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ここは、プププ荒野の小さな町、ワイルド・タウン。
腕じまんのガンマンたちが集まる、無法者の町だ。
町を取りしまっているのは、デデデ保安官。自称「荒野最強のすご腕」なのだが、どうしても勝てないライバルがいる。
それが、ピンクのまんまるガンマン、カービィだった。
カービィときたら、町いちばんの大食いで、のんき者。趣味はお昼寝とおさんぽというお気楽な性格なのだが、ひとたび銃を抜けば、百発百中。しかも、早撃ちのスピードには、だれもかなわない。
これまでに、デデデ保安官とカービィは、早撃ち対決、なげなわ対決、大食い対決、早寝対決など、数多くの対決をしているのだが、いつも勝つのはカービィだった。
さて、屈辱の大敗北をきっしたデデデ保安官は、保安官事務所のイスに寝そべって、ふてくされていた。
部下のカウボーイ・ワドルディが、保安官の焼けこげたぼうしをつくろいながら言った。
「今日は、おしかったですね、保安官様。ギリギリまで、いい勝負だったのですが……」
「…………」
「次こそ、勝ちましょう! 大食い対決なら、きっと……」
「ふぅぅぅうぉぉぉあぁぁぁぁ」
デデデ保安官は、不満げなため息をもらして、むっくりと起き上がった。
「つまらん! つまらんぞ!」
「え……あ、あの……」
「オレ様は、つくづく、イヤになった! カービィなんぞ、もう二度と、相手にしたくないわーい!」
デデデ保安官は、ブンブンと首を振って言った。
「いいか、ワドルディ。保安官の仕事とは、なんだ!?」
とつぜん聞かれて、カウボーイ・ワドルディはあせって答えた。
「そ、それは、もちろん……町の平和を守ることです!」
「そうだ! カービィなんか、どうでもいいのだ! かっこいい保安官たるもの、悪者をとらえ、町を守るのが任務なのだ!」
「そのとおりです!」
「ところが、どうだ? この町では、オレ様の実力を発揮するチャンスが、まったくないではないか!」
「は、はぁ……」
カウボーイ・ワドルディは、とまどって、うなずいた。
「この町は、保安官様のおかげで、平和ですからね。なんにも事件が起きないのは、いいことです……」
「ちっとも、良くないわい!」
デデデ保安官は、ダンダンと足を踏み鳴らして、どなった。
「この町のガンマンどもときたら、周辺の魔物を退治したり、線路をふさいだ大岩をこわしたり、ケガをした動物を助けたり、良いことばかりしておる! けしからん!」
「え……ええ……?」
「ガンマンたるもの、ならず者らしく、もっと悪いことをするべきなのだ! それを逮捕してこそ、オレ様の名声がとどろくというのに!」
「そ、そんな……」
カウボーイ・ワドルディは、おろおろして言った。
「この町のガンマンたちは、悪いことなんて、しません。みんな、ちょっと気は荒いけど、根はやさしい性格ですから……」
「うぅぅぅ! ものたりんわい! どこかに、とてつもない悪者はおらんのか!」
デデデ保安官は、不満げにうなると、またイスに寝そべってしまった。
すると、ふたりの会話を聞いていたワドルディ団が、声を上げた。
「保安官様、この町は平和ですが、町の外には悪者がたくさんいます!」
ワドルディたちは、ぴょんぴょん飛びはねて、カベにずらりと貼られた指名手配書を示した。
「畑荒らしに、お弁当どろぼう!」
「なんと、食い逃げまで!」
「悪いヤツらです! つかまえに行きましょう!」
デデデ保安官は、寝そべったまま、ワドルディ団をにらみつけた。
「きさまら、オレ様の話を聞いていなかったのか? オレ様が求めているのは、とてつもない悪者なのだ! 弁当どろぼうだの、食い逃げだの、そんな小物は、オレ様にはふさわしくないわい!」
カウボーイ・ワドルディが、困り果てて言った。
「最近話題の大物といえば、街道の旅人をおそう強盗、ザンキブルですが……」
けれど、デデデ保安官は、ますますイヤそうな顔になって言った。
「ザンキブルが出没しているのは、ここからずーっと離れた地方ではないか。遠いわい」
