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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし④ 再会の遊園地』第8回 一方、のんびりチームは


四つ子と湊くん、直幸くん、杏ちゃんの7人で、遊園地へ! みんなでワイワイ楽しいし、気になる人もいっしょでドキドキしちゃう一日……になるはずが、二鳥の『過去』にかかわる『ある人物』があらわれて、波乱の展開に!? つばさ文庫の大人気シリーズ「四つ子ぐらし」の第4巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!


※これまでのお話(4巻)はコチラから
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8 一方、のんびりチームは

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 ピクニックコーナーで、アクティブチームの四人と別れたあと。

「さて、私たちはどこに行こうかしら」

 私・一花(いちか)は、つとめて明るく言って、ゆっくりと園内を歩きだした。

 私の右どなりには四月(しづき)。

 左どなりには直幸(なおゆき)くん。

「……………………」

「……………………」

 二人は、ひとことも言葉を交わさない。

『言葉を交わせない』というのが正確なところかしら。

 きっと二鳥が、『デートになってしまう』なんて、よけいなことを言ったからだわ。

 困ったな……私、じつはこういう気まずいふんいき、あまり得意じゃないのよ。

 思いながらも、私たちはなんとなく、野外ステージに立ちよってみた。

 だけど、出し物は小さい子ども向けのヒーローショーだったから、三人ともすぐあきちゃって。

「……もう行きましょうか」

 いまひとつな空気のまま、私たちは野外ステージを出て、遊園地の奥へと向かった。

 はぁ……ここはひとつ、何か楽しい乗り物に乗って、ふんいきをやわらかくしたいわ。

 歩きながらあたりを見回すと……とっておきの乗り物を見つけた。

「ねえ、四月、直幸くん。観覧車があるわ。乗ってみない?」

 カラフルな観覧車って、見ているだけで、ちょっと楽しくなるじゃない?

