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◆第4回
パフェスキー夫人のおたんじょうびパーティのごちそうを食べるため、いろいろと作戦を考えていたカービィとワドルディ。
そんなとき、飛行船に乗ってやってきたのは……?
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登場! メタナイト
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飛行船は、野原の真ん中に、ふわりとゆうがに着陸(ちゃくりく)していた。
カービィとワドルディが見守る前で、入り口の扉(とびら)が音もなく開いた。
そこに姿をあらわしたのは……。
カービィがさけんだ。
「やっぱり! メタナイトだー!」
「カービィ。そして、ワドルディも。ひさしいな」
飛行船の持ち主──メタナイトは、二人に軽くうなずきかけて、ゆっくりとタラップを降りてきた。
メタナイトは、すがおを仮面にかくした、ナゾめいた剣士。すがおばかりか、出身地も過去も、だれにも知られていない。
ひきょうな行いを嫌(きら)う紳士(しんし)ではあるが、自分の目的を遂行(すいこう)するためなら、時にあのデデデ大王とも手を組んでしまったりする──ようするに、信条(しんじょう)も本心も、すべてがナゾにつつまれた剣士なのだ。
ふだん、彼がどこに住んでいるのかも、だれも知らない。ときおり、ふと思い出したように、このプププランドにあらわれる。
今、彼がやってきたということは……ひょっとして、事件の前兆(ぜんちょう)かも……!?
ワドルディが、緊張(きんちょう)しながらたずねた。
「メタナイト様……プププランドに、何かご用ですか?」
メタナイトは、気軽な調子(ちょうし)で答えた。
「ああ。パーティの招待状(しょうたいじょう)をもらったのでね」
招待状(しょうたいじょう)……!
その言葉に、カービィもワドルディも、ピクッと反応した。
「それって……まさか……!」
「君たち、知っているかな? 最近、プププランドにひっこしてきたパフェスキー夫人という人物の、たんじょうびパーティなんだが……」
「やっぱり!」
カービィとワドルディは同時にさけんで、メタナイトに飛びついた。
メタナイトはおどろいて、よろけそうになった。
「な……どうした……!?」
「メタナイトってば! パフェスキー夫人と友だちだったのー!?」
「い、いや。友だちというわけではないが。以前、別のパーティで顔を合わせたことがあって……それで招待(しょうたい)されただけだ」
「招待状(しょうたいじょう)、見せて見せてー!」
「と、飛びつくな、カービィ!」
メタナイトはカービィをたしなめ、一通の封書(ふうしょ)を見せた。
「これだ」
「わーっ! これ本物ーっ!?」
「当たり前だ」
カービィとワドルディは、封筒(ふうとう)から招待状(しょうたいじょう)を取り出して、じっくりながめた。
「ほんとだ……ちゃんと書いてある。『わたくしのたんじょうびパーティに、どうぞお越しくださいませ。心よりおまちしております』……だって!」
「わああああん! いいなあ、いいなあ、メタナイトったらー!」
「飛びつくなというのに!」
メタナイトは、カービィとワドルディをかわして、招待状(しょうたいじょう)をしまった。
「どうしたことだ? このさわぎは」
「だって、ぼくもパーティに行きたいんだよ! でも、招待状(しょうたいじょう)が来ないから、行けないんだ!」
「パーティに……行きたい?」
「うん! もちろん!」
ワドルディも、カービィに負けずに声を張り上げた。
「デデデ大王様だって、招待状(しょうたいじょう)をまっているんです! いつ届くかって、楽しみにしてて……なのに!」
「そうか」
メタナイトは事情をさとって、うなずいた。
「実は、私も困っていてね」
「困る? 何を?」