「遠いですけど……でも、みんなを困らせている悪党ですから……」
「うるさい。オレ様は、パパッとかんたんに、日帰りで、一発で片付けられる超大物を逮捕したいのだ!」
この通り、デデデ保安官は、有名になりたいくせに、努力は大きらいというなまけ者。
腕はいいのに、いつまでたっても手柄を立てられないのは、そのせいだった。
かんたんに片付けられる超大物なんて、いるはずない。カウボーイ・ワドルディが、小さなため息をついたときだった。
ひとりのワドルディが駆けこんできた。
「ニュース、ニュースです! 今、モールス信号で、大ニュースが入ってきました!」
「……ああ? 大ニュースだと?」
デデデ保安官は、むっくり起き上がった。
ワドルディは、ザンキブルの指名手配書に大きなバツをつけて、叫んだ。
「プププ街道の旅人を何人もおそっていた強盗、あのザンキブルが、ついに逮捕されたそうです!」
「な……なんだと!?」
デデデ保安官は、一瞬、言葉を失った。
ワドルディ団から、わあっと大声が上がった。
「ついに、逮捕されたの!? ものすごく強くて、なかなかつかまらなかったのに!」
「いったい、だれが!?」
「さすらいのガンマン、メタナイトだよ」
その知らせに、ワドルディたちは、ますます大騒ぎ。
「ええ!? また、メタナイト!?」
「すごいよね、賞金首の悪者を、何人も逮捕してるんだよ!」
デデデ保安官は、苦虫をかみつぶしたような顔で、ザンキブルの手配書をにらみつけている。
ワドルディ団は、保安官の表情に気づかず、興奮してしゃべり続けた。
「ねえねえ、ウワサによると、メタナイトって、もともとはどこかの町の保安官だったんでしょ? なのに、保安官をやめて、さすらいのガンマンになったんだってね」
「賞金首を何人もつかまえてるのに、一度も、賞金を受け取ろうとしないんだって。ふしぎだよね。賞金が目当てじゃないなら、どうして保安官をやめたんだろう?」
「聞いた話だけど……」
と、ひとりのワドルディが声をひそめた。
「メタナイトは、ある大物を追ってるらしいよ。そいつをつかまえる旅に出るために、保安官をやめたんだって」
「え? 大物って? ザンキブルのこと?」
「ちがう、ちがう! もっと、もっと、すごい大物!」
ワドルディは、数ある指名手配書の中で、特別に大きな手配書を示した。
「こいつ! 大どろぼうドロッチェだよ」
「ええ!? うわあ!」
ワドルディたちはびっくりして、大声を上げた。
「大物中の大物だー! 賞金額が、他の悪党とはケタちがいだよね!」
ひとりのワドルディが、メガネをキラッと光らせて言った。
「それだけじゃない。ドロッチェは、他のどろぼうたちとはちがう、義賊なんだ」
このワドルディは、みんなの中でいちばんの読書家で、なんでもよく知っている。そのため、ワドルディ団の仲間たちからは「ものしりくん」と呼ばれている。
ワドルディたちは、きょとんとして、たずねた。
「ものしりくん。『ぎぞく』って、なに?」
「義賊とは、弱きを助け、強きをくじく、正義感あふれるどろぼうのことだよ。悪い金持ちからぬすんだお金を、困っているひとたちに配ったりするんだ」
「えー!? それじゃ、まるで、ヒーローだね!」
ものしりワドルディは、頭を振った。
「あまり、ほめるわけにはいかないよ。義賊とは言っても、どろぼうにはちがいないんだからね。ドロッチェだって、自分のためにぬすむことが、ほとんどだ。特に、美しい美術品をたくさん集めてるらしい。その合間に、ちょっとだけ、いいこともしてるってことだよ」
「そっかぁ……」
ワドルディたちは、ワクワクした顔で言った。
「でも、困ってるひとを助けるなんて、かっこいいよね。ぼく、ちょっと、ファンになっちゃいそう」
「ぼくも! ぼくも!」
「だけど……それなら、どうしてメタナイトは、ドロッチェを追いかけてるんだろう?」
ワドルディたちは、顔を見合わせた。
「ドロッチェは、ぎぞくなのにね」
「何か、深い事情があるんだよ、きっと。二人にしかわからない、ひみつの事情が!」
