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ものがたり

心がザワザワする、こわさと面白さ!【どこよりも早く読めちゃう!】『呪ワレタ少年』先行ためし読み連載 第3回


肝試しに行った廃病院には、天井に逆さに張り付く不気味な男がいた……! 襲われた由紀奈たちを助けてくれたのは、ひとりの少年で――?
 


          ●

「何なの、あの人??」
 階段を駆け下りながら、由紀奈は前を走る少年に尋ねた。
「あれは
『災悪』っていうんだ」
「災悪?」
 少年は、階段を駆け下りながら、チラリと由紀奈たちのほうを見た。

「君たちの中の誰かが、『呪われた少年』の名前を言っちゃったんだ」

「それって」
 由紀奈は口に出して言ってしまったのが、自分だと気づいた。
 呪われた少年の話は、本当だったのだ。
「私のせいで、こんなことに……」
 由紀奈は動揺する。 
 少年は、そんな由紀奈を見て、なぜか悲しそうな表情を浮かべた。
 そのとき、千夏が小さな声を出した。
「ね、ねえ、何か、聞こえる」
 由紀奈と少年はハッとすると、立ち止まり、耳を澄ました。

 カサ カサ カサ

 何かが動く音だ。
「来た!」
 先ほどの男が、追いかけて来ているのだ。
「早く!」
 少年は、あわてて階段を下りる。
 由紀奈と千夏も一段飛ばしで駆け下りる。

 カサ カサ カサ カサ

 音はさらに大きくなっていく。
 三人は1階に辿り着くが、入り口のドアまではまだ遠い。
「急いで!」
 少年は二人にそう言った。
 しかし、いちばん後ろにいた千夏が「きゃ」と声をあげた。
「どうしたの、千夏ちゃん??」
「あ、足が」
 千夏が足を押さえている。
 どうやら、階段を下りるときに挫いたようだ。
「大丈夫??」
「い、痛い。もう走れないよお」
「くっ、どこかに隠れないと」
 少年は辺りを見回した。
 すると、階段のそばにスペースがあり、ボロボロの棚が倒れるように置かれていた。
「あそこだ!」
 少年は、千夏のそばに歩み寄る。
「僕に捕まって!」
「う、うん」
 千夏は少年の肩を借りる。
 少年は千夏を気遣いながら、棚のそばに向かう。
 由紀奈も後に続き、三人は棚の影に隠れた。

 カサ カサ カサ カサ カサ カサ カサ
 音がだんだん近づいてくる。
「千夏ちゃん……」
「由紀奈ちゃん……」
 由紀奈は千夏と抱き合い、震えながら身を縮めた。

 カサ カサ カサ カサ

 階段のほうから音がする。
 見ると、階段の上の天井に、男が逆さまになって張り付いていた。
 
 
イタベタ~ イタベタ~

 男は血走った目をギョロギョロさせて、由紀奈たちのことを探しているようだ。
 由紀奈はさらに千夏を強く抱き締める。
 千夏も目に涙を浮かべて由紀奈にしがみつく。
「あれ、食べたいって言ってるんだ!」
「食べたい?? って、由紀奈ちゃん、静かにして……!」

 カサ カサ カサ カサ カサ……
 
 男は、由紀奈たちに気づくことなく、角を曲がると、廊下のほうに去って行った。
「よかったぁ。助かった……」
 少年はホッと息を吐く。
「今の内にここから出よう」
 少年はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
 そのとき――、
 
 
カサッ

 音がした。
 少年たちは、同時に音がした方向を見る。
 
 天井の角に、張り付いている男がいた。

「しまった、罠だったんだ!」
 男は通り過ぎたフリをして、少年たちが姿を現わすのを待っていたのだ。
「逃げろ!」
 少年は、千夏を支えると、由紀奈とともにその場から逃げ出した。
 
 
イタベタ~
 
 男は天井を素早く這いながら、三人に迫って来る。
「嫌! 嫌!」
 由紀奈は必死に走る。
 だが、徐々に距離が縮まる。

 イタベタ~

 男は長細い手を伸ばし、由紀奈を捕まえようとした。

「やめろ!」

 瞬間、少年が由紀奈と手の間に立った。
 少年は、男に捕えられる。
 そのまま、持ち上げられ、逆さまになった男の顔が近づく。
 男は口を大きく開くと、牙のような歯で、少年の肩に噛みついた。
「うああああ!」
 少年の悲鳴が響く。
「そんな!」
 由紀奈は、どうすればいいのか分からずパニックになった。
「な、名前を……」
 少年は苦悶の表情を浮かべながらも、男を見てそう呟く。
 男は、噛みついた口を離すと、声を上げた。

 イタベタ~ イタベタ~ イタベタアァァァ~~

 男は少年を食べようと、大きく口を開いた。
 その瞬間、一瞬の隙ができた。
 少年は、その隙を見逃さなかった。

「今だ」

 少年はポケットの中から、銀色のペンを取り出す。
 刹那、ペンの表面に見たこともない奇妙な模様が浮かび上がる。
 少年がペンを走らせると、宙に青白い炎が現われ、円が描かれた。

 アアアァ!!

 男は怒りの声を上げ、少年を離した。
 少年は天井から落下し地面に着地すると、体勢を整え、円の中に見える男を睨んだ。
 少年の赤い目が光る。
 その目に何かが視える。

 それは、男の『名前』だ。

「すべての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は――
 少年は、ペンを走らせ、空中に文字を書いた。


 サ カ サ オ ト コ


 瞬間、逆さ男の動きがピタリと止まった。
 身体を小刻みに震わす。

 ア アア  アアァァァアアァ

 次の瞬間、逆さ男の身体にヒビが入り、光が漏れ出す。
 そのまま、粉々になって消滅した。

「き、消えた……。倒したの……?」
 由紀奈が戸惑いながら言う。
「ぐっ」
一方、少年は噛まれた肩を押さえ、よろけた。
「大丈夫??」
 由紀奈はあわてて少年に駆け寄ろうとした。
 だがそれよりも早く、少年はフラフラしながらも歩き出そうとした。
「あ、あの」
 そんな少年に、由紀奈は戸惑う。
 少年はわずかに、由紀奈たちのほうに顔をむけた。
 その顔は、どこか悲しそうだった。
「友達のところに行ってあげて。彼は無事だから」
「彼?」
 洋介のことだ。
「ううっ」
 少年は、逆さ男に噛まれた肩を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。
「手当てしなきゃ!」
 由紀奈はそう言うが、少年は首を横に振った。
「呪われた少年の名前を言ってしまうと、災悪に襲われる……」
「呪われた少年……」
 由紀奈は、少年をじっと見つめた。
「もしかして、あなたが――」
 少年は由紀奈たちを見た。

「だから、僕に関わっちゃいけないんだ」

「えっ」
 その言葉に、由紀奈たちは戸惑う。
 少年は、悲しそうな表情のまま、耳にイヤホンをつけた。
 傷ついた肩を押さえながら、少年はひとり、その場から去って行った。



第3回へ続く(7月21日公開予定)

【8月5日発売!】大注目のこわくて面白い新シリーズ『呪ワレタ少年』、お楽しみに!


作:佐東 みどり 作:鶴田 法男 絵:なこ

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322401

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