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伊吹先輩に、バレンタインチョコを渡したい人が、あまりにもたくさんいることを、あらためて思い知ったさくら。
でも、どんなにライバルがいても、さくらのやることはただ一つ、「想いをこめてチョコを作ること」!
さっこ&加代ちゃんと、楽しいお菓子づくりの始まりです♪
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♪3人で、想いをこめて
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バレンタインの前日。
加代ちゃんの家には、チョコレートの甘い香りがただよっていた。
「オキテはあるけど、チョコ、なんとか渡せるようにがんばろう!」
って、気を取り直した私たちは、3人でいっしょに、チョコ作りをしてるんだ。
「このチョコを湯せんで溶かして、シリコンの型に半分だけ入れて、冷蔵庫で冷やして固める、と……。ふんふん」
加代ちゃんはレシピを見ながら、大きなボウルに、白い板チョコをバキバキと割り入れた。
お菓子作りが得意なさっこは、むずかしいチョコに挑戦するみたい。
何枚もあるレシピを真剣に読みながら、袋から材料を取り出していた。
「まずはカップケーキを作らなきゃ。マーガリンを溶かす……。加代ちゃん、レンジ借りてもいい?」
「もちろん。好きに使って」
「ありがとう。えーっと、次は……。小麦粉と、ココア、ベーキングパウダーをいっしょにふるっておく。よし!」
さっこはお皿に入れたマーガリンをレンジにかけると、粉ふるいにいろいろと粉を投入した。
なれた手つきに、私は感動してしまった。
「さっこ、手際がいいねー! さすがだよ」
「ていうか、『まずはカップケーキを作る』ってすごいよね。カップケーキがゴールじゃないんだ」
「だってバレンタインだもん。カップケーキをチョコでコーティングするんだよ」
「すごいね~~!」
私と加代ちゃんが感心してる間にも、さっこはどんどん手を動かす。
「さくらは何作ってるの?」
「私はビターな生チョコだよ」
ビターチョコを、包丁で刻みながら答える。
「先輩は甘いものそんなに好きっぽくないから、甘さひかえめなほうがいいかなって思って」
「ほろ苦い感じの、ビターな生チョコか~。伊吹先輩、よろこびそう!」
夏休みに、幼稚園演奏会の実行委員をしたとき、暑さでバテてしまった私に、伊吹先輩はいちごミルクのジュースを買ってきてくれた。
私がいつもいちごミルクを飲んでいたのを、先輩はなぜか知ってたみたい。
そのとき、先輩は「そんな甘いの、よく飲めんな」って言ってた。
だからきっと、甘いものが好きじゃないんだろうなって、わかったんだ。
ほろ苦い生チョコなら、伊吹先輩も食べてくれるかもしれない。
お鍋(なべ)であたためた生クリームに、きざんだビターチョコを入れた。
「よろこんでくれるといいなぁ」
願いをこめて、生クリームとビターチョコを、泡立て器でゆっくり混ぜ合わせた。
「よろこんでくれるよ!」
「うん! 絶対大丈夫!」
さっこと加代ちゃんの言葉に背中を押されて、心配事よりも、わくわくする気持ちのほうが大きくなっていく。
「さっこと加代ちゃんのチョコも、よろこんでもらえるよ!」
「だといいなぁ~。村中先輩、甘いの好きみたいだし」
「私も、絶対に高田先輩を感動させるよ!」
想いが伝わりますように、って願いながら、手を動かす。
3人でいっしょにお菓子作り、すごく楽しいな。
さっこと加代ちゃんがいてくれて、本当によかった。
♪
「そろそろ、焼き上がったかな」
さっこが、オーブンの中をのぞきこんで言った。
「すごい! もうカップケーキができちゃうんだ!」
オーブンからは、いい香りがただよっている。
ふっくらとふくらんだカップケーキを見たら、私の気持ちもはずんできた。
「楽しみにしてて。さくらと加代ちゃんの分も作ってるから」
「私も! 生チョコ、ふたりの分も作ってるよ」
「私もだよ。みんなで食べようと思って、たくさん作ってるんだ」
「じゃあ、できあがったら試食会だね!」
「「うん!」」
さっこのカップケーキも、加代ちゃんのチョコも、とっても楽しみ!
ハートの型にチョコを流し入れながら、加代ちゃんはうーんとうなる。
「あとは、どうやって渡すかなんだよな~~」
「そうだよね。引退前だから、みんなオキテがあるもんね」
「『いつもお世話になってます!』って、義理チョコっぽく渡せば大丈夫かな~」
「それいいね!」
「あ! ひらめいた!! 義理チョコっぽく渡すけど、中には『好きです』のメッセージを入れちゃうとか!?」
策士・さっこのひらめきに、加代ちゃんは真っ赤になった顔を両手でかくした。
「わ~~どうしよう~~。メッセージ入れちゃおうかな~~。ドキドキしてきた!」
「さっこはどうするの?」
「私は直球勝負! 明日の部活中に、『部活が終わったら、いつもの公園に来てください』ってメッセージ送るんだ」
さすがさっこ。感心していると、加代ちゃんが食いついた。
「いつもの公園って!?」
「ああ、クリスマスプレゼントを渡すときに先輩を呼び出した、近くの公園だよ。たま~にそこで待ち合わせして、映画を観に行ったりしてるんだ。観に行くのはホラー映画だから、ロマンチックなのかなんなのか、わかんなくて笑えるでしょ」
「ロマンチックだよ~~~~!」
「ふたりの『いつもの場所』があるなんて。すてき!!」
おいしそうに焼き上がったカップケーキに、あやしげな紫色と緑色のチョコを塗りたくりながら、さっこが私を見た。
「さくらは、伊吹先輩にどうやって渡すの?」
「うーん。どうしようか、なやみ中なんだ」
「そういえば!」
冷蔵庫からチョコを出していた加代ちゃんが、ガバッと振り返った。
「伊吹先輩のバレンタイン伝説、知ってる?」
楽しいお菓子作りで急に話題に出てきた、『伊吹先輩のバレンタイン伝説』……!
次回、その伝説が明かされる!! おたのしみに♪
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