
もうすぐ、夏休み! ある夜、姉妹で話をしていたら、二鳥の初恋の人で、アイドルの『椿吉トウキくん』との運命の出会いの話になって……? ふたりの間に、いったい何があったの!? 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第5巻上が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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6 その名はリュミファイブ
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『みなさんこんにちはー!』
リーダーっぽい、高校生くらいの人が、ステージから観客の人たちへ向かってさけぶ。
マイクを通した大きな声がひびいて、観客席は、ワァッ、とわきあがった。
ここからだと、少し遠いけど、ちゃんとアイドル全員のすがたが見える。
ステージの上にいる男の子は、全部で五人。
みんな、ラフな私服すがただ。
だけど、さすがはアイドル。
どの人も、みんな姿勢がよくて、大人っぽくて、カッコいい!
彼らの中の、どの子がトウキくんなんだろう。
私は、ステージにくぎづけになった。
『今日は俺たちのグループ名発表と、トークイベントに来てくれてありがとう。リーダーの宇賀すばるです!』
宇賀すばるくん、やっぱりリーダーなんだ。
ハキハキしたしゃべり方が、ステキだな。
続いて、
『霧谷颯介です』
背が高くて、ちょっとミステリアスな印象の霧谷颯介くんが、軽く会釈する。
『芥子川東だ……』
芥子川東くんは、どこか不良っぽくって、とがった雰囲気。
『かわいい担当の日南ユイだよ〜』
あはは、日南ユイくん、すっごくかわいく手をふってる。
そして、最後に自己紹介するのが――。
『最年少の椿吉トウキです。よろしくっ!』
また、ワアアアッ、と、会場がわいた。
この人が、椿吉トウキくん……。
すらりとのびた手足。整った顔立ち。キラッと光るような笑顔。
うんうん、遠目に見ても、たしかにカッコいい……!
二鳥ちゃんが恋に落ちるのも納得だ。
彼らはさっそく、ワイワイと、舞台上でトークを始める。
『さて、これから、俺たちのグループ名を発表します、しかし、なんと!』
司会進行役は、リーダーの宇賀くん。
『なんとなんと?』
軽い調子で相づちを打つのは、かわいくてお調子者の日南くんだ。
『なんと、俺たちもまだ、グループ名を知りません!!』
――えぇ〜〜〜っ!?
客席の人たちが声をあげる。
私もおどろいた。
グループのメンバーなのに、自分たちのグループ名を、まだ知らないなんて。
もしかしたら、アイドルの彼らも、私たちと同じように、
『どんなグループ名なんだろう?』
ってドキドキしてるのかな?
『グループ名がわからないから、「ナントカカントカっていうグループの宇賀です」って、自己紹介できないんだよね』
『楽屋の表札とかにも、「GOODBOYS新ユニット(仮)」って書かれてたもんねー』
背の高い霧谷くんが、マイペースにつぶやく。
すると、
『どうも〜GOODBOYS新ユニットカッコカリの日南で〜す』
日南くんがふざけてそんなことを言いだした。
あはははっ、と同時に笑うメンバーと客席の人たち。
大勢の人たちといっしょに笑うと、ふだんの何倍も楽しいような気がしてくるよ。
『ははっ、でも今のところ、本当にそう言うしかないんだよね』
『でも、どうする? 変なグループ名だったら』
日南くんがそう言って、グループ全員の顔を見た。
『変なって?』
『たとえばどんな?』
首をかしげる宇賀くん、それからトウキくん。
『えー、どんなのだろ?』
日南くんは、しばらく考えてから言った。
『……全員未成年だから――『未成年隊』とかっ!?』
『成人したら即脱退かよ』
不良っぽい芥子川くんがするどくつっこんで、みんなは爆笑だ。
アイドルって、遠い存在で、自分たちとは全然ちがう世界の人だって思ってたけど……。
同じ話題で、何げないことでいっしょに笑うと、急に親しみがわいてきちゃう。
宇賀くんも、霧谷くんも、芥子川くんも、日南くんも、それからトウキくんも。
みんなカッコよくて、おもしろくて、ステキだな。
『あっははは、未成年隊だったらヤだなー』
『未成年隊はムリだな』
『事務所をうらむね』
『僕だったらやめちゃうね』
えっ、やめる?
