角川つばさ文庫の人気シリーズ『神スキル!!!』最新8巻が、【さし絵ぜんぶカラー】のトクベツ版で7月8日(水)に発売! 発売前にドドンとイラストつきで、ためし読みしちゃおう!
めちゃくちゃすごい能力〈神スキル〉を持った神木三きょうだいは、豪華客船で二泊三日の旅へ!
海上プールや夕食ビュッフェで、特別な夏休み♪ になるはずが……朝陽たちの正体をうたがう宮野警部と再会!? しかも船上のシークレット・パーティーで3億円の王冠がねらわれて……長男・星夜のようすもどこかおかしい?
海の上で大ピンチ! 王冠もスキルのヒミツも、きょうだいのきずなも守り抜け! 波乱の豪華客船出港――!(9月30日(水)23:59まで公開)
『神スキル!!! 夏休みはきらめく豪華客船!?』
(大空なつき・作 アルセチカ・絵)
7月8日発売予定
※これまでのお話はコチラから
◆5 夢のバイオリン
少し髪のはねたお兄さんは、瀬戸響(せと・ひびき)と名のった。
瀬戸さんは、この船の専属バイオリニストで、さっきは練習に来たところだったらしい。
どうしてもお礼がしたいと言う瀬戸さんに負けて、おれは部屋へお邪魔することにした。
顔もふかなきゃいけなかったし――十二階のスイートルームを見てみたくなったから。
「うわあっ、広い!」
おれは、大きな窓に張りつきながら声をあげる。
全面ガラス張りのリビングにダイニング、奥には寝室。おれたちの部屋の二倍以上の広さだ。
天井も高い。家具も豪華で……何より、部屋のどこからでも海が見える!
「気に入ってもらえたなら、よかったよ」
瀬戸さんは、笑いながら、山盛りのアイスとくだものが入ったパフェをテーブルに置く。
生クリームとキャラメルソースがかけてある特別バージョンだ。
「これは、スイートルームでしか頼めないパフェなんだ。さっきのお礼に、よかったら食べて」
「いいんですか? ありがとうございます!」
あー、やっぱりめちゃくちゃツイてるかも!
勢いよく食べはじめると、瀬戸さんが、笑いながらおれの向かいのソファに座った。
「お礼を言うのは、オレのほう。楽譜を守ってくれて、ありがとう。すごいジャンプだったね」
「そう? ま、運動はけっこう得意なんだ!」
「そうなんだ。それにしても驚いたなあ。風に乗った楽譜が、なんで船の中に戻ってきたんだろう。風向きが急に変わったのかな?」
「あー。さ、さあ……」
うっ! 神スキルで引きよせたなんて、絶対に言えない。早く話題を変えないと。
「そ、そういえば、スイートルームに泊まってるなんて、すごいね。瀬戸さんって、もしかして、すごく有名なバイオリニストなの?」
「あはは、まさか。船の専属バイオリニストは、みんなここに泊めてもらえるんだ。この船のオーナーは、若い音楽家の支援もしているからね。オレも、まだまだ音楽家の卵だよ」
この船に乗って修行しているところなんだ、と瀬戸さんが言った。
「大変だけど、楽しいよ。いろんな国をめぐって、たくさんの人の前で演奏して……いろんなお客さんに出会うんだ。だいぶ前に、乗船中に図書室の本を全部読みきろうとする親子を見かけたこともあったね。お父さんも男の子も、ものすごい速度でページをめくっていて驚いたなあ」
「へえ、おもしろい! 船の中だけでも、いろんな人と出会えるんだ」
瀬戸さん、目がキラキラ輝いてる。この仕事が本当に楽しいんだな。
「まあ、もちろん、オレの一番大事な仕事は、バイオリンの演奏だけどね。さっきの楽譜の曲は、明日の夜に演奏する曲なんだ。ソロで演奏する、大事な曲なんだよ」
「明日の夜……ってことは、もしかして、あのシークレット・パーティーで!?」
三億円の王冠〈クリスタル・クラウン〉が公開されるっていう、あの!?
