
もうすぐ、夏休み! ある夜、姉妹で話をしていたら、二鳥の初恋の人で、アイドルの『椿吉トウキくん』との運命の出会いの話になって……? ふたりの間に、いったい何があったの!? 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第5巻上が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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7 うちのこと、覚えてる?
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拍手はなかなか鳴りやまなかった。
それでも、だんだんと会場は静かになっていって……。
ころあいを見て、日南くんと宇賀くんが切りだした。
『はーい、ではでは、グループ名発表のあとはトークイベントだよっ』
『あ、ちなみにさっき俺たちがだべってたのは、トークイベントではないので』
『未成年隊がどうとか言ってたのは、トークイベントじゃないですので〜』
あっ、そうなんだ。
すごく楽しかったから、私、てっきり、さっきのがトークイベントなのかと思ってた。
でも、じゃあ、トークイベントって、どんなことをするんだろう?
『みんな、整理券持ってるか?』
芥子川くんがよびかけ、
『捨ててない?』
と、霧谷くんもほほえむ。
整理券って、このステージについたとき、スタッフの人からもらったやつだよね。
もちろん、ちゃんと持ってるけど……。
そう思いながら、ポケットから整理券を取りだしたとき。
トウキくんが言った。
『なんと、このトークイベントは、観客参加方式の、生トークイベントです!』
えっ?
『これから、何度か抽選をします。当選番号と、同じ番号の整理券を持っている方に、マイクがわたされるので、メンバーに向かって、好きなことをしゃべってね!』
え、ええっ……それってつまり!
「二鳥!」
「二鳥ちゃん!」
「二鳥姉さん!」
一花ちゃん、私、四月ちゃんは、バッ、と二鳥ちゃんのほうを向いた。
「いきなりチャンスじゃない、二鳥。当選すればトウキくんに直接お礼が言えるわ」
「えぇ、で、でもっ……二千人もおるんやで? そんな簡単に当たるかな……」
二鳥ちゃん、らしくもなく、弱気だ。
「ほ、本当に当たるかどうかはわからないけど、私たちの分の整理券もあるんだしっ」
「そうですよ。当たる確率は、およそ二千分の一ではなく、およそ二千分の四です!」
「私や三風や四月が当選しても、二鳥がしゃべればいいのよ」
「そんなん……ええの?」
「いいにきまってるじゃない。だってそのために来たんだもの。トウキくんにどんなふうにお礼を言うか、考えておきなさいよ」
私たちは、はげますように、二鳥ちゃんの手をにぎったり、かたをたたいたりした。
『それじゃ、抽選、始めるよ〜』
ステージから声がひびく。
いつの間にか、リュミファイブのメンバーの前には、大きな抽選箱が置かれてた。
中にはくじが入っているみたい。
私たちの番号は、二〇八一番、二〇八三番、二〇八七番、二〇八九番。
お願い、当たって〜!
『九二七番!』
番号がよばれると、私たちから十メートルくらい離れたところにいた女の人が、
「キャーッ!」
とさけんで、手をあげた。
当たったのは、あの女の人なんだ。
すぐにスタッフさんが、女の人のところにマイクを持ってくる。
と同時に、ステージ上のスクリーンがパッと切りかわって――。
アップで映しだされたのは、その女の人の顔だ!
わっ! どこかから、カメラで映してるのかな?
あの大きなスクリーンに、もし自分の顔が映ったとしたら……。
想像するだけで、緊張で体がふるえてきそう。
『う、う、宇賀すばるくん、あの……』
女の人、ガチガチになってるみたい。
そりゃそうだよね。
対する宇賀くんは、
『はーい、宇賀です。来てくれてありがとう。なんでも言ってください』
と、ニコニコしてる。
『け、研究生のころから、ずーっと応援してました! これからもがんばってください!』
女の人が言いきると、パチパチとあたたかい拍手が起こった。
『応援ありがとう。緊張しないで、なんでも言ってね』
『質問してくれてもオッケーだよ』
『それじゃ次。……一四二五番!』
「キャーッ!」
と、また遠くのほうであがる悲鳴。
そのたびに、カメラが声の主を、スクリーンに映しだす。
今度は、大学生くらいのお姉さんだ。
『き、霧谷颯介くんデビューおめでとうございます! 霧谷くんのボイスが大好きです!』
『ありがとうございます。質問とかないですか?』
『し、質問……? じゃ、あのっ、霧谷くんの、好きな女の子のタイプを教えてくださいっ』
『好きな女の子のタイプかあ……。……度胸のある人、かな?』
『キャーッ! ありがとうございます〜! ずっと応援してます!』
どんどん番号が読みあげられて、トークイベントが進行していく。
『五一五番!』――
『二三番!』――
『一三九八番!』――
お願いお願いっ、二鳥ちゃんを当てて!
