1 壊れた世界を駆けぬけるもの?
どうして、世界がこうなってしまったのか。
ケイの説明だと、こういうことみたい。
――新スカイタワーで、ニックが本当にやろうとしていたのは、新型のコンピューターウィルスを、全世界にむけて、ばらまくことだったんだって……!
そのために、スーパーコンピューターの処理能力が必要だった。
だから、新スカイタワーを選んだだけ。
最初からニックは、スーパーコンピューターの破壊なんて、考えていなかったんだ。
それまでの爆破事件はそう思わせるための誘導でしかなく、それに惑わされたわたしたちは、まちがった方向に走りまわったあげく、ウイルスの拡散をゆるしてしまった……。
ニックたち、ブラック・タキオンの用意していた、コンピューターウィルスは。
新スカイタワーにあるスーパーコンピューターによって、世界中にばらまかれ、あらゆるデジタル機器を、次々に機能不全に陥らせていったんだ。
みんなも、わかってると思う。いまの世界でデジタル機器にたよっていないものや場所なんて、ほとんどないってこと。
それがすべて使えなくなったら、どうなるか。
飛行機も、電車も使えないし、なにより、物の流れが止まる。
つまり、スーパーでもコンビニでも、いままで「そこにいけば、かならず手に入っていた新しい食べ物や飲み物、日用品までが、なくなる。
だから、いろいろな場所で、奪いあいがおきて。
店は、危ないから、開けるところなんか、ほとんどない。
人が生きるために必要な「ライフライン」である、水と電気は、かろうじてまだ生きているけど、それも長くはもたない。
車が動かせても、燃料になるガソリンが新しく手に入らなければ、動かせない。
ガソリンが尽きて立ち往生した車が、道路にそのまま置き去りにされていた。
だって、どうしようもないもんね。
信号機がついたりつかなかったして、まともに機能していないから、、道路だってあぶなくてしかたがない。
とうぜんだけど、治安も、あっという間に悪化していた。
さっきのとおり、盗みや強盗事件がおきても、警察に連絡する手段がないんだもんね。
スマホだけじゃない、公衆電話もつうじないから。
警察は、一生懸命パトロールしているけど、それだけで、こんなふうになった街の安全が守れるわけがないし、そもそも、いつまでつづけられるのかだって、わからない。
国からの発表だって、ぜんぜんいい情報がない。
っていうか、日本以外も他人事じゃないから、外から助けがくることも期待できない。
「原因不明」のままだから、なおるめどもたってないし……。
だから、街中は、常にピリピリとして、そして暗いんだ。
このままじゃあ、未来の見えなさに、みんなの心のほうが先に、限界がくる。
――ニックが言っていた「世界の終わり」。
いまはまだ「終わりきってる」ってわけじゃないけど。
このまま、どんどん自暴自棄になる人がふえていって、あっという間に――
なんて。
考えてしまっても、しかたがないよね。
どうしたらいいのか、だれもわからないんだもん。
お父さんも、圭一郎おじさんも、家にずっといた。
きっとそのせいで、昼間だけど迎えにきてくれたんだと思う。
◆
家に帰ると、わたしはいつものように手を洗ってから、自分の部屋に入った。
ケイは、いつものように、パソコンにむかっている。
いつもとちがうのは、ケイのパソコンの横に、かなり大きな箱型の機械があることだ。
バッテリーらしくて、電気がなくても、しばらくはそこから給電しながら、パソコンが使えるらしい。
「ただいま」
ケイの背中に声をかけて、わたしはベッドにむかう。
なんか、つかれちゃったから、横になろうと思っていたんだけど――。
「アスカ」
その前に、ケイがふり返って、わたしをよび止めた。めずらしい。
「どうしたの?」
「アルフォンスから、連絡がきた」
えええっ!?
「通信手段がないのに、どうやって連絡がとれたの!?」
だって、インターネットが使えないんだから、ケイのパソコンに連絡が届くことは、ないはずだよね!?
「さっき、ラドロからの使いの者が、直接これを届けにやってきた。ここまで走ってきたそうだ」
言いながら、ケイが封筒に入った手紙を見せる。
「なんかそれって、江戸時代の飛脚みたい」
時代劇とかで、見たことがあるよ。
江戸時代には、人が走って手紙を遠くまで届ける仕組みがあったらしいよね?
「いまの状況では、これが一番たしかな方法だ」
と、ケイが冷静に言う。
「それで? アルフォンスさんは、なんだって?」
わたしは、身を乗りだす。
もちろん、こちら側だって、いまの状況に、なにもせずにいたわけじゃないんだから!
どこで、なにがおきているのか。
どうすれば、ニックの狙いを止められるのか。
アルフォンスさんたちラドロの人や、ケイも、ずっと調べてくれていた。
でも思った以上に世界がひどいことになって、調べるのもかんたんじゃなかったはずだけど。
「明日、直接顔を合わせて、話しあいをすることになった。――これからのことについて」
「明日……全員で集まれるの?」
わたしの言葉に、ケイはうなずく。
「多少むりをしても、集まって顔を合わせるしかない。いまは薄氷を踏むような状態で、世界の混乱をギリギリで抑えこんでいる。
だが、いつそのバランスが崩壊してもおかしくない。
一度壊れてしまえば、ニック・アークライトの言うとおり――
――《これまでの世界》は終わってしまう。
だから……一刻も早く動く必要がある」
「そうだよね……早くしないとって、今日、じかに街を見て、わたしも思ったよ」
これ以上、街も、人の心も、荒れてしまったら。
とりかえしがつかないことがおきる。
でも、そんなこと、絶対にさせない。
わたしたちが生きるこの世界を、終わらせたりしない!
「とうぜんだ。かならず止める方法はある」
ケイの言葉には、いつもよりも力がこもっていた。
たぶん、ケイはずっと責任を感じているんだ。
ニックの計画を、事前に暴(あば)けなかったことを。
スーパーコンピューターの破壊だと、読みちがえてしまったことを。
そんなことない、ってどんなにわたしたちが伝えても。
ケイは、自分で自分のことを、ゆるせないんだと思う。
それは、わたしだってそう。
すぐそこに――その場所にいたのに――止められなかった。
だからこそ!
わたしは顔をあげると、ケイを見つめた。
「うん! 世界の終わりを止める方法を、盗みだす。
それが今回のわたしたちの――怪盗レッドの『ターゲット』だね!」
第2回につづく
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