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第10回角川つばさ文庫小説賞《金賞》受賞作☆
大注目の新シリーズをひと足はやく公開中!
『泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』は、2022年11月9日発売予定です!
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え~っ! 口調はやさしいけど、思ったよりきっぱり断られた!
日下部(くさかべ)さんはさらに続けて、
「バドミントンがどうっていうより、スポーツをすること自体が好きじゃないから……」
「そんな~!」
あたしは思わずさけんで、床へあおむけに倒れこんでしまった。
「日下部さんしかいないって思ったのに~! スポーツやらないの、絶対もったいないよ~!」
勝手なことを言いながら、床の上をゴロゴロ転がる。
「そんなこと言われても、こまる……」
「こら、そこ! 次の試合のじゃま!」
先生の怒る声が聞こえてきた。
「……あきらめない」
立ち上がったあたしはつぶやいた。
「えっ?」
そうだ、一度の失敗であきらめるなんて、あたしじゃない。
「あたしはまだ日下部さんをあきらめないからねっ!」
日下部さんをビシッと指さしてそう言い、自分のチームのところへ戻る。
「大鳥(おおとり)さん、なにやってるの!」
「すいません!」
先生に大声であやまりつつ、あたしは次の作戦を考え始めていた。
※ ※ ※
で、次の日の昼休み。
「日下部さんいますか~?」
あたしは一組の教室へ入った。バドミントン用のラケット二つとシャトルを持って。
見回すと、日下部さんは教室の後ろのほうの席で、友達二人とおしゃべりしているようだった。
セーラー服を着ている日下部さんは、高校生くらいに見える。
ちなみに、あたしも同じセーラー服を着ている。
香川の小学校は制服があるところが多くて、この学校もそう。あたしは初めて制服を着ることになったんだ。
日下部さんたちの席に向かうと、三人ともあたしに気が付いた。
「やあ、どうもどうも。こんにちは。日下部さんのお友達?」
「う、うん」
おとなしそうな二人は、あたしの勢いに押されてるようだった。
そして日下部さんは、
「……またバドミントンの話?」
「ああん、そんなロコツにいやそうな顔をしないで!」
あたしはラケットとシャトルを日下部さんへ見せながら、
「せっかく先生に許可をもらって道具を持ってきたことだし、少しでいいからバドミントンやってみない? クラブに入るかどうかは後回しにしてさ」
「だから、スポーツ自体が好きじゃないって言ったでしょ」
日下部さんが迷惑(めいわく)そうに言う。でも、あたしはまだ引き下がらない。
「わかる、それはわかるよ。でも日下部さん、バドミントンをしたことあるの?」
「……ないかも」
「じゃあほら、とりあえずやってみようよ。なんでも経験だよっ」
「え~……」
日下部さんが考えこむ。
まずは、少しでも興味を持ってもらわないと!
あたしは手に持ったラケットを軽く振りながら、必死にアピールする。
「バドミントン、楽しいよ! きっと好きになるよ、保証(ほしょう)します!」
それから日下部さんの顔を見つめて、
「あたし、日下部さんがシャトルを打つところを見てみたいっ! さささ、体育館へ行こう!」
ほんの少し、日下部さんの表情がやわらかくなった気がした。
「……じゃあ、とりあえず一度だけ」
「やったっ! ありがとう!」
何度もジャンプし、全身でよろこびを表現した。
「ちょっとやるだけだからね! 今日だけだからね!」
ふふふふふ、一度ラケットをにぎらせれば、こっちのものよ……!
