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ものがたり

<1巻無料公開&2巻スペシャル連載>『なりたいアナタにプロデュース。』第5回 あたしが悪い!

「芽衣、すっごくかっこよかったよ!」
 キレッキレのダンスで、芽衣はかがやいてた。
 つけ毛を頭のてっぺんでむすんだロングヘアのポニーテールがまた、かっこかわいい!
 あたしは大コウフンして、ダンスが終わったばかりの芽衣にかけよった。
「ありがとー! ゆずはにしてもらったこのメイクも、チームのみんなからヒョウバンいいよ」
「ほんと? よかったー!」
 ヨウくんのアドバイスどおり、あのあともたくさん練習したんだ。
 だからメイクが成功して、本当によかったよー!

「でもやっぱり、将来ダンサー目指してるだけあるよね!」
 芽衣はダンスが大好きだから、将来はダンサー志望なんだって言ってたんだ。
 そう言うだけあって、芽衣のダンスはすっごくかっこいい!
 あたしが同じように踊ろうとしても、盆踊(ぼんおど)りになっちゃう。
「あっ、そうそう。あたしね、将来の夢が変わったんだ」
「えっ、そうだったの!?」
「うん。ダンサーよりもダンスのふりつけ師になりたいの!」
 ふりつけ師?


 あたしが首をかしげていると、芽衣は瞳をキラキラとかがやかせた。
「ダンスのパフォーマーも楽しいけど、それよりふりつけを考える方がもっともっとおもしろいの!」
 そう言いながら、芽衣はその場でダンスを踊ってみせる。
「昔はね、新しいふりつけを覚えるのに必死だったし、それが楽しかったんだ。けど、こないだダンス部内で創作ダンス踊ったらさ……」
「創作ダンス?」
「自分たちで曲も踊りも考えて、みんなの前で披露するの!」
 芽衣の瞳がピカーッて、きらめいてる。

「今までは誰かに決められたふりつけを踊ってたけど、そこにアレンジをくわえたり。そういうの考えてたら楽しくって!」
 あっ、なんかそれ、ちょっとわかるかも。
 メイクするときも、どういう色をのせようかとか、どういうイメージにするかとか。
 かっこいい系? それともかわいい系?
 クールな感じ? もしくは優しい感じ?
 メイクも、そういう意味では創作だ!
「ときどき思ってたんだよね。この曲の、ここのサビの部分、あたしだったらこう踊るなー、とか。こんな風にアレンジしたらもっとかっこいいんじゃないかなー、とか」

「おお! なんかそれ、かっこいいね!」
 発言がプロっぽい!
「へへっ、でしょー?」
 芽衣はうれしそうに、鼻の下を人さし指でかいた。
「そう思ったときに、気づいたんだよね。ああ、あたしダンサーじゃなくてこっちの仕事がしたいのかもって」
 芽衣を見ていて、ふとあたしも思い出した。
 自分がメイクの仕事に就(つ)きたいって思ったときのことを。
 キッズモデルの仕事に関わったのがきっかけだったけど、あたしはモデルじゃなく、モデルさんにメイクする側の仕事がしたいと思ったんだ。
「あたしは芽衣が将来、プロのふりつけ師になるのを応援してるね!」
 思わずコウフンして、芽衣の手をにぎる。
 すると芽衣はケラケラとくったくなく笑いながら「ありがとう!」と言ってくれた。

「っていうかあたし、ふりつけ師なんてはじめて聞いたよ。あたしが知らないだけで、いろんな仕事があるんだね?」
 よくよく考えてみれば、ダンス踊るときも誰かがふりつけを決めて、それをみんなで踊るんだもんね。
「そうそう。ダンスひとつにしてもさ、いろんな職業が関わってるんだよね」
 でもそういうのってさ、実際に自分が関わってないと気づかないよね?
「前にダンスの大会に参加したときは、ヘアメイクさんに髪のセットとメイクをしてもらったし、和服がテーマだったときは、着物の着つけ師さんやファッションデザイナーさんも来てたよ」
「へぇ! なんかすごいね!」
 そんなにたくさんの人が関わってるんだ!
 表に出てるパフォーマーに目がいきがちだけど、その人たちを支えている人が裏にはいる。
 メイクアップアーティストもそのひとりだもんね。

