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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし⑤上 初恋の人の正体』第7回 うちのこと、覚えてる?


もうすぐ、夏休み! ある夜、姉妹で話をしていたら、二鳥の初恋の人で、アイドルの『椿吉トウキくん』との運命の出会いの話になって……? ふたりの間に、いったい何があったの!?  角川つばさ文庫の大人気シリーズ第5巻上が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(5巻)はコチラから
 1巻はコチラから
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 3巻はコチラから
 4巻はコチラから


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7 うちのこと、覚えてる?

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 拍手はなかなか鳴りやまなかった。

 それでも、だんだんと会場は静かになっていって……。

 ころあいを見て、日南くんと宇賀くんが切りだした。

『はーい、ではでは、グループ名発表のあとはトークイベントだよっ』

『あ、ちなみにさっき俺たちがだべってたのは、トークイベントではないので』

『未成年隊がどうとか言ってたのは、トークイベントじゃないですので〜』

 あっ、そうなんだ。

 すごく楽しかったから、私、てっきり、さっきのがトークイベントなのかと思ってた。

 でも、じゃあ、トークイベントって、どんなことをするんだろう?

『みんな、整理券持ってるか?』

 芥子川くんがよびかけ、

『捨ててない?』

 と、霧谷くんもほほえむ。

 整理券って、このステージについたとき、スタッフの人からもらったやつだよね。

 もちろん、ちゃんと持ってるけど……。

 そう思いながら、ポケットから整理券を取りだしたとき。

 トウキくんが言った。

『なんと、このトークイベントは、観客参加方式の、生トークイベントです!』

 えっ?

『これから、何度か抽選をします。当選番号と、同じ番号の整理券を持っている方に、マイクがわたされるので、メンバーに向かって、好きなことをしゃべってね!』

 え、ええっ……それってつまり!

「二鳥!」

「二鳥ちゃん!」

「二鳥姉さん!」

 一花ちゃん、私、四月ちゃんは、バッ、と二鳥ちゃんのほうを向いた。

「いきなりチャンスじゃない、二鳥。当選すればトウキくんに直接お礼が言えるわ」

「えぇ、で、でもっ……二千人もおるんやで? そんな簡単に当たるかな……」

 二鳥ちゃん、らしくもなく、弱気だ。

「ほ、本当に当たるかどうかはわからないけど、私たちの分の整理券もあるんだしっ」

「そうですよ。当たる確率は、およそ二千分の一ではなく、およそ二千分の四です!」

「私や三風や四月が当選しても、二鳥がしゃべればいいのよ」

「そんなん……ええの?」

「いいにきまってるじゃない。だってそのために来たんだもの。トウキくんにどんなふうにお礼を言うか、考えておきなさいよ」

 私たちは、はげますように、二鳥ちゃんの手をにぎったり、かたをたたいたりした。

『それじゃ、抽選、始めるよ〜』

 ステージから声がひびく。

 いつの間にか、リュミファイブのメンバーの前には、大きな抽選箱が置かれてた。

 中にはくじが入っているみたい。

 私たちの番号は、二〇八一番、二〇八三番、二〇八七番、二〇八九番。

 お願い、当たって〜!

『九二七番!』

 番号がよばれると、私たちから十メートルくらい離れたところにいた女の人が、

「キャーッ!」

 とさけんで、手をあげた。

 当たったのは、あの女の人なんだ。

 すぐにスタッフさんが、女の人のところにマイクを持ってくる。

 と同時に、ステージ上のスクリーンがパッと切りかわって――。

 アップで映しだされたのは、その女の人の顔だ!

 わっ! どこかから、カメラで映してるのかな?

 あの大きなスクリーンに、もし自分の顔が映ったとしたら……。

 想像するだけで、緊張で体がふるえてきそう。

『う、う、宇賀すばるくん、あの……』

 女の人、ガチガチになってるみたい。

 そりゃそうだよね。

 対する宇賀くんは、

『はーい、宇賀です。来てくれてありがとう。なんでも言ってください』

 と、ニコニコしてる。

『け、研究生のころから、ずーっと応援してました! これからもがんばってください!』

 女の人が言いきると、パチパチとあたたかい拍手が起こった。

『応援ありがとう。緊張しないで、なんでも言ってね』

『質問してくれてもオッケーだよ』

『それじゃ次。……一四二五番!』

「キャーッ!」

 と、また遠くのほうであがる悲鳴。

 そのたびに、カメラが声の主を、スクリーンに映しだす。

 今度は、大学生くらいのお姉さんだ。

『き、霧谷颯介くんデビューおめでとうございます! 霧谷くんのボイスが大好きです!』

『ありがとうございます。質問とかないですか?』

『し、質問……? じゃ、あのっ、霧谷くんの、好きな女の子のタイプを教えてくださいっ』

『好きな女の子のタイプかあ……。……度胸のある人、かな?』

『キャーッ! ありがとうございます〜! ずっと応援してます!』

 どんどん番号が読みあげられて、トークイベントが進行していく。

『五一五番!』――

『二三番!』――

『一三九八番!』――

 お願いお願いっ、二鳥ちゃんを当てて!