あたしと日下部さんはラケットとシャトルを持って体育館へ移動した。
他の子が思い思いに遊んでいる中、日下部さんへラケットをわたす。
「あれ、思ったよりずっと軽い」
「うん、一〇〇グラムもないくらいだよ」
「へえ……野球のバットなんかとはぜんぜんちがうね」
ん? なんで野球が出てくるんだろう。
彼女は何度か軽くラケットを振っている。風を切る音がして、気持ちよさそうだ。
「あれ? 気に入っちゃった?」
「ち、ちがうよ! テキトーに振ってみただけだから!」
「そうか、そうだよね。やっぱりシャトルを使わないとね」
あたしもラケットを手にして、シャトルを取り出した。
日下部さんと距離を取り、向かい合う形になる。
「じゃあ、あたしが打つシャトルの落ちてくる場所をよく見て、打ち返してみよう」
あたしはそう言って、シャトルを打つ体勢に入った。
「うん……」
「ほいっ」
シャトルを下から軽く打った。日下部さんでも反応できるようにしたつもりだ。
日下部さんがラケットを上から思いっきり、ぶん! と振る。
が、かすりもしなかった。
シャトルが床にころん、と転がる。
み、みごとな空振り……。
「……」
「ははははっ、おしい!」
すっごい力強い空振(からぶ)りだったから、つい笑っちゃった。
「……帰る」
「ああ、ごめんごめん! 帰らないで!」
気を悪くした日下部さんが本当に帰らないよう、あわててあやまった。
「日下部さん、今のはシャトルとの距離がつかめなかっただけだよ。大事なのは、落ちてくるシャトルの下に入ることだから。足を動かさなきゃ」
日下部さんは、自分が移動することがぜんぜん頭になかったように見えたんだ。
「もう一回だけやろう、もう一回だけ!」
「うん……」
しぶしぶといった様子で、日下部さんは続けてくれる。
「じゃいくよ。落下点まで動いてね。ほいっ」
再び日下部さんへ向けてシャトルを打ち上げた。
あたふたしている彼女へ「ちょっと右!」と声をかけてみると、指示どおりに動いてくれる。
「そう、そこ!」
あたしの声を合図に「えいっ」と、今度は軽くラケットを振った。
ぱしん、という音とともにシャトルがゆるやかに飛ぶ。
「当たった!」
「そうそう、ナイス!」
そう言いながらシャトルに向けて前進し「じゃ、このままラリーを続けよう!」と再び日下部さんへゆっくりと打ち返した。
その後は、けっこうラリーが続いたんだ。
日下部さんの打つシャトルはあっちこっちへ飛ぶけど、ぜんぶあたしの守備範囲(しゅびはんい)だった。
すぐ追いついて、彼女が打ちやすいところへ打ち返すくらいはヨユーですよ、ヨユー。
……と、思ってたんだけど、ちょっとコントロールをミスして、高く打ち返しすぎちゃった。
これは打つのむずかしいかな? と思った。
でも、日下部さんはそんな予想を超える動きを見せた。
日下部さんは後ろへ下がらず、まるでシャトルに引き寄せられるように高くジャンプする。
ぬいぐるみをキャッチしたとき以上の高さだ。あ、あの高さに届くんだ!?
そして彼女は体をひねり、ラケットを振り抜いた!
「はっ!」
スパン! という大きな音がして、シャトルがとんでもない勢いで床に叩きつけられた、はず。
『はず』というのは、速すぎて目で追えなかったから。
あたしの右側に飛んだはずだけど、一歩も動けなかった。
なに、今の。なに今のなに今のっ!
バレーボールのスパイクみたいなフォームから、ものすごい強打(きょうだ)──スマッシュが……。
打った日下部さん自身、何がなんだかわからない、という表情をしていた。
「す……すっご――――い! すごいよ日下部さん! 今のスマッシュ! なにあれっ!」
あたしはさけばずにいられなかった。
「めちゃくちゃ速かった! 見えなかったもん!」
「う、うん……なんか、打ち返そうと思ったら自然と体が動いて」
「バドミントンのスマッシュは、トップ選手だと時速四〇〇キロ……新幹線以上の速さになることもあるんだけど……。今のは、それに近いものを感じたよ!」
テンションが上がっちゃって、つい日下部さんの手をにぎった。
「日下部さん気持ちよかったでしょ、あんなスマッシュ打てて」
「うん、それはたしかに……」
「背が高いとか左利きとか、そんなの以前に、才能あるよ! ちゃんとバドミントンやろう、あたしとペア組もう! いや、組んでください!」
この子は、最高だ! 最高のパートナーになるよ!
日下部さんは、きっとバドミントンを始めてくれる。まちがいない!
強く手をにぎりしめながら、日下部さんの顔を見上げた。
だけど彼女は……悲しそうな目をしていた。
えっ。なんで、そんな顔を……。
「ごめんね。才能があるなんて言われても、やっぱりわたし、スポーツやりたくない」
声は大きくないけど、はっきりとしたノーの答えだった。
<第5回へとつづく>(10月31日公開予定)
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
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『泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』11月9日発売!
信じてみてよ、二人だからできること!
あたし奈央! バドミントンが大好きな小学5年生。
二人で一つのチームを組む「ダブルス」の大切な試合、あたしのせいで負けちゃった。
けれど、このままじゃ終われない!
転校先で出会ったのは、トクベツな才能(!?)をもった、ことりちゃん。
最高の新しいパートナーを見つけた!
でも「スポーツはもう絶対にしない」って完全キョヒ!?
それには、あたしと同じように、「らしさ」を押し付けられたことが関係していて?
「好き」のために一歩をふみ出したいキミへ、勇気をくれる応援ストーリーです!!
作:平河 ゆうき 絵:むっしゅ
- 【定価】
- 770円(本体700円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046322067