5 情報屋カラスの「あこがれの人」?
お父さんが、ケイと圭一郎おじさんをよびにいって、2人を連れてもどってきた。
カラスに「4人そろってから」って言われたせいでもあるし。
実際、情報をきくとなったら、ケイとおじさんに直接きいてもらうほうが、安心だからね。
「あなたが情報屋さんか。ウワサにはきいていたけど、本当にカラスみたいに黒ずくめだねぇ」
圭一郎おじさんは、なんだかピントはずれな感想を言う。
のんびりとした口調からは、まったく緊張が伝わってこない。
こんな場合でも、圭一郎おじさんのマイペースは変わらないみたい。
意外だったのは、カラスのほう。
圭一郎おじさんが入ってくるなり、食い入るように見つめて。
ごくっと、のどを鳴らしたんだ。
えっ……緊張してるの、カラスが? 圭一郎おじさんに会って?
カラスは「ふぅ……」と小さく息をつく。
「私のウワサ、だなどと。あなたには敵いませんよ、レッド・ブラスト。あなたが現役だったなら、私ていどの情報屋は、成りたたなかったでしょう」
カラスは気をとりなおしたのか、圭一郎おじさんを見て、はっきりとそう言った。
んんっ?
「れっど・ぶらすと? 2人は前から知りあいなの?」
きいたことのない名前が出てきて、わたしは首をかしげる。
「「いいえ。情報だけです(だよ)」」
圭一郎おじさんと、カラスの声がそろう。
どこか2人には似た雰囲気がある。
自分の視点が絶対にブレないっていうか、……マイペース? っていうのともちょっとちがう。
「自分の生き方を決してゆずらない」みたいなところっていうか。
だからって、知りあいというのは考えすぎだったみたい。
「レッド・ブラストというのは、ぼくが『初代』をやっていたころの活動名だよ……ちょっとはずかしいけど」
圭一郎おじさんが、ほおをかきながら言う。
……へ? 活動名っ!?
「でも怪盗レッドっていうチーム名があるのに?それ以外の活動名もあるってどういうこと?」
それってたとえば、わたしやケイが『怪盗レッド』以外に、べつの名前でも活動しているってことだよね?
「私から説明しましょう」
カラスが言った。
「えっ、あなたが?」
「情報自体が商品」という仕事をしていることもあって、かんたんに情報を明かさないカラスが?
疑いの目をむけていると、カラスは小さく首を横にふった。
「この情報に価値はありませんよ、単なる解説です。ご本人が、目の前にいるわけですからね」
カラスはそう言って、圭一郎おじさんを見る。
「説明してくれるっていうなら、きくけど」
「ありがとうございます。
――『レッド・ブラスト』といえば、かつて世界中の情報屋から恐れられていた存在でした。
情報屋とは、秘密の情報を手に入れて売るからこそ商売が成り立つんです。
ですが『レッド・ブラスト』は、手に入れた情報を、タダで公開してしまうんです」
「えーっと、ばらしちゃうってこと?」
「ある意味ではそうですが、だれにでも見られるようにする、というわけではありません。
限られた必要な人間に……それを生かせる人間の目に留まるようにする。
そのことで、いくつものマフィアが、抗争に発展する前に決着をつけることになったり。国家間で戦争になりかけていた問題を、交渉だけで収めてしまったり、ね。
――裏側の世界に生きる者にとっては、戦争や抗争というのは『膨大な金を生むもの』なんですよ。
それを止めてしまうんだから営業妨害、迷惑千万。
しかし、その方法は華麗のひと言でね。
だからこそ、レッド・ブラストは、すべての情報屋からいまでも畏れと敬意をむけられている存在なんですよ」
カラスが、めずらしく熱っぽく語る。
「……そんな大げさなことはしてないよ。怪盗レッドの片手間にやっていただけだし」
圭一郎おじさんは、また、照れくさそうに、ほおをかいている。
「……ぼくも、ネット上の伝説として知っている。まさかそれが父さんだと思わなかったけど」
ケイが、あきれた顔をしている。え~と。
つまり本当に、この圭一郎おじさんが、《伝説の情報屋みたいな存在》ってことかな?
