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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし④ 再会の遊園地』第12回 考えるのは、あと


お休みの日に、みんなで楽しく遊園地へ! 苦手だけど、がんばってジェットコースターに乗っていた三風は乗り物酔いでヘロヘロに……。休憩している三風へ「にとちゃん!」話しかけてきた、小さな男の子。この子、もしかして、二鳥ちゃんの弟!? とんでもない事態のいっぽうで、別行動していた一花チームは……?
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12 考えるのは、あと

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 ――サァァァァァア…………

 小さな噴水の水音が、とぎれることなく続いている。

 私・三風は、二鳥ちゃんの話を聞きおえて。

 胸が、つぶれそうに痛くて、何も言えなくなってた。

 今までにも、『二鳥ちゃん、少しヘンだな。どうしたのかな』って思うことは、何度かあった。

 たとえば、デパートで、ひと組の親子連れを、暗い目でじっと見つめていたこと。

 たとえば、お母さんを名乗る人から手紙がとどいたあのとき、

 ――「なんやねん! 都合って!」

 そう急におこって、手紙をビリビリにやぶいてしまったこと。

 たとえば、麗さんを追いだしたあと。

 ――「うちは絶対イヤなんや……家族やのに離ればなれになったり……大人の都合であっちに行ったりこっちに行ったり、そんな、モノみたいにあつかわれんのは…………っ」

 そう、泣きそうな声でしぼりだしていたこと。

 みんな、納得できた。

 そんな辛い過去があったからなんだ、って。

「……どうして言ってくれなかったの?」

 一花ちゃんはうめくように言った。

「私、前にあんたにひどいことを言っちゃった。『恵まれて育ったからそんなことが言えるのよ』って」

「そんなん、気にしてへんよ」

 二鳥ちゃんは、一花ちゃんの反応に、少しおどろいたみたい。

 一花ちゃんは、さらに言った。

「私が気にするわよ。やっぱり二鳥にも辛い過去があったんじゃない。どうして教えてくれなかったの?」

「どうしてって……教えるつもりがなかったからや。お母ちゃんやお父ちゃんに会うことなんか、もう二度とないって思てたから」

「ヒミツにして、ずっと私たちに見えないところで傷つき続けるつもりだったの? 自分だけが傷つけばいいって思ってたの? 全然よくないわよ、そんなの。だって私たちは……私たちは姉妹なのに、私、なんにも知らなくて、なんにもできなくて、それどころか……っ」

 言葉をつなげているうちに、一花ちゃんは泣きそうな顔になっている。

「ごめんなさい二鳥……おこってるんじゃないの。どうしたらいいかわからないの……」

 まるで、二鳥ちゃんのかわりに、一花ちゃんが泣いているみたい。

 同じ顔だから、よけいにそう思うのかな。

 カッとなったはずみで放ってしまった、『恵まれて育ったからそんなことが言えるのよ』という言葉。

 それが、大好きな妹を、思っていたよりもずっと深く傷つけるものだったと知ったから……。

 一花ちゃん、きっと、すごく後悔してるんだ。

「あべこべや。うちは全然気にしてへんのに」

 ほほえみながら、二鳥ちゃんは一花ちゃんのかたをだいた。

 だけど、だれより辛いのは二鳥ちゃんのはずだ。

 私はそう思って、二鳥ちゃんの背中に、そっと手を当てた。

 そうして、噴水の近くに座りこんだまま、しばらくたったころ。

 ――ピンポンパンポーン!

 近くにあるスピーカーが、ふたたび大きな音を放った。

 ――ご来場ありがとうございます。皆さまに、迷子さんのおよびだしを申しあげます。オレンジ色のTシャツを着た、池谷歩武くんとおっしゃる、三歳くらいの男の子をお見かけの方は、インフォメーションセンター、もしくはお近くのスタッフまでご連絡ください……

