「芽衣、すっごくかっこよかったよ!」
キレッキレのダンスで、芽衣はかがやいてた。
つけ毛を頭のてっぺんでむすんだロングヘアのポニーテールがまた、かっこかわいい!
あたしは大コウフンして、ダンスが終わったばかりの芽衣にかけよった。
「ありがとー! ゆずはにしてもらったこのメイクも、チームのみんなからヒョウバンいいよ」
「ほんと? よかったー!」
ヨウくんのアドバイスどおり、あのあともたくさん練習したんだ。
だからメイクが成功して、本当によかったよー!
「でもやっぱり、将来ダンサー目指してるだけあるよね!」
芽衣はダンスが大好きだから、将来はダンサー志望なんだって言ってたんだ。
そう言うだけあって、芽衣のダンスはすっごくかっこいい!
あたしが同じように踊ろうとしても、盆踊(ぼんおど)りになっちゃう。
「あっ、そうそう。あたしね、将来の夢が変わったんだ」
「えっ、そうだったの!?」
「うん。ダンサーよりもダンスのふりつけ師になりたいの!」
ふりつけ師?
あたしが首をかしげていると、芽衣は瞳をキラキラとかがやかせた。
「ダンスのパフォーマーも楽しいけど、それよりふりつけを考える方がもっともっとおもしろいの!」
そう言いながら、芽衣はその場でダンスを踊ってみせる。
「昔はね、新しいふりつけを覚えるのに必死だったし、それが楽しかったんだ。けど、こないだダンス部内で創作ダンス踊ったらさ……」
「創作ダンス?」
「自分たちで曲も踊りも考えて、みんなの前で披露するの!」
芽衣の瞳がピカーッて、きらめいてる。
「今までは誰かに決められたふりつけを踊ってたけど、そこにアレンジをくわえたり。そういうの考えてたら楽しくって!」
あっ、なんかそれ、ちょっとわかるかも。
メイクするときも、どういう色をのせようかとか、どういうイメージにするかとか。
かっこいい系? それともかわいい系?
クールな感じ? もしくは優しい感じ?
メイクも、そういう意味では創作だ!
「ときどき思ってたんだよね。この曲の、ここのサビの部分、あたしだったらこう踊るなー、とか。こんな風にアレンジしたらもっとかっこいいんじゃないかなー、とか」
「おお! なんかそれ、かっこいいね!」
発言がプロっぽい!
「へへっ、でしょー?」
芽衣はうれしそうに、鼻の下を人さし指でかいた。
「そう思ったときに、気づいたんだよね。ああ、あたしダンサーじゃなくてこっちの仕事がしたいのかもって」
芽衣を見ていて、ふとあたしも思い出した。
自分がメイクの仕事に就(つ)きたいって思ったときのことを。
キッズモデルの仕事に関わったのがきっかけだったけど、あたしはモデルじゃなく、モデルさんにメイクする側の仕事がしたいと思ったんだ。
「あたしは芽衣が将来、プロのふりつけ師になるのを応援してるね!」
思わずコウフンして、芽衣の手をにぎる。
すると芽衣はケラケラとくったくなく笑いながら「ありがとう!」と言ってくれた。
「っていうかあたし、ふりつけ師なんてはじめて聞いたよ。あたしが知らないだけで、いろんな仕事があるんだね?」
よくよく考えてみれば、ダンス踊るときも誰かがふりつけを決めて、それをみんなで踊るんだもんね。
「そうそう。ダンスひとつにしてもさ、いろんな職業が関わってるんだよね」
でもそういうのってさ、実際に自分が関わってないと気づかないよね?
「前にダンスの大会に参加したときは、ヘアメイクさんに髪のセットとメイクをしてもらったし、和服がテーマだったときは、着物の着つけ師さんやファッションデザイナーさんも来てたよ」
「へぇ! なんかすごいね!」
そんなにたくさんの人が関わってるんだ!