 中からのながめもいいだろうし、これに乗ったら、少しは明るい気分になるんじゃ……。

 と思ったそのとき。

「――ねえ、知ってる? ここの観覧車の都市伝説」

「知ってる! ピンクのゴンドラに乗れたカップルは、いつまでも幸せでいられるんでしょ」

「えーっ、ウソぉ~。まあ観覧車って、カップルにピッタリの乗り物だよねー――」

 近くにいた、高校生っぽい女の人たちが、そんなウワサ話を大声でしはじめて。

 たちまち、四月も直幸くんも、口をむすんでうつむいちゃった。

「……観覧車、乗ってみない?」

 ダメもとでもう一度聞いてみたら、やっぱり、四月は無言で首をふり、

「ア……僕もいいです」

 直幸くんも、四月のほうを横目でちらりと見たあと、首をふった。

 二人きりならともかく、今は私もいて三人なんだし、そんなにはずかしがることないじゃない、とも思うけど……しかたがないか。

 私たちは、観覧車の前を通りすぎた。

 だけど、せっかく遊園地に来たんだから、何かアトラクションで遊びたいわ。

 あ、そうだ。

 思いついて、私は声をかけた。

「ねえ、直幸くん」

「ハ、ハイッ」

「直幸くん、昔、湊くんや杏ちゃんといっしょに、この遊園地に来たことあるのよね」

「あ、はい……けっこう昔、ですけど」

「何かおすすめのアトラクションとかある?」

「えっと……あります」

 お、ちょっと会話が弾みはじめた。

「あの……すぐそこに、昔、よく遊んだ場所があって」

「へえ、そうなの。行ってみましょうよ」

 私がほほえむと、四月と直幸くんはうなずいた。

「こっちです。『アスレチックの林』っていうところなんですけど……」

 道を曲がった先に現れたのは、木々のおいしげる、広そうな林の入り口。

 それから、一枚の立て看板。

《アスレチックの林は閉鎖(へいさ)されました》

《立ち入り禁止・あぶないから、はいらないでね!》

「えっ……」

 直幸くんも、四月も、私も、その場で足を止めた。

「あの……ここ、大きい林の中に、木製アスレチックがいくつもあるコーナーで……湊や杏といっしょに、よく遊んでたんですけど……」

 直幸くんは、申しわけなさそうな、残念そうな顔をしてる。

「閉鎖、されてますね……遊具が古くなったのかも……」

「……しかたがないわね」

 私たちは観覧車の方向へ、来た道を引きかえした。

 会話はいまひとつ弾まず、観覧車には乗れず、思い出の遊び場所は立ち入り禁止。

 はぁ……、と、ため息が出ちゃいそう。

 見上げれば、空は一面、中途半端(ちゅうとはんぱ)にくもっていて、まるで今の私たちみたい。

 そんなことを考えながら、ちょうど観覧車の前までもどってきたとき。

 ――ピリリリリリリリ……、ピリリリリリリリ…………

 私のスマートフォンが鳴りだした。

「電話だわ」

 スマホの画面を見ると、『三風(みふ)』の二文字が表示されている。

 ――「何か困ったことが起こったら、いつでも連絡するのよ」

 念のために、三風にはそう伝えていたけど、何かあったのかしら?

 胸さわぎを覚えながら、通話ボタンをおした。

「はい――」

 一花よ、と言いおわらないうちに聞こえてきたのは、三風の今にも泣きそうな声。

『どうしよう一花ちゃん! 二鳥(にとり)ちゃんの弟が迷子になっちゃったの!』

 お…………。

「弟ぉ!?」

 あっ、いけない!

 あまりに予想外の言葉が聞こえて、思わず声に出しちゃった。

 案の定、四月も直幸くんも、ふしぎそうな目でこっちを見てる。

「……なんでもないの。ごめんね。少しだけ電話で話してもいいかしら」

 私はさりげなく、四月と直幸くんから距離を取り、手を口元に当て、小声で三風と通話した。

「三風、落ちついて。二鳥の弟、って言った? それってどういうこと?」

『じ、じつはねっ……』

 三風はとてもあせった口調で、事情を説明してくれた。

「――つまり、二鳥の養父母さんの息子さんが迷子になったってこと?」

『そうなのっ。私のせいで……』

 小学生くらいの子ならまだしも、三歳くらいの子が迷子となると、本当に心配だわ。

 危険な場所と安全な場所の区別がついていないかもしれないし、ちょっとしたミゾや、段差や坂道なんかでも、転んでケガをするかもしれないもの。

 それに……二鳥の言っていたっていう言葉も気になる。

 うすうす、二鳥は何かかくしてるんじゃないかって思ってたけど、『捨てられた』って何?

 というか、よりにもよって、どうして遊園地で、因縁(いんねん)らしき相手と鉢(はち)合わせしちゃうのよ。

 私はいらだって、奥歯をかみしめた。

 だけど、なげいてたって、なんにもならない。

「三風、ジェットコースターの近くにいるのね?」

『うん。スカイホワイトドラゴンっていうジェットコースターの、出口の近くにあるベンチだよ。細い坂道の中腹あたり!』

 それなら、ここからそう遠くない。

「わかった。私、行くわ。そこを動かないで待っていて。いいわね」

 私は電話を切り、四月と直幸くんに向きなおった。

「ごめんなさい。ちょっと用ができちゃって、私、行かなきゃならないの」

「えっ…………」

 不安そうに言葉をつまらす妹に、心がチクリと痛んだ。

 本当なら、すぐにでも四月と情報を共有したいけれど……。

 直幸くんの前じゃ説明しづらいし、彼を一人にするわけにもいかない。

「あとで必ず連絡するわ。四月と直幸くんは二人で遊園地を楽しんで。大丈夫よ。私、またもどってくるから!」

 ごめんね四月。がんばって。

 私はそう言いのこし、三風のもとへと走りだした。


第9回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319067

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