 あゆむくん、まだ見つかっていないんだ。

 私も、一花ちゃんも、そして二鳥ちゃんも、無言で顔を上げる。

 どうしよう……どうしよう…………っ。

 ほんの短い時間で、私はすごく迷った。

 私たちが、二鳥ちゃんといっしょに、あゆむくんをさがしに行ったら。

 きっと、佐歩子さんや武司さんと、顔を合わせることになるだろう。

 そうしたら、二鳥ちゃん、とても苦しい思いをするにちがいない。

 だけど…………。

「あゆむくん……言ってたよ。『お姉ちゃんのことが好き、にとちゃんに会いたい』って」

 私は、ためらいながら言った。

 あゆむくん、私を二鳥ちゃんだとかんちがいして、すっごくうれしそうにはしゃいでた。

 あゆむくんは、離れていても、二鳥ちゃんのことが大好きだったんだ。

 それなら、二鳥ちゃんだって、あゆむくんのことが大好きなはずだよ。

 そう思ったから。

 すると、ひと呼吸おいて。

 二鳥ちゃんは、意を決したかのように立ちあがった。

「あゆむをさがす」

「二鳥……いいの?」

 一花ちゃんが心配そうにたずねると、二鳥ちゃんは、きっぱりと首をタテにふる。

「あゆむは何も悪くないもん。昔のこと考えたかてしゃあない。今は、あゆむや!」

 はっきりとしたその言葉に、私も一花ちゃんも、ふるいたつようにうなずいた。


 あゆむくんをさがすことに決めた私たちは、その場で遊園地のガイドマップを広げた。

 あらためて見ると、この遊園地、かなり広いなぁ。

 あゆむくんは、この中の、一体どこにいるんだろう。

「あゆむくんの行きそうなところに、心当たりある?」

 一花ちゃんがたずねると、二鳥ちゃんは、「うーん……」と首をひねった。

「あゆむ、ひょっとしたら、遊園地に来るの、今日が初めてかもしれへんねん。やから、あゆむの好きな乗り物とかはわからへんし……園内のどこにおるか、見当つかへんわ……」

「そう……」

 私はますますあゆむくんが心配になってきた。

「あゆむくん、一人になって、泣いてないかな……」

「や、それは大丈夫やと思うで。たぶん」

「どうして?」

 たずねると、二鳥ちゃんはちょっぴり笑って答えた。

「あゆむ、迷子になるのなんか、なれっこやねん。一人でどっか行って、いつも平気な顔してた。ほんまによう迷子になったわ。なんか気になるもん見つけたら、すぐ走りだすから……」

 それから少し、しずんだ調子で、

「……あの日もそうやったっけ。公園で、落ち葉のつもったとこを見たとたん、『どんぐい!』って、急にダーッと走りだして」

「『どんぐい』?」

「どんぐりのこと。かわいいやろ。それで、ドテーン、って転んでしもて、おでこを切って」

 私は、ハッ、と気づいた。

「あのっ……二鳥ちゃん。佐歩子さんと武司さんは、二鳥ちゃんがあゆむくんをねたんで、つきとばして、転ばせた、って言ってたよ。それってやっぱり、かんちがいだよね?」

「えっ?」

 二鳥ちゃんは、不安そうに目を見開く。

「何それ……! そんなこと、うち、絶対してへんよ! たしかにうち、『ちゃんと見てなかったうちのせいや』とは言ったけど、つきとばすやなんて、そんなこと……! あのとき、お母ちゃんたちにもちゃんと説明したのに……なんで……」

 やっぱり、何かかんちがいが起きてたんだ。

 どうして、そんな大変な誤解が生まれちゃったんだろう?

 気になったけど、二鳥ちゃんはとまどいを断ちきるように頭をふる。

「あかんあかん。今は、あゆむをさがさな!」

「……ええ、そうね。三歳くらいの男の子が好きそうな場所……地図で見ると、小さい子向けの乗り物は、遊園地の南がわに集まってるみたいよ」

「あっ、せや! あゆむは、飛行機が好きやった」

 二鳥ちゃんが思いだすと、一花ちゃんが地図を指さした。

「なら、この、『ぐるぐるプレーン』かしら? 飛行機の形をしてるわ。ここからだと、ちょっと遠いけど……」

 あゆむくんは飛行機が好き……。

 うーん、それだけじゃ、なんとなくだけど、決め手に欠けるような気がするよ。

 こんなとき、四月ちゃんの推理も聞ければ心強いのに……。

 ……って。

 あれ?

「一花ちゃん、そういえば、四月ちゃんは?」

「ああっ!!」

 ――バタバタバタバタッ……!

 一花ちゃんが大声を出したので、近くにいたハトがいっせいに飛びたった。

「すっかり忘れてた!」

 い、一花ちゃんもたまにはうっかりしちゃうんだね……。

「一花もたまにはうっかりするんやなあ……」

 二鳥ちゃんがつぶやくと、一花ちゃんは頭をかかえてため息をついた。

「はぁ~……。……なんてことなの。本当にうっかりしてたわ。大丈夫かしら四月。今、直幸くんと二人きりなのよ」

「ええっ!?」

 ――バタバタバタバタッ……!

 二鳥ちゃんがおなかからひびく大声を出し、またハトが飛びたった。

 私、びっくりして、ハトが豆鉄砲(まめでっぽう)をくったような顔になってたかも……。

「二人っきり!? そらあかんで! 絶対あかん」

「とにかく電話してみるわ……」

 一花ちゃんはスマートフォンを操作し、耳に当てた。


第13回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319067

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