2人1組の正義の怪盗「怪盗レッド」をやっている、アスカとケイの物語、とうとう完結!
1%の希望があるなら、つかみとる――それが、怪盗レッドだ!
全世界にむけ、はなたれた「終わり」の仕掛け。世界が壊れるまでの残り時間は、たった7日。平和だったこれまでの日常が、終わる!? そんなこと、わたしたちが、させないっ! 動くのは、たった6人の精鋭。一度以上、「敵」として、全力でぶつかったことのあるもの同士だからこそ……背中をまかせて戦える!
角川つばさ文庫の歴史に輝く「怪盗レッド」が、とうとう最終決戦。どうか、見届けて!(全5回、公開は2026年6月30日(火)まで)
7 決戦のチーム分け!
そして次の日。
わたしとケイは、ラドロのビルへむかった。
お父さんと圭一郎おじさんは、べつの用事があると言って、途中でわかれたけど……。
こんなときに「べつの用事」って、なんなんだろう?
疑問には思ったけど、必要なら教えてくれるはずだし、気にしてもしょうがないか。
わたしは頭をきり替えて、ラドロのビルに入る。
わたしとケイは、ラドロのビルにくる直前に、レッドのユニフォームに着替えていた。
この間と同じ部屋にとおされる。
部屋を見まわすと、今日集められた全員が、顔をそろえていた。
アルフォンスさんはもちろん、恭也。マサキ。
エメラのすがたもあった。
でも一番印象的なのは。
ここ――ラドロの会議室の中に、あの白里響のすがたがあるってこと。
まあ、それがあるから、今日はわたし、レッドのユニフォームに着替えたんだけどね。
恭也も、ファンタジスタの衣装を着ている。
「きたか、レッド」
アルフォンスさんが言った。
「わたしたちが最後みたいね」
わたしは、いつもとちがい、声を変えて話す。
「このメンバーが集められたということは、いよいよ白里探偵からの情報もそろった――ということかな?」
恭也もおなじように言って、ちらりと響を見た。
この前の話しあいのとき、アルフォンスさんは「ウィルスのマスターデータについて、響が調べてくる」みたいな話をしていたよね……。
響は、いっせいに集まった視線にも、表情を変えなかった。
「手がかりは、あった。ただ、問題がある。
それはこれからアルフォンスさんが話してくれる」
響は、落ちついた様子でこたえる。
正直、響からしたら、この場は敵にかこまれているような状態だよ?
盗賊組織のトップに、怪盗が2組。
そのほかは、タキオンの元幹部だ。
それでも、響は心を乱している様子はなかった。
その様子を見て――わたしは、ちょっと安心した。
なぜかって?
以前の響だったら「協力する」と決めたとしても、迷いや、わだかまりがあったと思うから。
いまの響にはそれがない。
それだけの覚悟を決めてるってことが、伝わってくる。
「では、時間もない。さっそく本題に入ろう」
アルフォンスさんが代わって、きりだす。
「ニックがいる場所は、わかった。カオス・キャッスルだ。かつてのタキオンの居城が、改築されてニックの居城となったわけだ。
ニックはもちろんのこと、幹部であるファルコンと藤堂伊織もいる。それに、構成員は500人以上が待ちかまえている」
「こちらがくることは、すでにお見通しというわけか」
恭也が、響に視線をむける。
「カラスという情報屋の言うとおり、カオス・キャッスルを引き継いだ所有者はタキオンの人間だった。その人物が優先的に買えるよう手引きしたのは、警察内部にもぐりこんだタキオンの関係者だ。いまはどちらも、すがたを消している」
響は、すでに捜査ずみだったらしい。
カラスの情報をきいたのは、わたしたちよりあとのはずだから……そのあとの、わずかな時間で調べあげたっていうことね。さすが響だ。
「なるほどね。となると、警察も当てにならないか」
「とうぜんだな。逆に警察に情報を流すと、即座にタキオン側にもれる可能性が高い」
響が断言する。
「へえ」
その言葉が意外だったのか、恭也はうなずいた。
「ともかくわたしたちで、ニックのいるカオス・キャッスルに乗りこんで決着をつける……ってことでいいのよね。それからもう1つの問題、コンピューターウィルスのワクチンのほうは?」
会話が脱線しそうだったので、わたしがちょっと強引にひきもどす。
「白里響が、直接手に入れてきた情報だ。
――ゼスが、ウィルスのマスターデータを、カオス・キャッスル内の3か所に隠している。
このことは、ニックも知らない。
ニックと決着をつける前に、このマスターデータを見つけることが、最優先だ」
ええっ、それって初耳!