表に出てるパフォーマーに目がいきがちだけど、その人たちを支えている人が裏にはいる。
メイクアップアーティストもそのひとりだもんね。
「それよりゆずは。次はメイクレッスンの時間でしょ? 着がえたらのぞきに行くねー」
そうだった! 今度はあたしの出番だよ!
思い出したら、ドキドキしてきたー!
「うん、ありがと! 待ってるね」
芽衣がダンスの先生をとおして、このコミュニティ〝クローバーの会〟であたしがみなさんにメイクしていいか、って確認してくれたんだ。
結局メイクしてほしい、もしくは受けてもいいよ、っていう人にだけすることになったんだけど。
……人、集まってるかな?
あたしはペンダントの中からリップを指に取って、くちびるにぬる。
そしていつものように、キュッと優しくくちびるをかみしめる。
──よし!
そう気合いを入れたあと、部屋に足をふみ入れると──。
「あら、かわいいメイクさんだねぇ」
「ほんと。こんなかわいらしい子がお化粧するの? すごいわね」
部屋の中にならべられたイスには、おじいさんとおばあさんが数人座ってくれていた。
「こっ、こんにちは!」
こんなにたくさんの人が集まってくれたの!?
てっきりひとりかふたりくらいだと思ってただけに、おどろきだ。
受付にいたお姉さんが入り口のそばにやって来て、あたしにこう言った。
「今日ね、ゆずはちゃんにメイクされてみたいって言ってくれたのは、あそこにいるおばあさんよ。ほかの人は見学に来てくれたみたい」
なんだぁ。どうりでたくさんの人がいると思った。
受付のお姉さんに連れられて、メイクさせてもらうおばあさんのところへ、あいさつしに向かった。
「茂美(しげみ)さん。この子が今日メイクしてくれる、ゆずはちゃんよ」
「はじめまして。今日はよろしくお願いします!」
あたしがペコリと頭を下げると、シゲミさんは優しそうな笑顔を向けてくれた。
「はじめまして。こちらこそよろしくね」
笑顔と同じ、優しそうな声色で、そう言ってくれた。
ちょっぴり緊張してたあたしの体から、力がいい感じにぬけてきた。
「じゃあゆずはちゃんとシゲミさん。さっそくはじめましょうか」
「はい、よろしくお願いします!」
あたしはふたたび頭を下げ、にぎりしめていたメイクボックスを、そばにあるつくえに置いた。
「えっと、どういう感じにメイクしてほしいとかありますか?」
「ふふっ、プロのメイクさんにお任せするわ」
プロのメイクさん!?
わー、そんなふうに呼ばれたのははじめてだよ!
「わかりました! がんばります!」
思わず二の腕を出して、力こぶを作ってみせちゃった。
いや、力こぶなんて出ないんだけど、やる気を全力でアピールだよ!
ええっとまず、フルメイクなら化粧下地とファンデーションを……って思ったけど。
「シゲミさん。今日って、少しメイクしてますか?」
「ファンデーションと口紅をつけて来ちゃったわ。他はメイクしないようにしたのだけれど、落とした方がいいかしら?」
素肌をさらすのは、はずかしくてね……なんて言いながら、シゲミさんは困ったようにまゆ毛をハの字にした。
あっ、そっか。そうだよね。
あたしたち子どもはメイクをしない日常がふつうだけど、おとなは違うのかも。
ママもよく、お買いものに出かけるときや、人に会うときはメイクするもんね。
「大丈夫です。なら、今日は目もとをメインにメイクしていきますね!」
ファンデーションをつけてるのなら、ベースメイクは飛ばして、まゆ毛と目もと。あとはチークをつけよう!
特にアイメイクはすっごく練習したし、さっき芽衣にしたときもバッチリだったし。
よーし、メイクの第2ラウンド開始だ!
あたしは気合いじゅうぶん! やっるぞー!
ヨウくんから借りてきたアイテムを、メイクボックスから取り出して……いざ!
