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◆第8回
さらわれてしまったパフェスキー夫人を追って、北の森のどうくつの中を進んでいくカービィたち。
どうくつのいちばん奥で、ついに、事件の真相が明かされる!!?
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
どうくつで大パニック!?
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
パフェスキー夫人は、どうくつのいちばん奥にいた。
両手両足をロープでしばられ、しかもその先を太いくいにつながれている。これでは、どうあがいても逃げ出せない。
それでも、パフェスキー夫人は元気そうだった。
「このロープをほどきなさい! わたくしを自由にしなさい! わたくしにさからったら、ひどい目にあうわよー!」
はね回ってどなりちらしていたが、近づいてきた一行を見るとおとなしくなった。
まんまるい顔が、パッとかがやいた。
「まあ、メタナイト様! わたくしを助けに来てくれましたのね! さすが、メタナイト様! あなたなら、きっと助けてくれると信じていましたわ!」
パフェスキー夫人の目には、メタナイトしか入ってないようだった。
夫人は、急にぐったりと力を失い、なみだ声でうったえた。
「わたくし、とってもこわい目にあいましたの……ふるえが止まりませんわ。早くこのロープをほどいてくださいな……」
「……今まで、元気だったくせにー」
カービィが、ボソッとつぶやいた。
パフェスキー夫人は、やっと、メタナイト以外のみんなに気づいた。
今までなみだぐんでいた目が、急につり上がった。
「まっ! 何よ、あんたたち! 誘拐犯(ゆうかいはん)の仲間? まさか、メタナイト……あ、あんたも悪人どもの一味(いちみ)だったの!? そうなのね!? わたくしをゆだんさせて、さらうなんて……ゆるさないわっ! あんたたち全員、刑務所(けいむしょ)惑星(わくせい)にたたきこんでやるからーー!」
「落ち着いてください、パフェスキー夫人」
メタナイトが言った。仮面にかくされた表情はわからないが、声にはウンザリした気持ちがにじみ出ていた。
「私たちは、あなたを助けにきたのですよ。ただ、その前に、聞きたいことがあるのです」
「なんですってー!?」
「あなたの屋敷(やしき)にいる、シェフたちのことです」
とたんに、パフェスキー夫人の顔色が変わった。
「な、なんのことかしらっ?」
声も、うわずっている。
「あなたの屋敷(やしき)には、何十人ものシェフがいますね?」
「え、ええ……もちろんよ。わたくしは、グルメですからね!」
「でも、今日のパーティの料理を作ったのは三人だけだった……ほかのシェフたちを、どうしたんです?」
「知らないわ……」
「知らないはずがねえ!」
サーキブルが、飛び上がってさけんだ。
「オレたちにはお見通しだからな! おまえは、自分が気に入らないシェフたちを、かくし部屋に閉じこめてるんだ! コックカワサキを返しやがれ!」
「お、おかしな言いがかりはやめてちょうだい! コックカワサキなんて、あんな三流のシェフ! どうなったって、知らないわ!」
「なんだとー!?」
サーキブルも、ウィリーも、そしてウォーキーも、パフェスキー夫人につかみかかりそうになった。
それを、メタナイトが止めた。
「パフェスキー夫人。とぼけても、むだですよ。あなたがみとめないなら、あなたの屋敷(やしき)を徹底的(てっていてき)に調べさせてもらいます。かくし部屋からシェフたちが見つかれば、すべてが明らかになるのです」
「……!」
パフェスキー夫人は、くやしそうに顔をゆがめて、さけんだ。
「だったら、なんだって言うの!? わたくし、何も悪いことなんてしてませんからね!」
「このぉ……まだ、とぼける気かよ!」
「あんたたちには、わかってないのよ。食べることの大切さが!」
パフェスキー夫人は、開き直ったように胸を張った。
「いいこと? 食事っていうのは、人生でいちばん大事なものなのよ。おいしいものを、おなかいっぱい食べられることが、いちばんの幸せなのよ!」
「だよねー!」
とつぜん、カービィが賛成(さんせい)したので、メタナイトが小声で注意した。
「だまっていろ、カービィ」
しかし、カービィの耳には入らない。カービィはピョンピョンはずみながら言った。
「ぼくもそう思うー! 食べてる時が、いちばん幸せー!」
「……あら。意外に、話が通じるようね?」
パフェスキー夫人は、カービィを見直したようだった。
