
もうすぐ、夏休み! ある夜、姉妹で話をしていたら、二鳥の初恋の人で、アイドルの『椿吉トウキくん』との運命の出会いの話になって……? ふたりの間に、いったい何があったの!? 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第5巻上が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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3 スーパースターフェスティバル
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「――で、ゲリラライブが終わってすぐ、スマホで、その男の子のことを調べてみてん。名前もなんにもわからんかったから苦労したわ。そのうち、スマホの充電もなくなるしさ。でも、どうしてもあきらめられへんくて、家に帰ってから、もっぺん調べてみたわけ。そしてやっと、彼がGOODBOYS研究生の、椿吉トウキくんやってことをつきとめたのです!」
二鳥ちゃん、ムフーッ、と満足そうに笑ってる。
そして、ちょっとしっとりした、女の子っぽい声色で、
「ロマンチックやろ? 助けてくれた男の子が、アイドルやったなんて」
と、話をしめくくった。
私・三風は……。
布団にうつぶせになったまま、二鳥ちゃんの話を、夢中になって聞いて、聞きおえて。
「すごいっ!」
思わず、さけんじゃった。
「すっごく困ってるときに助けてくれた男の子の正体が、アイドルだったなんて!」
「そんなことって、あるのねえ……ただのアイドルじゃなかったってことね」
一花ちゃんが、しみじみ感心したように言って、四月ちゃんもうなずいてる。
「僕、いじめっこに、お母さんのペンダントを、川に捨てられたことがあったんです。だから、二鳥姉さんがどんなに困っていたか……トウキくんがペンダントをいっしょにさがしてくれて、どんなに心強く思ったか、本当によくわかります」
私も本当によくわかるよ。
一花ちゃんはピンク、二鳥ちゃんは赤、私・三風は水色、四月ちゃんは紫色。
四姉妹でおそろいの、ハート形をしたあのペンダントは、お母さんが私たちに残してくれた、たったひとつの、大切なものなんだもん。
二鳥ちゃんは、大きくうなずく。
「せやねん! ほんまにうれしかってん。やから、椿吉トウキくんはうちの恩人にして、初恋の相手にして、運命の人、ちゅうわけや」
そっか、そういうことだったんだ。
困ったときに助けてくれた、優しくて、カッコいい男の子。
その子が、アイドルデビューするんだもん。
だから二鳥ちゃん、転げまわるくらい、すっごくうれしくなったんだね。
「ん…………?」
ふいに、四月ちゃんが、ポツンとつぶやいた。
「……つばよし…………」
なんだか、深く考えこんでいるような、ちょっとしずんだ声だ。
「四月ちゃん、どうかしたの?」
「あ、いえ……。……変わった苗字だなと、思いまして……」
「あぁ、そういえば、そうだね。椿吉、って、めずらしいかも」
「…………」
四月ちゃん、やっぱり、何か考えてるみたい。
ちょっとだけ、かたい表情をしてる。
四月ちゃんは、男子が苦手だから、そのせいなのかな……?
少し、気になったけど、
「おお〜っ? シヅちゃんトウキくんに興味あるん? いろいろ教えたげるわ! トウキくんは八月二十九日生まれのおとめ座。うちらと同じ中学一年生。血液型はA型、特技はアクロバット、好きな食べ物は桃。キャッチコピーは、『まっすぐな視線のピュアボーイ』! あのトウキくんが素直でピュアなキャラってことになってんねん! うちといっしょのときは全然ちゃうかったのに! ギャップ萌えやん! おもろいやろ? でな――」
すぐに、二鳥ちゃんのマシンガントークが始まっちゃった……。
「――って、GOODBOYSのサイト見てもらったほうが早いな。いろいろ写真とかものってるし……。…………って……うっっっ!! わ!! ええええええっ!?」
わっ!? スマホの画面を見た二鳥ちゃんが、また絶叫した。
「あぁもう、うーるーさーい。もう夜なんだから静かにしなさいよ」
そう言って、一花ちゃんが耳をふさぐ。
私は、おそるおそるたずねてみた。
「今度は、どうしたの……?」
すると、二鳥ちゃんは、ふるえる声で答えた。
「トウキくん……SSフェスに出演するんやって!!」
「「「SSフェス?」」」
「そう! これ! このイベントっ」
二鳥ちゃんが見せてくれたスマホの画面を、私は読んでみた。
スーパースターフェスティバル。
略してSSフェス。
それは、緑の森自然公園で、二日間行われる……野外ライブイベント!
