6 天才少女画家の激励のしかた
カラスからの情報を、ケイがアルフォンスさんに伝えると。
さっそく作戦会議を行うことが決まった。
といっても、すぐにじゃない、って。
まあ、チャンスは1回かぎり。
それで、一発逆転の作戦を組みあげなきゃいけないわけだからね……。
ケイは準備に忙しそうだから、わたしは自分にできること――今日も道場で、技の練度をみがくことにした。
自分がふだん使ってる技を、1つ1つ見なおして、体の動きを確認する。
ほんの少ししかない、のこりの時間で、見ちがえるほど実力を上げることは難しい。
けど、ちょっとした動きの正確さが、勝敗を分けることだってある――と信じて。
できることを、やるしかないんだっ!
「ふぅ……」
1人で集中して体を動かしていて、気がついたら、かなりの時間がたっていた。
冬の冷たい空気で、汗冷えしないように、いそいでタオルでふきとる。
「――イノシシさんらしく、がんばってるのね」
えっ⁉
声がきこえてふり返ると、道場の入り口から、有栖ちゃんがひょっこり顔を出していた。
「あ、有栖ちゃん⁉ どうしてここにいるの?」
おもわず声を上げちゃった。
ここにくるのは、はじめてだよね⁉
「おじいちゃんのメッセンジャーとして、よ」
有栖ちゃんはそう言って、きれいな一礼をしてから、道場の中に足を踏み入れる。
「でも、1人で歩くのは危険でしょ……」
「わたしにはサクスがついてるから平気よ。知ってるでしょ?」
道場の外に目をむけると、とうぜんのように、そこにサクスのすがたがあった。
護衛として、ついてきたらしい。
それなら安心か。
それでも、危険なことには変わりないけど。
「でも、メッセンジャーだなんて、こんなときに有栖ちゃんにお願いしなくたっていいのに」
と思わずわたしは、ふんがいする。
アルフォンスさんだって、危険はわかっているはずなのに!
「わたくしから、いかせてほしいってお願いしたのよ。
いまのわたくしは、これぐらいでしか役に立てないもの」
「そんなこと……!」
「いいえ、そうなのよ。
わたくしもわかってる、自分で自分の身を守れない人間は、いまの状況では、まわりの足をひっぱるだけ。
ケイみたいに、それ以外の部分で役に立つならともかく、わたくしの才能はそういう方向じゃないしね」
有栖ちゃんは、話しながら、道場の中をステップをふむように、かろやかに、ものめずらしそうに歩いている。
そんなことないよって言いたいけど――有栖ちゃんの言っていることはまちがってない。
いまは世界中が危険すぎて、戦えないだれかを守るために1人を護衛につければ、戦力はそれだけダウンする。
今日はサクスがついてきてくれたけど――もう、その余裕が、ラドロにもないんだと思う。
「そんな悲しそうな顔をしないの、アスカ。
イノシシはイノシシらしく、前だけをむいてなさい。わたくしは、そのあとを、のんびりついていくから……スケッチでもしながらね」
「有栖ちゃん……」
足を止めると、有栖ちゃんは、くるりとわたしのほうをむいた。
「おじいちゃんからの伝言を伝えるわ。――明日、ラドロのビルに集まってほしい、って。最後の作戦会議よ」
最後の。
その言葉に、思わずつばを飲みこんで、のどが鳴った。
わたしは目をふせて、深く呼吸をする。
「わかった。――――いよいよだね」
「そうよ。最終決戦。世界の命運が決まるわ」
有栖ちゃんは、くるりとその場でターンする。
フリルのスカートが、ふわりとゆれる。
「有栖ちゃんは? その間、どうするの?」
「わたくしは家で絵を描きながら待っているわ。今回きたのが、ラドロとしての最後の仕事よ」
有栖ちゃんは、そう言って微笑んだ。
……そういえば、有栖ちゃんって、「タキオンが作ろうとしている世界がいやだから」って、それを阻止するために、ラドロに入ったって言ってたっけ。
わたしたちが目指しているのは「世界を終わらせないこと」と同時に、タキオンを止めること。
タキオンがなくなれば、ラドロに関わる必要もなくなる。
「ありがと。……あっ、その絵が完成したら、わたしにも見せてくれる?」
「いいわよ。……でも、アスカの感性にあうかしら? 世界の行く末より難問だわ」
「あのね~。あいかわらず、口がへらないんだから」
わたしは笑う。
こんなときでも、有栖ちゃんらしい。
そのすがたに、ほっとした。
世界の終わりが迫ってたって、自分のペースを手ばなさない人がいる。
それって「負けない」ってことでもあるんだろうと思う。
なんだかホッとするよ。
だからこそ、みんなの手にとりもどさなきゃいけないんだ。
その人が、その人らしく生きられる――この世界を。
「さて。長居してもわるいから、これでおいとまするわね」
「うん。気をつけてね」
わたしが見送ろうとしたら、有栖ちゃんが足を止めた。
「ねえ、イノシシさん」
ふり返った有栖ちゃんが、わたしを、まっすぐに見あげた。
まっすぐに、わたしの目を見る。
「世界を救ってきなさいよね――絶対よ」
言いきったあと、微笑んでみせた有栖ちゃんは、すぐにサクスといっしょに帰っていった。
もしかして……。
有栖ちゃんは、いまの言葉を、わたしに直接伝えてくれるために、メッセンジャーに立候補したのかも?
パチン!
両手をあわせて、力をこめる。
「気合い。入ったよ、有栖ちゃん!」
ありがとうっ!
第5回につづく
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