2人1組の正義の怪盗「怪盗レッド」をやっている、アスカとケイの物語、とうとう完結!
1%の希望があるなら、つかみとる――それが、怪盗レッドだ!
全世界にむけ、はなたれた「終わり」の仕掛け。世界が壊れるまでの残り時間は、たった7日。平和だったこれまでの日常が、終わる!? そんなこと、わたしたちが、させないっ! 動くのは、たった6人の精鋭。一度以上、「敵」として、全力でぶつかったことのあるもの同士だからこそ……背中をまかせて戦える!
角川つばさ文庫の歴史に輝く「怪盗レッド」が、とうとう最終決戦。どうか、見届けて!(全5回、公開は2026年6月30日(火)まで)
0 プロローグ
――たったひと晩で。
街は、すがたを変えた。
わたしは、かよいなれた商店街を、ゆっくりと歩いていた。
いつもなら、活気にあふれてる通り。
でも、その通り沿いのお店は、どこもシャッターが下ろされていた。
そして、街全体が、どんよりと薄暗いんだ。
なぜかっていうと、コンピューターウィルスに電気会社のネットワークが汚染されたせいで、まともに電気が使えなくなっているから。
どこにも、明かりがついてない。
歩いていく人たちも、どこかうつろな顔をしているか、もしくは、不安そうにびくびくとあたりを見まわしている。
どんな人も、いまの状況に、とまどったり、怯えたりしているのが伝わってくる。
ふと、わたしが足を止めたのは――いつものお店の前。
八百屋さんと、魚屋さん。
そこにも、しっかりとシャッターが下りている。
いつもなら、わたしがこの道を歩いていけば、すばやく出てきて、
「アスカちゃん、今日も元気だねえ」
「よっ、アスカちゃん。今日のおすすめはこれだぜ、どうだいっ!」
なんて声をかけてくれる、おばちゃんやおじちゃんのすがたが、ない。
でも、シャッターを閉ざしているのも、あたりまえなんだ。
食料品や日用品をおいた店がおそわれる事件が、あちこちでおきてる。
その人たちも、物流が止まって、食料が手に入らなくなったら? って、おびえてのことかもしれないけど……。
「強盗だあっ!」
怒鳴り声がきこえたと同時に、商店街のむこうから男が走ってくる。
男は両腕に、お菓子のふくろを抱えている。
どこかのお店から、うばってきたのかな、男は息をきらしながら、こちらにむかってくる。
わたしは少し、道路のわきによける――ふりをして、サッと足を出して、強盗を引っかける。
「ぐへっ!」
強盗はいきおいのまま、思いっきり前のめりにころぶ。
「て……てめえっ!」
怒った強盗が、わたしをにらみあげてくる。
応戦するのは、かんたんだけど……と思いながら、わたしはじっと観察する。
この人はきっと、もともと強盗をしてたような人じゃない。
どうしてもおなかがすいて、しかたがなかったのかも。
もちろん、だからといって盗みがゆるされるわけじゃないけど……。
目の前の人から感じるのは、悪意より「生きたい」という必死さなんだ。
……それが、かなしい。
わたしは、キュッとくちびるを結ぶ。
「おいっ! なに見てんだっ!」
強盗がおきあがって、わたしにつかみかかろうとした――その直前。
「わあっ⁉」
強盗の体が、とつぜん宙に浮きあがったかと思うと、ぐるっと反転してふたたび地面に落ちた!
「――――あのなあ、非常事態だからって、なにをしてもゆるされるわけじゃない。あんただって、それくらい、本当はわかってるだろう?」
強盗を投げ飛ばしたお父さんが、尻もちをついた男を見おろして言う。
「アスカちゃん、大丈夫だったかい?」
圭一郎おじさんは、いつのまにか強盗の抱えていたお菓子のふくろを回収している。
「うん、もちろんだよ。……それより2人とも、こんなところで、どうしたの?」
「アスカちゃんの帰りがおそいって、兄さんが心配してたからね。街の見まわりをしながら捜してたんだよ」
「あっ」
そうか。
わたし「ちょっと街の様子を見てくるね」って言って、家を出てきたんだった。
ちょっとだけのつもりだったけど……街の様子の深刻さに、思った以上に時間がたっていたみたい。
「……っ!」
そのあいだに、さっきの強盗が、走って逃げだしていく。
お父さんもわたしも、追いかけることはせずに、見おくった。
圭一郎おじさんが、追いついてきたお店の人に、お菓子を返してあげている。
「ありがとうございます、助かりました」
お店の人は、ぺこぺこと頭を下げながら、もどっていった。
「……あれから、こんなことばかりだね」
圭一郎おじさんが、悲しげな視線で、街を見まわしている。
お父さんは、けわしい顔をして街の光景を見ていたけど……。
「アスカ。いくらおまえでも、外は危ない。帰るぞ」
ふっと表情がやわらかくなり、わたしの頭に、ぽんと手をおく。
「うん……」
わたしはすなおにうなずいて、変わり果てた商店街から視線をひきはがすと、お父さんたちといっしょに家にむけて歩きだした。