「つまり、野外ステージで、アイドルとかのパフォーマンスが見れる、ってことだよね」
すごい。ちょっとおもしろそうかも。
「この、SSフェス、っていうのに、トウキくんが出るの?」
「そう! そうやねん! 一日目にも二日目にも出演するんやって! 一日目にはトウキくんの所属する新アイドルグループのグループ名発表とトークイベント、二日目にはトウキくんのグループのライブが行われるって……!」
二鳥ちゃん、よっぽど興奮してるのか、すごい早口だ。
「SSフェス、ですか……あ、会場の緑の森自然公園って、電車で三十分くらいのところにある、大きい公園ですよね」
「ああ、あの、ものすごく広い原っぱのある公園ね。……あら、中学生以下は、入場料無料って書いてあるじゃない」
四月ちゃんも一花ちゃんも、少し興味が出てきたみたい。
二鳥ちゃんは、
「すー……はー……」
と、自分を落ちつかせるように深呼吸してる。
それから、ゆっくりと、顔を上げて言った。
「行きたい……! SSフェスに行きたい」
はしゃぐのをやめた、真剣な口調だ。
「うち、あのときお礼、言えへんかってん。やから、SSフェスでトウキくんに会うて、『ペンダントいっしょにさがしてくれてありがとう』ってお礼を言いたい。トウキくんはアイドルやから、話すことなんてできひんかもしれへんけど……彼のすがたを、一目見るだけでもいい」
「二鳥ちゃん……」
二鳥ちゃん、本当にトウキくんに会いたいんだ。
会いたくてたまらないんだ。
なんだか、私まで切ない気持ちになって、胸がキュッとしめつけられるみたい。
すると、一花ちゃんが、トスン、と二鳥ちゃんに軽くもたれかかって……。
姉妹みんなに向けて、言った。
「いいじゃない。行きましょうよ、みんなで」
「みんなで……!? ほんまにええの?」
おどろく二鳥ちゃんに、私も、四月ちゃんも、一花ちゃんも、にっこりほほえむ。
「だって、姉妹のだれかの恩人は、姉妹みんなの恩人だもの」
そう一花ちゃんが言うと――。
「ありがとうっ!!」
「きゃあっ」
二鳥ちゃんは、一花ちゃんにギューッとだきついて喜んだ。
ふふ、二人とも、仲よしさんだなぁ。
私は、二鳥ちゃんのスマホの画面を、もう一度見てみる。
SSフェスの開催日は……夏休みに入ってすぐだ。
「もう、ねましょ! 明日も学校よ。あんまりおそくまでスマホをいじるのもよくないわ。電気消すわよ」
そう言って、一花ちゃんは立ちあがり、さっさと電気を消しちゃった。
「は〜い」
二鳥ちゃんは素直に返事をする。
となりからは、早くも、四月ちゃんの寝息が聞こえてきた。
こんなに近くに家族がいる。
やっぱり、姉妹いっしょにねるのは、楽しくてうれしいな。
ゆっくりとあおむけになって、ほのかなオレンジ色の豆電球を見つめながら……。
「野外ライブかぁ……」
私は思わず、つぶやいていた。
行ったことは一度もないから、どんなもよおしかは、なんとなくしか想像できない。
それでも、なんだかワクワクしてきちゃう。
SSフェスに行けば、二鳥ちゃんの初恋の相手・椿吉トウキくんに会えるんだもんね。
もしかしたら、ずっと遠くのほうから、ちょびっとしか見れないかもしれない。
でも、写真とか動画とかじゃなくて、この目で、じかにトウキくんのすがたが見れる。
それって、すごいことなのかも。
トウキくんって、どんな子なのかな?
ちょっとぶっきらぼうだけど、本当は優しい子?
物知りで、運動神経抜群の、ステキな子?
SSフェスが、すっごく楽しみだよ。
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