さっそく、シゲミさんのまぶたにアイシャドウをのせる。
シゲミさんの着ているトップスは、うぐいす豆みたいなきれいなグリーンカラー。
メイクは服の色に合わせて選ぶと自然な感じになるって、昔読んだ雑誌に書いてあった。
だからあたしは、緑色のアイシャドウを選んだんだ。
芽衣にしたときのようにまつ毛のつけ根から色をのせて──って、思ったけど。
……な、なんか、うまくぬれない?
気をとりなおしてもう一度、色をのせようとする……けど。
皮膚がすごく伸びるというか、ゆるんでるというか。
……アイシャドウがシワに入っちゃって、うまくいかないよ~!
ヨウくんとケイさん、ふたりともあたしにアイシャドウをつけるとき、優しくまゆ毛のあたりの皮膚を、指で引っ張ってた。
そうすると目のきわまで、アイシャドウがぬりやすくなるんだって。
だからあたしもそうやってるのに……ぬりやすくなんて、全然ならないー!
あたしはあわてて、さらにまぶたを指で引っ張ってみる。
ぎゃー! 今度はめっちゃくちゃはみ出した!
緑色がシゲミさんのアイホールから飛び出してるよー!
思わず叫びだしそうになったのを、ぐっとこらえた。
おっ、落ち着け。落ち着けあたし!
シゲミさんがあたしのことをプロのメイクさんって言ってくれた。
だから今だけは、あたしはプロのメイクアップアーティストだ。
見習いだから、今はまだ練習中だから……なんて気持ちでいちゃダメだ!
ふーっと息を吐き出して、あたしははみ出した部分を指の腹でぬぐう。
今日は観客もいるから、このあいだ芽衣にしたときみたいに、途中では終わらせられないし。
途中パニックになりそうになったけど、あたしはなんとか必死にやって、メイクを終わらせた。
正直、うまくいったとは言えないんだけど。
「あの……どうで、しょうか?」
カガミをのぞき込むシゲミさんの表情を見ていられなくて、あたしは胸もとのペンダントのトップをぎゅっとにぎった。
ドキドキドキ──心臓の音がうるさい。
さっきはプロのメイクさん、なんて呼ばれ方したけど、もうそんなふうには呼んでくれないかも……。
だって、芽衣にしたメイクと同じようにしたのに、出来ばえが全然違うから。
芽衣のメイクはあんなにたくさん練習した。
ヨウくんにもつきあってもらって、本当に毎日がんばった。
だから同じ方法でやれば、シゲミさんのメイクもうまくいくはずだったのに……。
手のひらがジワリと汗ばんできていた、そのとき──。
「さすがは、プロのメイクさんね!」
そのひと言に、あたしはパッと顔を上げた。
「わたくしの好きな緑色がとってもステキだわ。ゆずはさん、ありがとう」
シゲミさんはやわらかく、目もとを緩ませてほほ笑んだ。
その笑顔を見たシュンカン、ホッとした気持ちと、くやしい気持ちが交錯(こうさく)する。
シゲミさんの表情には、ウソは見えない。
本当に喜んでくれてるんだって、わかってる。
……わかってるけど。
あたしがナットクできないよ!
「あっ、あのっ!」
ぎゅっと一度だけくちびるをかみしめたあと、あたしはハキハキとした口調でこう言った。
「もう一度、あたしにメイクをするチャンスを、くれませんか?」
プロって呼んでもらえてうれしい。だから、応えられなくてくやしいよ。
シゲミさんのアイメイク――もう一度、リベンジです!
この続きは『なりたいアナタにプロデュース。(2)色がわかるとメイクがわかる?』で読めるよ!
シリーズは全3巻好評発売中♪ ときめき&きらめき加速の物語、ぜったい見のがさないで!
最新刊までイッキ読み♪ シリーズ 好評発売中!

挿絵やコラムでさらにドキドキ! 紙書籍でも「なりプロ」をぜひチェックだよ♪
作:浪速 ゆう 絵:相崎 うたう
- 【定価】
- 748円(本体680円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046321480
作:浪速 ゆう 絵:相崎 うたう
- 【定価】
- 770円(本体700円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046321541
作:浪速 ゆう 絵:相崎 うたう
- 【定価】
- 792円(本体720円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046321985