「わたくし、おいしい料理を作ってくれるシェフには、いつだって感謝しているわ!」
「うん! ぼくもー!」
「オレ様もだー!」
デデデ大王まで加わった。
「寝るのも楽しいが、食べるのはもっと楽しいぞ!」
「だよね! ぼく、食べるの大好きー!」
「あぶらの乗った肉を食っている時が、いちばん幸せだ! 肉がなければ、この世はまっくらやみだな!」
「お肉も好きだし、お魚も! 野菜もフルーツも! ケーキも大好きー!」
「……あなたたちは、話がわかるわね」
パフェスキー夫人は、カービィとデデデ大王に向かって、ほほえんだ。
「まったく、そのとおりよ。おいしい食事は、人生でいちばんの宝物」
「うん!」
「だからこそ──わたくしの口に合わない料理を出すシェフには、ガマンがならないのよ!」
パフェスキー夫人の口調が、急にけわしくなった。
カービィもデデデ大王も、その剣幕(けんまく)にびっくりして、口をつぐんでしまった。
「おいしくない料理を食べるなんて、最悪の苦痛だわ! 人生のむだよ!」
「……え……あの……」
「そんな料理をわたくしに食べさせるようなシェフは、犯罪者といっしょ! こらしめられて、当然なのよ!」
そしてパフェスキー夫人は、ギラギラした目でカービィを見た。
「あなたも、そう思うでしょ?」
カービィは、困ってしまった。
おいしい料理が大好きなのは、カービィもパフェスキー夫人もいっしょ。でも、夫人の言っていることは、なんとなくちがう気がする……。
「だから、そんな料理をわたくしに食べさせたシェフには、ばつを与えたの。わたくし、まちがってないでしょ!?」
「う……うーん……でも……」
カービィには、うまく言えなかった。
なんだか、ちがう気はするんだけど……でも、おいしいものを食べたい気持ちはわかるし……。
デデデ大王が言った。
「コックカワサキの腕前は、たしかだぞ。あいつが、まずい料理を作るとは思えんのだがなあ……」
「でも、作ったのよ! 信じられないくらいまずい料理を、わたくしに食べさせたの!」
「何を作ったんだ?」
「ステーキよ!」
カービィたちは顔を見合わせた。
ステーキは、コックカワサキの得意料理のはずなのに……。
「最初は、おいしいと思ったわ。だから、毎日三食、こればっかり作りなさいと命令したの。そしたらコックカワサキのやつ、『ステーキばかりじゃ栄養(えいよう)がかたよります』なんて言うのよ! わたくしに、口ごたえするなんて!」
「……それ、口ごたえって言うのかなあ……」
「言うわよっ! おどしつけて、毎日ステーキを作らせたわ。そしたら、あいつめ、五日目にぜんぜん味のしないステーキを作ったのよ!」
「え!?」
「もんくを言ったら、また、わたくしに口ごたえをしたの! 『味つけはいつもと同じです。味がしないのは、奥様がカゼをひいたからでしょう』ですって!」
「……カゼ……?」
「そう。たしかにその日、わたくしはカゼをひいていたわ。でも、そんなの理由にならないでしょ! 一流のシェフなら、カゼをひいても味がわかるような、特別な味つけを研究するべきなのよ!」
「そんなむちゃな……」
「コックカワサキだけじゃないわ。他のシェフたちだって、ひどいものよ。あるシェフは、ピザが得意だと言うから、作らせたの。とてもおいしくて、わたくし三十枚も一気に食べてしまったわ!」
「三十枚……!?」
「いいなあ……!」
カービィとデデデ大王は、今にもよだれをたらしそうな顔になった。
「そうしたら、そのあとで、『デザートは焼きプリンでございます』なんて言うじゃないの! わたくしの大好物よ! でも、おなかいっぱいで、もうひと口も食べられなかったわ! あたまに来たから、部屋に閉じこめてやったのよ! わたくし、まちがってないでしょ!?」
「……話にならない」
メタナイトが、首を振った。
「パフェスキー夫人、あなたは、わがまますぎる。すぐにシェフたちを自由にしなさい」
「いやよ! わたくし、悪くないわ!」
「ならば、あなたの屋敷(やしき)をすみずみまで調べますよ」
「……キーッ! ゆるさないわ!」
パフェスキー夫人は、しばられたまま、あばれまわった。
カービィは、なんだかとても悲しくなってきた。
パフェスキー夫人のお屋敷(やしき)を調べれば、シェフたちを助けることはできる……けど。
本人がぜんぜん反省しなければ、きっとまた、どこかで同じことをくり返してしまう。
(パフェスキー夫人だって、根っから悪い人じゃないと思うんだ。だって、あんなにすてきなパーティを開いて、ごちそうを食べさせてくれたんだし……)
なんとかして、パフェスキー夫人に、自分のあやまちをわかってもらうことはできないだろうか?
