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ものがたり

【スペシャルれんさい】『星のカービィ 早撃ち勝負で大決闘!』第1回 荒野のガンマンたち


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 ここは、プププ荒野の小さな町、ワイルド・タウン。

 腕じまんのガンマンたちが集まる、無法者の町だ。

 町を取りしまっているのは、デデデ保安官。自称「荒野最強のすご腕」なのだが、どうしても勝てないライバルがいる。

 それが、ピンクのまんまるガンマン、カービィだった。

 カービィときたら、町いちばんの大食いで、のんき者。趣味はお昼寝とおさんぽというお気楽な性格なのだが、ひとたび銃を抜けば、百発百中。しかも、早撃ちのスピードには、だれもかなわない。

 これまでに、デデデ保安官とカービィは、早撃ち対決、なげなわ対決、大食い対決、早寝対決など、数多くの対決をしているのだが、いつも勝つのはカービィだった。


 さて、屈辱の大敗北をきっしたデデデ保安官は、保安官事務所のイスに寝そべって、ふてくされていた。

 部下のカウボーイ・ワドルディが、保安官の焼けこげたぼうしをつくろいながら言った。

「今日は、おしかったですね、保安官様。ギリギリまで、いい勝負だったのですが……」

「…………」

「次こそ、勝ちましょう! 大食い対決なら、きっと……」

「ふぅぅぅうぉぉぉあぁぁぁぁ」

 デデデ保安官は、不満げなため息をもらして、むっくりと起き上がった。

「つまらん! つまらんぞ!」

「え……あ、あの……」

「オレ様は、つくづく、イヤになった! カービィなんぞ、もう二度と、相手にしたくないわーい!」

 デデデ保安官は、ブンブンと首を振って言った。

「いいか、ワドルディ。保安官の仕事とは、なんだ!?」

 とつぜん聞かれて、カウボーイ・ワドルディはあせって答えた。

「そ、それは、もちろん……町の平和を守ることです!」

「そうだ! カービィなんか、どうでもいいのだ! かっこいい保安官たるもの、悪者をとらえ、町を守るのが任務なのだ!」

「そのとおりです!」

「ところが、どうだ? この町では、オレ様の実力を発揮するチャンスが、まったくないではないか!」

「は、はぁ……」

 カウボーイ・ワドルディは、とまどって、うなずいた。

「この町は、保安官様のおかげで、平和ですからね。なんにも事件が起きないのは、いいことです……」

「ちっとも、良くないわい!」

 デデデ保安官は、ダンダンと足を踏み鳴らして、どなった。

「この町のガンマンどもときたら、周辺の魔物を退治したり、線路をふさいだ大岩をこわしたり、ケガをした動物を助けたり、良いことばかりしておる! けしからん!」

「え……ええ……?」

「ガンマンたるもの、ならず者らしく、もっと悪いことをするべきなのだ! それを逮捕してこそ、オレ様の名声がとどろくというのに!」

「そ、そんな……」

 カウボーイ・ワドルディは、おろおろして言った。

「この町のガンマンたちは、悪いことなんて、しません。みんな、ちょっと気は荒いけど、根はやさしい性格ですから……」

「うぅぅぅ! ものたりんわい! どこかに、とてつもない悪者はおらんのか!」

 デデデ保安官は、不満げにうなると、またイスに寝そべってしまった。

 すると、ふたりの会話を聞いていたワドルディ団が、声を上げた。

「保安官様、この町は平和ですが、町の外には悪者がたくさんいます!」

 ワドルディたちは、ぴょんぴょん飛びはねて、カベにずらりと貼られた指名手配書を示した。

「畑荒らしに、お弁当どろぼう!」

「なんと、食い逃げまで!」

「悪いヤツらです! つかまえに行きましょう!」

 デデデ保安官は、寝そべったまま、ワドルディ団をにらみつけた。

「きさまら、オレ様の話を聞いていなかったのか? オレ様が求めているのは、とてつもない悪者なのだ! 弁当どろぼうだの、食い逃げだの、そんな小物は、オレ様にはふさわしくないわい!」

