「銭天堂」シリーズで大人気の廣嶋玲子さんが贈る新しい冒険物語『異世界フルコース 召喚されたのは、チキンでした。』が、期間限定でほぼ半分読める!! たっぷり大容量のためし読みれんさいが始まります! おもしろさ保証つきの冒険を、ぜひ楽しく読んでいってね♪
(全3回、毎週月曜日更新予定 ※2026年1月12日23:59までの期間限定公開)
町のみんなに愛される洋食屋さんの三代目(予定)の啓介が、ある日、とつぜん、異世界に召喚されちゃった!?
わくわくの物語が始まります!!
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【プロローグ】
ぼくは尾巻啓介。十一歳。
ぼくんちは、町で長年愛されてきた小さな洋食屋だ。「どうでも堂」という超適当な名前がついているけど、料理はどれも絶品で、町の人達だけじゃなく、遠くからもお客さんが食べにやってくる。
しかも、「どうでも堂」では、和食も中華も注文できるんだ。フランスで腕をみがいたじいちゃん、老舗料亭で修業した父さん、中華料理が得意な母さんと、最強トリオがそろっているからね。
おまけに、お客さんの相手をするばあちゃんは元芸者。おしゃべり上手で品がいい。
これは繁盛するしかないと、自慢するわけじゃないけど、ぼくは思う。
そんな一家に生まれたぼくは、当然ながら料理をするのが大好きだ。刻んだり、焼いたり、煮たりすることで、食材が料理になっていくのって、まるで魔法みたいで、わくわくする。それに、作ったものを「おいしい!」って、言ってもらえるのは最高だ。
いつか立派な料理人となって、「どうでも堂」の三代目として、活躍したい。
その夢に向けて、ぼくは毎日がんばっていた。お店の手伝いをしたり、忙しい家族のために、朝ごはんや夕ごはんをこしらえたりするのは、いい修業だ。お店が休みの時には、父さんたちが料理を教えてくれるから、どんどんレパートリーも増えている。
でも……。
一つだけ不満があった。
尾巻家には、「ジャンクフードは絶対に食べてはいけない」っていう鉄の掟があるんだ。「ああいうものを食べると、舌が鈍る」って、じいちゃんががんこに言いはるもんだから、ハンバーガーもフライドポテトもナゲットも、全部禁止。
でもさ……。
ジャンクフードって、やたら食べたくなるよね?
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【1】
「よっしゃ! ようやくたまった!」
十月二十四日の日曜日の朝、ぼくは大きくガッツポーズをした。
二ヶ月かけて、こつこつと貯めてきたお小遣いが、ついに目標の二千円に到達したんだ。風呂掃除にトイレ掃除、ばあちゃんに頼まれたお使いなどをこなして手に入れた、大事な大事なお金だ。これでやっと作戦を実行できる。
ぼくは財布にお小遣いを入れ、自分の部屋を出た。
リビングでは、父さんと母さんとじいちゃんが、新しいメニューについて話し合っているところだった。ばあちゃんも参加していて、あれこれアイディアを出している。
ぼくは何食わぬ顔をして、みんなに声をかけた。
「今日は友達と遊んでくるね。お昼はいらないから。じゃ、行ってきます」
早口で伝え、急いで玄関に向かおうとしたところ、父さんが呼び止めてきた。
「あ、ちょっと待った、啓介」
「え、な、なに?」
まさか、今日の作戦がばれてしまったのかと、ぼくはぎくりとした。そんなぼくを、父さんはまっすぐ見つめて言ったんだ。
「今度の冬休みに、限定メニューを出そうと思っているんだ。まだ先の話で、時間はたっぷりあることだし、啓介、おまえがその限定メニューを考えてみないか?」
「えっ! ぼくが?」
そんな重要なことをまかせてもらえるなんてと、ぼくは胸がどきどきしてきた。
「ほ、ほんとにいいの?」
「ああ。定食でも、丼物でもなんでもいい。前菜からデザートまでついたフルコースだって、かまわない。ただし、おまえが実際に作れる料理であることが条件だ。どうだ? やってみるか?」
「も、もちろんだよ! ぼく、絶対お客さんに喜んでもらえるフルコースを考えるから!」
勢いこんで答えるぼくに、じいちゃんが笑った。
「はははっ! 頼もしいねえ。さすが、ぼくの孫だよ。それじゃ、メニューの名前は、三代目のフルコースって名前にするかな」
「それ、いいですね、お義父さん。お客さんにも受けるでしょう」
「あ、ほら、啓介。出かけるんでしょ? 行っておいで」
「うん!」
家を出たあとも、ぼくのドキドキはなかなかおさまらなかった。
「どうでも堂」で出す料理を、考えさせてもらえるなんて。これって、すごいことだ。
「どんなのにしようかな? やっぱり定食? ちょっとおしゃれに、さっぱりしたマリネなんかもそえてもいいかも。最近、揚げ物もできるようになったし、カツとか入れようかな。じゃなきゃ、からあげもいいな」
あれこれ考えながら、ぼくはもともとの作戦を実行することにした。
作戦名はずばり、「ジャンクフードをむさぼる!」だ。
そう。お小遣いが二千円貯まるごとに、ぼくは禁止されているジャンクフードをこっそり買って、公園とかで一人で食べることにしているんだ。
そして、今日は……。
「ようし! 今日はフライドチキンにするぞ! ひゃっほう!」
塩気たっぷり、スパイスたっぷりのこうばしい衣。
かぶりついた時に、じゅわっと、口いっぱいにあふれるうまみ。肉はちょっと固くてパサついているけど、そこがまたいい。
そして、なにより骨付き。ああ、骨付き肉って、すごくロマンがあって大好きだよ。
ああ、チキン! 愛しのチキン!
ぼくは口の中につばをためこみながら、ついにお目当ての店に到着し、念願のフライドチキンをゲットした。
そのあとは、家から少し離れたところにある公園に向かった。ここなら、家族に見つかる心配がないからだ。
ベンチにすわり、わくわくしながらフライドチキンの箱のふたを開けた。
「うまそう!」
中には大きなフライドチキンが三つ。よくばってしまったけれど、朝は軽めにしていたし、全部食べられるだろう。
食欲を刺激する匂いを目いっぱい吸いこみながら、ぼくは胸を高鳴らせ、いよいよとばかりに一番大きなチキンを手に取ろうとした。
そうしたら突然、本当に突然、光の玉が目の前に現れたんだ。
金色に輝く光は、最初は野球ボールくらいだった。でも、一瞬にして大きくなり、車くらいのサイズになったんだ。その光の中に、今度はぽっかりと暗闇が浮かびあがってきた。
まるでブラックホールみたいだと、ぼくはぞっとした。でも、逃げようにも、どうにも体が動かない。
「だ、誰か……あっ!」
ふいにフライドチキンの箱が強く引っぱられた。ぼくはとっさに、ぎゅっと箱を抱えこんだ。
次の瞬間、体がベンチから引きはがされた。
ぎゅーんと、まるで超強力な掃除機で吸われるかのように、ぼくは光の輪へと引きずられ、そのまま暗闇の中に吸いこまれたんだ。
なにがなんだか、わからなくて、すごく怖かった。思わず悲鳴をあげたけど、声は出てこなかった。ぼくを包みこんでいる闇は、音さえ消してしまうらしい。
ますます怖くなり、泣きそうになった時だ。
ぱちんと、電気をつけた時みたいに、一気に周りが明るくなった。
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