
メタナイトが、海の怪物・キングフロッツォ討伐に挑む! 好評発売中のつばさ文庫『星のカービィ メタナイトと魔石の怪物』は、メタナイトが主人公の外伝第4弾!! 大人気外伝のためし読みを、今すぐチェックしよう☆
◆第2回
敵を倒すには、まず敵の情報を集めることから! マリーノ名物だったはずのマリーノガニがとれなくなったことを知って、さっそく怪物キングフロッツォとの関係を探ることにしたメタナイトたち。いったい、何が起こっているのか……?
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怪物キングフロッツォ
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メタナイトたちは、情報を集めるために、港の管理センターをおとずれた。
ひまそうな係員が、イスに腰かけて新聞を読んでいたが、メタナイトたちを見ると、新聞から顔を上げた。
「観光客かね? うまいレストランの案内なら、このパンフレットに書いてあるよ」
パンフレットを差し出そうとする係員に、メタナイトが言った。
「どの店でも、名物のマリーノガニ料理は出していないようだな。なぜだ?」
すると、係員は、もうしわけなさそうに答えた。
「ああ、そのことか。たくさんの観光客から苦情がきてるんだが、どうしようもなくてね……」
「キングフロッツォという怪物のせいか?」
係員は、うなずいた。
「そうさ。知ってるなら、話が早い。マリーノガニは、どこでもとれるわけじゃなくて、決まった漁場があるんだ。でも、その漁場の近くに、『七本足のキングフロッツォ』っていう、大きなタコの怪物が、なわばりをかまえちまってね」
「七本足……?」
「うん。タコってのは、ふつうは八本足だよな。けど、キングフロッツォには、七本しか足がない。とおい昔に、ピエトロ船長によって、一本切り落とされちまったからさ」
係員は本格的に話をする気になったらしく、新聞をたたんで身を乗り出した。
「ピエトロ船長というのは?」
「有名な、大海賊だよ。ここらの住民なら、みんな彼を尊敬してる。けど……船長は、その戦いで大ケガをし、しかも大切な相棒を死なせちまった。そして、失意のあまり、海賊を引退しちまったんだ……」
係員は、悲しそうに頭を振った。
「以来、あのピエトロ船長を引退に追いやった怪物をやっつけてやろうと、たくさんの戦士たちがキングフロッツォ退治に乗り出した。だけど、だれ一人として、成功してないんだ」
バル艦長が、せせら笑った。
「自称戦士なんて、そんなものだ。こちらのお方は、まったく格がちがうのだぞ。なにしろ、銀河に名だたる最強の騎士メタ……」
「やめたまえ」
メタナイトが、静かにバル艦長を止めた。
係員は言った。
「みんな、そんなふうに自信まんまんで出かけて行くんだよ。だけど、すごすごと帰ってくる。なんでも、キングフロッツォは、やっかいな術を使うらしいんだ」
「やっかいな術?」
「聞いた話だがね、キングフロッツォは、七本の足のうちの一本に、金属の腕輪をはめているんだってさ。大きなむらさき色の宝石がうめこまれた、それはそれは美しい腕輪だそうだ」
バル艦長が言った。
「かんむりをかぶってたり、宝石を身につけてたり、おしゃれなタコなのだな」
「そうだね。でも、その宝石ってのが、やっかいなんだ。話によると、その宝石は、敵が近付くと、あやしい光を放つらしい。その光を見た瞬間、からだに力が入らなくなり、戦う気なんて吹っ飛んでしまうんだって」
メタナイトは、つぶやいた。
「戦意をうばう……? それは、宝石というより、魔石だな」
係員は、うなずいた。
「それだ。自信まんまんで出て行った戦士たちが、みんな、戦う気をなくして、港にもどってきちまう。何度行っても、同じことさ。中には、すっかり自信をなくして、戦士をやめちまったヤツもいるぐらいなんだ」
