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ものがたり

【先行ためし読み!】怪盗レッド29 第2回

5 ブラック・タキオンの「布石」?

「ごめんっ、水夏に今日、部活休むって伝えて!」

 放課後になったとたん、わたしは、かばんをつかんで全速力で走りだしていた。

「あっ、アスカ……?」

 だれかが言ったときには、わたしはもう、教室にはいなかったはずだ。

 生徒でにぎわう昇降口を、つむじ風のようにすりぬけて、校舎の外に出る。

 寒い風が、頬を刺すように吹きつける。

 だけど、足を止めることなんて、できなかった。

 胸のざわつきが強すぎて、呼吸は苦しいのに、それさえ気にならない。

 信号を待つ数秒さえもどかしく、青になった瞬間、飛びだすように走った。

 毎日、かよい慣れた道なのに、今日はやけに遠く感じる。

「ただいまっ!」

 いきおいこんで部屋に入ると、ケイがいつものようにパソコンの前に座っていた。

「ケイ! ラドロのビルのこと!」

 わたしは、ケイの背中にたずねる。

「いま調べているところだ。アルフォンスから連絡が入っている。有栖や恭也、それにアルフォンス自身も、無事だ。死者はいない。――けど、ラドロの中の数人が軽傷をおった」

 ケイは背中をむけたまま、淡々と報告してくれる。

「……!」

 わたしはおもわず、安堵のため息をつきそうになって、グッとこらえる。

 有栖ちゃんやアルフォンスさんの顔が、頭にうかんで、すごくホッとした。

 けど、それだけじゃないよ。

 受付で笑顔を見せてくれた女性。

 ろう下ですれちがった、スーツすがたの人たち。清掃員さんたちだっている。

 あのビルは、ラドロのものだけど――直接、泥棒をやってる人たちだけじゃない。

 軽傷ってことは、みんな、無事なんだよね。

「爆発したのは2階と、23階だった。2階は会議室、23階は資料室だ。ちょうど、人のいない時間に爆発したから、命にかかわるけがをした者は、いなかったらしい」

「……事故じゃ、ないね?」

「状況から考えれば、仕掛けられた爆弾だろう。アルフォンスもそう判断している。どうやって仕掛けたかは、わからないが」

「やったのは、ブラック・タキオン?」

 考えられるのは、それしか思いうかばない。

「……ラドロはいま、国内で大規模な裏組織だ。敵対するのがタキオンだけとは言わない。が、アルフォンスはうまく、国内の、そのほかの勢力ともバランスをとっている。それを考えれば、ラドロ本部に、ここまで大きな攻撃をしかける存在は、あのニック以外にはいないだろう」

 そうだよね。

「初代ファンタジスタ」だったアルフォンスさんが、怪盗を引退してラドロを作った真の目的は、タキオンへの対抗に全力を注ぐためだった――っていう話だし。

 日本の中で、タキオン以外に敵を作るつもりなんかないだろうしね。

「ニックの目的は? ラドロへの攻撃なのかな?」

 いきなり真正面から? って思うけど。

 もともと敵対してはいるんだから、いつ攻撃をはじめたって、不思議じゃないよね。

「いや。単純な攻撃だとしたら、あまい。狙いはそこじゃないはずだ」

 えっ!? あんな爆発を――あまい?

 わたしの頭が疑問でいっぱいになったのに気づいたらしく、ケイが、こちらをふりかえる。

「この爆発によって、ラドロのビルには、警察が入る。そのことによって、一時的にだとしても、ラドロは活動が止まる。――それが、やつの最大の狙いだろう」

「活動が止まるって……そっか。ラドロには現役の泥棒集団なんだから……」

 考えてなかったけど、たしかにそうだ。

 爆発があった場所なら、警察がきて捜査するよね。

 もちろんアルフォンスさんが、まずいものが見つかるような、うかつなことはしてないだろうけど、たとえ被害者側だとしても、根城の中を、警察がウロウロしていたら……。

「そういうことだ。しばらくラドロは、組織として身動きできない。たった爆弾2つで、やつらは、ラドロの動きを止めてみせた」

 ケイが、こんなにけわしい表情になるのを見るのは、ひさしぶり。

「これで終わりじゃ……ないよね?」

 ラドロの動きを止めて。その先にあるのは、なに?

「ニックの最終目的はわからない……ラドロを『つぶす』ことじゃないのは、たしかだ。重傷を負うような被害者を出さなかったことからも、わかる。警戒心を高めすぎないためかもしれないが……」

「目的のために、そのほうが都合がよかった?」

 ニックは、無意味なことも、効果がうすいことも、選ばないはず。

 そういうやつだっていうのは、いままでのことからも、わかってる。

 ケイは、しずかにうなずく。

「ひとつ言えるのは――これは終わりじゃない。むしろ、次の一手への布石かもしれない」

 その言葉が、重くのしかかってくるみたい。

 もう、はじまってる。

 でも、はじまったばかり。

 正体のわからない、不気味な、なにかが。

 いやでもその実感が迫ってきて、わたしは、ただ息をのみこんだ。


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