「それよりゆずは。次はメイクレッスンの時間でしょ? 着がえたらのぞきに行くねー」
 そうだった! 今度はあたしの出番だよ!
 思い出したら、ドキドキしてきたー!
「うん、ありがと! 待ってるね」
 芽衣がダンスの先生をとおして、このコミュニティ〝クローバーの会〟であたしがみなさんにメイクしていいか、って確認してくれたんだ。
 結局メイクしてほしい、もしくは受けてもいいよ、っていう人にだけすることになったんだけど。
 ……人、集まってるかな?

 あたしはペンダントの中からリップを指に取って、くちびるにぬる。
 そしていつものように、キュッと優しくくちびるをかみしめる。
 ──よし!
 そう気合いを入れたあと、部屋に足をふみ入れると──。
「あら、かわいいメイクさんだねぇ」
「ほんと。こんなかわいらしい子がお化粧するの? すごいわね」
 部屋の中にならべられたイスには、おじいさんとおばあさんが数人座ってくれていた。

「こっ、こんにちは!」
 こんなにたくさんの人が集まってくれたの!?
 てっきりひとりかふたりくらいだと思ってただけに、おどろきだ。
 受付にいたお姉さんが入り口のそばにやって来て、あたしにこう言った。
「今日ね、ゆずはちゃんにメイクされてみたいって言ってくれたのは、あそこにいるおばあさんよ。ほかの人は見学に来てくれたみたい」
 なんだぁ。どうりでたくさんの人がいると思った。
 受付のお姉さんに連れられて、メイクさせてもらうおばあさんのところへ、あいさつしに向かった。

「茂美(しげみ)さん。この子が今日メイクしてくれる、ゆずはちゃんよ」
「はじめまして。今日はよろしくお願いします!」
 あたしがペコリと頭を下げると、シゲミさんは優しそうな笑顔を向けてくれた。
「はじめまして。こちらこそよろしくね」
 笑顔と同じ、優しそうな声色で、そう言ってくれた。
 ちょっぴり緊張してたあたしの体から、力がいい感じにぬけてきた。
「じゃあゆずはちゃんとシゲミさん。さっそくはじめましょうか」
「はい、よろしくお願いします!」
 あたしはふたたび頭を下げ、にぎりしめていたメイクボックスを、そばにあるつくえに置いた。

「えっと、どういう感じにメイクしてほしいとかありますか?」
「ふふっ、プロのメイクさんにお任せするわ」
 プロのメイクさん!?
 わー、そんなふうに呼ばれたのははじめてだよ!
「わかりました! がんばります!」
 思わず二の腕を出して、力こぶを作ってみせちゃった。
 いや、力こぶなんて出ないんだけど、やる気を全力でアピールだよ!
 ええっとまず、フルメイクなら化粧下地とファンデーションを……って思ったけど。

「シゲミさん。今日って、少しメイクしてますか?」
「ファンデーションと口紅をつけて来ちゃったわ。他はメイクしないようにしたのだけれど、落とした方がいいかしら?」
 素肌をさらすのは、はずかしくてね……なんて言いながら、シゲミさんは困ったようにまゆ毛をハの字にした。
 あっ、そっか。そうだよね。
 あたしたち子どもはメイクをしない日常がふつうだけど、おとなは違うのかも。
 ママもよく、お買いものに出かけるときや、人に会うときはメイクするもんね。

「大丈夫です。なら、今日は目もとをメインにメイクしていきますね!」
 ファンデーションをつけてるのなら、ベースメイクは飛ばして、まゆ毛と目もと。あとはチークをつけよう!
 特にアイメイクはすっごく練習したし、さっき芽衣にしたときもバッチリだったし。
 よーし、メイクの第2ラウンド開始だ!
 あたしは気合いじゅうぶん! やっるぞー!
 ヨウくんから借りてきたアイテムを、メイクボックスから取り出して……いざ!