「魔石による、さいみん術……か?」
メタナイトは、考えこんだ。
バル艦長が、自信ありげに言った。
「メタナイト様ならば、タコのさいみん術などに、かかるはずがありませんわい! なみはずれて強い精神力をお持ちなのですからな!」
係員は、首を振った。
「たとえ、さいみん術に打ち勝ったって、船ごとこっぱみじんにされちまうよ。キングフロッツォは、とにかく巨大で、強いんだ。あのピエトロ船長ですら、勝てなかったくらいなんだから!」
メタナイトは、たずねた。
「その、ピエトロ船長という方に会えるだろうか?」
「え? ピエトロ船長?」
係員は、ふしぎそうにメタナイトを見た。
「そりゃまあ、会えるだろうけど……会ってどうする? 今はもう、海賊をやめて、小さな島でお孫さんといっしょに静かに暮らしてるんだ。ただの、おじいさんだよ」
「だが、彼だけがキングフロッツォに深手を負わせることができたのだろう。すばらしい勇者にちがいない。ぜひ、話をうかがいたいのだ」
「ふぅん。じゃ、地図をやるよ。ここから、船で半日ほどの島だ」
係員は、地図に場所を書き入れて、メタナイトに渡した。
「あんたたちには、『夕映えのハーモニー号』を貸してやろう。この港で、いちばんのスピードが出る帆船(はんせん)さ」
「感謝する」
「ピエトロ船長に会ったら、サインをもらって、記念写真もとって、すぐに帰ってくるんだね。キングフロッツォと戦おうなんて、みょうな気は起こしちゃダメだぜ!」
係員は笑いながら立ち上がり、一行を船のドックへ案内した。
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いっぽう、こちらはカービィたち。
浜辺には、たくさんの屋台が出て、にぎわっていた。
いかにも港町らしい、威勢(いせい)のいい声が飛びかっている。
「さあ、らっしゃい、らっしゃい! ほっぺが落ちちゃうくらいおいしい、貝のツボ焼きだよ!」
「こっちは、ほっぺどころか顔全体が落ちちゃうくらい、超絶おいしいエビの串焼きだ! さあ、食べて食べて!」
「やっぱり新鮮な魚は、生で食べるのがいちばん! ほっぺや顔どころか、からだ全体がバラバラに吹っ飛んじゃうくらいおいしい、とれたての魚のおさしみだよ~!」
コックカワサキは、目をぱちくりさせて言った。
「呼びこみの声がにぎやかすぎて、どの屋台で買うか、迷っちゃうね。どれも、おいしそうだけど……」
デデデ大王は、きっぱりと言った。
「オレ様に、迷いなどない! ぜんぶ食うだけだ!」
カービィも、勇ましく叫んだ。
「ぼくも! おいしい食べ物のためなら、ほっぺも顔もからだも、ぜんぶバラバラになってもだいじょーぶ!」
すると、その声を聞きつけた屋台の店主が、笑顔で話しかけてきた。
「おお、元気がいいね、ピンクのぼっちゃん! さあさあ、うちのエビを食べてごらんよ。絶品の串焼きだよ!」
「わあい、いただきまーす!」
カービィは目をかがやかせて、エビの串焼きを受け取った。
デデデ大王も、負けじと手を伸ばした。
「オレ様にもくれ! 十本、いや二十本だ!」
「え、二十本!? すごいや、だんな、いい食べっぷりだねえ!」
「フフン。オレ様が本気を出したら、こんなものではないわい。百本でも二百本でも……」
いばってそっくり返ったデデデ大王だが、そのとき、コックカワサキがまじめな声でたずねた。
「ちょっと待って。どうして、マリーノガニがないんだ?」
「……え?」
屋台の店主は、きょとんとしてコックカワサキを見た。
コックカワサキは、ガイドブックを突きつけて言った。
「惑星マリーノっていったら、マリーノガニで有名だよね? でも、メイン通りのレストランにも、この浜辺の屋台にも、マリーノガニ料理がまったく見当たらない。ぼく、マリーノガニを食べに、この星に来たのに! どういうことなんだ?」