「そうだよ。オレの演奏は王冠の引き立て役みたいなものだけど、それでも大役なんだ。クリスタル・クラウンは、近くで見ると本当に美しいから、朝陽くんにもぜひ見てほしいな」
「絶対見るよ。おれも、楽しみ。瀬戸さんは、もう何回もクリスタル・クラウンを見てるの?」
「もちろん。船のいろんなイベントで演奏をするけど、一番大事な仕事は、毎回のパーティーですばらしい演奏をすることだからね。でも……オレはもともと、落ちこぼれのほうなんだけど」
「えっ、そうなの? 船の専属バイオリニストに選ばれるって、ものすごいことだと思うけど」
「まあ、それはね。でも、これまで、いろんなオーディションに挑戦しては、何度も落選していたんだ。バイオリニストになるために、たくさんお金もかかってね」
もうあきらめようと思ったときもあったんだ、と瀬戸さんは続けた。
「でも、そんなとき、家族が応援してくれてね。いろんな国で、いろんな人の前で演奏がしたい――そんなオレの夢を、大事にしてほしいって。おかげで、勇気を持って挑戦し、この仕事をつかみとれた。家族がいたから、オレの夢はかなったんだよ」
「そうなんだ……その気持ち、ちょっとわかるかも」
おれが困ってるときも、まひるや星夜が、そっと支えてくれる。力になってくれるから。
瀬戸さんの家族も同じなのかな。どんなときも瀬戸さんを信じて、支えてあげて……。
それって、すごいことだよな。その応援に実力でこたえた瀬戸さんも、かっこいい。
「今度、家族をこの船に招待するつもりなんだ。両親と、弟と妹をね。二人とも、年下とは思えないくらい、しっかりしててさ」
「へえ、三きょうだいなんだ。じつは、おれも! この船にも、いとこのお兄さんと、兄と姉の四人で乗ってるんだ。今は、違う場所で船を楽しんでるところで――」
あ、そうだ! せっかくだし、ちょっと聞いてみてもいいかな?
「瀬戸さんはもう何度もシークレット・パーティーで演奏してきたんだよね? だったら、お願い! パーティーでは、一人だけ、選ばれた人が王冠をかぶれるって聞いたんだ。当選確率がアップする方法があるなら、教えて!」
選ばれやすいタイミングや立ち位置を教えてあげれば、まひるが飛びあがって喜ぶ!
「ああ、王冠の抽選ね。残念だけど、抽選は乗船番号をもとにその場で行われるから、当選する確率は変えられないかな」
「はー。やっぱり、がんばって当たるのは無理かあ」
目立ったほうが当たりやすいなら、逆立ちでもバク転でもしようと思ったのに!
「七百分の一なら、当たる可能性なんてほとんどゼロだよね? 部屋でアイス食べながらトランプでもしてたほうがいいかなあ」
「まあまあ。かぶれなくても、本物を見ることはできるから……そうだ! 代わりといっては何だけど、パーティーのヒミツを、一つだけ教えてあげるよ」
明日のパーティーまで、だれにもナイショだよ? と、瀬戸さんがささやいた。
「じつは、クリスタル・クラウンが公開されるシークレット・パーティーでは……参加者だけに配られる特別なスイーツがあるんだ。この船のメインシェフが作る、とっておきのね」
――特別なスイーツ?
「それって、今食べてるパフェより、何倍もすごいスイーツってこと!?」
瀬戸さんが、笑顔でうなずく。
プールで飲んだドリンクも、アイスも、このパフェも、ぜんぶおいしかったのに。
それ以上なんて……おれにとっては、王冠以上に大事な情報かも!
「スイーツは全員もらえるから、楽しみにしてて。オレも、みんなをあっと驚かせる、とびきりの演奏をするよ」
「うん。絶対ききに行く!」
おれの返事に、瀬戸さんはうれしそうにほほ笑むと、ソファから立ちあがった。
「もうすぐ打ち合わせの時間だから、そろそろ行くよ。朝陽くんはどうする?」
「おれは、一回部屋に戻ろうかな。だれか帰ってきてるかもしれないし」
残りのパフェをぱくぱくと食べおえて、瀬戸さんと部屋を出ると、遠くから楽しげな声がした。
プールのお客さんの声? あとで、もう一回行ってもいいな。
「そうだ、朝陽くん。じつは、さっき、楽譜を拾ってくれた十一階のデッキって、知る人ぞ知る、この船のおすすめスポットなんだ」
裏のレストランが閉まっているときは、特に人がいないんだよ、と瀬戸さんが言った。
「朝、あそこから見る日の出が絶景なんだ。だから……すごく早い時間にはなるけど、よければ、明日の朝、あのデッキで待ちあわせしない? 朝陽くんの家族もいっしょに」
「わかった。絶対みんなで行く。あー、船酔いで寝こんでるいとこは来られるかわからないけど」
「あはは。もちろん、無理はしないで。でも、楽しみに待ってるよ」
待ちあわせの時間を決めて瀬戸さんと別れると、おれはエレベーターへと歩きだす。
あ~、楽しかったな。船内探検、大成功!
