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NEW ものがたり

【先行ためし読み!】怪盗レッド30 第2回

3 可能性が0じゃないなら



「――まず、この状況についてだ」


 アルフォンスさんが、きりだした。


「タキオンが開発した新型のコンピューターウィルスは、新スカイタワーにあったスーパーコンピューターを使って、一気に、世界中にばらまかれた。このウィルスは強力で、感染したネットワークを、瞬時に機能不全に陥らせる」


「でも師匠。どんなネットワークも、そういったものに対策はしているはずだろう? どうして世界中が、こんなに無抵抗にやられてしまったんだ?」

 恭也が、疑問を口にする。


 それについては、わたしも不思議だったんだよね。

 なんで世界中同時に? そんなことどうやってできたんだろう? って。


「それについては、くわしいものから話したほうがいいだろう。――ケイ、たのめるか」

 そう言って、アルフォンスさんが話をふる。


 ひとつうなずくと、代わってケイが話しだした。

 その息の合った様子は、まるでじつの祖父と孫みたい……ってそれはどうでもいいんだけど。


「それには、いくつか理由がある。1つは、タキオンの開発したウィルスの設計が、従来のウィルスとはちがいすぎ、まったく対策が不可能だったこと。

 それでも、これが一部の国からじょじょに広がっていたなら、ワクチンを開発することもできたかもしれない。

 だがスーパーコンピューターの処理能力を使って世界中に一気に広められてしまったことで、ワクチンを作るためのリソースが奪われた。それが一番大きな理由だ」


「リソー……ス?」


 理想と、お酢……

 じゃないってことくらい、わたしだってわかってるからね!!

 でもさ、ケイは、かみくだいて説明してくれてるんだろうけど、それでも難しいよ!


「つまり、ワクチンを作るだけの、処理能力のことだな」

 ん――……。


「つまり隙をつかれて、一気にやられて、動けなくされちゃった……ってこと?」

 わたしが言うと、みんなが、深くうなずいた。

 よかった、合ってたみたい。


「そうだ。スーパーコンピューターが複数のパソコンをつなげて情報を処理してるのは、見ただろう。それと同じように、コンピューターウイルスを開発するような、膨大な処理が必要になるプロジェクトは、1台のパソコンでは、とてもむりだ。そして、ネットワークが使えないいま、どこの国のスーパーコンピューターも、機能不全なんだ」

 ケイがくやしそうに、くちびるをかんでいる。


「なるほどね……ワクチンを作るためには、解析する処理能力が必要だが、そのためのネットワークはウィルスに感染して使い物にならない。ニックは、ウィルスが最大効果を発揮するように完全な仕掛けを組んでから、ばらまいたというわけだ。……あの日、おれたちがウィルスを止められなかった時点で、世界は負けていたんだな……」

 恭也の顔が、むずかしくなり、そして、かげをおびる。


 そりゃあ、恭也も責任を感じているよね。

 恭也はわたしたちと怪盗としての考え方はちがうけど。

「この世界を愛している」という意味では、同じなんだから。

 守れなかった後悔は強く持っているはずだ。

 それは、わたしとケイも同じ。

 ……思わず、くちびるをかんだとき。


「もう1つ、ぼくから、いいかな」

 えっ?

 顔をあげると、それまでずっとだまっていた圭一郎おじさんが、片手をあげている。

「なんだ?」

 アルフォンスさんが、ほそめた目を、するどくむけている。


「ぼくも、少し調べたんだけどね。このウィルスの、現在の世界への侵食度は、推定80%。ここ数日で感染がはじまったウィルスとしては驚異的な数字だ。のこった20%も外と遮断したネットワークだから、かろうじて生きているというだけだよ。それらはどの国でも、水やわずかな電気などのライフラインの維持に使われてる」


 圭一郎おじさんが出した、具体的な数字に、アルフォンスさんはおどろいたみたい。

「どうやって調べた?」

「ウィルスの性質と、世界中のネットワークの対策を考えたうえでの、計算の結果だよ」

 圭一郎おじさんは、あたりまえのようにこたえる。


「……それをふつうに計算したら、1か月以上かかるものだ」

 ケイが小声で、あきれたように、つぶやいている。

 いやあの……ケイの反応って、どういうこと?

 圭一郎おじさんは「初代怪盗レッド」だし、すごい人だとは思ってたけど、ケイをあきれさせるくらいの能力って……。


「――信じよう。それで? その計算だと、世界にのこされた時間は、どれぐらいになる?」

 アルフォンスさんが、ズバリと、みんなが気になっていることを質問した。

 圭一郎おじさんは、きびしい表情のまま、淡々とつづけた。

「とくに、発電が厳しいね。このウィルスのために、安全に発電できる施設が少ないんだ。電力が安定しないのは、そのせいだよ。でも、それも、もって、あと1週間ってところだろう」


「い、1週間……っ!」


 思ってたよりも、ずっとずっと早いよ!

 わたしは言葉を失う。

 ほかのみんなも、そういう顔をしてる。


「……つまり1週間後には、世界の文明は終わりを迎えるということか。電力はいまや全人類の必須なものだ。電力なしでは、なにもできない――協力しあって持ちこたえるものもいるかもしれないが、逆に、これさいわいと悪事に染まるものもいるだろう……な」

「文明が失われれば、まずそのしわ寄せを食うのは、弱いものたちだ……弱いものたちから、あっさりと命を落としたり、奪われたりしていくだろう。そして、その先も……」

「原始的な生活の中、生きのこったとして。何億人、何十億人が、死ぬことになる……」

 アルフォンスさんが、目をふせてつぶやくように宣言する。


「そ、そんな……っ!」

 具体的な数字が出されて、あらためて規模の大きさに絶望する。


 これは、災厄だ――しかも、タキオンによって……あのニックによってひきおこされたもの。


 世界が終わる、なんて……。

 そんなの、物語の世界だけだと思ってた。

 ゾンビ映画とか、SFマンガの世界の話みたいだよ!