「その情報って、ゼスから直接きいたの?」
わたしは、響にむかってきく。
「そうだ。拘置所にいって、この耳できいた」
「でも、ゼスの言葉を信じられるの?」
また、ワナなんじゃないかと感じてしまう。
だって、あのゼスだよ?
でも、響は両手を組んだまま、こう言ったんだ。
「――信じられる……と、ぼくは思う。
ゼスは、世界の滅亡までを望んでいるわけじゃない。だから、ニックの目が届かない拘置所に居場所を移したんだ。
ただ、いまの状況では、その根拠は証明も不可能だ。やつを信じるか。信じないか。
どちらかを、ぼくたちが選ぶしかない」
名探偵・白里響が、直接会った上でくだした判断。か――。
それなら……。
「分がわるくても、そのギャンブルに乗ることでしか世界を救えないなら、乗るしかないね」
恭也が、一番先に片手を挙げる。
「恭也様がそうおっしゃるなら、おれも同意です」
マサキが、すぐにつづく。
わたしも、ケイをちらりと見てから、うなずいた。
「わたしたち――怪盗レッドも、賭けに乗るわ」
一堂が見まわして、うなずきあう。
「同意が得られたわけだが、あとは、マスターデータを得てからワクチンを作ることが、本当に間にあうかどうか、だが。――怪盗レッド」
アルフォンスさんが、ケイに視線を送りながら、話をふる。
「それについては話しておくことがある。ウィルスの世界への侵食度は、推定で90%を超えた。いまかろうじて保たれているライフラインも、失われるのは時間の問題だ。
ウィルスのデータを持ち帰ってからワクチンを作る時間は、もうない」
「「「!」」」
はっきりと言いきるケイに、みんなに動揺が走る。
「おいおい、苦労してマスターデータを手に入れても、もう世界は救えない――ってことか⁉」
恭也が、けわしい顔でたずねる。
すると。
「いや、ちがう」
ふたたびきっぱりと、ケイが否定したんだ。
「持ち帰らない。
データを手に入れたら、その場でワクチンを作り、即座に世界へと広める。それならギリギリで間にあう。
――このシミュレーションは、何度も行った。可能性は、まだわずかに繋がっている」
「で、でもネットワークはいま、どこでも使えないでしょ。どうやってワクチンを広めるの?」
それくらい、わたしにだってわかるよ!
だって、あの日以来、スマホでネットも通話も、使えないんだ。
ましてや、ワクチンを広めるなんて、絶対むりなんじゃ……。
「そこは、われわれラドロが。短時間だが、ネットワークへアクセスする方法を準備する」
アルフォンスさんがこたえる。
「師匠が、そんな方法を隠し持っていたとはね」
恭也が、肩をすくめる。
「それと、世界へワクチンを広めるルートを計算してみた。まずはローカルネットワークに送りこみ、そこからネットワークを復活させつつ同時にワクチンを広める最短ルートを導きだした」
「そ、そんなことができるの?」
「タキオンが最初におこなったのが、その方法だ。ウィルスを広めれば、その一帯でネットワークがダウンする。そうするとウィルスが広まらない地域が出かねない。それを、スーパーコンピューターで計算して回避したんだ」
「なるほどね。スーパーコンピューターを使って広めたのは、そういう理由だったのか」
恭也が、納得したようにうなずいた。
「すると疑問があるぞ。じゃあ今回は、どうやってワクチンを広めるルートを計算したんだ? スーパーコンピューターが使えないのに……」
マサキが疑問を口にしかける。
「まあまあマサキ、こまかいことはいいじゃないか。できると怪盗レッドが言うんだ。――信用していいんだろ?」
恭也が、ケイに確認する。
「ああ。信じてくれていい」
ケイがまっすぐに、恭也を見てこたえる。
恭也はクスッと笑うと、視線をそらした。
「となると――だれかが現場でワクチンを作る、ってことだね?」
「それは、ぼくがやる。それ以外に道はない」
ケイが静かに、だけど決意のこもった声で言った。
わたしは、そのことは、前もってケイからきいていた。
もちろん、最初は反対したよ。
けど、そもそも、タキオンとの決戦の場におもむいて、その場でワクチンを作るなんてこと、「怪盗レッドのナビ担当」である、ケイ自身以外に、できるわけない。