「この招待状(しょうたいじょう)には、パートナーといっしょに来てほしいと書いてあるんだ。夜どおし、ダンスをするそうじゃないか。だから、パートナーが必要なんだ。だが、私にはともなうような相手がいない」
メタナイトは両手を広げ、首を振った。
「パートナーが見つからないから一人で出席したいが、かまわないかと問い合わせようと思っていたんだ」
「……パートナー……!」
カービィは、ぴょーんと飛び上がった。
「ぼくがパートナーになるよー! 連れてってよ、メタナイト!」
「う……うむ。それはかまわない……が……ダンスパーティだぞ? カービィ、おどれるのか?」
「おどれるよー! ぼく、ぼんおどり得意(とくい)だよー!」
「いや、ぼんおどりではない。ワルツとか、タンゴなどをおどれなければ……」
「ワッフル? だんご? うん、ワッフルもおだんごも、大好きー!」
「ちがう……ちがうぞ、カービィ」
メタナイトは、カービィのいきおいに圧倒(あっとう)されている。
ワドルディが、おずおずと言った。
「あの、メタナイト様……」
「どうした、ワドルディ?」
「デデデ大王様も、こころまちにしてるんです。その……招待状(しょうたいじょう)を」
「……ふむ?」
「パートナーとして、連れて行ってあげてくれませんか? カービィと大王様を、いっしょに」
自分勝手で気まぐれなデデデ大王だけれど、ワドルディにとっては大事な主君(しゅくん)。
できることなら、その夢をかなえてあげたい。
メタナイトは腕(うで)をくみ、「うむ……」と、うなった。
「そうしたいのはやまやまだが、パートナーはひとりと決まっているのだ。カービィかデデデ、どちらかを選ばねばならん」
ワドルディは、ちらっとカービィを見た。
カービィは、キリッとした表情で口を引きむすんでいた。
いつもは気のいいカービィだが、食べ物がからむと、がんこ一徹(いってつ)。ぜったいに後(あと)へは引かないという決意をみなぎらせている。
(この様子じゃ、ゆずってくれそうにないなあ……)
ワドルディは考えこんでしまった。
カービィはいちばんの友だちだし、デデデ大王は大事な主君(しゅくん)。
どちらの願いも、かなえてあげたいものだが……。
メタナイトが言った。
「ともかく、デデデ大王に会いに行くとしよう。彼の意見を聞いた上で決めようではないか」
「えー……」
カービィは不服(ふふく)そうな顔になった。
「デデデ大王なんか連れて行ったら、きっとパーティをぶちこわしちゃうよ。ぼくのほうが、いいと思うけどな……」
「こういうことは、公平に決めないと。さ、行くぞ」
メタナイトは、さっとマントをひるがえした。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
デデデ城は、大ゆれだった。
バーニンレオの報告を聞いたデデデ大王が、いかりくるって飛び回っているからである。
「くっそー! カービィのやつめ! なんという、にくたらしいヤツなんだーっ!」
「まったくです……」
バーニンレオが、うっすらとなみだを浮かべてうったえた。
「あいつ、本当にひどいんです! オレのファイアの力を利用しやがってぇ……うああああっ」
「泣くな、うっとうしい! おまえが悪いんじゃーっ! この役立たずがっ!」
デデデ大王は、腹立ちまぎれにバーニンレオをけとばした。
ちょうど、メタナイトを先頭に、カービィやワドルディが部屋に入ろうとするところだった。
メタナイトは、飛んできたバーニンレオを軽くかわし、優雅(ゆうが)にあいさつをした。
「やあ、久しぶりだな、デデデ大王。あいかわらず元気そうで、何よりだ」
「む……? メタナイトか。何か用か……」
言いかけて、大王はメタナイトの後ろにいるカービィに気づいた。
大王の形相(ぎょうそう)が変わった。
「カァァァァビィィィィィー! 何をしにきた!? そうか、このデデデ城を破壊(はかい)しにきたんだな! そうはさせん、オレ様が相手だー!」
「おちつけ、大王。カービィは関係ない。君に用があるのは、この私だ」
「なんだと……?」
