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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『絶体絶命ゲーム② 死のタワーからの大脱出』第1回 幽霊屋敷からとつぜんに

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3 白と黒の部屋

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「今回の『絶体絶命ゲーム』は、途中で『ゲーム終了』はできませーんっ♪ 脱落するか、ゲームクリアか。死か生か(デッド・オア・アライブ)! シンプルだねっ♪」

 ユキが、明るく宣言する。

 春馬は覚悟を決めた。

 夏のゲームでわかったことだ。ここから逃げるすべはない。

「こうなったら、やるしかないな」

 つぶやいた春馬に「脱落したら、殺されるのか?」と秀介が聞いた。

「わからないんだ。でも、危険なのはたしかだ」

 でも、今回は前とちがう。

 秀介と、いっしょに戦える。それだけで、ずいぶん心強かった。

「秀介、絶対に2人で生き残ろう」

「あぁ、うん、そうだね」

 秀介の顔は青ざめていて、言葉も歯切れが悪い。

 はじめてのゲームで、緊張しているのだろう。

「あたしだって、かならず生きて帰るわ」

 となりにいた未奈も、しずかだけど強い口調で言った。

「オッケー★ それじゃ、ルールを説明するよっ♪」

 ユキの声と同時に、天井から大きなモニターが下りてきた。

 画面に、9階建ての細長いタワーの図面が映る。デパートのマップのようだ。

「みんながいる、この建物は『絶命タワー』! ここは8階。『白と黒の部屋』ね」

 図面の中の、8階部分が点滅する。

「ここからゲームスタート♪ みんなには出口をめざしてもらいますっ! 12時間以内に『絶命タワー』から脱出できた人が勝ちっ! 今回は大・大・大サービスで、ゲーム開始から3時間は、1階の扉を開けておきまーす♪」

 モニターの映像が切りかわり、1階の扉が映しだされる。

 鉄製の頑丈そうな外開き扉だ。

 高さ5メートル以上で、1枚の幅は3メートルはある。

「ビルの8階から1階まで下りるだけなら1分もかからねぇぞ」

 剛太の質問と同じことを、春馬も考えていた。

「オフコース! 各階にゲームや楽しい仕掛けが待ってるよっ♪」

「タワーから脱出できるのは、何人ですか?」

 春馬がきく。

 前回は、最後になって、脱出できるのは、たった1人だと言われた。

 あのときの絶望はわすれられない。

「それは……いろいろ? 1人だったり? 10人全員だったり? 0人だったりするかもっ♪」

「ちょっと待ってください、1人なんですか、全員なんですか!?

 それが一番大事なポイントだ。

「いろいろって言ってるでしょ!」

 かんじんなことは教えてくれないようだ。

 それに、おかしいな。ユキは今、10人と言ったけど、ここには9人しかいないぞ。

「じゃあ、この階のゲームの説明をするねっ♪」

 ユキが言うと、

  ガガガガガ……

 フロア中央部分の床がひらいた。

 下から、遊園地にあるようなメリーゴーランドがあがってくる。

「わあ、なんだこりゃ!?」

「ここでのゲームは『メリーゴーランドから逃げろ』でーす。みんなには、このメリーゴーランドに乗ってもらうよっ♪ 好きなお馬さんを選んでね♪ かかってた音楽とメリーゴーランドが止まったら脱出してね!」

「脱出? どこへ逃げるんですか?」

 春馬が質問した。今、気がついたが、この部屋には窓もドアもない。

「オゥ、イッツ・ア・ミステイク♪ ドアを開けるんだったわ。未来はいつもドアの先。ドアを開けなきゃ、未来は見えない。オープ───ン・ザ・ドア──!