 カウボーイ・ワドルディが、困り果てて言った。

「最近話題の大物といえば、街道の旅人をおそう強盗、ザンキブルですが……」

 けれど、デデデ保安官は、ますますイヤそうな顔になって言った。

「ザンキブルが出没しているのは、ここからずーっと離れた地方ではないか。遠いわい」

「遠いですけど……でも、みんなを困らせている悪党ですから……」

「うるさい。オレ様は、パパッとかんたんに、日帰りで、一発で片付けられる超大物を逮捕したいのだ!」

 この通り、デデデ保安官は、有名になりたいくせに、努力は大きらいというなまけ者。

 腕はいいのに、いつまでたっても手柄を立てられないのは、そのせいだった。

 かんたんに片付けられる超大物なんて、いるはずない。カウボーイ・ワドルディが、小さなため息をついたときだった。

 ひとりのワドルディが駆けこんできた。

「ニュース、ニュースです! 今、モールス信号で、大ニュースが入ってきました!」

「……ああ? 大ニュースだと?」

 デデデ保安官は、むっくり起き上がった。

 ワドルディは、ザンキブルの指名手配書に大きなバツをつけて、叫んだ。

「プププ街道の旅人を何人もおそっていた強盗、あのザンキブルが、ついに逮捕されたそうです!」

「な……なんだと!?」

 デデデ保安官は、一瞬、言葉を失った。

 ワドルディ団から、わあっと大声が上がった。

「ついに、逮捕されたの!? ものすごく強くて、なかなかつかまらなかったのに!」

「いったい、だれが!?」

「さすらいのガンマン、メタナイトだよ」

 その知らせに、ワドルディたちは、ますます大騒ぎ。

「ええ!? また、メタナイト!?」

「すごいよね、賞金首の悪者を、何人も逮捕してるんだよ!」

 デデデ保安官は、苦虫をかみつぶしたような顔で、ザンキブルの手配書をにらみつけている。

 ワドルディ団は、保安官の表情に気づかず、興奮してしゃべり続けた。

「ねえねえ、ウワサによると、メタナイトって、もともとはどこかの町の保安官だったんでしょ? なのに、保安官をやめて、さすらいのガンマンになったんだってね」

「賞金首を何人もつかまえてるのに、一度も、賞金を受け取ろうとしないんだって。ふしぎだよね。賞金が目当てじゃないなら、どうして保安官をやめたんだろう?」

「聞いた話だけど……」

 と、ひとりのワドルディが声をひそめた。

「メタナイトは、ある大物を追ってるらしいよ。そいつをつかまえる旅に出るために、保安官をやめたんだって」

「え? 大物って? ザンキブルのこと?」

「ちがう、ちがう! もっと、もっと、すごい大物!」

 ワドルディは、数ある指名手配書の中で、特別に大きな手配書を示した。

「こいつ! 大どろぼうドロッチェだよ」

「ええ!? うわあ!」

 ワドルディたちはびっくりして、大声を上げた。

「大物中の大物だー! 賞金額が、他の悪党とはケタちがいだよね!」

 ひとりのワドルディが、メガネをキラッと光らせて言った。

「それだけじゃない。ドロッチェは、他のどろぼうたちとはちがう、義賊なんだ」

 このワドルディは、みんなの中でいちばんの読書家で、なんでもよく知っている。そのため、ワドルディ団の仲間たちからは「ものしりくん」と呼ばれている。

 ワドルディたちは、きょとんとして、たずねた。

「ものしりくん。『ぎぞく』って、なに?」

「義賊とは、弱きを助け、強きをくじく、正義感あふれるどろぼうのことだよ。悪い金持ちからぬすんだお金を、困っているひとたちに配ったりするんだ」

「えー!? それじゃ、まるで、ヒーローだね!」

 ものしりワドルディは、頭を振った。

「あまり、ほめるわけにはいかないよ。義賊とは言っても、どろぼうにはちがいないんだからね。ドロッチェだって、自分のためにぬすむことが、ほとんどだ。特に、美しい美術品をたくさん集めてるらしい。その合間に、ちょっとだけ、いいこともしてるってことだよ」

