角川つばさ文庫の人気シリーズ『神スキル!!!』最新8巻が、【さし絵ぜんぶカラー】のトクベツ版で7月8日(水)に発売! 発売前にドドンとイラストつきで、ためし読みしちゃおう!
めちゃくちゃすごい能力〈神スキル〉を持った神木三きょうだいは、豪華客船で二泊三日の旅へ!
海上プールや夕食ビュッフェで、特別な夏休み♪ になるはずが……朝陽たちの正体をうたがう宮野警部と再会!? しかも船上のシークレット・パーティーで3億円の王冠がねらわれて……長男・星夜のようすもどこかおかしい?
海の上で大ピンチ! 王冠もスキルのヒミツも、きょうだいのきずなも守り抜け! 波乱の豪華客船出港――!(9月30日(水)23:59まで公開)
『神スキル!!! 夏休みはきらめく豪華客船!?』
(大空なつき・作 アルセチカ・絵)
7月8日発売予定
※これまでのお話はコチラから
◆3 船の上のバカンス!
――まさか、最初の目的地が医務室になるなんて。
だれもいない廊下で待っていると、ドアが内側から大きく開く。
中から出てきたのは、白衣の男の人。
船医――この船のお医者さんだ。
先生は、自分の胸ポケットについた名札を見せた。
「お待たせしてすみません。船医の佐久間です。若月さんには、船酔いの薬を飲んで横になってもらいました。体調は少し落ちついたようです」
「はーっ、よかった」
おれは、大きなため息をつく。
ほんと、一時はどうなることかと思った。うなりつづけるハル兄をなんとかエレベーターに乗せて、五階の受付に連れていって、それから医務室に行って、先生に事情を説明して――。
「でも、なんで船酔いしたんだろ。今も、ほとんど揺れてないのに」
「船酔いには、個人差がありますから。それでも、若月さんほどの酔いは、かなりめずらしいですね。この船は大型船なので、あそこまで酔うほどの揺れではないはずなんですが……」
「あ、あはは……」
おれもそう思う! いつものハル兄の運転での揺れのほうが、十倍は大きいし……。
もしかして、ハル兄は、自分で運転してるときは車が揺れてるって気づいてない?
あの神ヘタい運転がうまくなる可能性は、低いってこと
「でも、船の中にこんな立派な医務室があるなんて思わなかったな。本物の病院みたい」
「船の上だからこそ、体調不良の人が出ますから。乗員乗客、合わせて千人の健康を守るため、医務室の設備にも力を入れています。検査室や入院用の部屋も準備していて……」
それにしても設備を増やしすぎだって言われていますけど、と佐久間先生が照れながら言った。
「若月さんには、体調がよくなるまで、となりにある休憩用の客室で休んでもらいますね。何かあったら部屋の電話に連絡するので、安心してください。みなさんは、船の旅を楽しんで」
「よろしくお願いします」
さっと頭を下げた星夜に、佐久間先生はうなずくと、医務室に戻っていく。
ドアが閉まった瞬間、おれたち三人は、はーっとため息をついた。
あー、安心して力が抜けた。とりあえず、なんとかなった?
まひるが、エレベーターのほうへ歩きだしながら言った。
「親切な先生がいてよかった! でも、ハル兄、だいじょうぶかな。顔色悪かったよね」
「先生もああ言っていたし、だいじょうぶだろう。問題は、この後どうするかだな」
星夜が言った。
「部屋で待つこともできるけど、それこそハル兄が落ちこむかもしれない。心配ではあるけど、オレたちなりに楽しんだほうがいいかもしれないな」
「うーん、たしかに」
おれたちがずっと部屋で過ごしたって知ったら、ハル兄は絶対に悲しむもんな。
むしろ楽しんでる姿を見せて、安心させてあげないと。
「ハル兄の体調がよくなるまで、遊びついでに、揺れの少ない場所やハル兄が楽しめそうな場所を見つけておくのもいいんじゃない?」
「たしかにね。あっ、そうだ! 船内探検をして、ハル兄のための専用カタログを作らない? わたしたちで、船のおすすめスポットの写真を撮って、どこに行きたいか選んでもらうの!」
「それ、賛成!」
ハル兄、絶対喜ぶ。それに、なんだか、おれたちだけの特別な旅ってかんじがする!