アイドルのトウキくんに話しかける機会なんて、これをのがしたら、もう二度とないかもしれないんだよ〜!
私は祈るような気持ちで、ぎゅっと両手のこぶしをにぎる。
『それじゃ、次、引くね〜!』
日南くんが元気よく言って、くじを引いた。
『えー……、二〇八一番!』
「「「「っ!」」」」
私たちは同時に息をのんだ。
よばれたのは、二鳥ちゃんの番号だ!
「こっち! こっちです! マイクをください」
一花ちゃんが手をあげ、スタッフさんをよぶ。
マイクがとどくより先に、カメラがスクリーンに、二鳥ちゃんの顔を映しだす。
やがて、二鳥ちゃんはマイクを受けとった。
『……トウキくん………………』
マイクを通した二鳥ちゃんの声、ふるえてる。
緊張を通りこして、ほとんど、ぼう然としちゃってるみたい。
当たり前だよ。
だって、相手はステージの上のアイドルで、自分の恩人で、初恋の人!
まわりには、二千人以上の人がいる。
いくら二鳥ちゃんでも、ガチガチに固まっちゃうにきまってる。
私だったら、たおれてたかも!
が、がんばって、二鳥ちゃん!
一花ちゃん、私、四月ちゃんは、かたずをのんで、二鳥ちゃんを見守る。
『あ、僕か。はーい。なーに?』
ステージ上で、トウキくんは、さわやかな笑顔。
『あ、あの…………うち……大阪で…………』
『え、大阪? 今日は大阪から来てくれたの? ありがとうっ』
『……あの……………………』
ああっ、どうしよう、二鳥ちゃん、だまりこんじゃった。
すると、
「ちょっと二鳥、しっかりしなさい」
一花ちゃんが、二鳥ちゃんのお尻を、パンッ、とたたいた。
衝撃で、二鳥ちゃんは、ビクッとふるえて。
われに返ったかのように、マイクをぎゅっとにぎりなおす。
『――トウキくんっ!』
さっきまでとはちがう、二鳥ちゃんのはっきりした声が、会場いっぱいにひびきわたった。
『トウキくん、うち、お礼が言いたくてここに来てん。あのとき、大阪で、ペンダント、いっしょにさがしてくれてありがとう!』
やった!
ちゃんとお礼が言えたよ!
私たち姉妹は、みんな明るい笑顔になった。
だけど…………。
『え……?』
あれ……?
どうしたんだろう。
トウキくん、ステージの上で、ほんの少し首をかしげてる。
『……ごめん。ペンダント、って言った? それってなんのこと?』
えっ?
『ほ、ほら! 今年の春ごろっ、大阪で、うちの赤いハート形のペンダント、いっしょにさがしてくれたやん!? トウキくんはそのあと、ディアマイのゲリラライブに、バックダンサーとして出て、うち、そのすがたを見て、それで……っ』
二鳥ちゃんが必死に説明しても、トウキくんは、
『なんだい、それ?』
と言いたげな顔のまま。
ふりかえって、スクリーンに映った二鳥ちゃんの顔を確認して……。
それでもまだ、やっぱり首をかしげてる。
リーダーの宇賀くんが、トウキくんに何か指示を送った。
すると、トウキくんは二鳥ちゃんのほうを見て、困ったように、優しく笑って……。
『ごめん、知らないなぁ。きみと会うのは、今日が初めてだと思うけど……』
『え………………』
二鳥ちゃんは、言葉を失った。
どうして?
トウキくん、なんで、そんなことを言うの?
「えぇ……?」「なんだろう」「あの子が……」――
「ペンダントだって」「ヘンなの……」――
まわりもだんだん、ざわざわしてくる。
「あの子、なんなんだろ」「妄想とかじゃない?」「うわ、ヤバ」――
だれかのそんなつぶやきが聞こえ、私はこおりついた。
ちがうよ!
妄想なんかじゃないよっ……!
一花ちゃんは、まわりの人たちをキッとするどくにらんでる。
二鳥ちゃんは、うつむいて、なんにも言えなくなっちゃってる。
見かねた四月ちゃんが、マイクをスタッフさんに返してくれた。
『はい、まだまだ続きます! 次は……八八六番!』――
そのあと、何事もなかったかのように、トークイベントは続けられて……。
『みんなありがとう! リュミファイブ、これから応援よろしくお願いします!』
――パチパチパチパチパチパチ……!
やがて、終了。
トウキくんは笑顔のまま、ステージの奥へ、消えちゃった。
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