
お休みの日に、みんなで楽しく遊園地へ! 苦手だけど、がんばってジェットコースターに乗っていた三風は乗り物酔いでヘロヘロに……。休憩している三風へ「にとちゃん!」話しかけてきた、小さな男の子。この子、もしかして、二鳥ちゃんの弟!? とんでもない事態のいっぽうで、別行動していた一花チームは……?
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12 考えるのは、あと
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――サァァァァァア…………
小さな噴水の水音が、とぎれることなく続いている。
私・三風は、二鳥ちゃんの話を聞きおえて。
胸が、つぶれそうに痛くて、何も言えなくなってた。
今までにも、『二鳥ちゃん、少しヘンだな。どうしたのかな』って思うことは、何度かあった。
たとえば、デパートで、ひと組の親子連れを、暗い目でじっと見つめていたこと。
たとえば、お母さんを名乗る人から手紙がとどいたあのとき、
――「なんやねん! 都合って!」
そう急におこって、手紙をビリビリにやぶいてしまったこと。
たとえば、麗さんを追いだしたあと。
――「うちは絶対イヤなんや……家族やのに離ればなれになったり……大人の都合であっちに行ったりこっちに行ったり、そんな、モノみたいにあつかわれんのは…………っ」
そう、泣きそうな声でしぼりだしていたこと。
みんな、納得できた。
そんな辛い過去があったからなんだ、って。
「……どうして言ってくれなかったの?」
一花ちゃんはうめくように言った。
「私、前にあんたにひどいことを言っちゃった。『恵まれて育ったからそんなことが言えるのよ』って」
「そんなん、気にしてへんよ」
二鳥ちゃんは、一花ちゃんの反応に、少しおどろいたみたい。
一花ちゃんは、さらに言った。
「私が気にするわよ。やっぱり二鳥にも辛い過去があったんじゃない。どうして教えてくれなかったの?」
「どうしてって……教えるつもりがなかったからや。お母ちゃんやお父ちゃんに会うことなんか、もう二度とないって思てたから」
「ヒミツにして、ずっと私たちに見えないところで傷つき続けるつもりだったの? 自分だけが傷つけばいいって思ってたの? 全然よくないわよ、そんなの。だって私たちは……私たちは姉妹なのに、私、なんにも知らなくて、なんにもできなくて、それどころか……っ」
言葉をつなげているうちに、一花ちゃんは泣きそうな顔になっている。
「ごめんなさい二鳥……おこってるんじゃないの。どうしたらいいかわからないの……」
まるで、二鳥ちゃんのかわりに、一花ちゃんが泣いているみたい。
同じ顔だから、よけいにそう思うのかな。
カッとなったはずみで放ってしまった、『恵まれて育ったからそんなことが言えるのよ』という言葉。
それが、大好きな妹を、思っていたよりもずっと深く傷つけるものだったと知ったから……。
一花ちゃん、きっと、すごく後悔してるんだ。
「あべこべや。うちは全然気にしてへんのに」
ほほえみながら、二鳥ちゃんは一花ちゃんのかたをだいた。
だけど、だれより辛いのは二鳥ちゃんのはずだ。
私はそう思って、二鳥ちゃんの背中に、そっと手を当てた。
そうして、噴水の近くに座りこんだまま、しばらくたったころ。
――ピンポンパンポーン!
