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第10回角川つばさ文庫小説賞《金賞》受賞作☆
大注目の新シリーズをひと足はやく公開中!
『泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』は、2022年11月9日発売予定です!
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あたしの勢いに急ブレーキがかかる。
「……そっか。ざ、残念だな~!」
力が抜けて、あたしの手が日下部(くさかべ)さんの手から自然と離れる。
どうしてそんなにスポーツすることをいやがるの? とは、とても聞けなかった。
※ ※ ※
次の日の下校時間、あたしは校門を出たところでママを待っていた。
ママはスポーツ用品店ではたらきながら、美空(みそら)バドミントンクラブでコーチをしてる。
バドミントンの練習がある日は、ママの仕事終わりと時間が合えばむかえに来てもらって、いっしょに練習場へ行ってるんだ。
そこへ、ひときわ背の高い女の子がやってきた。日下部さんだ!
「日下部さん」
声をかけると、日下部さんがビクッとした。
「大鳥(おおとり)さん……」
ん? なんか怖がられてる? ……もしかして、待ちぶせしてたと思われてるの~?
昨日あんな断られ方をしたばっかりで、すぐにバドミントンに誘うのは、ちょっとね。
「ごめんね、おどろかせちゃって。日下部さんを待ってたわけじゃなくて、たまたま……」
そう言いかけたとき、
「奈央(なお)、お待たせ!」
ママがやってきた。タイミングがいいのか悪いのか!
ママはすぐに日下部さんに気が付くと、
「あれ? あなた、ひょっとして……奈央が言ってた、日下部ことりさん? なるほど、大人のわたしよりも背が高いし、手足もすらっとして長い。すばらしい……」
それを聞いた日下部さんがおびえた表情で防犯ブザーに手をかけたので、
「わーっ! ごめんなさい、怪しいものじゃないから! 奈央の母です! 娘がお世話になっております! こういうものですから!」
ママはあわてて美空バドミントンクラブのパンフレットを日下部さんに見せた。
何をやってるんだか……。いや、でもこれは……チャンスかも?
「ママ、日下部さんをお家まで送っていってあげない?」
※ ※ ※
「バドミントンですか……」
日下部さんのお母さんが、パンフレットを見ながらつぶやく。
事情を話すと、日下部さんのお母さんはびっくりしながらも、リビングにとおしてくれた。
そして今、四人で向き合ってお茶しながら話している。
話をややこしくしちゃったかも、とちょっと不安になってきた。
日下部さんはあたしの勢いに押されてしぶしぶって感じだったし。
「たしかにことりはこの身長ですし、何かスポーツをやったほうがいいとは思っています」
お母さんが自分の娘をちらりと見ると、日下部さんは下を向いてしまった。
そう言うお母さんの身長は、別に大きくない。一六〇センチもなさそう。
さっきから、あたしは棚にかざられている写真に気が付いていた。
お父さんらしき男の人は、とても背が高かった。一九〇センチくらい?
お父さん似なんだろうな、と思って日下部さんを見た。
日下部さんはうつむいたままで、両手のこぶしをぎゅっとにぎりしめていた。
あれ、なんだか様子がちょっと……。
「いかがでしょう、バドミントンをうちのクラブで……」
ママがそう言っても、日下部さんのお母さんはおちついている。
「この場では決められませんよ? この子の意思もありますし、夫にも相談しますので」
「ええ、それはもちろん……そうだと思います」
ママが少しトーンダウンする。むりに誘って、逆効果になってもこまるからね。
「昨日、日下部さんが打ったスマッシュは、本当にすごかったんです」
思わず、口をはさんだ。
「ずっとバドミントンをやってきたあたしでも、反応できないくらい速くて。絶対、トップレベルの選手になれる素質(そしつ)があると思います」
素直な気持ちを口にすると、日下部さんのお母さんはほほ笑んで、
「ことり、お友達もほめてくれてるよ。バドミントンやってみる?」
だけど、話を振られた日下部さんは……下を向いたままで体をふるわせていた。
「…………で」
何か言ったけど、声が小さくてよく聞こえない。
「えっ?」
お母さんに聞き返され、日下部さんが顔を上げた。
泣いてるっ!?
「勝手に話を進めないでっ! スポーツはもういやなの! みんな、勝手に期待してきて!」
「こ、ことり、おちついて」
お母さんの声にも、日下部さんは止まらない。勢いよく立ち上がり、
「野球のときも、バレーのときも! ミスしたら『あんなに背が高いのに』って言われて、がんばったら『背が高くてずるい』って! みんな勝手だよ、勝手、勝手、勝手っ!」
日下部さんは一気にまくしたてると、ずんずんと歩いて部屋を出て行った。
ドアがバタン! と大きな音を立てて閉じられる。
後に残されたあたしたち三人はしばらく何も言えず、気まずい雰囲気が流れた。
<第6回へとつづく>(11月2日公開予定)
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
\小説賞受賞作を応えん/
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つばさ文庫の新シリーズを、ぜひ応えんしてくださいね♪
『泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』11月9日発売!
信じてみてよ、二人だからできること!
あたし奈央! バドミントンが大好きな小学5年生。
二人で一つのチームを組む「ダブルス」の大切な試合、あたしのせいで負けちゃった。
けれど、このままじゃ終われない!
転校先で出会ったのは、トクベツな才能(!?)をもった、ことりちゃん。
最高の新しいパートナーを見つけた!
でも「スポーツはもう絶対にしない」って完全キョヒ!?
それには、あたしと同じように、「らしさ」を押し付けられたことが関係していて?
「好き」のために一歩をふみ出したいキミへ、勇気をくれる応援ストーリーです!!
作:平河 ゆうき 絵:むっしゅ
- 【定価】
- 770円(本体700円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046322067