  ガガガガガ……

 白い壁の長辺側のはしに、電車にあるような、両開きのガラスのドアがあらわれた。

 そのドアとむかい合うように、反対側の黒い壁にも、もう1枚のドアがあらわれる。

「白か黒か。どちらかのドアを選んで、廊下に出てね! 最後まで部屋に残ってた人が、この階の脱落者だよ」

 まずはスタートダッシュ勝負か。

 走りには自信がある。これなら勝てそうだ。

「白い壁のドアは、下へいく階段に通じているよ。黒い壁のドアは、上へいく階段ね。どっちにいくか、みんな、よく考えて選んでね」

 ユキは「1階の扉を開けた」と言っていた。

 ということは、出口は1階だ。

 全員が下へいくドアを選ぶはずだ。だれも、上にいくドアを選ばないと思うけど……。

 そのとき、モニターの映像が切りかわった。

 画面に映ったのは、女の子だった。

 色白でロングヘアの美少女が、さるぐつわをかまされ、椅子にしばられている。

 彼女には見覚えがある。前のゲームでいっしょだった、人名だ。

「キャ────かわいそうっ! かわいい女の子が危機一髪だよぉっ!!」

 ユキはおおげさに驚いてみせるが、みんなはシラッとしている。

「あれは麗華さんじゃないですか……どうしてここにいるんです?」

 幹夫がふしぎそうに言う。

 幹夫が麗華を知っている? どういうことだ?

「そうよ、あの子は桐島麗華。みんな、知ってるよね? ねえ、おかしいと思わない? 彼女はこれまで数回あったゲームに、毎回参加しているの。でも、一度もクリアしたことないんだって。どういうことかなあ?」

 春馬の参加したゲームで、麗華は、絶命館を脱走して野犬に襲われたことになっていたが……。

 そういえば、あのあと考えていて、気づいたことがあったのだ。

「ゲームの10人めの参加者は、彼女ですか?」

 春馬は聞いた。

「そうだよっ。彼女がいるのは、このタワーの屋上♪ 椅子にしばられてかわいそうだよねっ♪」

「あんな女、どうなっても関係ねぇ」

 投げやりに言った剛太に、ユキは笑顔をむける。

「つめたーい♪ こまっている人がいたら助けにいくようにって、学校で教わらなかったの?」

「学校は、いってねぇからな!」

「そうなんだぁ、納得っ★ でもね、そういう態度は女子からきらわれるよぉ?」

「うるせぇ、知ったことか!」

「えーっ、みんな麗華ちゃんを見はなすの?」

 改めて聞かれると、答えにこまる。

 けれど、麗華は信用できない人物だ。

「それと、ゲーム続行が不可能だと判断されたり、ギブアップを宣言した人は脱落でーす。じゃ、メリーゴーランドに乗りながら、上にいくか下にいくか考えてねっ♪ さー、チョイス・チョイス!」

 春馬たちはメリーゴーランドの前にいき、それぞれ馬を選んでまたがった。

「音楽が鳴りはじめたらゲームスタートだよ♪ 12時間以内に、絶命タワーから脱出してねっ! 脱出できなかった人は、アウトーッ! そーそー言い忘れたけど、12時間後に、ここは爆発しちゃうんだ♪ 逃げ遅れたら、死んじゃうかもねっ。そうだ、だれかが麗華ちゃんを助けにいかないと、彼女も爆破に巻き込まれちゃうねっ」

「前のゲームでも、絶命館が爆発するって言われてたけど、ぼくは助かったよ」

 春馬が口をはさむ。

「春馬って抜け目なーい。でも、今回も同じように助かるという保証はないわよ」

 たしかに、それはそうだけど……。

「それじゃ、ゲームを始めるわね。音楽が鳴り終わったら、馬から降りて出口にむかっていいよっ。でも、フライングしたらその場で脱落だから、気をつけてね。じゃ、みんな準備はいい?」

 そう言うと、ユキはなにかを手に持った。

 防護マスクだ。

 どうして、あんなものを持っているんだろう?

