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◆第2回
プププランドの空を切りさいて、とつぜんあわれた、ナゾの空飛ぶ船。
乗組員(のりくみいん)の無事を確かめるため、船の中へと踏みこんだカービィたちが出会ったのは……?
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彼方(かなた)からの旅人マホロア 後編
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船の中は、やわらかな光に満たされていた。
外観(がいかん)は激しく損傷(そんしょう)しているが、内部には大きなダメージはなかったらしい。墜落(ついらく)の衝撃(しょうげき)で、いくつかの物が散らかっている程度で、床や天井(てんじょう)には傷一つない。
巨大なスクリーンの前に、何者かが倒れていた。
青いフードを深くかぶった、小柄(こがら)な生き物だ。ぴくりとも動かず、目を閉じている。意識を失っているようだ。
デデデ大王が、進み出た。
「船の乗員か。すぐに手当を!」
「うん!」
カービィがうなずき、バンダナワドルディも走り寄った。
ただ一人、メタナイトだけは、スクリーンに映し出されたふしぎな記号をじっと見つめていた。
低いつぶやきがもれる。
「これは……まさか、古代文字……?」
そのとき、倒れていた乗員が、ゆっくりと目を開いた。
カービィは、ホッとして言った。
「あ、よかった! 気がついたね。ぼく、カービィ……」
「……ワァァ!?」
彼は、あわてて飛び起きると、カービィたちに見向きもせず、スクリーンに駆け寄った。
パネルを操作(そうさ)すると、スクリーンに「120」という数字が表示された。
その数字は、急速(きゅうそく)に減少(げんしょう)していった。119、118、117……たちまち、0に。
「ウワァ……アア……」
フードをかぶった乗員は、がっくりとうなだれて、ため息をついた。今にも泣き出してしまいそうなほど、打ちひしがれている。
カービィは彼に駆け寄って、その背をトントンとたたいた。
「どうしたの? だいじょーぶ?」
「……ア……」
彼は振り返り、カービィたち四人を見回した。
大きな目をパチパチさせて、たずねる。
「アノ……キミたちは……?」
「ぼく、カービィだよ」
「ボクは、マホロア。ここは、ドコ……?」
「プププランドだよ!」
「プププランド? ソウ……ボク……ナントカ、逃げ切れたンダ……」
マホロアは、ホッとしたように息をついた。
カービィはたずねた。
「逃げ切れたって? どういうこと?」
「ランディアだヨ! ボク、アイツにおそわれて、ヒッシに逃げて……!」
マホロアは、混乱(こんらん)したように早口で言い、はずかしそうに口元を押さえた。
「……コレじゃ、わかんないよネ。サイショから、キチンと話すネ。ボクのフルサトは、ハルカンドラっていう星ナンダ」
「ハルカンドラ!?」
反応したのは、メタナイトだった。
デデデ大王が言った。
「知ってるのか? 聞いたこともない名だが」
「ハルカンドラは、異世界に存在すると言われる、伝説の星だ。高度な文明がさかえていたが、とうにほろびてしまったと伝わっている。まさか、今も存在しているのか……!?」
メタナイトは、めずらしく興奮(こうふん)気味だ。
マホロアは、うなずいた。
「イマも、ハルカンドラはあるヨ。ムカシのブンメイは、もうアトカタもないケドネ」
「くわしく聞かせてくれ」
メタナイトは、強く興味をひかれている様子。
マホロアは言った。
「ボクの星のコトを知ってるヒトがいるナンテ、オドロキだヨ。ハルカンドラは、ココとは別のウチュウにあるのに……」
「超古代文明ハルカンドラの伝説は、いくつかの星に残されている」
メタナイトは言った。
「おそらく、遠い昔、君と同じように、宇宙をこえてきた旅人がいたのだろう。彼らが残した記録が、伝説となって、今に伝わっているのだ。マホロア、君は、どうやってこのポップスターに来ることができたのだ?」
「ソレはネ、この船――ローアのオカゲなんダ」
マホロアは、スクリーンを見上げた。
そこには、船の外観(がいかん)がうつし出されている。船体のあちこちに、赤い×印が五つ、表示されていた。
「ボクは、ローアに乗って、旅をしてタ。旅のトチュウで、ランディアっていう悪いカイブツにおそわれてしまったンダ」
「ランディア……?」
「トッテモ乱暴(らんぼう)で、邪悪(じゃあく)なカイブツなんだヨ。ソイツが、ボクのタカラモノをねらって、おそいかかってきたンダ」