おいしいアイスも食べられたし、おれだけのお気に入りの場所も見つけたし。
何より、瀬戸さんっていう友だちもできた。
「明日の朝、早く起きられるかだけは、ちょっと心配だけど――」
ちらっと後ろを振りかえると、通路の先で、瀬戸さんが体の大きなお客さんと話しながら、サインを書いている。折りたたまれた紙で少し書きにくそうだけど、うれしそうな顔だ。
一瞬、目が合った瀬戸さんが、笑顔で手を振ってくれる。
おれは一回大きく手を振って走りだす。足が、自然とスキップになった。
シークレット・パーティーの情報も仕入れたし、みんなに早く自慢したい!
「すぐ部屋に戻ろうっと。もしかしたら、ハル兄から何か連絡が来てるかも……」
あれ?
ごそ、ごそごそっ
手で、ポケットをもう一度さぐる。でも、何度やっても、何にも手が当たらない。
「クルーズカードが…………ない!?」
なんで? 船に乗ったときに、しっかりポケットにしまったはず――あ!
プールに行く前に着替えたとき、部屋の中に置いてきたんだ。あ~、サイアク!
で、でも、だいじょうぶ。きっとまひるか星夜のどっちかが先に部屋に戻ってるはず。ドアをノックして、中から開けてもらえば……。
って、部屋の番号って、何番だったっけ?
「……カードを見ればわかると思って、覚えてなかった」
ひゅうっ
急に、背筋が寒くなる。
ヤバい。もしかして、おれ、船の中で遭難する やっぱり、絶対ツイてない!
持ってきた船内マップすれすれに、顔を近づける。
えーっと、何階だったっけ。八階? 十階? あー、それすらわからない。
「おれにまひるの記憶力があればなあ。船の中じゃ、スマホで連絡もできないし……」
「部屋が、わからなくなったの? 今はここだけど」
りんとした声を響かせながら、だれかが、おれの船内マップを後ろから指さす。
女の人? 他のお客さんかな。落ちついていて、よく通る声――。
「どんな部屋か、わかる?」
「え? ええっと……四人部屋です。二台のベッドと、ソファベッドで寝るタイプで――」
「それなら、九階ね。客室は三百以上あるけど、四人部屋は意外と少ないの。確実な番号は、五階の受付で確認するといいわ。本人だと確認できれば、船員が案内してくれるから」
「ほんと!?」
ああ、よかった! これで、船内をさまよう、ぼうれいにならずにすむ!
「は~、ありがとうございます。やさしい人が来てくれて、助かった……」
「どういたしまして。でも、やさしくしてもらったからって、すぐ信じちゃだめよ。相手の心の中はわからないんだから。ね、朝陽くん」
「えっ」
なんで、おれの名前を知って――。
振りむいたおれの目に、後ろで一つにまとめた、つやつやとした黒髪が飛びこんでくる。
上品な花柄が入った白いワンピースに、白い革靴。
いつもの白いスーツよりはやさしい雰囲気だけど、その眼光の鋭さは、いつもと同じ――。
いや、いつも以上だ。
目的のためなら手段を選ばない決断力を武器に、数々の難事件を解決してきた〈鬼の宮野(みやの)〉。
しかも、おれたち〈協力者〉の正体も追っている――。
「みっ、みみみ、みみみみみみ、宮野警部!?」
それに、奥! カジュアルなシャツに短パン姿の、部下の青柳(あおやぎ)刑事もいる!
「「朝陽!」」
通路の向こうから、まひると星夜の呼ぶ声がする。
先にやってきたまひるが、ロープで作った髪飾りを、おれの前で自慢げに揺らした。
「ねえ、見て見て。このお花の形の髪飾り、船員さんから教えてもらったロープワークで作ったの! かわいいでしょ? あー、やっぱり船の旅って最高!」
「ありがとう、朝陽。おかげで、ゆっくり本が読めた。ここの図書室は、思っていたよりずっとすごかったんだ。大きな図書館でも見たことがないような船の怪談本まで置かれていて――って」
「「宮野警部!?」」
まひるも星夜も、気づくのが遅い! やっぱり、みんな浮かれてる!?
「みんな、こんにちは。豪華客船をまんきつしてるみたいね」
「えっ、まあね。ぜんぶタダだし……じゃなくて! 宮野警部と青柳刑事が、なんでここに!?」
「……それがね」
宮野警部は切れ長の目を細めると、おれの耳元にそっと口を寄せた。
「じつは、匿名の情報提供があったの。この船に、重大事件の解決にいくつも関わった〈協力者〉が乗る、とね」
★<ためしよみ・第6回>へ続く★
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