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◆第1回
4月27日発売の「星のカービィ Wii」ノベライズ『星のカービィ 天駆ける船と虚言の魔術師』を、ひと足先に試し読み!
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プロローグ
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火山の下の大迷宮は、地上の熱気(ねっき)がうそのように冷え切っていた。
ごつごつした溶岩が複雑な迷路を作り上げ、地下深くへと続いている。
その真っ暗な迷路を、ふわふわとおどるように進んでゆく者があった。
ランプもたいまつも持っていないが、彼の周囲は、ほんのりと明るい。魔法で光を灯ともしているのだ。
冥府(めいふ)へと続くかのような急な下り坂なのに、魔術師の足取りは、まるで天に上るように軽やかだ。
なぜなら、彼は知っているから。
深い深い闇の底に、希望が眠っていることを。
地下へ、地下へと下っていくうちに、しだいに、音のひびき方が変わってきた。
前方に、巨大な空間が開けているためだ。魔術師は息をはずませ、小走りになった。
まもなく、地下道はとぎれた。そこから先は、暗黒の大空洞(だいくうどう)だ。
その大空洞(だいくうどう)に、横倒しになっているのは、巨大な船。
魔術師は、両手から光を放ち、船のすみずみまでじっくり見渡した。
心ゆくまで見届けると、彼は、感嘆(かんたん)のため息とともに叫んだ。
「ローア! ホントに、ホンモノの、ローアだァ……うわァァ!」
ローア――それは、はるかな太古(たいこ)に作られたという、伝説の船の名。
かつて、この星には、きわめて高度な技術力をもつ文明がさかえていたといわれている。
いたるところに、天をつくような建物が建ち並び、その合間を超高速の乗り物が走り回っていた。街角では機械仕掛けの音楽がかなでられ、幾台ものロボットが街路(がいろ)をぴかぴかにみがき上げていた。
ちり一つなき、かんぺきな都(みやこ)。
ローアは、その栄華(えいが)を見守るかのように、いつもゆうゆうと空を渡っていた。
古代の住民たちは、ローアを見上げては手を振り、時には祈りをささげた。彼らはローアを、ただの船とは考えていなかった。
心をもつ船。天空の王。
自分たちの文明が生み出した奇跡(きせき)の船ローアを、古代の住民たちは愛し、うやまい続けた。
突如(とつじょ)として破滅(はめつ)が降りかかり、華やかな文明があとかたもなく滅ほろび去る、その最後の日まで。
魔術師は、しばらくの間、うっとりして立ち尽くしていた。
ローアからは、何の反応もない。
ローアの動力は遠い昔に停止し、その意識は永(なが)いねむりについていた。
魔術師は、ふわりと宙(ちゅう)に浮いて、眠れる船へと近づいていった。
「待っててネ、ローア。ボクが……ボクが、キット、キミをよみがえらせル。キミのチカラがあれば、ジャマなアイツをたおしテ、スベテがボクのモノに……!」
魔術師は、割れた船窓(せんそう)をくぐってローアの内部にもぐりこんだ。
船の中は、古代の遺跡のように静かで、冷たく、よどんでいた。
魔術師は慎重(しんちょう)に進んで行き、ローアの中心――動力室を見つけた。
「ココだ……!」
魔術師は座りこみ、夢中になって、ローアの修理に取りかかった。
幸い、重要なパーツはほとんど壊れていなかった。ローアを眠らせている封印(ふういん)さえとければ、あとは、かんたん。
しばらく作業を続けた後、魔術師は顔を上げた。
「これで、ヨシ……目覚めヨ、ローア……!」
魔術師の声に応じて、どこかで歯車が回り出す音がした。
永遠とも思えるような時をへて、ついにローアの封印が解かれたのだ。
制御パネルがさんさんと輝き、スクリーンにめまぐるしく古代文字が浮かび上がった。
魔術師は両手を広げ、歓喜(かんき)の声でさけんだ。
「ワァァイ! ハジメマシテ、ローア! ボクは、マホロア。キミの……キミの、新しいご主人サマだヨォ!」
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彼方(かなた)からの旅人マホロア 前編
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気持ちのいい風が吹く、プププランドの昼下がり。
草原の小道を走っていく三人組がいた。
先頭はカービィ。その次にデデデ大王。いちばん後ろがバンダナワドルディだ。
カービィは、頭の上に大きなショートケーキをのせている。
デデデ大王が、ハラハラした声でさけんだ。
「気をつけろ、カービィ! もっとゆっくり走れ。ころんだらゆるさんぞ!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」
カービィは、大はしゃぎ。飛ぶような勢いで走ってゆく。
ショートケーキは、バンダナワドルディが作った、本日のおやつだ。デデデ大王はひとりじめしようとしていたのだが、運悪く、遊びに来たカービィに見つかってしまった。
大喜びのカービィが「いいお天気だから、丘の上で食べようよ!」と提案し、大王が「なんで、きさま、オレ様のおやつを食べる気満々なんだー!?」と猛抗議(もうこうぎ)したものの、結局押し切られて、三人でピクニックをすることになったのだ。
