
もうすぐ、夏休み! ある夜、姉妹で話をしていたら、二鳥の初恋の人で、アイドルの『椿吉トウキくん』との運命の出会いの話になって……? ふたりの間に、いったい何があったの!? 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第5巻上が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
……………………………………
5 音楽のお祭り
……………………………………
――ミーンミーンミーンミーンミン…………
セミの大合唱。
まぶしい太陽。
雲ひとつない青空。
いよいよ、SSフェスの日がやってきた。
「さてっ、出発や!」
「「「おー!」」」
私たち四人は家を出て、SSフェスの会場・緑の森自然公園へと向かった。
今日はみんな、Tシャツにスニーカーにリュックといった、動きやすいかっこうだ。
――「夏の野外フェスは過酷やから、ちゃーんと準備して行かなあかんで。まず、ぼうし。それから汗をふくタオル。十分な量の冷たい飲み物に、ミネラル補給の塩タブレット。雨ふるかもしれへんから、レインコートも持って行こ。外やし、レジャーシートとか、ウェットティッシュとかもあると便利やで!」
SSフェスに行くと決まってから、二鳥ちゃん、大はりきりだったんだ。
おかげで、私たちは準備万端。
とはいえ、暑いものは暑い……!
「ひ〜……暑いねぇ」
「本当ね」
「とけそうです……」
「まさに夏! って感じや」
おしゃべりしながら電車に乗って、駅を出たら、目的地まで、ひたすら歩く。
まわりには、私たちと似たかっこうの人が大勢、同じ方向に向かって歩いてて、
(わぁ……野外ライブって、こんなにたくさん、お客さんが来るんだ)
って思ったら、ウキウキしてきちゃった。
緑の森自然公園までは、あと少し。
自然公園というだけあって、道は、山のほうへ向かっている。
ゆるい上り坂には、だんだん緑が増えてきた。
こかげに入ると、暑さはマシになるけれど……。
こかげを出ると、やっぱり暑い!
「四月、がんばって」
「はい…………あの……ちょっと水分補給を」
歩道のはしに、立ちどまった四月ちゃん。
「そうね……みんな、お茶を飲みましょ」
一花ちゃんがよびかけ、私と二鳥ちゃんも立ちどまる。
「「「「ふぅ……」」」」
と息をつきながら、私たちが水筒を開けた、そのとき。
――ブーン……
エンジン音が聞こえて、ふと車道に目を向けると……。
サッ、と走りさって行ったのは、真っ黒な高級車。
「うっわ……今の車、見た?」
不吉なものでも見たような口調で、二鳥ちゃんが問いかける。
すると、姉妹の顔が、いっせいにくもった。
「……こんなときにそんなこと、考えるのはやめよ」
お茶を飲みおえると、一花ちゃんは、すぐに歩きだす。
私と四月ちゃん、二鳥ちゃんも、あとを追った。
みんなの頭の中に、だれのすがたがうかんだか、簡単にわかる。
四ツ橋麗さん――私たちのお母さんを名乗る、あやしい人だ。
彼女は春ごろ、私たちの家に二度もやってきて、私たち姉妹を引きはなそうとしたんだ。
しかも、彼女は大企業・クワトロフォリアの社長夫人でもあるらしい。
そんな話、私たち、すぐには信じられなかった。
でも、私たちのお母さんが、姉妹それぞれに残してくれた、ハートのペンダント……。
それを四つ合わせると、クワトロフォリアのロゴマークになる、ってことに気づいて……。
DNA鑑定でも、私たちと麗さんには、親子関係があるって結果が出たそうだし。
顔だって似てるし。
麗さんの言うことは本当なのかも……。
あの人、私たちのお母さんなのかも、って…………。
……あぁ、もうっ。
暑さのせいでボーッとして、イヤなことを思いだしちゃった。
私はタオルで、グイッ、と汗をぬぐった。
黒い高級車が走っていったのは、ただの偶然にきまってるよ。
だって、私たちが向かっているのは、SSフェス。
そんなところに、あの麗さんが、いるわけないもんね。
「うわ、すごい……!」
SSフェスの会場に近づくにつれ、人がどんどん増えてきた。
入場ゲートをくぐると……これまたすごい!
すっごく広い原っぱに、すっごくたくさんの人が集まってる。
――ドンドン、パンパン、ドドドドッ♪ ジャーン!
遠くのほうにある、大きいステージでは、もう演奏が始まってるみたい。
大音量の音楽が、大地をゆるがすようにひびきつづけてる。
弾けるようなメロディーとリズム。
青空に向かって、どこまでものびていく歌。
知らない曲でも、思わずジャンプしたくなっちゃうよ。
「これが、SSフェス……」
私がつぶやくと、答えるように、一花ちゃんが言った。
「音楽のお祭り、ってわけね」
音楽のお祭り!
私たち、とびきり楽しい場所にやって来たんだなぁ。
「それで、二鳥、トウキくんの出るステージはどっち?」
「えーっと、あっち! 『ステージ・イエロー』」
二鳥ちゃんが、パンフレットを見て、私たちの先頭を歩きだす。
会場には、大きいステージが二つ、小さいステージが二つあるみたい。
今日、トウキくんが出演するのは、小さいほうのステージなんだって。
「今日は、グループ名発表と、トークイベントだっけ」
私が話しかけると、二鳥ちゃんは、
「そうっ!」
と声を弾ませ、二、三歩スキップした。
「どんなグループ名なんやろ? トークイベントって、どんなことするんやろ? トウキくん、どんなことしゃべってくれるかな? あぁ、楽しみっ」
二鳥ちゃん、ウキウキしていて、とっても楽しそう。
二鳥ちゃんの笑顔を見ていると、私も楽しくなってくるよ。
SSフェスに来て、よかった!
ステージ・イエローについた私たち。
大きいステージほどじゃないにしろ、ここにも人が、たくさん集まってる。
中学校の全校集会よりも、ずっとずっと人の数が多いんじゃないかな。
『トークイベントで必要な整理券をお配りしていまーす! 整理券はこちらでーす!』
スタッフの人が、拡声器でさけんでる。
私たちは整理券を受けとり、ステージの、さらに近くへと移動した。
SSフェスの観客席には、イスがない。
だから、みんな好きなところに移動して、ステージをながめることができる。
「みんな、整理券、何番?」
人ごみの中で、二鳥ちゃんが問いかけた。
「私は、二〇八三番よ」
「私、二〇八七番だよ」
「僕、二〇八九番です」
「うちが二〇八一番やから……もう二千人は、このステージのまわりにおるってことかあ」
二千人も……!
すごいっ。
人の多さに、感心していたら――。
――ジャーンジャーンジャーン! ダダダッ♪ ジャーン!
突然、大音量で音楽が鳴りだした。
「ああっ、始まるで!」
――キャアアアアア〜!
黄色い歓声がまきおこり、ハッと前を見ると……。
アイドルの男の子が数名、いよいよ、ステージの上に出てきた!
書籍情報
注目シリーズまるごとイッキ読み!
つばさ文庫の連載はこちらからチェック!▼