星夜が、やさしくほほ笑んだ。
「それで、どこから行く? そんなアイディアを出すくらいだから、まひるにはすぐに行きたいスポットがあるんだろ?」
「もっちろん! 探検の最初にふさわしいのは、ただ一つ。クリスタル・ダイヤ号の一番の目玉、海の上のプール! この行き先に文句がある人は~」
「「いない!」」
おれたちは急いで部屋に戻ると、水着に着がえて、上からパーカーをはおり、短パンをはく。
あのまひるだって、新しく買った水着の自慢を忘れるくらいの大いそぎだ。
それから、すぐにまた部屋を飛びだして、エレベーターで十二階に上がる。
通路を抜けてガラス張りのドアを開けると、青い世界が目の前に広がった。
――天井がない。
海みたいに青いプールの上は、抜けるような青空だ。
「これが、海の上のプール!?」
こんなに空が近いなんて。しかも、ウォータースライダーまである!
まひると星夜も、プールに近づいた。
「きれいで、落ちついたプールだな。でも、潮の香りがする……もしかして、海水なのか?」
「わあっ、太陽の光で水がキラキラしてる。真っ白なデッキチェアもおしゃれ!」
「それより、せっかくプールに来たんだし、スライダーに行こう。ほら、あの浮き輪、三人まで乗れるって!」
二人の背中を押して、奥にあるウォータースライダーまで来ると、青いチューブを見あげる。
大きなスライダーだ。ヘビみたいにうねるチューブは、二階分くらいの高さがある。
……よしっ!
入り口に置かれている専用の大きな浮き輪を取って、カンカンと音を立てながら階段を上る。
上に行くにつれて、海から吹きつける風が強くなる。
まわりは、見わたすかぎりの青。
まるで、海に飛びこむスライダーみたいだ!
三人乗りの浮き輪をスライダーの流れに置くと、おれが先頭に、まひるが真ん中に、星夜が一番後ろに座る。全員が足を上げれば、あっという間にすべりだしそうだ。
係のお姉さんが、おれたちを笑顔で見おろす。
「それでは、カウントがゼロになったら、足を上げてください! 3、2、1、ゴー!」
ばっ!
――シーン
……ええっと、前に進まないんだけど。
おれは、後ろで無理やり足をふんばっているまひるを、あきれた顔で振りかえる。
「まひる……」
「わかってる。わかってるから! でも、まだ心の準備ができてなくてっ。あと、八百八十八秒くらい時間が必要っていうか~~~~!」
「八百八十八秒だと、十五分はあるな。このスライダーを十回はすべれそうだ」
「そのビミョーな数字、なに その時間が終わっても、まだって絶対言うやつ!」
後ろに人も来てるし、時間切れ!
強く床をけって浮き輪を前に押しだすと、日差しがさえぎられて、視界が、さっと暗くなる。
スライダーのチューブに入った――あとはすべるだけ!
「きゃあ~~~~!」
まひるが、悲鳴をあげる。
チューブを二つ抜けた瞬間、浮き輪が、ぐんと右に曲がる。
明るい。屋根がなくなった。外に見えるのは――。
空だ!
雲一つない、真っ青な空。体の下の透明なチューブの向こうに、海も見える。
空と海の間を、すべってる!
はるか下であがる白波に、まひるがヒッと息をのんだ。
「ひっ、ひっ、ひゃああああっ! これ、本当に飛びださない!? 念のための確認っ!」
「飛びださないって! むしろ、おれは、もうちょっと飛びだしてほしいけど――」
そうだ!
見えてきた次のカーブに集中しながら目を見ひらくと、首の後ろがぞわっとする。
スキルを使う感覚だ。
「こんなふうに!」
ヒュッ!
スキルで横から押すと、チューブの中で浮き輪がすべる。
うまくいった! ほんの少しだけど、スリルが出て最高!
「ああ~! 朝陽、今、スキルで横にすべらせたでしょ!? 星夜、かわりに怒ってえ~~~~」
「船の旅では、ケンカはしないんじゃなかったのか? ……あ、もう出口だ!」
ざばあーっ!
真っ暗なチューブの向こうへ、勢いよく押しながされる。
ずぶぬれになった頭を振りながらプールの中で立ちあがった瞬間、真上に青空が見えた。
「……あー、楽しかった!」
まさか、空と海の間をすべれるなんて。もしかして、パラグライダーってこんな気分?
「おれ、もう一回すべってくる! まひると星夜は?」
「わたしはパス。あっちのプールで浮き輪に乗って、ぷかぷか浮かぶことにする。ふふふっ、スキルで海の中を視ながら浮き輪で揺られれば、わたしだけのリアルな海水浴体験もできるし」
へえ。まひるのスキルって、そんな使い方もあるんだ。でも、ハル兄みたいに酔わない?
「オレも、プールサイドで少し休んでおく。朝陽は気にせず、すべってきてくれ」
「了解!」
トントンと階段を上ると、今度は一人で浮き輪に乗りこみ、足をはなす。
三人乗りの浮き輪が、するっとチューブの中をすべりだす。
さっきより、揺れが大きい! 一人になって軽くなったせい?
