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2 絶望をチャンスに変えろ
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部屋がもとどおりに明るくなると、ピンクの髪の女性が、わざとらしいポーズで言った。
「やっほ──っ! 『絶体絶命ゲーム』の案内人・地獄(じごく)ユキだよっ。みんなヨロシクねっ!」
前回の案内役が、死野マギワ。
今回は、地獄ユキか。
蛍光グリーンに光る瞳をしている。いったい何人なんだろう?
「なにかトラブってたみたいだけど、みんなに1つお知らせ♪ 今回のゲームには、暴力禁止のルールは、ありませ──ん! キャハ♪」
「じゃあ、あいつを殴っても問題なかったんじゃねぇか」
「オッケーだよ! 殺しちゃっても、ノー・プロブレムッ♪」
ユキが物騒なことを、明るく言う。
春馬は横目で金髪男子を見た。金髪男子も、ユキのノリにめんくらっているようだ。
「キミたちは栄えある今回の『絶体絶命ゲーム』の参加者に選ばれたんだよっ、コングラッチュレーショーンズ!」
「いいから教えろよ。賞金は今度も1億円なんだろうな!?」
金髪男子がユキに噛みつく。
「今回の賞金はぁ────ありませーんっ♪」
「なんだって!?」
前回は、優勝賞金は1億円だった。
それが、今回はなしだって!? どういうことだ?
「そのかわりぃ~、勝ったら、生きておうちに帰してあげまーす♪」
勝てば、無事に帰す?
ということは、負ければ……。
「モチロンッ♪ 脱落者には命の保証はありませーん! そこは絶体絶命ゲームだからねっ♪ 脱落すると死んじゃうかも!? アハハッ♪ だから、必死にがんばってね。あ、必死って、かならず死ぬって書くんだっけ、キャハ♪」
ユキがハイテンションに言う。
「それじゃー、まずはみんなに自己紹介してもらおうかなっ! まずは、ユーからっ!」
ユキに指をさされたのは、あの金髪男子だ。
「おれの名前は鬼崎剛太(おにさきごうた)。去年まで、名門リトルリーグでピッチャーをやってた。それが、右肩を壊したんだ。いい医者に診てもらうために金が必要で、『絶体絶命ゲーム』に参加したが……最終問題で脱落した」
「命まではとられなかったんでしょ~? ラッキーだったねっ★」
「そんなことねぇ! 右肩の痛みがひどくなる一方で、野球はやめた。今はケンカばかりだ!」
「ワオ! 人生投げちゃったんだね♪ 人生お先まっくら!」
「うるせえ! そんなときおまえから連絡があったんだろ! 再チャレンジさせてやるって!」
「オッケーオッケー♪ キミの絶望、最高だよっ! もしキミがゲームに勝ったら、生きて帰す以外に、世界最高の名医の治療を受けさせてあげるっ♪」
「ほ、本当か!」
「約束するよっ♪ じゃ、次は剛太に追いかけまわされてたリトル・ガールね」
ユキは、小柄な女子を指名した。
「ご、五島貴美子(ごしまきみこ)です。わたし、児童養護施設に入っているんです。前の施設の人はみんなやさしくて、わたし、生まれてはじめて人生が楽しかったんです。でも、施設が閉鎖されることになって……。つづけるには1億円が必要だと聞いて、『絶体絶命ゲーム』に参加しました。でも、脱落して、賞金はもらえませんでした……」
「今はどうしてるの?」
「施設は閉鎖になり、わたしはほかの施設に移ったけど、そこはすごくひどいところなんです。毎日が地獄のようです。ゲームで死んでたほうがマシでした」
「ワ~オそれは大変ね。それじゃ、キミがゲームに勝ったら前の施設を再開させてあげるよ♪」
「えっ、そんなことできるんですか!?」
「できるよ♪『絶体絶命ゲーム』はな~んでも可能なの! 次はそっちのプリティーボーイね」
ユキはおかっぱ頭の可愛い男子を指さした。
「ええと、ぼくの名前は八木陽平(やぎようへい)。8本の木で八木。英語ではエイト・ツリーズ。メ~って鳴くヤギじゃないよ。エイト・ツリーズね。陽平は太陽の陽に、平らって書くんだ。太陽の降りそそぐ平らな土地に、8本の木があるって覚えてください」
子どもタレントのような愛らしい笑顔で、自己紹介する。
「ぼく、学校でいじめられてるんだ。それで、1億円もらって引っ越しと転校をしたくて、『絶体絶命ゲーム』に参加したんだけど、脱落したんだよ」
「そのあと、いじめはどうなったの?」
ユキに聞かれて、それまで笑っていた陽平の顔がゆがんだ。
「前よりもひどくなったよ。不登校になったんだけど、あいつら家にまで押しかけてきて……大人にはバレないように、体にあとが残らない方法で、毎日リンチしてくるんだ。このままじゃ、殺されると思ったとき、再チャレンジの連絡があったんだよね」
「キミが勝ったら、引っ越しと転校をさせてあげるっ。名前を変えたいならそれもいいよ!」
次に自己紹介したのは、ひょろりとした長身の黒縁メガネの男子だ。
「小生の名は蛭田幹夫(ひるたみきお)と申します。小生は天才プログラマーでして、新作ゲームの開発資金がほしくて、『絶体絶命ゲーム』に参加しましたが、苦手の運動競技で脱落しました」
「そのあとはどうなったの?」
「不遇な小学生のままです。このままでは小生の天才が生かされないまま終わる。そんなことは世界にとっての損失です。ですから、開発資金のために違法行為に手を染めようかと……具体的に申しますと、コンピューター・ウィルスの開発やハッキングを少々……」
犯罪じゃないか!