技術力で、ケイと並び立てる研究者は、もしかしたらいるのかもしれないけど。
せまられた時間の中、しかも、実際の戦いのまっただ中で、ワクチンを作りあげる冷静さを持った人なんて、ほかにいないでしょ。
だから、心配だけど、納得するしかなかったんだ。
アルフォンスさんが、話をひきとった。
「うむ、それをふまえて、潜入チームを3つに分けて、それぞれのルートから同時に潜入を開始する。
最優先は、ウィルスのマスターデータの確保。そののち、ニックと幹部を倒すこと。
正面から戦うほどの戦力は、こちらにはない。潜入チームにすべてがかかっている」
すると、恭也がかるい口調で口をはさむ。
「マスターデータの確保っていうのはともかく、ファルコンまで倒すというのは、いくらなんでもムチャじゃないか、師匠?」
「だとしても、やらなければならない。そうしなければ、また何度でも、くり返されるだけだ」
アルフォンスさんからは「今回でかならず決着をつける」という強い意志が感じられた。
そのことは、わたしたちのだれもがわかってる。
いままでのタキオンは、世界を意のままに支配しようとしても「壊す」ことは考えてなかった。
だから長い目で見て対抗することもできたけど、いまはちがう。
ニックを放っておいたら、次の作戦を実行するはずだ――「世界を壊す」という目的のために。
だから、ここで止めるしかない。
アルフォンスさんが言う。
「3つの潜入チームの、組み合わせはこうだ。
まず1チームは、怪盗レッドの2人。
次のチームは、恭也と響。
そして、3つめがマサキとエメラだ」
「ちょっと待ってください! なぜおれが恭也様とじゃないんですか⁉」
マサキがすぐに抗議する。
たしかに、いつもの恭也とマサキのコンビネーションを生かしたほうがいいんじゃないかな?
「いいや。マサキは、自分よりも恭也を優先するだろう。今回は、それはできない。
最悪、どちらかだけでも、かならずウィルスのマスターデータを手に入れるという強い意志が必要だ。たとえ、もう1人を見捨てても、だ」
「……!」
「マサキ。恭也と組ませたら、それをおまえはできないだろう。共倒れしたとしても、かばうだろう。だからだ」
アルフォンスさんは、マサキの性格を、よく理解しているみたいだ。
マサキも絶句するしかないみたい。
恭也も、肩をすくめた。
「マサキは、そうだろうね。師匠のチーム分けは的確だ」
「恭也様! ……わかりました」
恭也にまで言われて、しぶしぶといった様子で、マサキが引き下がる。
「私のことなら遠慮なく見捨てていい」
いままでだまっていたエメラが言う。
表情が見えにくいから、冗談なのか本気なのかわからないな。
たぶんエメラのことだから本気じゃないかな……冗談を言うタイプでもないし。
「……可能な限り、2人で突破する。そのほうが確率が上がるからな」
不機嫌そうにこたえるマサキに、わたしは微笑みそうになる。
マサキは、自分が優秀で、でも恭也のことになるとペースがくずれるだけだってことが、わかってないよね。
恭也と以外なら、だれと組んでも、マサキならきっと、うまくやれるって!
それより――――問題は、もう1組のほうじゃない?
「名探偵とのコンビか。ワクワクするね」
恭也の言葉は、どこか挑発的だ。
「目的がいっしょなら、だれがパートナーでも文句はない」
響もそれがわかっているのか、声が少しかたい。
……大丈夫なの? この2人。
ぜんぜん、相性がよくなさそうだけど。
なんて言ってる場合じゃないか。選択肢はかぎられているんだもん。
ケイが言った。
「各チームの現場でのナビは、ぼくが担当する。カオス・キャッスル内なら、ネットワークを使わなくても暗号通信が可能だ」
あ、そうだよね。
いつもわたしとの間で使ってるインカムなら、問題なく通信できるはず。
あれはケイが自分で開発したものだし。
わたしは、みんなを見まわす。
響。恭也。マサキ。エメラ。
どれも、わたしが直接、戦ってきた相手。
だからこそ、この人たち1人1人の強さは、おたがいに、よく知ってる。
戦える!
「このメンバーがベストだよ。――世界を終わらせないために――やろう!」