KADOKAWA Group
ものがたり

【先行ためし読み!】怪盗レッド29 第2回

6 先輩からのムチャぶり!

 中休みの教室。

 吐く息こそ白くはならないけど、指先までじんわり冷えが残っている。

 エアコンが、低い音を立てて動いていて、暖かい空気を送ってくれているけれど、窓ぎわや、ろう下側の席は、どうしても冷気がしのび寄ってくるんだ。

 となりの席の子が、肩をすくめるようにしてる。

 昨日の爆発事件のことは、映像で見たときは派手でさわがれたけど、被害も少なかったし、とくに続報もないためか、教室でだれも話題に出している様子はなかった。

 だけど、わたしはそういうわけにはいかない。

 気がつくと、考えてしまうんだ。

 心に不安があっても、ここで、いつもどおりにすごすしかないんだよなあ……。

 そんなことを考えながら食べ終わったお弁当箱をしまっていると、ガラッと教室のドアが開いた。

 とたんに、ざわっと教室内がざわめいた。

 なんだろう?

 顔をあげて、ドアのほうに目をむけて、わたしはすぐに理解する。

「Hello、アスカ!」

 こちらにむかって、片手をあげているのは――――理央先輩っ!

 わたしはあわてて立ちあがって、ドアのほうにむかう。

「どうしたんですか先輩、中等部の教室までくるなんて!」

 理央先輩は、高等部の3年生。

 しかも、スター級の有名人だ。

 中等部の生徒からしたら、そのすがたを見るのだって、おおさわぎだよ。

 理央先輩に気づいたクラスメートから、次々と小さな悲鳴のような声があがる。

 先輩がここまでくるあいだにも、うわさがかけめぐったんだろう。

 教室の外からも、次々と顔をのぞかせる人がいて、あっという間に人だかりになった。

 まるで、アイドルが現れたみたい。

「え、あの清瀬先輩がきてるの?」「ほんもの?」「きゃ、手ふってくれたよ!」

 はあ……。

 ――理央先輩は、中等部時代には「伝説の生徒会長」と言われるほどの、すごい実績を数々のこした人らしい。

 詩織会長も、実咲も、もとはといえば、この理央先輩の影響で生徒会をめざしたそう。

 そんな理央先輩だから、高等部に上がったら、さらにすごいことをやるんだろうな……?

 と期待していた人たちをあっさりかわして、先輩がやったのは、なんと「怪盗部」なんていう変わった部活を立ちあげて、その部長になること!

 怪盗レッドの大ファンで、それが高じて、生徒会長をやっている時間がなくなった――なんて言ってたっけ。

 ひと言で言うと、かなり、ヘンな人だ。

 でも、その人気ぶりはいまだに本物で、うちの教室の外のろう下は、ちょっとしたお祭りみたいになっていた。

「アスカに、おさそいがあってね」

 その人だかりを気にした様子もなく、理央先輩は話しだす。

「なんですか?」

 個人的なおさそいだけなら、いつもみたいに電話だって、メッセージだってよかったのに……。

 わたしは、まわりのおおさわぎは気にしないことにして、話をきく。

「ひと足早いクリスマス会を、大々的にやろうと思ってね。直接伝えたくて、いてもたってもいられなくてさ。ねっ、アスカも参加するだろう?」

 理央先輩は、わるだくみするような笑顔を見せる。

「クリスマス会!? そりゃ楽しそうだし、参加したいですけど……先輩、受験勉強は、しなくていいんですか……?」

 と、わたしはえんりょがちにきいてみる。

 理央先輩は高等部の3年生。

 年が明ければ、大学受験が目前だよね。

 クリスマス会なんかやってて、いいのかな?

「ぼくはね、おもいっきり遊んでからのほうが、頭が冴えるんだ。それに、1日ぐらい息をぬいたって、どうってことないさ!」

「はあ……」

 そんな理屈、受験生の保護者がきいたら、倒れると思う。

 それに、会の準備のことなんかを考えると、とても「1日」じゃすまない気がするけど……?

「ほんとに、だいじょうぶなんですか? 大貴先輩と健人先輩なんか、この前会ったとき、ふらふらでしたけど……」

 理央先輩といっしょに「怪盗部」をやっている、高等部3年の2人の先輩には、理央先輩みたいな余裕はなさそうだった。

 顔つきもげっそりして、ノートを見てぶつぶつ言いながら、外を歩いてたし。

「だからだよ。あの2人は、勉強にのめりこみすぎなんだ。あの調子だと、受験の日がくる前に、倒れそうだよ。アスカもそう思わないか?」

 理央先輩は、肩をすくめる。

 あ、そうか。

 あの2人を、心配しての企画……なのかもしれない……ううん、わからないけど。

 2人のためっていうなら、もっと小さい会でもよかったはずだよね?

 中等部のわたしまで巻きこむくらい大きな企画にするのなら、やっぱり、理央先輩の趣味なんだろうな。

 でも、まあ理由はなんでもいいか!

「そういうことなら、参加します!」

 わたしは、大きくうなずく。

 気がかりがあることには変わりないけど……なにもせずに立ち止まっていたって、鬱々としちゃうだけだもん!

 パーティーで気晴らしくらい、してもいいよね?

「よ――――――しっ!」

 すると、理央先輩は、わたしの両肩にポンッと手をおいた。

「じゃ、アスカには、中等部のとりまとめを、たのむね!」

「へっ?」

 おもわず間のぬけた声をあげてしまった。

「あくまで個人発案の会だ。場所は学校を使わせてもらうつもりだけど、主催を生徒会にやってくれとは、たのめないだろう? だから自分たちでやるんだ」

「そ、それはそうですけど……」

 さっき参加するって言っちゃったから、ここで断りにくい。

 理央先輩、これを狙ってたんだ!

「アスカは顔が広いし、中等部の生徒会長の親しい友だちだ。いろいろ動きやすいだろ?」

「…………理央先輩、もしかしてそれが目的で、わざわざわたしを、さそいにきたんですか?」

 わたしは、じろりと理央先輩を見る。

「……はははっ! そんなわけないじゃないかぁ!」

 先輩、思いっきり、目をそらしてるけど……もう!

「――わかりました。やりますよ」

 せっかくの、理央先輩のたのみだもんね。

 もしかしたら、高3の理央先輩がやる、最後のイベントになるかもしれないんだし。

 雑用くらい、やらせてもらおう。

「助かるよ、アスカ。じゃあ、くわしいことは、またトークアプリで送るから」

 理央先輩はひらひらと手をふって、教室を出ていった。

 遠ざかっていくようすが、ろう下から歓声があがってわかる。

 また、声をかけられるたびに、手をふって応じているんだろうなあ……。

 理央先輩のこんなすがたを見られるのも、あと数ヵ月なんだ。

 そう思うと、不意に胸の奥を、寂しさがじわっとしめつけた。

 もともと、中等部と高等部で、しょっちゅう会えるわけじゃなかったけど、理央先輩がこの学園からいなくなって、かんたんには会えなくなる。

 それって、思った以上に大きいことだよね。

 このチャンスを逃したら、もうこんな機会はないと思う。

 事件のことが、常に頭にあることには変わらないけど――。

 だからこそ、いまは思いっきり楽しもう。

 理央先輩やみんなと笑える時間を。

 絶対に、大切にしたいから。


第3回につづく



書誌情報


作: 秋木 真 絵: しゅー

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323903

紙の本を買う

電子書籍を買う


その他の連載はこちらからチェック!▼



この記事をシェアする

ページトップへ戻る