると。
ゼスが透明な壁のむこう側にやってきた。
「――またきたのか、元・名探偵さん。だが歓迎するよ。なにせ、毎日ヒマだからな」
イスにすわったゼスは、うすら笑いをうかべる。
響はゼスの様子を観察してから、小さく息を吐いて、言った。
「狙いどおり、おまえの作ったウィルスはいま、世界を終わらせようとしている」
「それはよかった。あれは最高傑作だ」
ゼスは、満足そうな顔をしていた。
「このあいだもきいたな。――おまえがなぜ、わざわざ単独行動をして、警察に捕まったのか。そして、タキオンはおまえの奪還に動かなかったのか。
ようやくわかった」
ゼスからの返事を期待したわけじゃない。
響は、ふたたび口を開いた。
「――おまえが、もうすでに、タキオンでの仕事を終えていたからだったんだな」
ようやく理解したときには、遅かった。
なぜゼスが、単独であんな事件をおこしたのか。
それ以外の幹部が参加しなかったのか。
ウィルス開発を終えて、もはや役割のないゼスに、ニックもタキオンもかまうことがなかった。
ゼスの単独行動は、ちょうどいい目くらましでもあったのかもしれない。
「ま、そういうことだ。だからニックに言って、最後に自由にさせてもらったのさ。どうせ滅びる世界だからな」
「なるほど。世界の終わりを、ここでむかえるのが、おまえの望みだったというわけか……?」
「わるいか? すごしてみれば、静かでいい場所なんだ」
ゼスは部屋を見まわして、肩をすくめる。
「――――それは、ちがうだろう」
響のするどい言葉に、ゼスの動きが止まった。
「なに?」
ゆっくりと、響にむきなおり、にらみつける。
「おまえがここにいるのは高みの見物をするためじゃない。ここならうまく身を隠せるからだ」
「なにを言ってる? おれの作ったウィルスは、どこにいようが関係ない。世界中の、すべての機能が終わるんだ」
「そうじゃない。おまえがここにいれば、タキオンの――ニックからの注意がうすれる。それが本当の狙いなんだろう」
「……なにをバカなことを」
ゼスは、ゆっくりと左右にかぶりをふる。
「ニックの望みは、世界を終わらせることだ。幹部のおまえたちも、それに協力している。
だが、――――本当に、おまえは世界を終わらせたいと思っているのか?」
響はまっすぐに、ゼスを見すえる。
「……………………」
「ここにいれば、だれかに希望を託すチャンスが生まれる――と。そう考えたんじゃないのか、ゼス。
ぼくは、それを受けとりにきた」
重く長い沈黙が、部屋に流れる。
響とゼスは、おたがいに目をそらさないまま、にらみあっていた。
1分か、3分か。それとも、もっと長くか。
ふっと、先に視線をそらしたのは、ゼスだ。
「……名探偵というのは、本当にうっとうしいな」
ゼスが、独り言のように言って、舌打ちする。
そして、同じようにつづけた。
「カオス・キャッスルだ。
そこに、ウィルスのマスターデータを、3つに分けて隠してある。ニックにも秘密でな」
「ウィルスの、マスターデータ……!」
響がおもわず、声をあげる。
「ああ。そいつがあればワクチンが作れるかもしれないな……まあ、手に入れられれば、だが?」
ゼスはニヤリと笑う。
「よりによって、カオス・キャッスルに、か」
響は顔をしかめる。
「決着をつける場所として、ちょうどいいだろ?
世界が終わるのか、救われるのか。おれはここで、のんびりと結果を待たせてもらう」
ゼスは、メモ用紙にすらすらと地図を描き、響に手わたしてくる。
「まあ、期待しないで待っててやるよ、――――名探偵」
「素直じゃない依頼人でも、応えてやるさ」
響は立ちあがると、メモをジャケットの内ポケットにしまい、その場をあとにする。
その胸にひめた、1枚のメモが。
世界を救う「鍵」になる。