「ああ、そのガイドブックは、だいぶん情報が古いんだねえ……」
店主は、気の毒そうに答えた。
「オレが子どものころは、あっちでもこっちでも、最高のマリーノガニ料理が食べられたもんさ。でも、今じゃマリーノガニは、まぼろしのカニになっちまったんだよ。七本足のキングフロッツォっていう、怪物のせいでね」
「……キングフロッツォ?」
「うん。その正体は、とてつもなく巨大なタコなんだが……」
「タコ!?」
カービィが、ガバッと身を乗り出して、目をかがやかせた。
「ぼく、大好き! タコ焼き、さいこー! ソースと青のりとマヨネーズをたっぷりかけるのが好き!」
「オレ様もだ! 大の大の大好物だ!」
デデデ大王が、話に割りこんだ。
「デデデ城には、特製タコ焼きマシンがあるのだ! 一度に三百個のタコ焼きを焼けるというスーパー・デラックス・マシンだぞ! レシピは秘伝中の秘伝、ワドルディどもしか知らんのだ!」
「うんうん! ぼくも、デデデ城のタコ焼きパーティで食べたことある! ものすごく、ものすごくおいしくて、ものすごく、ものすごいんだよ!」
「タコと天かすと紅しょうがと、あとナイショのスペシャル・エクセレント材料が入っている! 銀河一のタコ焼きなのだ!」
「え、えーと……」
今にもよだれをたらしそうなカービィとデデデ大王を見て、店主は目を白黒させた。
コックカワサキが、冷静に言った。
「この二人のことは、ほうっておいていいから。その、七本足の……なんだっけ? 巨大なタコって、どういうこと?」
「おっきなタコが、マリーノガニの漁場に居座っちまってるんだよ。おかげで、あのすばらしいマリーノガニが、さっぱりとれなくなっちまったのさ。ずいぶん長いこと、マリーノガニ漁は、とだえちまってるんだ。そのせいで、最近は、観光客もめっきり減っちまった。このままじゃ、町がさびれる一方だよ……」
店主は、さびしそうな表情になった。
デデデ大王が、ふんぞり返って言った。
「タコごときに漁場を占領されて、マリーノガニをあきらめているのか? この星には、腰抜けしかおらんのか!」
「タコごときとは何だよ。あんたたちは、七本足のキングフロッツォの恐ろしさを知らないんだ」
と、そのとき。
ひとりのワドルディが、ワクワクした顔で、たずねた。
「どうして、キングフロッツォは七本足なんですか? タコって、ふつう、八本足ですよね?」
このワドルディは、みんなから「ぼうけんくん」と呼ばれている。ぼうけん物語が大好きで、本に夢中になるあまり、料理やせんたくの当番も忘れて読みふけってしまうことが、しょっちゅうだからだ。
店主は答えた。
「それはね、大海賊ピエトロ船長が、一本切り落としたからさ」
「大海賊……?」
「ああ。伝説の海賊と言われる、ものすごいヒーローだよ」
「ヒーロー……伝説の海賊……うわああ! すごい、かっこいい! 小説みたい!」
ぼうけんワドルディは興奮して、手をバタバタさせた。
けれど、バンダナワドルディが、不安そうに言った。
「海賊って、悪いひとですよね? 船をおそって、おかねをうばったりする……」
「いやいや、ピエトロ船長は、そんなケチな海賊とは、ぜんぜんちがうのさ!」
店主は、力をこめて言った。
「ピエトロ海賊団は、凶悪な海賊どもと戦って、ヤツらが市民たちからうばった財産を取り返してくれていたんだ。もちろん、見返りなんて求めずにな。いわば、義賊(ぎぞく)だよ!」
「義賊……みんなのために、凶悪な海賊どもと戦って……うわあ、わああ! か、かっこいい……!」
ぼうけんワドルディは、ピエトロ船長の話題に、すっかり夢中だ。
店主が言った。
「ああ、そのとおり。ピエトロ船長は、銀河一のかっこいいスーパーヒーローだったのさ。この港町のみんなは、ピエトロ船長が大好きで、応援してたんだ。悪い海賊が乗りこんできて、ピエトロの居場所を吐けってどなり散らしても、みんなで、すっとぼけたもんさ。そのころ、オレはまだ子供だったけど、ピエトロ船長のピンチを何度も救ったんだぜ。オレだけじゃない、屋台のオヤジも、通りすがりのおばちゃんも、みんながこっそり、ピエトロ船長のなかまだったんだ」