 さっそく、シゲミさんのまぶたにアイシャドウをのせる。
 シゲミさんの着ているトップスは、うぐいす豆みたいなきれいなグリーンカラー。
 メイクは服の色に合わせて選ぶと自然な感じになるって、昔読んだ雑誌に書いてあった。
 だからあたしは、緑色のアイシャドウを選んだんだ。
 芽衣にしたときのようにまつ毛のつけ根から色をのせて──って、思ったけど。

 ……な、なんか、うまくぬれない?
 気をとりなおしてもう一度、色をのせようとする……けど。
 皮膚がすごく伸びるというか、ゆるんでるというか。
 ……アイシャドウがシワに入っちゃって、うまくいかないよ~!
 ヨウくんとケイさん、ふたりともあたしにアイシャドウをつけるとき、優しくまゆ毛のあたりの皮膚を、指で引っ張ってた。
 そうすると目のきわまで、アイシャドウがぬりやすくなるんだって。
 だからあたしもそうやってるのに……ぬりやすくなんて、全然ならないー!

 あたしはあわてて、さらにまぶたを指で引っ張ってみる。
 ぎゃー! 今度はめっちゃくちゃはみ出した!
 緑色がシゲミさんのアイホールから飛び出してるよー!
 思わず叫びだしそうになったのを、ぐっとこらえた。
 おっ、落ち着け。落ち着けあたし!
 シゲミさんがあたしのことをプロのメイクさんって言ってくれた。
 だから今だけは、あたしはプロのメイクアップアーティストだ。
 見習いだから、今はまだ練習中だから……なんて気持ちでいちゃダメだ!

 ふーっと息を吐き出して、あたしははみ出した部分を指の腹でぬぐう。
 今日は観客もいるから、このあいだ芽衣にしたときみたいに、途中では終わらせられないし。
 途中パニックになりそうになったけど、あたしはなんとか必死にやって、メイクを終わらせた。
 正直、うまくいったとは言えないんだけど。
「あの……どうで、しょうか?」
 カガミをのぞき込むシゲミさんの表情を見ていられなくて、あたしは胸もとのペンダントのトップをぎゅっとにぎった。
 ドキドキドキ──心臓の音がうるさい。
 さっきはプロのメイクさん、なんて呼ばれ方したけど、もうそんなふうには呼んでくれないかも……。
 だって、芽衣にしたメイクと同じようにしたのに、出来ばえが全然違うから。
 芽衣のメイクはあんなにたくさん練習した。
 ヨウくんにもつきあってもらって、本当に毎日がんばった。
 だから同じ方法でやれば、シゲミさんのメイクもうまくいくはずだったのに……。
 手のひらがジワリと汗ばんできていた、そのとき──。

「さすがは、プロのメイクさんね!」
 そのひと言に、あたしはパッと顔を上げた。
「わたくしの好きな緑色がとってもステキだわ。ゆずはさん、ありがとう」
 シゲミさんはやわらかく、目もとを緩ませてほほ笑んだ。
 その笑顔を見たシュンカン、ホッとした気持ちと、くやしい気持ちが交錯(こうさく)する。
 シゲミさんの表情には、ウソは見えない。
 本当に喜んでくれてるんだって、わかってる。
 ……わかってるけど。
 あたしがナットクできないよ!
「あっ、あのっ!」
 ぎゅっと一度だけくちびるをかみしめたあと、あたしはハキハキとした口調でこう言った。
「もう一度、あたしにメイクをするチャンスを、くれませんか?」

 


プロって呼んでもらえてうれしい。だから、応えられなくてくやしいよ。
シゲミさんのアイメイク――もう一度、リベンジです!

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