「そっかぁ……」

 ワドルディたちは、ワクワクした顔で言った。

「でも、困ってるひとを助けるなんて、かっこいいよね。ぼく、ちょっと、ファンになっちゃいそう」

「ぼくも! ぼくも!」

「だけど……それなら、どうしてメタナイトは、ドロッチェを追いかけてるんだろう?」

 ワドルディたちは、顔を見合わせた。

「ドロッチェは、ぎぞくなのにね」

「何か、深い事情があるんだよ、きっと。二人にしかわからない、ひみつの事情が!」

「メタナイトは、ドロッチェを逮捕できるかな?」

「もちろん! メタナイトは最強の賞金稼ぎだもん」

「だけど、ドロッチェは変装の名人だってウワサだよ。だれも、見破れないんだって」

「メタナイトなら、見破るに決まってるよ! だって、メタナイトこそ、プププ荒野最強のガンマンだもん」

「ドロッチェは、世界最強のどろぼうだよ!」

「どうなるのかな、この最強対決……」

 盛り上がっていたワドルディたちは、ふっと、だまりこんだ。

 背後にせまる怒りの波動に、ようやく気づいたのだ。

 ワドルディたちは、おそるおそる、振り返った。

 そこに立っていたのは、頭からゆげを立てるほど怒りに燃えた、デデデ保安官。

「――きさまら、なんと言った? もう一度、言ってみろ」

 ワドルディたちはふるえ上がり、声も出せない。

「なんと言ったのかと聞いているのだ。ああ?」

 デデデ保安官は、のしかかるように、ワドルディたちを見下ろした。

 ぶるぶるふるえているワドルディたちを、デデデ保安官は、カミナリのような声でどなりつけた。

「メタナイトやら、ドロッチェやらが、最強だと!? きさまら、このオレ様を差しおいて、そいつらが最強だとぬかしたな……!」

 カウボーイ・ワドルディが、あわてて言った。

「ほ、保安官様、ちがうんです。デデデ保安官様が最強だってことは、当たり前すぎて、みんな言わなかっただけで……」

「うるさーい! クビだ、おまえら全員、クビー!」

 デデデ保安官はブチ切れて、足を踏み鳴らした。

「出て行け! おまえらなんか、もう、部下でもなんでもないわい! メタナイトだかドロッチェだか知らんが、そやつらの部下になってしまえー!」

 もともとふきげんだったデデデ保安官に、取り返しのつかない一撃を与えてしまったようだ。

 ワドルディ団は、言いわけをすることもできず、あわてて逃げ出すしかなかった。

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

 ワドルディ団は、しょんぼりして、あてもなく町をさまよった。

 最初にザンキブル逮捕のニュースを伝えたワドルディが、涙を浮かべて言った。

「ごめん……ごめんね。ぼくが、よけいなニュースを伝えちゃったから……」

「君のせいじゃないよ。ぼくだって、ドロッチェのこと、ヒーローだなんて言っちゃった……」

「ぼくだって、メタナイトのこと、最強だなんて言っちゃった……保安官様は別格だから、保安官様以外で最強って言いたかったのに……」

「もう、ダメだ。ぼくら、クビだって」

 ワドルディ団は、そろって、泣き出した。

 リーダーのカウボーイ・ワドルディが、みんなをはげました。

「泣いてる場合じゃないよ。なんとかして、保安官様にゆるしていただけるよう、がんばろう!」

「カウボーイせんぱい……」

「でも、どうすれば……」

 ワドルディたちの涙は、止まらない。

 カウボーイ・ワドルディは、考えこんで、言った。

「うーん……あ、そうだ! 保安官様に、おいしいおやつを持って行こうよ!」

「おいしい、おやつ……?」

 カウボーイ・ワドルディは、自分のひらめきにうれしくなって、笑顔でうなずいた。

「うん! コックカワサキのお店には、おいしいものがたくさんあるからね。今日の限定スペシャルランチは、カービィに食べられちゃったけど、おやつなら、たくさんある! 最高においしいおやつを食べれば、きっとごきげんを直して、ぼくらをゆるしてくださるよ!」

 ワドルディ団のみんなも、パーッと顔をかがやかせた。

「いい考えです!」

「さすが、カウボーイせんぱい!」

「さっそく、コックカワサキのお店に行きましょう!」

 ワドルディ団は、さっきまでとは打って変わって軽やかな足取りで、町の中心にある酒場に向かった。

スペシャルランチは、デデデ保安官との早撃ち勝負に勝ったカービィの手に! ワイルド・タウンは、今日もとっても平和。……でも、びっくりするような大事件が起きてしまう!?

第2回へつづく▶


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