へえ~~~~~~~~!
「ですからね、情報屋の私が怪盗レッドの情報をほかに売ることはないんですよ。レッド・ブラストを敵に回すほど、恐ろしいことはないですからね」
あっ。
そういえば以前、カラスは「怪盗レッドの情報は売らない」って言ってたっけ。
それって……レッド・ブラスト――圭一郎おじさんが怖いからってことだったんだ!
へえ――。でもさ。
「話はわかったけど、まさか、そんな話をしにきたわけじゃないんでしょ? さっき世界を救う情報だって言っていたし」
もちろん、圭一郎おじさんの過去にも興味はあるけどさ。
いまは時間がない。
カラスが情報を持っているなら、早く話してもらわないとね!
すると、カラスも気づいたようで、すばやく身を正した。
「もちろんです。レッド・ブラストについては、今回はおまけです。
――これから、この世界をどうするかは、みなさん次第ですが――私が持ってきたのは、そのために必要な情報であるはずですよ」
カラスが、もったいぶった言い方をする。
「えっ、いま、わたしたちに必要な情報って……まさか」
だって、わたしたちがほしい情報は、たった2つだよ。
そのうち1つは、響が持ってくるって言ってたし。
なら、もう1つのほうを、カラスが……⁉
「ええ――現タキオンのボスに成り代わった、ニック・アークライトの居場所です」
えええええええっ!?
「ほんと? どうやって? ラドロが総動員しても、なにもつかめていないのに!?」
カラスは自分の組織を持っているわけじゃないらしい。
それなのに、いまみたいな不自由な状況で、どうやって調べたの⁉
「その情報の確証は」
ケイが目をするどくして、カラスに問いかける。
「やつが自分で移動しないかぎりは、100%ですよ」
カラスはそんな視線にも動じずに、ほがらかな声でこたえる。
「そんな情報が、舞いこんでくるものか? ワナじゃないのか」
お父さんも、疑いの目をむけている。
「ある意味では、そうでしょうねぇ」
カラスはぜんぜん動じない。
「えっ、どういうこと?」
自分から「この情報は、ワナだろう」って、明かしちゃうわけっ?
だけど、カラスは平然として、核心を明かした。
「いま、ニック・アークライトがいるのは、カオス・キャッスル。
以前、あなたたちが潜入したことのある、タキオンのアジトです」
「あそこにいるの⁉ あいつがっ⁉」
それは、前にノアとはじめて出会った、広いお城だ。
「カオス・キャッスルには警察の捜索が入ったはずだ。所有者もすでにタキオンではなくなっている。なぜそこに、あいつが……」
ケイが疑問を口にする。
「この混乱に乗じて乗っとった、というかたちです。ただ、それ以前から大きな改修工事が行われていたそうですよ。タキオンから移った所有者も、タキオンの息のかかった人間でしたからね」
「ちょ、ちょっと待ってよ。警察や国が管理してたんじゃないのっ⁉」
「ですから、そういう場所にも、タキオンの構成員はいる。それだけですよ」
……あっ、そうか。
カラスの言葉に、わたしは響の事件を思いだして、ゾッとする。
あのとき、響を追い詰めたのは、本物の警察官たちだった。
それを指揮していたのは、タキオンの幹部ゼス。
つまり本物の警察官が、タキオンの構成員でもあった。
警察官の中にいるなら、もっと国の重要なポストにいる人がいてもおかしくない、か……。
「しかし、ニックが居場所に、わざわざカオス・キャッスルを選んだのは、どうしてだろうね」
圭一郎おじさんがたずねると、カラスがこたえた。
「今回の計画は、日本国内から仕掛けるものでしたからね。そのあと海外へかんたんに移動できないというのは、ニックも同じです。
日本国内にタキオンが所有する、もっとも大きな拠点を選んだ――といったところではないでしょうか」
「幹部たちも、そこにそろっているのか?」
ケイもきく。
「そうですね、いまや『幹部』と言っても少なくなりましたが――ニックのほかに、 少なくともファルコンと藤堂伊織(とうどういおり)は、カオス・キャッスルに同行しています。
ゼスは、ご存じのとおり監獄(かんごく)の中。
エメラは破門されて、こちらの陣営にいる。
そして、最高顧問のマシューはヨーロッパから動いていないので、合流は難しいでしょう」
カラスは迷うことなく、すらすらとこたえる。
それだけ、タキオンの状況を把握しているらしい。
「あの2人が……それだけでも、十分な戦力だね」
ファルコンも伊織も、たった1人で1000人分以上の力を持つ武術の達人だ。
そこにいるだけで、タキオンの一派に与える精神的な影響力も大きいしね……。
「カオス・キャッスルにいる、タキオンの構成員の数はどれくらいだ?」
お父さんが確認する。
「精鋭が、500人ていどです。ただ、一般の構成員でよければ日本中にいることもお忘れなく」
人数あわせがしたいなら、いくらでもそろえられるってこと、ね……。
しかも、それをひきいるのは、あのファルコンと、藤堂伊織?