「ミュージック、スタ──────ト!」

 春馬が質問する前に、ユキが宣言した。

 もうどうしようもない。脱出をめざしてゲームをするしかない。

  チャラチャ♪ チャラチャ♪

  チャラチャララ~♪

 のんびりした楽しそうな曲がかかり、メリーゴーランドが回転を始める。

 本当に遊園地みたいだ。

 春馬は上下する木馬に乗りながら、白い壁にあるドアを視線で追った。

 あれが、下へいくドアだ。

 音楽が止まったら、すぐに木馬から飛びおりられるように、腰を少しうかせる。

 しかし、音楽はなかなか止まらない。

 また馬が回転して、下へいくドアが近づいてきたが、音楽はまだつづいている。

 そして、ドアが遠ざかっていく。上にいくドアを選ぶものはいないだろう。全員が、下へのドアにむかうはずだが……。

 ふとモニターに目がいった。

 麗華のほほに食いこんださるぐつわが、はっきりと見える。

 いいや、騙されないぞ。上へいくドアを選んだら、脱落になる。

 でも、彼女は本当に苦しそうだ。

「おい、いつまでこんな曲を聞かせるんだ!」

 剛太のイラついた声が聞こえてきた。

「あぁぁぁぁ、下へいくドアが遠ざかっていく。神様ぁぁぁぁぁぁ」

 情けない声を出したのは幹夫だ。

「大丈夫、ぼくは運がいいんだ。負けない、負けない、負けない……」

 陽平は、自分に暗示をかけるように、くり返している。

 ユキが防護マスクをかぶっている。

 これはなにかがある。また、下へいくドアが離れていく。今、音楽が止まったら最悪だ。もう少しつづいてくれ。しかし、春馬の願いは届かない。

 とつぜん、音楽が止まった。同時に、メリーゴーランドが停止する。

「よーし、いくぞぉぉぉぉ!」

 剛太がさけびながら馬から飛びおりた。

「まずい、最悪のポジショニングだぞ!」

 春馬の乗った木馬は、黒い壁に一番近い位置に止まっている。

  プシュ─────ッ!

 そのとたん、フロア中の床と天井から、白いガスが噴射された。

「うわぁ!!!」

 トップを独走していた剛太が、ガスをまともに食らって転倒する。

 その横を貴美子が駆けぬけていく。

  プシュ─────ッ!

  プシュ─────ッ!

 あちこちから噴きだすガスを避けながら、遅れた陽平と幹夫が、ヨロヨロと走っている。

 顔に包帯を巻いたメイサは、やる気のなさそうな足どりで、白い壁側のドアへむかっている。

 自分もつづこうとした春馬の前を、未奈が横ぎった。

 黒い壁側のドアにむかっている!?

「おい、どこへいくんだ!」

 春馬は未奈の腕をつかんだ。

「決まっているでしょう。麗華を助けるのよ!」

「あの映像は罠だ。下の階へいこう」

「いやよ」

 未奈は春馬の腕をふりほどこうとする。

「待てってば!」

 未奈の腕をひっぱったまま、白い壁側のドアへむかおうとしたとき、秀介がやってきた。

「春馬、逆だ!」

「秀介まで、なに言ってるんだ。下にいこう」

「いいや、春馬は未奈といっしょに上にいくんだ」

 秀介は春馬の腕をつかんで、強引に連れていこうとする。

 剛太、メイサ、貴美子、陽平、幹夫はガスに邪魔されながらも、下へいくドアに飛びこんだ。

 今からじゃ、下へのドアは間に合わない。それなら、上にいくしかないのか……。

 未奈が上へいくドアに入ると、亜久斗もあとにつづくのが見えた。

「どうして、亜久斗まで!?」

 つぶやいた春馬だが、部屋に残っているのは、もう2人だけだ。

 春馬と秀介のどちらかが、ここで脱落するしかない。

 どうしたらいいんだ?

「秀介、いっしょに考えよう。どうすればいいのか……」

 そのとき、

  プシュ─────ッ!