「ある女性の、たんじょうびパーティのことなんだ」
メタナイトは、招待状(しょうたいじょう)を取り出した。
デデデ大王は、食い入るように招待状(しょうたいじょう)を見つめた。
「そ、それはまさか……! パフェスキーの……!」
「そうだ。君はパフェスキー夫人を知っているのか?」
「会ったことはない。デデデ湖のほとりに、これみよがしに大きな屋敷(やしき)を建てたという話は聞いているが……」
「……デデデ湖だって?」
メタナイトは、けげんそうに聞きとがめた。
「たしか、パフェスキー夫人の屋敷(やしき)は、西のはずれの湖の近くだと聞いているが……?」
「そうだ。その湖を、デデデ湖というんだ」
「……初耳(はつみみ)だ」
「プププランドでは、常識(じょうしき)だ! 見よ!」
デデデ大王は、カベにはってある大きな地図をしめした。
メタナイトは地図に近づいて、書かれている地名を読み上げた。
「デデデ山、デデデ湖、デデデ川、デデデ谷、デデデ平野……あっちもこっちも、デデデだらけだな」
「はっはっは! 当たり前だ。オレ様がこのプププランドの偉大なる支配者だからな!」
「……元の地名を全部消して書き直してある」
「うるさい! 地名など、どうでもいい。問題はその招待状(しょうたいじょう)だ」
デデデ大王は、うらやましげにメタナイトを見つめて、うろうろ歩き回った。
「なぜ、きさまのもとに招待状(しょうたいじょう)が届いて、オレ様に届かないのだ? やはり郵便屋(ゆうびんや)」の手ぬきか……住所の書きまちがいか……ううむ……」
「そのことで、ひとつ提案(ていあん)があるんだ。パーティに出席するために、パートナーが必要なんだが、私には適当(てきとう)な相手がいない」
「……パートナーだと?」
「ああ。そこで、カービィか君のどちらかに、いっしょに行ってほしいんだが……」
デデデ大王は、ぴたりと足を止めた。
「オレ様に、いっしょにパーティに行ってほしい……というのか?」
「まだ、君と決めたわけではない。君かカービィか、どちらかだ」
「ふざけるなぁぁ!」
デデデ大王は、顔を真っ赤にしてどなった。
メタナイトは、あきれたように首を振った。
「私はふざけてなどいないのだが。私のパートナーでは不服(ふふく)か? なるほど、君はプライドが高いからな。では、仕方ない。この話は忘れてくれ。パートナーはカービィに決めよう」
「わーい!」
カービィはよろこんで飛び回った。
部屋を出て行こうとするメタナイトを、デデデ大王はあわてて引き止めた。
「ち、ちがう! そうじゃない。オレ様かカービィかで迷うなんて、ふざけていると言いたかったのだ。オレ様のほうが、ふさわしいに決まってるだろう!」
「……ほう?」
メタナイトは足を止めて、デデデ大王に向き直った。
「では、私のパートナーになる気はあるのだな」
「お、おう。どうしてもと言うなら、仕方ない。パートナーとして、いっしょに行ってやる!」
「……別に、どうしてもとは言っていないが……」
「カービィなんぞを連れて行ったら、あかっぱじをかくぞ! 何しろ、そいつは礼儀(れいぎ)知らずで、下品で、信じられないくらい食い意地がはってるからな!」
「どっちが!? デデデ大王こそ、食い意地のかたまりじゃないか!」
カービィは負けずに言い返した。
メタナイトは「どっちもどっちだが……」とつぶやき、にらみ合うふたりの間にわって入った。
「待て、こんなことで争(あらそ)うな。ここは、公平に決めよう」
「どうやって!?」
「そうだな……たとえば、ジャンケンとか」
デデデ大王は、「はっ」とばかにしたように笑った。
「ジャンケンなんて、子どもっぽいわい。男なら、実力勝負だ!」
「いいよ! 望むところだっ!」
今にも戦いを始めそうな二人を、メタナイトはため息まじりに止めた。
「待てというのに。つまらぬ争いは、私の望むところではない。ジャンケンが不服(ふふく)だというなら、もう君たちには頼まない」
「えっ!?」
「他のパートナーを探すことにする。さらばだ」
「ま、待って!」