 アイドルのトウキくんに話しかける機会なんて、これをのがしたら、もう二度とないかもしれないんだよ〜!

 私は祈るような気持ちで、ぎゅっと両手のこぶしをにぎる。

『それじゃ、次、引くね〜!』

 日南くんが元気よく言って、くじを引いた。

『えー……、二〇八一番!』

「「「「っ!」」」」

 私たちは同時に息をのんだ。

 よばれたのは、二鳥ちゃんの番号だ!

「こっち! こっちです! マイクをください」

 一花ちゃんが手をあげ、スタッフさんをよぶ。

 マイクがとどくより先に、カメラがスクリーンに、二鳥ちゃんの顔を映しだす。

 やがて、二鳥ちゃんはマイクを受けとった。

『……トウキくん………………』

 マイクを通した二鳥ちゃんの声、ふるえてる。

 緊張を通りこして、ほとんど、ぼう然としちゃってるみたい。

 当たり前だよ。

 だって、相手はステージの上のアイドルで、自分の恩人で、初恋の人!

 まわりには、二千人以上の人がいる。

 いくら二鳥ちゃんでも、ガチガチに固まっちゃうにきまってる。

 私だったら、たおれてたかも!

 が、がんばって、二鳥ちゃん!

 一花ちゃん、私、四月ちゃんは、かたずをのんで、二鳥ちゃんを見守る。

『あ、僕か。はーい。なーに?』

 ステージ上で、トウキくんは、さわやかな笑顔。

『あ、あの…………うち……大阪で…………』

『え、大阪? 今日は大阪から来てくれたの? ありがとうっ』

『……あの……………………』

 ああっ、どうしよう、二鳥ちゃん、だまりこんじゃった。

 すると、

「ちょっと二鳥、しっかりしなさい」

 一花ちゃんが、二鳥ちゃんのお尻を、パンッ、とたたいた。

 衝撃で、二鳥ちゃんは、ビクッとふるえて。

 われに返ったかのように、マイクをぎゅっとにぎりなおす。

『――トウキくんっ!』

 さっきまでとはちがう、二鳥ちゃんのはっきりした声が、会場いっぱいにひびきわたった。

『トウキくん、うち、お礼が言いたくてここに来てん。あのとき、大阪で、ペンダント、いっしょにさがしてくれてありがとう!』

 やった!

 ちゃんとお礼が言えたよ!

 私たち姉妹は、みんな明るい笑顔になった。

 だけど…………。

『え……?』

 あれ……?

 どうしたんだろう。

 トウキくん、ステージの上で、ほんの少し首をかしげてる。

『……ごめん。ペンダント、って言った? それってなんのこと?』

 えっ?

『ほ、ほら! 今年の春ごろっ、大阪で、うちの赤いハート形のペンダント、いっしょにさがしてくれたやん!? トウキくんはそのあと、ディアマイのゲリラライブに、バックダンサーとして出て、うち、そのすがたを見て、それで……っ』

 二鳥ちゃんが必死に説明しても、トウキくんは、

『なんだい、それ?』

 と言いたげな顔のまま。

 ふりかえって、スクリーンに映った二鳥ちゃんの顔を確認して……。

 それでもまだ、やっぱり首をかしげてる。

 リーダーの宇賀くんが、トウキくんに何か指示を送った。

 すると、トウキくんは二鳥ちゃんのほうを見て、困ったように、優しく笑って……。

『ごめん、知らないなぁ。きみと会うのは、今日が初めてだと思うけど……』

『え………………』

 二鳥ちゃんは、言葉を失った。

 どうして?

 トウキくん、なんで、そんなことを言うの?

「えぇ……?」「なんだろう」「あの子が……」――

「ペンダントだって」「ヘンなの……」――

 まわりもだんだん、ざわざわしてくる。

「あの子、なんなんだろ」「妄想とかじゃない?」「うわ、ヤバ」――

 だれかのそんなつぶやきが聞こえ、私はこおりついた。

 ちがうよ!

 妄想なんかじゃないよっ……!

 一花ちゃんは、まわりの人たちをキッとするどくにらんでる。

 二鳥ちゃんは、うつむいて、なんにも言えなくなっちゃってる。

 見かねた四月ちゃんが、マイクをスタッフさんに返してくれた。

『はい、まだまだ続きます! 次は……八八六番!』――

 そのあと、何事もなかったかのように、トークイベントは続けられて……。

『みんなありがとう! リュミファイブ、これから応援よろしくお願いします!』

 ――パチパチパチパチパチパチ……!

 やがて、終了。

 トウキくんは笑顔のまま、ステージの奥へ、消えちゃった。

第8回へつづく


書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319074

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