あっさりそう言ったのは……トウキくんだ!
『バッ……お前、グループ名も決まってないうちからやめるとか言うな』
芥子川くんがつっこむと、観客はまたドッと笑った。
だけど、トウキくんは全然こりてないみたい。
『仕事だからって、なんでもやるってわけじゃないよ。「アイドルってこういう感じなんだー」ってわかったら、適当にタイミングを見計らって、普通の男の子にもどっちゃお』
『トウキ、ちょっとだまろうか』
苦笑いの宇賀くん。
『あははっ、リーダー、マジトーンだ』
それを笑いに変える日南くん。
『ふふっ、ほんとごめんねみなさん。こいつ、思ったことをなんでも口に出しちゃうんですよ』
宇賀くんが、トウキくんの頭をポンポンと軽くたたいた。
『トウキ、まだ十二歳だもんね』
霧谷くんの言葉に、えーっ、とか、おーっ、とか、客席がざわめく。
注目を集めに集めたトウキくんは、
『椿吉トウキ、十二歳です。中一でーす。八月二十九日の誕生日で十三歳になりまーす』
まったく動じることなく、客席に向けて、大きく手をふってみせた。
ひゃー……トウキくん、緊張とかしないのかな?
人前になれてるって感じで、すごいなぁ。
ずーっと、あのキラキラした笑顔をたやさないし。
二鳥ちゃんの話を聞いたかぎりでは、ぶっきらぼうな子かと思っていたけど……。
アイドルとしてお客さんの前に立つときは、あんなににこやかなんだ。
そういえば、二鳥ちゃん、
――「あのトウキくんが素直でピュアなキャラってことになってんねん」
って言ってたっけ。
キャラ、ってことは、ほんのちょっと、そういうふうに演技してるのかな?
うーん、でも、演技だとはとても思えない。
性格を完璧に切りかえられるなんて、さすがプロ。
私たちと同じ学年だけど、アイドルっていう、お仕事をしてるんだもんね。
立派だなぁ。
感心していた、そのとき――。
――ジャーンジャーンジャーン! ダダダッ♪ ジャーン!
派手に音楽が鳴りひびき、
『おおっ、いよいよ、グループ名発表の時間がやってまいりましたー!』
リーダーの宇賀くんが、客席を盛りあげる。
彼は、二つに折られた、ノートくらいの大きさの紙を開いた。
きっとそこに、グループ名が書かれているんだ。
『では、発表します!』
ステージ上にひとつだけある、大きなスクリーン。
夜空みたいに真っ暗になったそこに、光が次々に集まって――パッと弾けた!
現れた文字は、『LumiFive』!
『俺たちのグループ名は――リュミファイブです!』
――ワアアアアアッ……!
拍手や歓声がまきおこる。
リュミファイブ。
なんていうか……うまく言えないけど、とってもオシャレな名前だ。
霧谷くんも、ノートくらいの大きさの紙を開いて、読みだした。
『えー、リュミファイブ、というのは、フランス語で「光」を意味する「リュミエール」と、英語で「五」を意味する「ファイブ」を合わせた名前です。五つの光、五色の光! そんな、それぞれの個性が光る、かがやかしいグループになることを目指し、命名されたそうです』
宇賀くんは、バッとうでをのばす。
『みなさん、リュミファイブを、これからよろしくお願いします!』
――パチパチパチパチパチパチ……!
二千人をこえる人たちの拍手が、まわりをつつんだ。
ふととなりを見ると、二鳥ちゃんも夢中になって拍手してる。
今日から、トウキくんは、リュミファイブの椿吉トウキになるんだ。
もしかしたら、私たち、すごい瞬間に立ちあっちゃったのかもしれない――!
そう感じて、私も、何度も手のひらをたたきあわせた。
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