(でも、何を言っても、聞いてくれそうにないしなあ……)
そのとき、カービィのあたまに、パッとひらめいたことがあった。
カービィは、夢中でさけんだ。
「そうだ! 言葉よりも、もっと心に伝わるものがあるよ!」
メタナイトがたずねた。
「どうしたんだ、カービィ?」
「ぼく、パフェスキー夫人の心を動かす方法を思いついたんだ!」
「心を動かす……だって? どうやって?」
「歌だよ!」
カービィは、自分の思いつきにうれしくなって、くるんと宙返(ちゅうがえ)りをした。
「ぼく、前に本を読んだんだ。心をとざしたお姫様を、美しい歌でなぐさめるっていうお話。何を言っても耳をかさなかったお姫様が、美しい歌を聞いて感動するんだよ! ふつうにお話するより、歌のほうが、きっと気持ちが伝わるよ!」
メタナイトは、首をかしげた。
「たしかに、美しい音楽には心を動かす力があると思うが……」
「でしょ! だから、すてきな歌を聞かせてあげたら、パフェスキー夫人の気持ちだって変わると思う!」
「だが、問題がある」
「なに?」
「すてきな歌を、どうやって用意するんだ? ここには歌手もいないし、音楽プレイヤーもないんだぞ」
「──そうか、そうか! ここで、いよいよオレ様の出番か!」
デデデ大王が、胸を張ってしゃしゃり出た。
「あ、あ、あー……えへん。よし、のどの調子はOKだ! 歌うぞ!」
カービィは首を振った。
「だめだめ。デデデ大王の歌じゃ、ぶちこわしだよ。ここは、ぼくにまかせて!」
デデデ大王は、カービィを見下ろして、せせら笑った。
「おまえが歌う気か? やめとけ、オンチのくせに」
「そんなことないよー! じょうずに歌えるよ! そうだ、ウォーキー、協力してよ」
「え? オレ……?」
「うん!」
カービィは、胸をそらせて、ウォーキーのほうを向いた。
ウォーキーは、たじろいだ。
「ちょ、ちょっと待ってカービィ……」
「だいじょーぶ! 『マイク』能力をコピーさせてもらうだけ!」
「だ、大丈夫じゃないってーー!」
「せ〜の〜!」
カービィは、思いっきり息を吸いこんだ。
「やめて〜! あれ〜!」
ウォーキーは、カービィにすいこまれてしまった。
またまたカービィは大変身。頭にヘッドホンをかけ、手にはマイクを持っている。
これでカービィは、だれよりも大きな声をひびかせられるようになった!
「じゃ、歌うからねー!」
カービィはパフェスキー夫人に向き直った。
パフェスキー夫人は、何が始まるのかわからず、ふしぎそうにカービィを見ている。
カービィはさっそく歌おうとして──はたと、困ってしまった。
(え、えーと……どんな歌を歌えばいいんだろう?)
カービィが知っている歌なんて、数えるほどしかない。
(『朝ごはんの歌』……は感動的じゃないなあ。『おかわり音頭(おんど)』も、いまいちだし……『はらぺこラブソング』もダメかなあ……)
パフェスキー夫人の心を動かすためにふさわしい歌なんて、思いつかなかった。
「どうした、カービィ。さては、歌えないんだな?」
デデデ大王が、イヤミな笑いを浮かべてカービィを見た。
「そ、そんなことないよ! 歌えるよ!」
「はっ、無理すんな。ここは、オレ様に歌わせろ!」
「やだっ!」
カービィは、かくごを決めた。
(パフェスキー夫人の心を動かせそうな歌は、思いつかない。ってことは、今、自分で歌を作るしかない!)
カービィは心を落ち着けて、目をとじた。
すーっと息を吸い、思いついた言葉を次々にメロディにのせていく……。
ピザ三十枚〜
おお、ピザ三十枚〜
なんて、うらやましいの、ララララ〜
ぼくも食べたいよ〜!
メタナイトが、たじろいで耳をふさいだ。
「な、なんだ、その、でたらめな歌は!? やめろ、カービィ……」
しかし、自分の歌声によっているカービィには、メタナイトの言葉は聞こえなかった。
(メタナイトがワナワナふるえてる! 感動してるんだ!)
