
お休みの日に、みんなで楽しく遊園地へ! 苦手だけど、がんばってジェットコースターに乗っていた三風は乗り物酔いでヘロヘロに……。休憩している三風へ「にとちゃん!」話しかけてきた、小さな男の子。この子、もしかして、二鳥ちゃんの弟!? とんでもない事態のいっぽうで、別行動していた一花チームは……?
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14 お願い、無事でいて!
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『いました! オレンジ色の服の小さな子! 林の奥です!』
一花ちゃんのスマホから、四月ちゃんの声が聞こえた。
観覧車のとなりの林。
そこに、あゆむくんはいるんだ!
「行こ!」
「ええ」
「うんっ」
二鳥ちゃん、一花ちゃん、そして私・三風の三人はうなずきあい、林へと走りだした。
「見つかって、よかったね……!」
走りながら私が言う。すると、一花ちゃんが低い声で答えた。
「まだ安心はできないわ。あの林、けっこう広そうだったし、中には古い遊具があるって、直幸くんが言ってたもの」
あっ、そうか。古い遊具で遊んで、ケガでもしたら大変だ。
「あゆむ……!」
二鳥ちゃんはつぶやき、走る速度をぐんと上げた。
「あそこよ……!」
やがて、林の入り口が見えてきた。
そこには、立ち入り禁止の看板が立てられ、人が入れないよう、ロープが張ってある。
だけど、今は緊急事態。
この中に、迷子の幼い男の子がいるんだもん。
大人の人をよんでくる時間もおしいよ。
「入ろ!」
二鳥ちゃんを先頭に、私たちが張りめぐらされたロープをくぐった、そのとき。
「姉さんたち~」
「み、宮美さーん」
四月ちゃんと直幸くんが、観覧車のほうからかけてきた。
「二人とも! ありがとう」
一花ちゃんがお礼を言うあいだに、四月ちゃんたちも、迷わずロープをくぐる。
「あゆむがおったのはどこ?」
「あのっ……そこの案内板を見てください」
直幸くんは、林に入ってすぐのところにある、古びた案内板の地図を指ししめした。
「僕らがあゆむくんを見たのは、この林の奥……こっちがわの、このあたりです。もしかしたら、もう移動しているかもしれませんが……」
「…………ここって……!」
二鳥ちゃんは青ざめた。
直幸くんが指したところ。
そのすぐとなりが、水色にぬられている。
書いてある文字は、
《まんまる池》
「っ……!」
不吉な想像に、私は息をのんだ。
池に落ちちゃったら、あゆむくん、おぼれて死んじゃうかもしれない!
「あゆむっ!!」
二鳥ちゃんは林の奥へかけだした。
私たちもあとに続く。
お願い、あゆむくん、無事でいて!
「あゆむーっ! あゆむーっ!」
「あゆむくーん!」
「あゆむくーんっ!」
私たちは手分けして、あゆむくんをさがした。
声のかぎりに名前をよびながら、林の中を走りまわる。
「あゆむーっ! あっ……」
――ドシャッ!
「二鳥ちゃん!」
二鳥ちゃんが目の前で転んだので、私は悲鳴をあげた。
「二鳥ちゃん、大丈夫?」
「いったた……。……うん、全然平気や」
いつもと変わらない口調だけど、二鳥ちゃんの顔はすごくけわしい。
きっと、あゆむくんが心配でたまらないんだ。
こんなに大声でよんでも、まだ見つからないんだもん。
「あゆむくーんっ!!」
「あゆむくーんっ!!」
みんなの声にも、あせりがにじんでる。
「あゆむくん、一体、どこにいるんだろう……っ」
「……………………」
私のつぶやきに、二鳥ちゃんからの返事はない。
まさか、転んでどこか痛めたの?
ハッと目を向けると……。
二鳥ちゃんは、古い落ち葉のつもった地面を見つめて、じっと固まっていた。
「二鳥ちゃん……? どうし――」
「ナオくん!!」
私がたずねおわらないうちに、二鳥ちゃんは大声で直幸くんをよんだ。
「ハイッ!? な、なんですか?」
「この辺にどんぐりの木ある?」
「へ? どんぐり?」
直幸くんは意外そうな顔だけど、二鳥ちゃんは真剣だ。
……あ、そうか!
「あゆむ、どんぐりが好きやねん。よう拾って、二人で遊んでた。もしかしたら……!」
「どんぐりのなる木は、たしかこの林にありました。あっちです」
私たちは直幸くんの指したほうへと走る。
一花ちゃんも、四月ちゃんも、いっしょについてきてくれた。
急な斜面(しゃめん)をこえると、木々がとぎれ、少し開けたところに出て。
「あっ、あゆむ!!」
そこにいたのは、あゆむくんだ!
大きな木の根元にこしかけ、幹にもたれかかるようにして、目を閉じてる……!
「あゆむ、あゆむっ、しっかりしい!」
二鳥ちゃんがあゆむくんを優しくゆする。
すると――。
「……うぁ…………」
あゆむくんは、ゆっくりと目を開けた。
よかった……! ねむくなっちゃっただけなのかな。
「あゆむ……!」
二鳥ちゃんが心底ホッとしたような顔でほほえんで。
一花ちゃん、私、四月ちゃんの三人も、にっこり笑って、同時に名前をよんだ。
「「「あゆむくんっ」」」
すると……。
こっちを向いたあゆむくんの目が、みるみる大きく開かれて。
小さな口も、自然にポカンと開いちゃって。
あれ……? あれれ? どうしたの?
私が……たぶんみんなも、そう思った瞬間。
あゆむくんの顔が、一度にクシャッとゆがんで、あっという間に泣き顔になっちゃった。
「ふうぅう~~っ、ううううわあぁあーーん!」
えっえっえっ?
「ど、どないしたんあゆむ……!?」
たずねた二鳥ちゃんに、あゆむくんは大声で泣きながら答えた。
「あーッ、にっ、にどぢゃん、よにんいる~~~!」
「「「「あっ……! ……あはは……」」」」
私たちは、おたがいの顔を見て苦笑い。
あゆむくん、目が覚めたら、お姉ちゃんと同じ顔の人が四人もいて、びっくりしたんだね。
「わあぁー~~~ッ、うあぁ~~~ん」
なんだか、赤ちゃんみたいな元気な泣き方だ。
「あゆむ……よかった」
二鳥ちゃんは、べそをかくあゆむくんをぎゅっとだきしめた。
私、そのすがたを見たとき……。
ああ、二鳥ちゃんって、本当にあゆむくんのお姉ちゃんなんだ。
二鳥ちゃん、あゆむくんのことが大好きなんだ。
って、実感して。
体のしんから、じわっと、うれしさでいっぱいになったんだ。
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