カービィとデデデ大王は、あわててメタナイトに取りすがった。
「ぼく、ジャンケン大好きー! ジャンケン、さいこー!」
「オ、オレ様もだ! ジャンケンばんざーい! ばんざーい!」
「……では、さっさと始めてくれ」
カービィとデデデ大王は、間合いを取って、にらみ合った。
「……行くぞ、カービィ」
「……負けないぞ!」
「では……ジャン……ケン……!」
「待て」
メタナイトが、静かに間に入った。
デデデ大王が不満をぶちまけた。
「なんだというのだ。ジャマをするな、メタナイト」
「なぜ、ジャンケン勝負なのに背中にハンマーをかくし持っているんだ、デデデ大王」
「え? あ? こ、これは……!」
デデデ大王は、あせるあまり、かくしていたハンマーを取り落としてしまい、しどろもどろに言い訳をした。
「オレ様のお守りなのだ! これがないとジャンケンに勝てないのだ!」
「ウソつきー! ぼくをなぐるつもりだったんだな。ずるいぞ、デデデ大王!」
そうさけんだカービィに、メタナイトは冷静に告げた。
「そういうカービィも同じことだ。今、思いきり『すいこみ』の体勢(たいせい)に入っていたぞ」
「……え? そ……そう? 深呼吸してただけなんだけど……」
カービィは、つごうが悪いのをごまかそうと、フンフンと鼻歌を歌った。
メタナイトはため息をついた。
「まったく。ジャンケンぐらい、まともにできないのか、君たちは」
「できる……よ……たぶん」
「信用ならんな」
そのとき、部屋のすみで見守っていたワドルディが、おずおずと口を開いた。
「あの……ぼく、考えたんですけど……」
「うん? なんだ、ワドルディ」
「大王様もカービィも、どっちもパーティに行きたいんだから……一人にしぼるのは、かわいそうだと思います」
「だが、パートナーはひとりと決まっているんだ」
「はい。そこで、考えたんですけど……」
「あ! わかったー!」
カービィが飛び上がった。
「ぼくとデデデ大王がいっしょに行けばいいんだ! メタナイトはおるすばん!」
「おおっ? カービィのくせに、いい考えじゃないか。さんせい、さんせい!」
「わーい!」
カービィとデデデ大王は、いつものいがみ合いを忘れて、手を取り合ってよろこんだ。
メタナイトが、首を振った。
「──招待状(しょうたいじょう)を受け取ったのは私だ。私が行かぬのでは、話にならない」
「でもさあ……」
「でも、ではない。ワドルディの考えを、最後まで聞こうではないか」
うながされて、ワドルディは、はずかしそうに提案(ていあん)した。
「大王様とカービィが、ふたりでひと役をしたらいいんじゃないでしょうか?」
「ふたり……ひと役?」
「はい。大王様は大きいし、カービィは小さいから。大王様の上にカービィが乗って、服やマントでうまくかくせば、ひとりに見えると思うんです」
「ふたりひと役……か」
メタナイトは、カービィとデデデ大王を振り返り、ふたりの頭のてっぺんからつま先まで、じっくりとながめた。
「なるほどな。良い考えかもしれん」
カービィとデデデ大王は、顔を見合わせた。
ふたりとも、どんなことになるのか、想像もつかずにいる。
メタナイトが言った。
「ためしてみよう。カービィ、デデデ大王の上に乗ってみてくれ」
「……えー……」
「イヤなら、パーティには連れて行けないが……」
「わかったよー! やってみるよ」
カービィはピョンとはずんで、デデデ大王の頭の上にとび乗った。
たちまち、大王が顔をしかめる。
「なぜ、このオレ様が、きさまのふみ台にならねばならんのだー!」
「イヤなら、パーティには……」
「わかったわかった! もんくはないわい!」
「ワドルディ、すまないが、大王のマントを持ってきてくれ」
「はい!」
ワドルディはデデデ大王のクローゼットから、ゴージャスなマントを持ち出してきた。
メタナイトは、デデデ大王とカービィをおおうように、マントをはおらせた。
大王の顔とからだはすっぽりかくれ、カービィの顔だけがのぞいている。
「ふむ、なかなか良い感じだ。これなら、ひとりに見える」