 それが現実になる?

 想像したら、背筋に寒気が走った。

 身ぶるいして、わたしが言葉をなくしていると、恭也がかるく手を上げた。


「ちょっといいかな」

 恭也の声は、いつもどおりに明るい。

 こんなことをきかされたっていうのに、いつもの飄々とした雰囲気のままだ。


「ニックが本気で世界を終わらせようとしている。そのことはよくわかったよ。――それで?」


 恭也が、瞳をきらりと輝かせる。

「どうひっくり返すんだ? 次は、それがききたいね」

 恭也は、きれいにひろげた手のひらを、ひらり、と回転させる。

 まるで、マジックのときみたいに。


「ちょっ、恭也!?」

 わたしは、あきれ半分で、恭也を見つめる。


「おいおい。まさか子猫ちゃんは、おれたちが、あきらめるためにここに集まったと思ってたのかい?」

 そ……っ!

「そんなこと、ないよっ! ……け、けど、あんまり大きなことだから……」


 言葉が尻すぼみになっちゃう。だって。

 どうすれば、世界を救えるのかだって、わからないのに。

 のこり1週間しかないなんて。

 そんなの、いくらケイだって、圭一郎おじさんだって、アルフォンスさんだって無茶じゃないかと思えてくるじゃない……。


「――――その方法は、単純だ。世界に広がったウィルスの、ワクチンを作る。これしかない」


 横から、ケイの、はっきりした強い声がきこえて、わたしはびっくりして見る。

「できるの、ケイ? さっきは、むりだって」

 そう言ったのは、ケイ自身じゃない!

「いまのままなら、だ。けど、ウィルスのマスターデータを解析できれば。――可能性は、ある」


 ケイの声は、いままでにきいたことがないくらい、力強い。

「マスターデータ、ねえ……ニックがそんなものをのこしておくかな? 世界を終わらせたいなら、とっとと消去しているだろう?」

 恭也が肩をすくめた。

 ちょっとっ!

 いったいどっちの味方なの? と思わず恭也をにらみつけそうになる。


「いや? 意外とそうでもないかもしれないぜ」

 それまで、だまってきいていたお父さんが、自信ありげに笑みをうかべて、顔を上げていた。

 ええっ!?


「お父さん、なにか思い当たることがあるのっ?」

「いや? おれにはないぞ」


 はあああぁぁ!?

 いきなり言いきられて、お父さんのバカッ! と、わたしは本気で怒ろうかと思ったけど。

 それより先に、お父さんが言葉をつづけた。


「アルフォンスが、おれたちを集めたんだ。希望がまったくないなんて話をするためじゃないはずだろう……ちがうか?」

 お父さんが、アルフォンスさんにまっすぐに目をむける。

 そっか――!

 自然と、全員の視線が、アルフォンスさんに集まる。

 一番年長のアルフォンスさんは、さすがにつかれを隠せない顔をしていたけれど、眼光は鋭い。


「おまえは、またそうやって人まかせか、変わらないな、レッド……だが、わしにもまだわからんのだ。あの白里響が『可能性を確認してくる』と言った。集合に遅れているのは、そのせいだ」

 あ、そうか。

 この場に、白里響がいないもんね。


「響は、どこにいったの? なにをしてるの?」

「あの高校生探偵、本当にたよりになるのかな?」


 あれ、恭也は、響のことをあんまり信用してないみたいな言い方だ。

 というか、あんまり好きじゃないのかな?

 怪盗と探偵なんだから、なかよしになれるわけないのは、たしかだけど。

 なんてわたしは思ったんだけど、お父さんはあっさりと、

「よっし、なら、いまはそちらは響くんに任せるしかないな。

 どちらにせよ、おれたちはニック・アークライトの居場所を突き止めて、対決する必要がある。だろう?

 ワクチンを作れたとしても、さらに次の手を打たれたら意味はない」

 と話を進めていく。


「!」

 そうだよね。あのニックと、対決するんだ。

 もし、ウィルスへの対抗手段ができても、ニックが自由なままなら、また次になにをしてくるかわからない。

 あいつを止めるしか、方法はないんだ。


「ニックの居場所は? わかってるの?」

 わたしは、アルフォンスさんにきく。

「いや。まだつかめていない。ただ日本国内にはいるはずだ。国外に出れば、わかるからな。いま、ラドロを総動員して、日本中を捜させている」

 オーケー!

 結論はシンプルじゃない!


「じゃ、ニックの居場所がわかり次第、あいつらの動きを止めるのと、コンピューターウイルスのワクチンを作ること! その両方をやらないと、世界は救えない。

 のこり時間が少なくても、可能性が0じゃないなら――やるしかないよね、このメンバーでっ!」


 わたしは、自分の不安をふきとばすつもりで、あえてみんなに宣言するように、言いきった。

 わたしの気持ちが伝わったみたい。

 恭也。

 アルフォンスさん。

 おとうさん。

 圭一郎おじさん。

 そして、ケイ。

 それぞれが、決意をかためた顔で、しっかりとうなずきかえしてくれる。


 ――――あと1週間。

 世界は終わるのか。

 救えるのか。

 それが決まる、最初で最後のカウントダウンが、はじまった。


第3回につづく



書誌情報


作: 秋木 真 絵: しゅー

定価
880円(本体800円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323910

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