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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし④ 再会の遊園地』第7回 この子、だれ?


四つ子と湊くん、直幸くん、杏ちゃんの7人で、遊園地へ! みんなでワイワイ楽しいし、気になる人もいっしょでドキドキしちゃう一日……になるはずが、二鳥の『過去』にかかわる『ある人物』があらわれて、波乱の展開に!? つばさ文庫の大人気シリーズ「四つ子ぐらし」の第4巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(4巻)はコチラから
 1巻はコチラから
 2巻はコチラから
 3巻はコチラから


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7 この子、だれ?

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「にとちゃん、お、ね、え、ちゃ、んっ、きゃぁ!」

 きゃっきゃと笑いながら、私にだきついたまま、ぴょんぴょんはねる小さな男の子。

「わ、わ、わ、ちょっとまま、待って……!?」

 私は思わずベンチから立ちあがる。

 それでも男の子は、私の服のすそをはなそうとしない。

 どどど、どうしよう、こういう小さな子に出会ったときは。

 あっ、歌!? 歌えばいいの? グーチョキパーの……なんだっけ!?

 あまりに思いがけないことが起こったから、ちょっとパニックになっちゃった。

 だけど、

「きゃ~ぁ! にとちゃん、いっちょに、あそぼ!」

 ……この子、泣きだすどころか、めちゃくちゃ笑顔で、めちゃくちゃきげんいいみたい。

『にとちゃん』って、なんのことだろう?

 ちょっと舌足らずだから、なんて言ったのか、わからないや。

「えっと、あのう……」

 ていうか、この子……身長、私のおへそくらいまでしかないよ。

 ほっぺたがぷくぷくして、やわらかそうで、手のひらもちっちゃくて。

 着ているオレンジ色のTシャツも、当たり前だけど、幼い子ども用のちっちゃいサイズで。

 はいているクツまで、うんと小さくて。

 かっ、かわいいなぁ~……!

 とまどうのと同時に、胸がきゅーん! となって、ウズウズウズッ。

 私もこの子を、ぎゅーっとだきしめたくなっちゃった。

 だけど、ぐっとガマン。

「あ、あのう……お名前は? お母さんと、お父さんは?」

 この子、ひょっとしたら迷子かもしれない。

 私はしゃがんで、男の子と目線を合わせ、ゆっくりと聞いてみた。

「うーふっふーっ、あゆむくんのおなまえは、あゆむくんや!」

 男の子――あゆむくんは、答えてはくれたけど、少しもじっとしてくれない。

 ジャンプしたり、私の手をにぎったり、ベンチのまわりをトコトコ走ったり。

 か、かわいいけど、ちょっと止まって~。

「あのっ、お母さんとお父さんは、どこにいるの?」

「お母ちゃんとお父ちゃんは、あっち!」

 ……あゆむくんがちっちゃな指でさす、『あっち』には、だれもいないんだけど……。

 つまり、やっぱり迷子ってことか……。

 と思ったそのとき、あゆむくんが私に向かってさけんだ。

「あゆむな、にとちゃんに、またあえて、うれちいの!」

「え……にとちゃんって、だあれ?」

「にーとーちゃーんは、こーこ! あゆむのおねーちゃーん~!」

 あゆむくんはじれったそうに言って、しゃがんでいる私に、ぎゅっとだきついてきた。

 ほっぺとほっぺがむぎゅっとくっついて、思ったとおり、とってもやわらかい。

 それにすごくあったかくて、ふふっ、ついたばかりのおもちみたい……。

 ……って、なごんでいる場合じゃないや。

 つまり、あゆむくんは、私を、自分のお姉さんの、『にとちゃん』だとかんちがいしてるんだ。

 だから、笑ってだきついてきてくれたんだね。

 人ちがいとはいえ、『おねえちゃん』ってよばれると、うれしくなっちゃうな。

 もし、私に歳の離れた弟がいたら、こんな感じなのかな?