デデデ大王がもんくを言った。
「いきぐるしいぞ!」
「マントを少しゆるめよう。これで、どうだ?」
「うむ……まあ、なんとかがまんできそうだ」
「ところでデデデ大王、君はダンスが得意(とくい)か?」
「む? ダンスだと?」
「ああ。パフェスキー夫人のパーティでは、夜どおしダンスをするのだそうだ。私は好きではないが、せめて一曲はおどらないと、失礼にあたる」
「ははは、オレ様にまかせろ! ダンスなら、得意中(とくいちゅう)の得意(とくい)だ!」
デデデ大王はそうさけぶと、いきなりおどり始めた。
腰をふりふり、ドタドタと左右に飛び回り、時々「キャホー! デデデ・ダーンス!」とさけんでいる。
大王の頭の上に乗っているカービィが、悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと、やめてよー! 落ちちゃうよー!」
メタナイトはあっけにとられていたが、カービィの声でわれに返った。
「やめたまえ、デデデ大王。私が求めているのは、そういうダンスではない」
「……なんだと?」
「もっとゆうがで上品におどれないものか?」
「え? すごくゆうがで上品だっただろうが」
「どこが……このままでは、私がはじをかく。ワルツの練習ぐらいしておこう」
メタナイトはふわりと飛び上がり、デデデ大王の手を取った。
「手をつないでおどるのか?」
「もちろん。ワルツだからな」
「男同士だと、変じゃないかな?」
「……ふむ。言われてみれば、そうだな」
メタナイトは考えこんだ。
「うっかりしていた。ダンスはふつう、男女のペアでおどるものだ……女装でごまかすしかないか……」
カービィが、目を丸くした。
「えー? じゃあ、メタナイトが女装するの? わあ、見たい見たーい!」
「私ではない! 女性の役は、君たちがやるんだ」
「ぼくたちが?」
「オレ様が……女装……だと……?」
デデデ大王は、声をふるわせた。
「うむ。いやだろうが、仕方ないのだ。がまんしてくれ」
「おお! いやでいやでたまらんが、がまんしてやるー!」
「……デデデ大王? 声がイキイキしているぞ……?」
「気のせいだ! ああ、いやでたまらん! ワドルディ、何をしとるんだ! さっさと衣装を持ってこい! そうそう、けしょう品もな!」
「は、はいっ!」
ワドルディは再び大王のクローゼットを開き、何着かの衣装をかかえてきた。
「どれにしましょうか……?」
「ばかもん、もっとフリルいっぱいのドレスがあっただろうが! ピンク色で、大きなリボンがついてるやつ! あれだ!」
「は、はいっ!」
「デデデ大王……」
メタナイトは、おそれおののいて言った。
「なぜ、そんなドレスを持っているんだ? しかも、けしょう品まで……?」
「大王たるもの、どんな場合もあわてないように、つねに準備を万全(ばんぜん)にしているものなのだ!」
「な、なるほど……」
デデデ大王はマントをぬぎすて、ワドルディが持ってきたフリルいっぱいのドレスに着がえた。
「ちょっとキツいな。ドレスがちぢんでしまったようだ」
「いや、君がふくらんだのだと思うが……」
「何か言ったか?」
「いや、別に」
「どうだ、にあうだろう!」
デデデ大王は鏡に走りより、全身をうつしてうっとりした。
大王の頭の上のカービィは、「うぇー」とさけんで、ころがり落ちそうになった。
「ひ、ひどーい……気持ち悪ーい……」
「だまれ、カービィ! きさまには、この美しさがわからんのだ。さ、次はメイク、メイクと」
「待て、デデデ大王」
メタナイトが止めた。
「君がけしょうをしてどうする。君の顔はかくすんだ。おもてに出るのは、カービィの顔だぞ」
「……む?」
「けしょうをするなら、カービィにしなくては」
「えー!? ぼくが、おけしょうするの!?」
カービィは、おどろいてさけんだ。
「おけしょうなんて、したことないよー! いやだよー!」
「がまんしてくれ。ワドルディ、手伝ってくれ」
「はーい!」
「いやだなあ……」
カービィはしぶしぶ、デデデ大王の頭の上から飛び下りた。
