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NEW ものがたり

【先行ためし読み!】怪盗レッド30 第1回

1 壊れた世界を駆けぬけるもの?



 どうして、世界がこうなってしまったのか。

 ケイの説明だと、こういうことみたい。


 ――新スカイタワーで、ニックが本当にやろうとしていたのは、新型のコンピューターウィルスを、全世界にむけて、ばらまくことだったんだって……!

 そのために、スーパーコンピューターの処理能力が必要だった。

 だから、新スカイタワーを選んだだけ。


 最初からニックは、スーパーコンピューターの破壊なんて、考えていなかったんだ。

 それまでの爆破事件はそう思わせるための誘導でしかなく、それに惑わされたわたしたちは、まちがった方向に走りまわったあげく、ウイルスの拡散をゆるしてしまった……。


 ニックたち、ブラック・タキオンの用意していた、コンピューターウィルスは。

 新スカイタワーにあるスーパーコンピューターによって、世界中にばらまかれ、あらゆるデジタル機器を、次々に機能不全に陥らせていったんだ。


 みんなも、わかってると思う。いまの世界でデジタル機器にたよっていないものや場所なんて、ほとんどないってこと。

 それがすべて使えなくなったら、どうなるか。


 飛行機も、電車も使えないし、なにより、物の流れが止まる。


 つまり、スーパーでもコンビニでも、いままで「そこにいけば、かならず手に入っていた新しい食べ物や飲み物、日用品までが、なくなる。

 だから、いろいろな場所で、奪いあいがおきて。

 店は、危ないから、開けるところなんか、ほとんどない。

 人が生きるために必要な「ライフライン」である、水と電気は、かろうじてまだ生きているけど、それも長くはもたない。


 車が動かせても、燃料になるガソリンが新しく手に入らなければ、動かせない。

 ガソリンが尽きて立ち往生した車が、道路にそのまま置き去りにされていた。

 だって、どうしようもないもんね。

 信号機がついたりつかなかったして、まともに機能していないから、、道路だってあぶなくてしかたがない。


 とうぜんだけど、治安も、あっという間に悪化していた。

 さっきのとおり、盗みや強盗事件がおきても、警察に連絡する手段がないんだもんね。

 スマホだけじゃない、公衆電話もつうじないから。


 警察は、一生懸命パトロールしているけど、それだけで、こんなふうになった街の安全が守れるわけがないし、そもそも、いつまでつづけられるのかだって、わからない。

 国からの発表だって、ぜんぜんいい情報がない。


 っていうか、日本以外も他人事じゃないから、外から助けがくることも期待できない。

「原因不明」のままだから、なおるめどもたってないし……。


 だから、街中は、常にピリピリとして、そして暗いんだ。

 このままじゃあ、未来の見えなさに、みんなの心のほうが先に、限界がくる。


 ――ニックが言っていた「世界の終わり」。

 いまはまだ「終わりきってる」ってわけじゃないけど。

 このまま、どんどん自暴自棄になる人がふえていって、あっという間に――


 なんて。

 考えてしまっても、しかたがないよね。

 どうしたらいいのか、だれもわからないんだもん。


 お父さんも、圭一郎おじさんも、家にずっといた。

 きっとそのせいで、昼間だけど迎えにきてくれたんだと思う。


   ◆


 家に帰ると、わたしはいつものように手を洗ってから、自分の部屋に入った。

 ケイは、いつものように、パソコンにむかっている。


 いつもとちがうのは、ケイのパソコンの横に、かなり大きな箱型の機械があることだ。

 バッテリーらしくて、電気がなくても、しばらくはそこから給電しながら、パソコンが使えるらしい。


「ただいま」

 ケイの背中に声をかけて、わたしはベッドにむかう。

 なんか、つかれちゃったから、横になろうと思っていたんだけど――。


「アスカ」

 その前に、ケイがふり返って、わたしをよび止めた。めずらしい。

「どうしたの?」


「アルフォンスから、連絡がきた」

 えええっ!?


「通信手段がないのに、どうやって連絡がとれたの!?」

 だって、インターネットが使えないんだから、ケイのパソコンに連絡が届くことは、ないはずだよね!?


「さっき、ラドロからの使いの者が、直接これを届けにやってきた。ここまで走ってきたそうだ」

 言いながら、ケイが封筒に入った手紙を見せる。


「なんかそれって、江戸時代の飛脚みたい」

 時代劇とかで、見たことがあるよ。

 江戸時代には、人が走って手紙を遠くまで届ける仕組みがあったらしいよね?


「いまの状況では、これが一番たしかな方法だ」

 と、ケイが冷静に言う。


「それで? アルフォンスさんは、なんだって?」

 わたしは、身を乗りだす。

 もちろん、こちら側だって、いまの状況に、なにもせずにいたわけじゃないんだから!


 どこで、なにがおきているのか。

 どうすれば、ニックの狙いを止められるのか。

 アルフォンスさんたちラドロの人や、ケイも、ずっと調べてくれていた。

 でも思った以上に世界がひどいことになって、調べるのもかんたんじゃなかったはずだけど。


「明日、直接顔を合わせて、話しあいをすることになった。――これからのことについて」


「明日……全員で集まれるの?」

 わたしの言葉に、ケイはうなずく。


「多少むりをしても、集まって顔を合わせるしかない。いまは薄氷を踏むような状態で、世界の混乱をギリギリで抑えこんでいる。

 だが、いつそのバランスが崩壊してもおかしくない。

 一度壊れてしまえば、ニック・アークライトの言うとおり――

 ――《これまでの世界》は終わってしまう。

 だから……一刻も早く動く必要がある」


「そうだよね……早くしないとって、今日、じかに街を見て、わたしも思ったよ」


 これ以上、街も、人の心も、荒れてしまったら。

 とりかえしがつかないことがおきる。

 でも、そんなこと、絶対にさせない。

 わたしたちが生きるこの世界を、終わらせたりしない!


「とうぜんだ。かならず止める方法はある」

 ケイの言葉には、いつもよりも力がこもっていた。


 たぶん、ケイはずっと責任を感じているんだ。

 ニックの計画を、事前に暴(あば)けなかったことを。

 スーパーコンピューターの破壊だと、読みちがえてしまったことを。


 そんなことない、ってどんなにわたしたちが伝えても。

 ケイは、自分で自分のことを、ゆるせないんだと思う。


 それは、わたしだってそう。

 すぐそこに――その場所にいたのに――止められなかった。


 だからこそ!

 わたしは顔をあげると、ケイを見つめた。


「うん! 世界の終わりを止める方法を、盗みだす。

 それが今回のわたしたちの――怪盗レッドの『ターゲット』だね!」


第2回につづく



書誌情報


作: 秋木 真 絵: しゅー

定価
880円(本体800円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323910

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