「うわあああ……すごい……ぼくも、なかまになりたかったなあ!」
ぼうけんワドルディは、目をかがやかせて、青い海に目を向けた。
しかし、デデデ大王が言った。
「――で、切り落としたタコの足は、どうしたんだ?」
思いもかけないことを聞かれて、店主は、目をぱちくりさせた。
「はぁ? あ、足?」
「きさまが言ったんだぞ。そのピエトロとかいう海賊が、巨大タコの足を切ったと」
「言ったけど……足のゆくえまでは……気にしたことがなかったな……」
「とぼけるな! 大事なことだぞ! 正直に言え!」
「しょ、正直にと言われても……」
たじたじとなっている店主に、カービィがすがりついた。
「そんな大きなタコの足なら、何百個も、何千個もタコ焼きが作れたでしょ!? みんなで食べたの!? いいなあ、いいなあ!」
店主は、逃げごしになって答えた。
「いや、だれも食ってはいないと思うけど……」
「え!? どうして!? それじゃ、タコの足はどうしたの!?」
「し、知らんよ。オレたちはピエトロ船長の話を聞いただけで、実際に見たわけじゃないからね」
「えー!?」
カービィとデデデ大王は、大声を上げた。
デデデ大王は、こぶしを振り回して、どなった。
「まさか、捨ててしまったのか!? そんな貴重なタコの足を!? なんという、おろかなことを……!」
「もったいないよー! 千個分のタコ焼きが作れたのに! ひどいよ、ひどいよ!」
「こうしてはおれん! 行くぞ!」
デデデ大王は、屋台に背を向けた。
屋台の店主が、あきれて言った。
「おいおい。まさか、今から、切り落とされた足を探しに行く気かい? 無駄だよ。ピエトロ船長がキングフロッツォと戦ったのは、もう、ずっと昔のことなんだから……」
デデデ大王は足を止め、ふてぶてしい表情で振り返った。
「フン、まさか! オレ様をだれだと思っている。プププランドの偉大なる支配者、デデデ大王様だぞ! 他人の戦利品をひろいに行くような、みっともないマネはせんわい!」
「え? それじゃ……」
「タコには、まだ七本の足が残っている! 七本とも、オレ様がいただいてやるのだ!」
デデデ大王は腕を組み、不敵に笑った。
カービィも、元気よく飛びはねて叫んだ。
「ぼくも行く! 足だけじゃなく、おっきなタコをまるごと、持って帰ってくるね!」
「コックカワサキ、タコ尽くしパーティの準備をしておけ。タコタコ・フルコースをたのむぞ」
「はいはい。気をつけて、行ってらっしゃい」
コックカワサキは、デデデ大王やカービィの行動には慣れているので、少しもおどろかずに手を振った。
しかし、屋台の店主のほうは、そうはいかない。あきれて、二人を止めようとした。
「むちゃなことを考えるなよ、あんたたち。キングフロッツォをたおすことは、できないよ。なにしろ、キングフロッツォは、あやしい術を使うことができて……」
しかし、デデデ大王は話をとちゅうでさえぎって、せせら笑った。
「フフン、オレ様に、たおせん敵など、いないわい。タコごとき、一撃でぶったおしてやる!」
カービィも、力いっぱい叫んだ。
「タコをたおすのは、ぼくだよ! デデデ大王は、おするばんしてればいいよ!」
「何を、なまいきな! タコのスミを浴びて、まっくろカービィになっても、助けてやらんぞ!」
「ふーんだ! そっちこそ、まっくろ大王になっても知らないからね!」
バンダナワドルディが、デデデ大王を見上げて言った。
「大王様、まずは、船の手配が必要ですね。あっちに、港の管理センターがあります。船を借りられるかどうか、聞いてみましょう」
「おお、そうだな」
一行は、意気ようようと、管理センターに向かった。