口紅やマスカラなど、けしょう用具一式を持ったワドルディが駆けよった。
「じゃ、始めるよ。カービィ、じっとしててね」
「ワドルディ、おけしょうなんてしたことあるの?」
「大王様のメイクを手伝ったことがあるから、やり方は知ってるよ」
ワドルディは、カービィの顔にファンデーションをぬり、ピンク色のチークをさしていった。さすが、大王に毎日こき使われているだけあって、手つきがなれている。
「口紅はローズピンク……アイシャドウはパープル……マスカラはボリュームたっぷりに……と。できたー!」
カービィは、タッタッタと鏡の前に走っていき、メイクされた自分の顔をのぞきこんだ。
とたんに、カービィは息をのみ、よろめいた。
「か……か……か……!」
「どうした、カービィ?」
「か……っ!」
「そんなにショックなのか? 無理もないが……」
「か、か……かわいい~~~!」
カービィは両手を口もとに当て、はね回った。
「ぼく、知らなかったよー! おけしょうすると、こんなにかわいくなるなんて!」
くるっと振り返ったカービィと目を合わせて、メタナイトはだまりこんだ。
「ね、ね! メタナイトも、そう思うでしょ!? かわいすぎて、どうしよう〜!」
カービィは、マスカラで長くのびたまつ毛を、パチパチさせた。
「う……びみょう……だが……」
「びみょー? どうして?」
「まあ、デデデ大王よりは、かわいいかも……」
「なんだとー!? 目が悪いのか、メタナイト! こんな気持ち悪いのより、オレ様のほうが、百倍かわいいに決まってるだろう!」
「だれが気持ち悪いってー!?」
「こら、ケンカをするな。君たちはこれから、文字どおり一心同体。ふたりでひとりになるんだからな」
カービィとデデデ大王は、どちらからともなく、にらみ合いをやめた。
「むー……気は進まんが、しかたないな。パーティに行くためだ」
「うん。パーティが終わるまでは、仲良くしよう!」
「よし、それでいい」
メタナイトは、ワドルディに向き直った。
「ドレスを手直しして、デデデ大王の顔がすっぽりかくれるようにしてくれないか?」
「はい!」
「それから、カービィにかぶせる、かつらも用意してくれ」
「わかりました!」
「たのんだぞ」
メタナイトはデデデ大王とカービィを振り返った。
表情は仮面にかくされているが……とてつもなく不安そうなオーラが、全身からただよい出ている。
「とにかく、ふたりとも、あやしまれないよう気をつけてくれ」
「わかっておる!」
「まかせて!」
デデデ大王とカービィは、そろってガッツポーズを取った。いつもの険悪(けんあく)な関係がウソのように、ぴったり息が合っている。
「いちおう、ダンスの練習をしておくか……」
「はーい!」
カービィははりきって、ふたたび大王の頭の上にとび乗った。
メタナイトはデデデ大王の手を取り、ワルツの練習を始めた。
「いち、に、さん……いち、に、さん……ちがう! 私がリードする方向に動くんだ!」
「うるさいわい……あー、ワルツなんて、つまらん。デデデ・ダンスのほうがよっぽどゆうがでおしゃれなのに……」
「だまって練習してくれ」
大王の頭上のカービィは、最初のうちはおもしろがっていたが、することがないのでだんだんたいくつし始めた。
「あーあ。つまんない。ぼくもダンスしたいよー」
「カービィは『あたま』の役だ。何もせず、ニコニコしていてくれれば良い」
「そんなのたいくつだよー。そうだ、歌でも歌おう。ラララ〜! なんていい天気〜! なんておいしい朝ごはん〜。ラララ〜!」
「歌うなっ!」
デデデ大王のダンスはまったく上達(じょうたつ)せず、カービィの好き勝手なふるまいはまったくおさまらないまま……。
いよいよ、パーティ当日になった。
メタナイトといっしょに、パフェスキー夫人のお屋敷(やしき)へ!
はたして、カービィたちは無事にごちそうを食べることができるでしょうか……?
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