近くにあるスピーカーが、ふたたび大きな音を放った。
――ご来場ありがとうございます。皆さまに、迷子さんのおよびだしを申しあげます。オレンジ色のTシャツを着た、池谷歩武くんとおっしゃる、三歳くらいの男の子をお見かけの方は、インフォメーションセンター、もしくはお近くのスタッフまでご連絡ください……
あゆむくん、まだ見つかっていないんだ。
私も、一花ちゃんも、そして二鳥ちゃんも、無言で顔を上げる。
どうしよう……どうしよう…………っ。
ほんの短い時間で、私はすごく迷った。
私たちが、二鳥ちゃんといっしょに、あゆむくんをさがしに行ったら。
きっと、佐歩子さんや武司さんと、顔を合わせることになるだろう。
そうしたら、二鳥ちゃん、とても苦しい思いをするにちがいない。
だけど…………。
「あゆむくん……言ってたよ。『お姉ちゃんのことが好き、にとちゃんに会いたい』って」
私は、ためらいながら言った。
あゆむくん、私を二鳥ちゃんだとかんちがいして、すっごくうれしそうにはしゃいでた。
あゆむくんは、離れていても、二鳥ちゃんのことが大好きだったんだ。
それなら、二鳥ちゃんだって、あゆむくんのことが大好きなはずだよ。
そう思ったから。
すると、ひと呼吸おいて。
二鳥ちゃんは、意を決したかのように立ちあがった。
「あゆむをさがす」
「二鳥……いいの?」
一花ちゃんが心配そうにたずねると、二鳥ちゃんは、きっぱりと首をタテにふる。
「あゆむは何も悪くないもん。昔のこと考えたかてしゃあない。今は、あゆむや!」
はっきりとしたその言葉に、私も一花ちゃんも、ふるいたつようにうなずいた。
あゆむくんをさがすことに決めた私たちは、その場で遊園地のガイドマップを広げた。
あらためて見ると、この遊園地、かなり広いなぁ。
あゆむくんは、この中の、一体どこにいるんだろう。
「あゆむくんの行きそうなところに、心当たりある?」
一花ちゃんがたずねると、二鳥ちゃんは、「うーん……」と首をひねった。
「あゆむ、ひょっとしたら、遊園地に来るの、今日が初めてかもしれへんねん。やから、あゆむの好きな乗り物とかはわからへんし……園内のどこにおるか、見当つかへんわ……」
「そう……」
私はますますあゆむくんが心配になってきた。
「あゆむくん、一人になって、泣いてないかな……」
「や、それは大丈夫やと思うで。たぶん」
「どうして?」
たずねると、二鳥ちゃんはちょっぴり笑って答えた。
「あゆむ、迷子になるのなんか、なれっこやねん。一人でどっか行って、いつも平気な顔してた。ほんまによう迷子になったわ。なんか気になるもん見つけたら、すぐ走りだすから……」
それから少し、しずんだ調子で、
「……あの日もそうやったっけ。公園で、落ち葉のつもったとこを見たとたん、『どんぐい!』って、急にダーッと走りだして」
「『どんぐい』?」
「どんぐりのこと。かわいいやろ。それで、ドテーン、って転んでしもて、おでこを切って」
私は、ハッ、と気づいた。
「あのっ……二鳥ちゃん。佐歩子さんと武司さんは、二鳥ちゃんがあゆむくんをねたんで、つきとばして、転ばせた、って言ってたよ。それってやっぱり、かんちがいだよね?」
「えっ?」
二鳥ちゃんは、不安そうに目を見開く。
「何それ……! そんなこと、うち、絶対してへんよ! たしかにうち、『ちゃんと見てなかったうちのせいや』とは言ったけど、つきとばすやなんて、そんなこと……! あのとき、お母ちゃんたちにもちゃんと説明したのに……なんで……」
やっぱり、何かかんちがいが起きてたんだ。
どうして、そんな大変な誤解が生まれちゃったんだろう?
気になったけど、二鳥ちゃんはとまどいを断ちきるように頭をふる。
「あかんあかん。今は、あゆむをさがさな!」
「……ええ、そうね。三歳くらいの男の子が好きそうな場所……地図で見ると、小さい子向けの乗り物は、遊園地の南がわに集まってるみたいよ」
「あっ、せや! あゆむは、飛行機が好きやった」
二鳥ちゃんが思いだすと、一花ちゃんが地図を指さした。
「なら、この、『ぐるぐるプレーン』かしら? 飛行機の形をしてるわ。ここからだと、ちょっと遠いけど……」
あゆむくんは飛行機が好き……。
うーん、それだけじゃ、なんとなくだけど、決め手に欠けるような気がするよ。
こんなとき、四月ちゃんの推理も聞ければ心強いのに……。
……って。
あれ?
「一花ちゃん、そういえば、四月ちゃんは?」
「ああっ!!」
――バタバタバタバタッ……!
一花ちゃんが大声を出したので、近くにいたハトがいっせいに飛びたった。
「すっかり忘れてた!」
い、一花ちゃんもたまにはうっかりしちゃうんだね……。
「一花もたまにはうっかりするんやなあ……」
二鳥ちゃんがつぶやくと、一花ちゃんは頭をかかえてため息をついた。
「はぁ~……。……なんてことなの。本当にうっかりしてたわ。大丈夫かしら四月。今、直幸くんと二人きりなのよ」
「ええっ!?」
――バタバタバタバタッ……!
二鳥ちゃんがおなかからひびく大声を出し、またハトが飛びたった。
私、びっくりして、ハトが豆鉄砲(まめでっぽう)をくったような顔になってたかも……。
「二人っきり!? そらあかんで! 絶対あかん」
「とにかく電話してみるわ……」
一花ちゃんはスマートフォンを操作し、耳に当てた。
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