「メタナイトは、ドロッチェを逮捕できるかな?」
「もちろん! メタナイトは最強の賞金稼ぎだもん」
「だけど、ドロッチェは変装の名人だってウワサだよ。だれも、見破れないんだって」
「メタナイトなら、見破るに決まってるよ! だって、メタナイトこそ、プププ荒野最強のガンマンだもん」
「ドロッチェは、世界最強のどろぼうだよ!」
「どうなるのかな、この最強対決……」
盛り上がっていたワドルディたちは、ふっと、だまりこんだ。
背後にせまる怒りの波動に、ようやく気づいたのだ。
ワドルディたちは、おそるおそる、振り返った。
そこに立っていたのは、頭からゆげを立てるほど怒りに燃えた、デデデ保安官。
「――きさまら、なんと言った? もう一度、言ってみろ」
ワドルディたちはふるえ上がり、声も出せない。
「なんと言ったのかと聞いているのだ。ああ?」
デデデ保安官は、のしかかるように、ワドルディたちを見下ろした。
ぶるぶるふるえているワドルディたちを、デデデ保安官は、カミナリのような声でどなりつけた。
「メタナイトやら、ドロッチェやらが、最強だと!? きさまら、このオレ様を差しおいて、そいつらが最強だとぬかしたな……!」
カウボーイ・ワドルディが、あわてて言った。
「ほ、保安官様、ちがうんです。デデデ保安官様が最強だってことは、当たり前すぎて、みんな言わなかっただけで……」
「うるさーい! クビだ、おまえら全員、クビー!」
デデデ保安官はブチ切れて、足を踏み鳴らした。
「出て行け! おまえらなんか、もう、部下でもなんでもないわい! メタナイトだかドロッチェだか知らんが、そやつらの部下になってしまえー!」
もともとふきげんだったデデデ保安官に、取り返しのつかない一撃を与えてしまったようだ。
ワドルディ団は、言いわけをすることもできず、あわてて逃げ出すしかなかった。
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ワドルディ団は、しょんぼりして、あてもなく町をさまよった。
最初にザンキブル逮捕のニュースを伝えたワドルディが、涙を浮かべて言った。
「ごめん……ごめんね。ぼくが、よけいなニュースを伝えちゃったから……」
「君のせいじゃないよ。ぼくだって、ドロッチェのこと、ヒーローだなんて言っちゃった……」
「ぼくだって、メタナイトのこと、最強だなんて言っちゃった……保安官様は別格だから、保安官様以外で最強って言いたかったのに……」
「もう、ダメだ。ぼくら、クビだって」
ワドルディ団は、そろって、泣き出した。
リーダーのカウボーイ・ワドルディが、みんなをはげました。
「泣いてる場合じゃないよ。なんとかして、保安官様にゆるしていただけるよう、がんばろう!」
「カウボーイせんぱい……」
「でも、どうすれば……」
ワドルディたちの涙は、止まらない。
カウボーイ・ワドルディは、考えこんで、言った。
「うーん……あ、そうだ! 保安官様に、おいしいおやつを持って行こうよ!」
「おいしい、おやつ……?」
カウボーイ・ワドルディは、自分のひらめきにうれしくなって、笑顔でうなずいた。
「うん! コックカワサキのお店には、おいしいものがたくさんあるからね。今日の限定スペシャルランチは、カービィに食べられちゃったけど、おやつなら、たくさんある! 最高においしいおやつを食べれば、きっとごきげんを直して、ぼくらをゆるしてくださるよ!」
ワドルディ団のみんなも、パーッと顔をかがやかせた。
「いい考えです!」
「さすが、カウボーイせんぱい!」
「さっそく、コックカワサキのお店に行きましょう!」
ワドルディ団は、さっきまでとは打って変わって軽やかな足取りで、町の中心にある酒場に向かった。
スペシャルランチは、デデデ保安官との早撃ち勝負に勝ったカービィの手に! ワイルド・タウンは、今日もとっても平和。……でも、びっくりするような大事件が起きてしまう!?
第2回へつづく▶
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