マホロアは、そのときのことを思い出したのか、ブルブルとみぶるいをした。
カービィがたずねた。
「タカラモノって、なに?」
「ボクがご先祖(せんぞ)サマから受けついだ、タイセツなモノだヨ。ランディアは、ボクからタカラモノをうばい、ソレでもマンゾクせずに、追いかけてキタ。もうダメだと思ったとき、フシギなことが起きたンダ」
「ふしぎなこと?」
「クウカンが、急にさけたんだヨ! ワケがわからないウチに、ローアはそのさけ目に飛びこんだンダ。気がついたら、ローアは明るい空を飛んでいて、キズついたパーツがメリメリとはがれ落ちていって、地面にゲキトツしてしまった……というワケ」
メタナイトが、考えこみながら、つぶやいた。
「空間のさけ目……つまり、ハルカンドラが存在する宇宙と、こちらの宇宙とをつなぐ通路が開いた……ということか?」
「ウン! ローアが、異空間のミチを開いたンダ」
「この船が?」
「ローアは、ハルカンドラの古代のヒトビトが作り上げた、キセキの船なんだヨォ! トッテモふしぎなチカラをもってるンダ!」
マホロアは片手を上げ、スクリーンに映った赤い×印を示した。
「ダケド、こわれちゃったンダ。あの赤いシルシは、なくなったパーツだヨ。マストもウイングもオールも、なくなっちゃっタ。ソレに、百二十コのエナジースフィアも……」
「エナジースフィア?」
「ローアを動かす、エネルギーのモトだヨ。ハルカンドラの技術(ぎじゅつ)で作られた、フシギな歯車(はぐるま)ナンダ。ソレも、ゼーンブ、なくなっちゃったンダ……」
マホロアは、うなだれた。
「ローアをシュウリしなきゃ、帰れナイ……ナンとかして、パーツとエナジースフィアを見つけないと……」
カービィが、元気よく言った。
「見つければ、修理できるの? だったら、探そう!」
「……エ?」
「だいじょーぶ! ぼくが、見つけてあげる!」
カービィは、力強くさけんだ。
負けじと大声を出したのは、もちろんデデデ大王。
「オレ様が、必ず見つけ出してやる! カービィより、オレ様のほうがずっと頼(たよ)りになるぞ。心配するな!」
「エェ……ホント……?」
マホロアは、信じられないという表情でカービィたちを見た。
バンダナワドルディも、笑顔で言った。
「ぼくら、みんなでお手伝いします。マホロアさんが、ハルカンドラに帰れるように!」
「ホント……? ワァイ、アリガトウ!」
マホロアは飛び上がり、カービィに抱きついた。
「ミンナ、とってもシンセツなんだネェ! ボク、カンゲキしちゃったヨォ……!」
ただ一人、無言で考えこんでいるのは、メタナイトだった。ハルカンドラが実在しているという話が、真実なのかどうなのか、まだ確信がもてずにいるようだ。
マホロアは、さけんだ。
「ソウダ、ローアがシュウリできたら、ミンナをハルカンドラにショウタイしてあげるヨ!」
「……私たちを、ハルカンドラに?」
メタナイトが聞き返した。
「ウン! ハルカンドラがどんな星なのか、その目で確かめてみるといいヨ!」
「で、でも……」
ひるんだように、小さな声を上げたのは、バンダナワドルディだった。
「ハルカンドラは、ものすごく遠い場所にあるんでしょう? もし、もどれなくなったら、たいへんです……」
「ダイジョーブ!」
マホロアは、力強くうなずいた。
「モチロン、帰りはちゃんと、コッチの宇宙に送ってあげる! ローアなら、自由にコッチ
とアッチを行き来できるカラ、シンパイいらないヨォ!」
「それなら安心だわい!」
デデデ大王は腕組みをして、笑顔になった。
カービィは、目をキラキラさせて、マホロアにせまった。
「ねえ、ハルカンドラには、どんな食べ物があるの?」
「……エ? タベモノ?」
「ハルカンドラは、すっごい星なんでしょ? きっと、すっごいお料理があるんだよね? すっごいお肉料理とか、すっごいお魚料理とか、すっごいデザートとか……!」
「エ……エット……」
マホロアがたじたじとなっている間にも、カービィの想像はふくらんでゆく。
「きっと、山よりも高いハンバーガー・タワーが建っているんだよね!? 川には、食べきれないほどの、おさしみが泳いでるんだよね!? そして、草原はフルーツでうめつくされていて、そこに、あまいシロップの雨が降りそそいで、星ぜんぶがフルーツポンチになっちゃうんだよね……!?」
「エ……エエエ……!?」
マホロアは、なんと答えて良いかわからず、固まってしまった。
そこへ、大声を上げたのは、デデデ大王。
「何を言っとるんだ、カービィ!」