カービィとデデデ大王の大声は、草原いっぱいにひびき渡った。
それを耳にして、うるさそうに顔を上げたのは、メタナイトだった。
彼は、木陰(こかげ)で読書にふけっていた。久々に戦艦ハルバードを離れ、部下たちとも別行動を取って、プププランドで休暇(きゅうか)を過ごすことにしたのだが――。
「そうぞうしいことだ」
仮面の下で、つい苦笑がもれる。
彼は、プププランドの美しい風景をこよなく愛しているのだが、ここで暮らす住民たち――特にカービィとデデデ大王――の騒がしさには、常々、あきれている。
読書に集中しようと、本に視線を戻したときだった。
ふいに、強い光がさした。
メタナイトも、カービィたちも、驚いて顔を上げた。
青い空に、奇妙(きみょう)なゆがみが生じていた。
巨大な力が、プププランドの空を突きやぶろうとしているかのようだ。空間が星形にさけ、その向こう側から強い光が差し込んでいる。
その裂け目から、巨大な何かが飛び出してきた。
カービィはびっくりして、頭にのせていたケーキを落っことしてしまった。
バンダナワドルディが、悲鳴を上げた。
「わああああ! だ、大王様! あれは……!?」
その何かは、煙(けむり)を吹き上げながら落下していく。デデデ大王はさけんだ。
「船だ! 空飛ぶ船だぞ!」
デデデ大王は、船が落ちていく方角(ほうがく)へ、走り出した。
カービィもわれに返って、大王を追いかけた。もちろん、バンダナワドルディも。
その間にも、船は落下を続けている。太いマストが折れ、二枚のウイングとオールが吹き飛び、船首のエムブレムがはがれ落ちてゆく。
「大変だ……! あんな物がだれかにぶつかったら、大ケガをするぞ!」
デデデ大王は血相(けっそう)を変え、スピードを上げた。
巨大な船は、轟音(ごうおん)を立てて墜落(ついらく)した。森の木々がなぎ倒され、大地がゆれた。
カービィたちが息を切らせて駆けつけたとき、ちょうど、メタナイトも追いついた。
「カービィ!」
「あ、メタナイト!」
カービィはメタナイトを振り返って、たずねた。
「この船、なんだろう? 見たこともないよ。メタナイト、知ってる?」
「いや、私も初めて見た。空が突然さけて、飛び出してきたように見えたが……」
四人は、そろって空を見上げた。
先ほど生じた星形のさけ目は、もう消えている。頭上に広がっているのは、いつも通りの、のどかなプププランドの青空だった。
デデデ大王が言った。
「乗組員(のりくみいん)は無事か?」
四人は、あらためて船を見た。
もとは帆船(はんせん)のようだが、ほとんどのパーツが吹き飛んで、むざんな姿だった。マストもウイングも失って、船というより、大きな建物のように見える。
「とにかく、助け出すぞ。きっと大ケガをしているだろうから、手当てをしてやらないと……」
デデデ大王が、一歩前へ踏み出したときだった。
まるで、その言葉が通じたかのように、船のとびらが音もなく開き、短いタラップが下りてきた。
船の中は、明るい光に満たされている。
「お、開いたぞ!」
デデデ大王は、なんの疑問(ぎもん)も持たずに、タラップを上ろうとした。
メタナイトが止めた。
「待て。ワナかもしれない。中へ入る前に、よく調べたほうがいい」
「ああ? のんきなことを言ってる間に、手遅(ておく)れになるかもしれんのだぞ!」
「だが、うかつに近づくのは危険だ。よく考えたまえ。この船の出現の仕方は、あまりに異常だったではないか。それに、今の扉の開き方もみょうだった。まるで、私たちを中へ招き入れようとしているかのようだ」
「それが何だ! ケガ人を放っておけるか!」
二人が言い争っている間に、カービィがタタタッとタラップを駆け上がって行った。
バンダナワドルディが、あわててさけんだ。
「待って、カービィ! 一人で行っちゃダメだよ、あぶないかもしれないから……!」
しかし、カービィは足を止めない。
メタナイトとデデデ大王は顔を見合わせ、言い争いを中断して、カービィを追いかけた。
とつぜんプププランドに落ちてきた、空飛ぶ船。
船の乗組員(のりくみいん)は無事? そして、いったいだれで、どこから来たの?
次回、カービィたちが、ふしぎな船の中に踏みこみます!
『星のカービィ 天駆ける船と虚言の魔術師』れんさい第2回(4月1日更新予定)に続く
『星のカービィ 天駆ける船と虚言の魔術師』は4月27日(水)発売予定!
購入特典もあるからぜひチェックしてみてね☆
書籍情報
あくびが出るほど平和な、プププランドの昼下がり。
ショートケーキを持って仲良くピクニックをしようとしていたカービィ、デデデ大王、バンダナワドルディそしてメタナイトの目の前で、晴れた青い空を切り裂いて、突如、巨大な船が落ちてきた。
ふしぎな光につつまれた、その船の名は――ローア。
すでに滅びた超古代文明ハルカンドラが生み出した、奇跡の船。
カービィたちは、船の持ち主だという旅人マホロアに助けを求められ、墜落とともに失われてしまった、船のパーツを探すことになった。
遺跡や海の底に雪の中…そして異空間をかけめぐる、大冒険が始まる!
【解説:熊崎信也「星のカービィ」シリーズ ゼネラルディレクター】
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