青い空と青い海が見えて、その先に、光の輪が――。
「わっ!」
ザブーン!
終点のプールに、浮き輪ごと押しながされる。
三人でも楽しかったけど、一人で乗っても最高。二泊三日の間に、百回はすべれそう!
さらに五回スライダーを楽しんでから、やっとプールサイドに戻る。
まひると星夜も、楽しんでるかな。スライダーからは、全然見えなかったけど――。
きょろきょろとあたりを見まわすと、デッキチェアに腰かけたパーカー姿が目に入る。
――星夜だ。
いつの間に手に入れたのか、トロピカルドリンクがのったテーブルのそばで、ゆったりと横になっている。
プールも、景色も見てない……あ、手に本を持ってる!
「星夜。こんなところでも読書してるの? せっかくのプールなのに」
「ああ、朝陽か。ここは、ゆったり本を読むのにちょうどいいんだ。はい、これ」
星夜は、おれにドリンクを手わたすと、プールサイドでくつろぐ人たちを眺めた。
「音がない状態より、水音を聞きながらのほうが、適度なノイズがあって集中できるんだ。ここは、日差しも気持ちいいしな。風に吹かれながらの読書も、趣があるだろ?」
ふうん。そういうもん?
あ、このドリンク、おいしい。しかも、パイナップルが刺さってる!
ストローでドリンクを飲みながら、星夜のとなりのデッキチェアに、ごろんと寝ころんでみる。
さっきスライダーから見えた空が、目の前を流れていく。船が動いているからだとわかっているけれど、なんだか不思議な感覚だ。
太陽の光でじりじりと焼かれた体に、冷たい海風が吹きつける。すずしくて気持ちがいい。
「はあ~……たしかに、リラックスできるかも」
船のプールって、こんな楽しみ方もあるんだ。
あ~、来てよかった。ハル兄には、ほんとにごめん!
「そういえば、まひるは? 浮き輪に乗ってプールに浮かぶって言ってたっけ?」
「ああ、今ごろ、スキルで海の中を視てるんじゃないか? まひるのスキルは、目を閉じていれば半径一キロ以内のどこでも視える。海中で魚の群れを観察したり、ただよったり……」
あれ?
「でも、いないよ?」
今、目の前のプールにいるのは、ぜんぶで九人。そのうち、浮き輪で浮いてるのは四人だけだ。
短い髪の女の人に、男女のペアに、おじいさんに――。
星夜も、顔をしかめる。
「……たしかに、いないな。でも、部屋に戻るなら声をかけるはずだし」
「星夜。そういえばさ……まひるって、泳げたっけ?」
――――――シーン
「「やばい!」」
おれと星夜は、デッキチェアから飛びおきる。
これ、絶対、海で仮想ダイビングしながら、現実のプールに沈んでる!
「まひる、どこ!? そんなに深いプールじゃないから、すぐ見つかるはず―――」
「朝陽、見ろ! あそこにだれも乗っていない浮き輪が浮いてる!」
たしかに、まひるが好きそうなピンク色の浮き輪!
青いプールをのぞきこむと、ピンク色の水着が見える。
次の瞬間、水面から手がにゅっとつきだした。
「――いた!」
ざばあっ!
大きな水柱をあげてプールに飛びこみ、二本の手を思いっきり引っぱりあげると、トレードマークの二つ結びに続いて、すっかり弱りきったまひるが姿をあらわした。
「ごぼぼっ! わ、わだじ、助がっだ!?」
「まひる、だいじょうぶ!? よかった、ちゃんと息してる……」
……ん? ここ、思いっきり足がつく。水の高さも、胸より低いし……。
まひる、こんな深さでおぼれてたの!?
星夜も、まひるの体を支えながら、かすかに眉を寄せた。
「まひる、だいじょうぶか? でも、この浅いプールなら自分で立てたような……」
「ううっ、だって~! スキルで海の中を視ながら寝がえりしたら、浮き輪から落っこちてパニックになっちゃって。ここで、まひるの豆知識。どんなに浅いプールでも人はおぼれるから、みんな注意してね!」
「あっちです! 女の子が沈んで……」「男の子たちが助けに入っています。早く!」
異変に気づいたお客さんが、船員を呼びながら走ってくる。
げっ! あっという間に騒ぎになってる。
ただプールを楽しんでただけなのに!
「きみたち、だいじょうぶかい!? 気分が悪いなら、医務室で先生に見てもらったほうが――」
「「「医務室!?」」」
また!? 医務室は、一回でじゅうぶんだって。
このままだと、この船の医務室を神木家が占拠することになる!
「ごめんなさい。もうだいじょうぶです!」
おれたちは、悲鳴みたいな声をあげながら、最高のプールを後にしたのだった。
★<ためしよみ・第4回>へ続く★
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