しかりつけるようにさけんで、デデデ大王はそっくり返った。
「ハルカンドラは、宇宙を飛び越える船を作れるほどの、ものすごい星なんだぞ! ハンバーガー・タワーや、フルーツポンチ草原なんぞ、あるものか!」
「ウ、ウン……!」
マホロアは、ホッとしたように、デデデ大王を見上げた。
デデデ大王は、こぶしをにぎりしめてさけんだ。
「ハンバーガー・タワーどころか、大地のすべてがお肉に違いない! ハルカンドラの火山からあふれ出るのは、スパイシーなステーキソース! 火山が噴火(ふんか)するたびに、星じゅうがデラックス・ステーキ祭りになるのだ!」
「わああ! 最高だね! 早く行きたいよ、ハルカンドラー!」
カービィとデデデ大王は、飛び回って歓声(かんせい)を上げた。
マホロアは、ぼうぜんとして言った。
「ア、アノ……キミたちのキタイには、こたえられないと思うんだケド……」
「気にするな、マホロア」
メタナイトが、冷ややかに言った。
「カービィやデデデ大王に付き合っていたら、いつまでたっても食べ物の話から抜け出せないぞ。無視するに限る」
「ウ、ウン……」
「本題に入ろう。この船の修理についてだが」
メタナイトは、てきぱきと話を進めた。浮かれていたカービィとデデデ大王も、おとなしく聞き入った。
「失われたパーツは、全部で五つだったな?」
「ウン。ソレと、エナジースフィアっていうハグルマが、百二十個」
「百二十個の歯車だと!」
デデデ大王は、うんざり顔になった。
「そんなもの、一つ残らず探し集めるなんて、気が遠くなるわい」
「デモ、ゼンブ集めなくちゃ、ローアを動かすことはできないんだヨォ……」
マホロアは、両手を組み合わせて、祈るようにデデデ大王を見上げた。
「オネガイ、ボクを助けて! エナジースフィアは、五つのパーツの近くに落ちてるはずなンダ。だから、五つのパーツを見つけるツイデに、エナジースフィアを集めるのはむずかしくないヨォ!」
「フン……」
デデデ大王は、たよられるとイヤと言えない性格だ。マホロアに見つめられて、重々しくうなずいた。
「まあ、オレ様に不可能はないからな。安心しろ、マホロア。オレ様が、なんとかしてやる!」
「ワァイ! アリガトウ、デデデ大王!」
「とにかく、五つのパーツがかんじんというわけだな。くわしく教えろ。五つのパーツとは、どんな物なんだ?」
マホロアはスクリーンを振り返り、制御(せいぎょ)パネルにふれた。
スクリーンがまたたき、次々に画像を映し出した。
「マスト、オール、エムブレム、そして左右のウイングだヨォ! どれも大きなパーツだから、見つけやすいと思うヨ!」
「なるほど」
メタナイトが、うなずいた。
「こんな物が空から降ってきたとなれば、住民たちが大さわぎをしているはずだ。とにかく、探しに行こう」
「行こう!」
カービィが、片手を突き上げてさけんだ。デデデ大王が、さっそく、駆け出した。
「みんな、オレ様に続け! 五つのパーツと百二十個のエナジースフィア、必ず見つけ出してやるぞー!」
「あ、待ってよ、デデデ大王!」
カービィが、急いで追いかける。バンダナワドルディとメタナイトもすぐに続いた。
マホロアは手を振り、笑顔で彼らを見送った。
「がんばってネェ、ミンナ! ボク、いい知らせを待ってるヨォ……ククク!」
困っている旅人・マホロアを助けるため、カービィ・デデデ大王・バンダナワドルディ・メタナイトの、4人の大冒険がいよいよ始まります!
『星のカービィ 天駆ける船と虚言の魔術師』れんさい第3回(4月8日更新予定)に続く
『星のカービィ 天駆ける船と虚言の魔術師』は4月27日(水)発売予定!
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書籍情報
あくびが出るほど平和な、プププランドの昼下がり。
ショートケーキを持って仲良くピクニックをしようとしていたカービィ、デデデ大王、バンダナワドルディそしてメタナイトの目の前で、晴れた青い空を切り裂いて、突如、巨大な船が落ちてきた。
ふしぎな光につつまれた、その船の名は――ローア。
すでに滅びた超古代文明ハルカンドラが生み出した、奇跡の船。
カービィたちは、船の持ち主だという旅人マホロアに助けを求められ、墜落とともに失われてしまった、船のパーツを探すことになった。
遺跡や海の底に雪の中…そして異空間をかけめぐる、大冒険が始まる!
【解説:熊崎信也「星のカービィ」シリーズ ゼネラルディレクター】
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