カービィは、ますます張り切った。
ウォーキーからコピーした『マイク』能力、全開!
その声はせまいどうくつに反響し、何倍にも大きくひびき渡った。
ピザはやっぱりトマトソースが決め手だよ〜(だよ〜、だよ〜)
えーと、あと、チーズも大事だね〜(だね〜、だね〜)!
すさまじい歌声……というより、これはもはや、音の兵器。
どうくつのカベに、ピシッと亀裂(きれつ)が走った。
メタナイトがさけんだ。
「やめるんだ、カービィ! どうくつがこわれる!」
「どうくつより、わ、わたくしの耳がこわれるわーっ!」
パフェスキー夫人は、のたうち回って悲鳴を上げた。気の毒なことに、彼女は両手をしばられているので、耳をふさぐこともできないのだった。
カービィは目をとじ、すっかり自分の歌によっていた。
コックカワサキのステーキは最高だよ〜(だよだよだよ〜)!
みんなで食べよう、ビーフステーキ〜!
デザートもおわすれなく、ララララ〜!
ぼく、アイスが好き〜(好き好き好き〜)!
どうくつの天井から、バラバラと土のかけらが落ちてきた。
そのかけらが、カービィに当たった。
「……あれ? どうしたんだろう?」
やっと、カービィは歌うのをやめた。
「いかん、どうくつがくずれる!」
「逃げろ!」
全員、あわを食ってどうくつから逃げ出した。パフェスキー夫人も、メタナイトにかかえられて連れ出された。
みんなが外に飛び出すと同時に、大きな音を立ててどうくつはくずれ落ちてしまった。
サーキブルが、顔をひきつらせて、つぶやいた。
「こ……こぇぇ……カービィ、おまえってやつは……プププランド最強だぜ……」
「え? 最高? ぼくの歌のこと? そんなに感動的だった?」
「ばかもーん! 見ろ、おまえのせいでどうくつがメチャクチャだ!」
デデデ大王がカービィをしめ上げようとするのを、メタナイトが止めた。
「やめたまえ。どうくつがくずれて、かえって良かったかもしれない。あのままカービィが歌い続けていたら……」
「や、やめろ! その先は言うな。想像したくもないわい!」
さすがのデデデ大王も、ブルッとふるえた。サーキブルやウィリーたちも、深刻(しんこく)な顔でうなずいている。
カービィは、せっかく心をこめた歌が、どうやらみんなには不評(ふひょう)だったらしいと気づいて、がっかりした。パフェスキー夫人に、たずねてみる。
「ねえ、パフェスキー夫人はどう思った? ぼくの歌……」
「ひぃ! やめて! わたくしが悪かったわ! あやまるから、もう歌わないでぇ!」
パフェスキー夫人はなみだ目になって、頭を下げた。
「え? 反省してるっていうこと?」
「そうよ、心から反省してるわ! ごめんなさい、ごめんなさい! シェフたちは解放するから、ゆるしてぇ!」
カービィは、きょとんとした。なんだかよくわからないけど……パフェスキー夫人がこんなに泣きながら反省してるってことは……。
「やっぱり、ぼくの歌のおかげだ……歌の力って、すばらしい……」
カービィはすっかり満足して、くるんと宙返(ちゅうがえ)りをした。頭のヘッドホンがはずれて、ウォーキーのすがたに戻った。
「あ、あれ? 何があったの……?」
きょとんとしているウォーキーに、サーキブルがくやしそうに言った。
「ちぇっ! おまえはラッキーだったぜ、ウォーキー」
「え? どういう意味?」
メタナイトが言った。
「話は後だ。パフェスキー夫人の屋敷(やしき)に戻ろう。シェフたちを助けなくては」
「おい、パフェスキーをどうする? もっと、とっちめなくていいのかよ?」
サーキブルが、不満そうに言った。メタナイトは答えた。
「彼女はもう、十分なばつを受けただろう。耳をふさぐこともできず、カービィの歌に直撃されたのだぞ」
「……そ、そうだな。そう思ったら、かわいそうになってきた……」
「私には考えがある。君たちも、来たまえ」
メタナイトはマントをひるがえした。
デデデ大王がパーティのステーキを食べて気づいていた、『コックカワサキの味ではない』ナゾが、ついに明らかに。
こんどは、コックカワサキたちシェフを助けるため、パフェスキー夫人のお屋敷(やしき)へ向かいます!
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