 床から噴出したガスが、春馬の顔に直撃した。

「うわぁ!」

 目がツーンとして、なにも考えられなくなる。

 動けなくなった春馬は、腕をひっぱられるのを感じた。

 秀介が春馬を連れていこうとしているのだ。

「未奈についていこう」

「えっ。待ってくれ。秀介は事情を知らないから」

いいや、わかってないのはおまえだ

 わかってない? なにをわかってないっていうんだ?

「おれは、春馬をここに連れてくることを条件に、『絶体絶命ゲーム』のオーナーから生活費を支援してもらってたんだ」

「!?」

 なんだって?

 じゃあ、あの幽霊屋敷ですがたが見えなくなったのは、秀介に仕組まれたっていうのか?

「おれは、親友のおまえを裏切った」

 春馬の手を引っぱりながら、秀介が言う。

「バカ、こんなの裏切りじゃねぇ」

「おれは、このゲームに勝つ資格はないんだ。だから──春馬が勝て」

 言葉と同時に、春馬はつき飛ばされた。

 春馬がよろめきながら数歩進んだうしろで、

  プシュ───!

 いきおいよく、ドアが動く音がした。

 必死で目を見ひらくと、ガラスのドアのむこうに悲しそうに笑う秀介がいた。

「ルールに違反してまで、春馬に会いにきた未奈を、守れ!」

「秀介!」

 ドアがロックされる。壁にカードキーの読み取り機がついていた。

 カードキーがないと開かない仕組みだ。

「秀介!」

『8階のゲームの脱落者は、上山秀介です。脱落者に命の保証はありません』

 廊下のスピーカーから、アナウンスされる。

 瞬間、部屋の中が、ガスで真っ白になる。

「秀介────っ!」

 秀介はどうなったんだろう……!?

 春馬が部屋を見ていると、ガスがじょじょにうすまり、室内がぼんやり見えてきた。

 ドアの前で秀介が倒れている。

「秀介!」

  ドンドンドン!

 春馬は力いっぱいドアをたたいたが、秀介はピクリとも動かない。

 どうしたんだ、まさか死んだのか?

 次の瞬間、照明が消えて部屋は真っ暗になる。

 春馬はがく然として、動けなくなった。

「──そろそろ上にむかおう」

 立ちつくす春馬のうしろから声がかけられた。

 未奈だ。1人で上にむかわず、待っていたらしい。

「未奈のせいだ。未奈のせいで、秀介は脱落したんだぞ」

「な、なによ。あたしは関係ないでしょう」

「どうして上へのドアを選んだんだよ!?」

「それは……麗華を助けたかったからよ。決まってるでしょう」

 未奈はとってつけたように言った。

「罠だ。麗華が野犬に襲われる映像を見ただろう」

 前の『絶体絶命ゲーム』で、春馬と未奈は野犬に襲われる麗華の映像を見た。

 そこで、麗華は死んだように見えた。

 けれど、あのとき、違和感があったのだ。

 あの夜、雨が降っていた。しかし、映像の中で、麗華が倒れこんだ土は、乾いていた。

あの映像は、にせものだって言いたいんでしょう

「知ってるなら、どうして?」

「それは……麗華はいっしょに戦った友だちじゃない」

 未奈は下手な言い訳をした。彼女はなにかをかくしているようだ。

「早くしないと亜久斗が先にいっちゃうよ」

 未奈は急ぎ足で廊下を歩いていく。

 しかたなく、春馬もあとにつづく。

 ここにいてもなにもできることはない。

 それに、前のゲームで野犬に襲われて死んだように見えた麗華も、ゲームで負けて死んだように見えた亜久斗も生きていた。

 春馬も、殺されると思ったけど無傷だった。

 それなら、倒れていた秀介も生きているかもしれない。

 いや、絶対に生きている。また、きっと秀介に会える。

 そう信じて、今は進むしかない。

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