なんかもう「圧倒的な差」としか言いようがないよ……。
言葉を失いそうになって、思いついた質問を、むりにでも口にしてみた。
「さっきワナだってこと、ある意味そうだってこたえたのは、どうして?」
カラスは、まったく動じずにこたえる。
「これだけの戦力が待ちかまえているところにいくというなら。わかっていたって、わざとワナにかかりにいくようなものでしょう」
ぐぬっ。それもそうか。
ニックからしたら、情報がバレたってかまわない、くるというならくればいい。
そういうつもりだよね。
「でも、居場所がわかっただけでも、すごく前進だよ。……知らせてくれて、ありがとう」
わたしは、カラスにていねいに、頭をさげる。
「それは――……前にも言ったでしょう。私はタキオンが嫌いなんですよ」
カラスはそう言って、帽子のつばに手をやって、少し目深(まぶか)にする。
あれ? もしかして照れてる?
……いや。そんなわけないか。あのカラスだし。
「さて、私の役割はここまでですので、おいとましますよ」
カラスはきびすを返して立ち去ろうとしてから――ピタリと足を止めた。
「……この見返りといってはなんですが、1つお願いしてもいいですか?」
えっ、なんだろう? できることならいいけど、無理難題はこまるよ。
いきなりの要求に、わたしが思わず警戒していると。
カラスは、そのまま圭一郎おじさんのほうにむきなおった。
「サインを、いただけないでしょうか?」
わずかにためらったあと、カラスは言った。
えええ、さ、サイン⁉
「それぐらいは、かまわないけど……」
カラスは用意してきたらしい色紙をふところから出すと、圭一郎おじさんに差しだした。ちゃんとペンもあって、準備がいい。
圭一郎おじさんが、とまどいつつサインしてあげてる。
「それじゃあ、失礼いたします。――みなさまの勝利を、かげながら願っておりますよ」
色紙を両手でうけとったカラスは、どことなくほくほく顔で帰っていく。
な、なんだったの……。
「おもしろい人だな」
お父さんが、大きな口を開けて笑った。
「じゃあ、さっそく、情報の裏をとろうか――ケイ」
「はい、父さん。その上で、アルフォンスさんにも連絡を」
圭一郎おじさんとケイが、動きだす。
「これで、打つ手が生まれた」
ケイが、決意のこもった目をしていた。
もどっていくケイを見送って、わたしはクールダウンのストレッチをはじめる。
――ニックの居場所がわかったいま、タキオンと戦いが、はっきりと目の前に見えてきた。
今度は、絶対に引くことのできない戦いだ。
ファルコンだって伊織だって、今度は手かげんなし、徹底的にたたきつぶしてくるはず。
いまのわたしが、勝てるのかな?
「……っ」
わたしは、小さくふるえつづける手のひらを、ぎゅっと、にぎりしめた。
第4回につづく
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