「わあすごいすごーい、さすがは天才プログラマー! でも、捕まったら人生終わりだねっ♪」
「わかっておりますが、小学生が短時間で大金を手に入れるには、違法行為しかございません」
「オッケー、じゃあキミがゲームで勝てば新作ゲームが開発できる会社を紹介してあげるっ♪ 次は……」
ユキは床に寝ころがっている少女を指さした。
金髪のストレートヘア、青い瞳、肌が透きとおるように白い、モデルのような美少女だ。
けがでもしたのか、顔の左半分に包帯を巻いている。
美少女は、だるそうにかすれた声で言った。
「────永瀬(ながせ)メイサよ。話すことはないわ」
「クール! クールジャパーン! でも、メイサはパパがスペイン人でママが日本人なのよね」
「────話すことはないって言ったわ」
冷たく言うと、メイサは口を閉ざした。
「じゃあいいや、メイサは好きなように参加してね♪ あと残りの3人は~~~問題児ちゃんたちねっ!」
と、ユキの視線が、春馬たちのほうをむく。
問題児だって?
「上山秀介、武藤春馬、滝沢未奈。キミたちは『絶体絶命ゲーム』のルール違反者だよ。本来なら問答無用で、人生をフィニッシュしてもらうんだけど、スペシャル待遇できてもらったのよ。感謝してねっ!」
むりやり連れてきておいて、なにが感謝だろう。
春馬はルール違反に思いあたるけど、未奈はいったい、なにをしたのだろう?
「まず、一番の重罪は上山秀介! キミは噓をついて、自分の代役をゲームに参加させたよね。これは罪が重いよぉ!?」
秀介は唇を噛んでうつむいている。
春馬は秀介をかばうように立ちふさがった。
「待ってください、秀介のせいじゃない! ぼくが代役を買って出たんです!」
秀介に代わって答えた春馬を、ユキがにらみつける。
「シャラップ! ユーには聞いてない。上山秀介、どうして春馬をいかせたの?」
ユキが厳しい口調で聞くと、秀介はようやく口をひらく。
「サッカーの練習試合で、右足を骨折した。自分で参加するつもりだったけど、春馬が代わってくれたんだ……。でも、後悔してる。春馬を巻き込んでしまった……」
「だれにもゲームのことを言わないというルールに違反しただけじゃなく、代役をゲームに参加させるなんて、いけない子だねっ♪ それは、武藤春馬も同じだよ。2人して、超~重罪!」
言い訳はできない。
「滝沢未奈、あなたもルール違反したよね。上山秀介に会いにいったでしょ」
ユキに言われて、未奈の顔が真っ赤になる。
なんだって!?
秀介に会いにいったということは、春馬に会いにきたということだ。
「せっかく、ゲームに勝って1億円をゲットしたのに、クレイジー♪」
「あの子、本当に1億円をもらったの?」
大きな声を出したのは貴美子だ。
剛太や陽平も、目をギラギラさせて未奈を見ている。
「みんな興味があると思うから、未奈、くわしく教えてあげて」
「……あたしが1億円をほしかったのは、妹がアメリカで心臓の手術をするためよ。ゲームに勝ったあと……匿名で1億円の寄付があったわ。それで、ぶじに手術ができたの」
「────妹は?」
聞いてきたのは、自分の話をほとんどしなかったメイサだ。
「手術は成功して、経過も良好。年内にはふつうに生活できるって言われたわ」
「そう──良かったわね──」
メイサがボソリと言った。
「ノーノーちっとも良くない♪ 未奈はルール違反者よ。1億円は、返してもらう」
「ええっ!」
「武藤春馬、上山秀介、滝沢未奈。ルール違反者のキミたちには、お願いごとの資格はないよ。勝ったらもとの生活にもどしてあげるけど……負けたら……キャハッ♪」
勝てばもとの生活、負けたら命の保証はない──というわけか。
「あっ、1人紹介を忘れてたわ。そんなすみっこにいるからよ。ユー、こっちにきてよ」
部屋のすみにいた少年が顔をふせながら、ゆっくり歩いてくる。
「知ってる人もいるかもしれないけど、自己紹介して」
ユキに言われて、その少年は長めの前髪をはらって顔をあげた。
春馬は目を疑った。
「──おれは三国亜久斗(みにくあくと)。ここにはある人物と戦いたくて志願した」
亜久斗が戦いたい相手が、だれなのか。
春馬は、十分に知っていた。
前回のゲームで、春馬は何度も、亜久斗に追い詰められた。
しかし、最後には、そのピンチから逃れ、やり返した。
「……やっかいなやつに目をつけられてしまったな」
春馬はつぶやき、頭をかいた。