
もうすぐ、夏休み! ある夜、姉妹で話をしていたら、二鳥の初恋の人で、アイドルの『椿吉トウキくん』との運命の出会いの話になって……? ふたりの間に、いったい何があったの!? 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第5巻上が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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8 こんなのっておかしい
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トークイベント終了後――。
私たち四人は、こかげのベンチに座って、うつむいて……。
ちびりちびりと、水筒のお茶を飲んでいた。
遠くのステージからは、相変わらず、楽しそうな音楽がひびいてきてる。
だけど、まるで、私たちのまわりだけ、なんの音も歌も存在していないみたい。
「は〜〜〜……。……ふふっ……」
ふいに、二鳥ちゃんが弱く笑った。
「はは、まさかあんな……あんなことってある……? ほんまにびっくりしたわ……」
「二鳥」
一花ちゃんは、二鳥ちゃんのかたをだいた。
「ムリして明るくふるまうことないのよ」
「……うう〜……は〜〜〜…………」
二鳥ちゃんのため息は、ずっしりと重い。
それはそうだよ。
せっかく勇気をふりしぼって、トウキくんにお礼を言ったのに。
――『ごめん、知らないなぁ。きみと会うのは、今日が初めてだと思うけど……』
あんな答えが返ってくるなんて、私だって、思いもよらなかった。
トウキくん、二鳥ちゃんのこと、忘れちゃったのかな……?
「トウキくん、うちのこと、忘れてしもたんやろか……」
二鳥ちゃんがつぶやくと、一花ちゃんがぐっと顔を上げ、姉妹たちを見た。
「忘れたなんて……そんなことある? おかしいわよ、そんなの」
少しおこったような口調だ。
二鳥ちゃんも、ゆっくりと顔を上げた。
一花ちゃんは言う。
「本当はトウキくん、二鳥のこと、忘れてなんてない! 覚えてるのよ。だって、二鳥とトウキくんは大阪の街で、二、三十分もいっしょにいたんでしょ。忘れないわよ、普通は」
たしかに……言われてみれば、そうだ。
私がトウキくんだったら、二鳥ちゃんのこと、完全に忘れてしまうなんて、ありえない。
いくらなんでも、それくらいの記憶力はある。
「でも……トウキくん、『なんのこと?』って、首かしげてたで?」
「それよ。トウキくんが、『なんのこと?』なんてとぼけたのには、きっと何か理由があるんだわ」
「理由というと……一体どのような?」
四月ちゃんがたずねると、一花ちゃんは真剣に考えこんだ。
「それがわかれば苦労しないのよ……アイドルの人って、ふだん、どんなことを考えてるのかしら……。……アイドル……アイドル……? ……はっ!」
あっ、何かひらめいたみたい。
「そうよ……! 二鳥、前に言ってたじゃない。アイドルは恋愛禁止だ、って。アイドルのトウキくんは、デビュー前だったとはいえ、ファンである二鳥と、プライベートで交流してたことがバレたらまずかったんじゃないかしら?」
「「あ! そっか」」
私と二鳥ちゃんは、思わず声をあげた。
一花ちゃんの予想、正しいかもしれない!
「二千人の観客の前で聞いたのがまずかったんだわ。だから二鳥、トウキくんと二人っきりになって、もう一度同じことを聞いてみればいいのよ」
「ふっ、二人っきりぃ!?」
「きっと、『もちろん、きみのこと覚えてるよ。さっきは知らないなんて言ってごめん。みんなの前では、ああ言うしかなかったんだ』とか答えてくれるわよ」
「うわぁ! えーそんなんムリ〜!」
二鳥ちゃん、顔を真っ赤にして、首をブンブン、音がしそうなくらいスイングしてる。
私も、ちょっとドキドキしちゃった。
トウキくんのものまねをした一花ちゃんの声、いつもより低くて、カッコよかったんだもん。
「で、でも、トウキくんと二人っきりになるなんて、どうすればいいの……?」
私が問うと、一花ちゃんはうでを組む。
「そうね……むずかしそうに思えるけど、案外なんとかなるかもしれないわ。たとえば、迷いこんだフリをして、ステージの裏に、こっそりしのびこんじゃうとか」
うわわ、そんな大胆な。
「ス、ステージの裏って……」
「ステージのうしろにある、あの、大きくて白っぽい建物よ。どのステージも、建物の前にステージが組まれてるでしょう。ってことは、ステージのうしろにある建物は、出演者の楽屋とか、ひかえ室として使われてるんじゃないかしら」
「そんな……そんなとこに、しのびこんだりしたら、トウキくんの迷惑にならへんかな?」
不安そうな二鳥ちゃんに、一花ちゃんは、はげますように笑いかける。
「あら、むしろ歓迎されるかもしれないわよ」
「えっ、なんで?」
「トウキくんの立場を考えてみなさいよ。もし、お礼を言われたのに、『きみのことなんか知らない』なんて、言わざるをえなかったとしたら……私だったら、『悪いことしちゃったな』って後悔するわ。『二鳥に会って、事情を説明したい』って思うわよ」
「せやろか……?」
二鳥ちゃんは、心配しているような、期待しているような、複雑な顔で迷ってる。
「フン……なんにせよ、ハジかかされたまま帰れるかってのよ」
一花ちゃんは、ひとりごとみたいにつぶやいて、ニヤッ、と、ちょっぴり悪そうな笑みをうかべた。
あ、そういえば、一花ちゃんは、元不良なんだった。
なんだか、たのもしいような、反対にちょっと、危なっかしいような……。
「どうしよ、四月ちゃん」
小声で聞くと、四月ちゃんは、ハッとわれに返ったかのように、目をまたたいた。
「え……? あ、すみません、なんですか?」
「一花ちゃんが、ステージの裏にしのびこんで、トウキくんに会いに行こうって」
「そ、そう……ですね。チャレンジしてみる価値は、あると思います」
一花ちゃんと二鳥ちゃんは、その言葉を聞きのがさなかった。
「せやな……! チャレンジ、チャレンジあるのみ! や」
「無茶はしないことよ。見つかっちゃったら、素直に退きましょ」
お姉ちゃん二人が立ちあがったので、私と四月ちゃんも立ちあがる。
四月ちゃんは、なんとなく、不安そうな顔をしてるみたい。
――「チャレンジしてみる価値は、あると思います」
って答えてたから、ステージの裏にしのびこむのが不安ってわけじゃなさそうだけど……。
四月ちゃん、どうしたんだろう。
さっきまで、何か考えこんでいるみたいだったし……。
暑さでボーッとしちゃったのかな?
それとも、何か、ほかのことが心配なのかな……?
気になったけれど、
「目指すは、ステージ・イエローの裏よ!」
一花ちゃんが、勇ましくそう言って歩きだしたので、私もあわててあとに続いた。
トウキくんにトツゲキすることにした四つ子たち! 本当にトウキくんに会える? そして、二鳥のことを知らない振りをした真相は……!?
気になりすぎる続きの『5巻上・後半』は5月26日(月)にアップ予定! おたのしみに☆
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