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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし⑤上 初恋の人の正体』第8回 こんなのっておかしい


もうすぐ、夏休み! ある夜、姉妹で話をしていたら、二鳥の初恋の人で、アイドルの『椿吉トウキくん』との運命の出会いの話になって……? ふたりの間に、いったい何があったの!?  角川つばさ文庫の大人気シリーズ第5巻上が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(5巻)はコチラから
 1巻はコチラから
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 3巻はコチラから
 4巻はコチラから


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8 こんなのっておかしい

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 トークイベント終了後――。

 私たち四人は、こかげのベンチに座って、うつむいて……。

 ちびりちびりと、水筒のお茶を飲んでいた。

 遠くのステージからは、相変わらず、楽しそうな音楽がひびいてきてる。

 だけど、まるで、私たちのまわりだけ、なんの音も歌も存在していないみたい。

「は〜〜〜……。……ふふっ……」

 ふいに、二鳥ちゃんが弱く笑った。

「はは、まさかあんな……あんなことってある……? ほんまにびっくりしたわ……」

「二鳥」

 一花ちゃんは、二鳥ちゃんのかたをだいた。

「ムリして明るくふるまうことないのよ」

「……うう〜……は〜〜〜…………」

 二鳥ちゃんのため息は、ずっしりと重い。

 それはそうだよ。

 せっかく勇気をふりしぼって、トウキくんにお礼を言ったのに。

 ――『ごめん、知らないなぁ。きみと会うのは、今日が初めてだと思うけど……』

 あんな答えが返ってくるなんて、私だって、思いもよらなかった。

 トウキくん、二鳥ちゃんのこと、忘れちゃったのかな……?

「トウキくん、うちのこと、忘れてしもたんやろか……」

 二鳥ちゃんがつぶやくと、一花ちゃんがぐっと顔を上げ、姉妹たちを見た。

「忘れたなんて……そんなことある? おかしいわよ、そんなの」

 少しおこったような口調だ。

 二鳥ちゃんも、ゆっくりと顔を上げた。

 一花ちゃんは言う。

「本当はトウキくん、二鳥のこと、忘れてなんてない! 覚えてるのよ。だって、二鳥とトウキくんは大阪の街で、二、三十分もいっしょにいたんでしょ。忘れないわよ、普通は」

 たしかに……言われてみれば、そうだ。

 私がトウキくんだったら、二鳥ちゃんのこと、完全に忘れてしまうなんて、ありえない。

 いくらなんでも、それくらいの記憶力はある。

「でも……トウキくん、『なんのこと?』って、首かしげてたで?」

「それよ。トウキくんが、『なんのこと?』なんてとぼけたのには、きっと何か理由があるんだわ」

「理由というと……一体どのような?」

 四月ちゃんがたずねると、一花ちゃんは真剣に考えこんだ。

「それがわかれば苦労しないのよ……アイドルの人って、ふだん、どんなことを考えてるのかしら……。……アイドル……アイドル……? ……はっ!」

 あっ、何かひらめいたみたい。

「そうよ……! 二鳥、前に言ってたじゃない。アイドルは恋愛禁止だ、って。アイドルのトウキくんは、デビュー前だったとはいえ、ファンである二鳥と、プライベートで交流してたことがバレたらまずかったんじゃないかしら?」

「「あ! そっか」」

 私と二鳥ちゃんは、思わず声をあげた。

 一花ちゃんの予想、正しいかもしれない!

「二千人の観客の前で聞いたのがまずかったんだわ。だから二鳥、トウキくんと二人っきりになって、もう一度同じことを聞いてみればいいのよ」

「ふっ、二人っきりぃ!?」

「きっと、『もちろん、きみのこと覚えてるよ。さっきは知らないなんて言ってごめん。みんなの前では、ああ言うしかなかったんだ』とか答えてくれるわよ」

「うわぁ! えーそんなんムリ〜!」

 二鳥ちゃん、顔を真っ赤にして、首をブンブン、音がしそうなくらいスイングしてる。

 私も、ちょっとドキドキしちゃった。

 トウキくんのものまねをした一花ちゃんの声、いつもより低くて、カッコよかったんだもん。

「で、でも、トウキくんと二人っきりになるなんて、どうすればいいの……?」

 私が問うと、一花ちゃんはうでを組む。

「そうね……むずかしそうに思えるけど、案外なんとかなるかもしれないわ。たとえば、迷いこんだフリをして、ステージの裏に、こっそりしのびこんじゃうとか」

 うわわ、そんな大胆な。

「ス、ステージの裏って……」

「ステージのうしろにある、あの、大きくて白っぽい建物よ。どのステージも、建物の前にステージが組まれてるでしょう。ってことは、ステージのうしろにある建物は、出演者の楽屋とか、ひかえ室として使われてるんじゃないかしら」

「そんな……そんなとこに、しのびこんだりしたら、トウキくんの迷惑にならへんかな?」

 不安そうな二鳥ちゃんに、一花ちゃんは、はげますように笑いかける。

「あら、むしろ歓迎されるかもしれないわよ」

「えっ、なんで?」

「トウキくんの立場を考えてみなさいよ。もし、お礼を言われたのに、『きみのことなんか知らない』なんて、言わざるをえなかったとしたら……私だったら、『悪いことしちゃったな』って後悔するわ。『二鳥に会って、事情を説明したい』って思うわよ」

「せやろか……?」

 二鳥ちゃんは、心配しているような、期待しているような、複雑な顔で迷ってる。

「フン……なんにせよ、ハジかかされたまま帰れるかってのよ」

 一花ちゃんは、ひとりごとみたいにつぶやいて、ニヤッ、と、ちょっぴり悪そうな笑みをうかべた。

 あ、そういえば、一花ちゃんは、元不良なんだった。

 なんだか、たのもしいような、反対にちょっと、危なっかしいような……。

「どうしよ、四月ちゃん」

 小声で聞くと、四月ちゃんは、ハッとわれに返ったかのように、目をまたたいた。

「え……? あ、すみません、なんですか?」

「一花ちゃんが、ステージの裏にしのびこんで、トウキくんに会いに行こうって」

「そ、そう……ですね。チャレンジしてみる価値は、あると思います」

 一花ちゃんと二鳥ちゃんは、その言葉を聞きのがさなかった。

「せやな……! チャレンジ、チャレンジあるのみ! や」

「無茶はしないことよ。見つかっちゃったら、素直に退きましょ」

 お姉ちゃん二人が立ちあがったので、私と四月ちゃんも立ちあがる。

 四月ちゃんは、なんとなく、不安そうな顔をしてるみたい。

 ――「チャレンジしてみる価値は、あると思います」

 って答えてたから、ステージの裏にしのびこむのが不安ってわけじゃなさそうだけど……。

 四月ちゃん、どうしたんだろう。

 さっきまで、何か考えこんでいるみたいだったし……。

 暑さでボーッとしちゃったのかな?

 それとも、何か、ほかのことが心配なのかな……?

 気になったけれど、

「目指すは、ステージ・イエローの裏よ!」

 一花ちゃんが、勇ましくそう言って歩きだしたので、私もあわててあとに続いた。

トウキくんにトツゲキすることにした四つ子たち! 本当にトウキくんに会える? そして、二鳥のことを知らない振りをした真相は……!?

気になりすぎる続きの『5巻上・後半』は5月26日(月)にアップ予定! おたのしみに☆

書籍版や電子書籍版では、佐倉おりこさんのステキなさし絵が見られるよ。書籍版では、ただいま伝説の超レアグッズが当たる『四つ子ぐらしフェア!!』もかいさい中! ぜひチェックしてね!!

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319074

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