「うふふっ」

 自然と笑みがこぼれた。

 よし、私、今だけこの子のお姉ちゃんになろう。

 あゆむくんを絶対、お母さんたちのもとへ帰らせてあげよう。

 そう決意したとき。

 あゆむくんの左手首に、リストバンドみたいなものがついていることに、私は気づいた。

 このリストバンド……細かい字で、何か書いてあるみたい。

《ぼくのなまえ・池谷(いけや)歩武(あゆむ)》

《おかあさんのなまえ・池谷佐歩子(さほこ)》

《おとうさんのなまえ・池谷武司(たけし)》

 名前のほかには、携帯電話の番号とかも書いてある。

 なるほど。これ、いわゆる迷子札だね。

 あゆむくんの苗字は、池谷っていうんだ。

 それに……あっ、なるほど、すごい。

『佐歩子』の『歩』と、『武司』の『武』をつなげて『歩武』なんだ。

 あゆむくん、お母さんとお父さんに、とっても大切にされてる子なんだろうな。

 よし、じゃ、この迷子札に書いてある番号に、さっそく電話をかけてみよう。

 と思ったけど……。

 私は、スマホを持った手をピタリと止めてしまった。

 まったく知らない人に電話をするのが、ためらわれたから……だけじゃない。

 ……池谷?

 なんか、どこかで聞いたことのある苗字だなぁ。

「おねえちゃん、あゆむな、あっちで、あゆむ、かんらんちゃに、のってんで。かんらんしゃ、め~っちゃたかいねん!」

 あゆむくんって、よく聞いてみると、関西弁でしゃべってるよね。

「にとちゃん……? どーしたん?」

 それで、お姉さんの名前が、『にとちゃん』。

 ……にと…………。

 ――二鳥、ちゃん――?

「えええっ!?」

 頭の中でパズルみたいに情報がつながって、大声をあげちゃった。

 そうだ。池谷って、二鳥ちゃんが養子になってたお家の苗字(みょうじ)だよ、たしか!

 あゆむくんが私を『にとちゃん』だとかんちがいしてしまったのは、私と、『にとちゃん』の顔がそっくりだったから!

 つまり、あゆむくんのお姉さんの『にとちゃん』は二鳥ちゃん。

 あゆむくんは、二鳥ちゃんが養子になっていたお家の、息子さんなんだ!

「あ、あゆむくん、二鳥ちゃんの弟なの?」

 思わずたずねると、あゆむくんは、

「せやで」

 とにっこり。

 知らなかったよ。二鳥ちゃんに弟がいたなんて。

 だって、二鳥ちゃん、弟がいるなんて話を、今まで一度もしてくれたことなかったもの。

 まあ、二鳥ちゃんって元々、養子だったころの話を、姉妹にほとんどしないんだけど……。

「にとちゃん?」

 あゆむくんは、私の顔をじっと見つめる。

 すると次に、なぜかまわりを、きょろきょろ。

 何かを確認して、ヒソヒソ、と私にこう言った。

「お母ちゃんも、お父ちゃんも、見てないから……にとちゃん、あゆむと、おはなししてもだいじょうぶや」

 え?

「にとちゃんのな……にとちゃんのせいでケガしたとこ、もうなおったから、へいきやもん」

 私は言葉を失ってしまった。

 お母さんやお父さんが見ていたら、二鳥ちゃんはあゆむくんと話すことができないの?

 二鳥ちゃんのせいで、あゆむくんはケガをしたことがあるの?

 すごく気になったけれど、あゆむくんは小さすぎて、聞いてもきっとうまく答えられないよね。

 それなら……二鳥ちゃんに聞いてみるしかない。

「あゆむくん」

「なにー?」

 私はあゆむくんの目を見て、語りかけた。

「あゆむくん。今、二鳥ちゃんを電話でよぶから、ちょっと待っててくれる?」

「にとちゃん? にとちゃんは、ここ……」

「ううん。私は、二鳥ちゃんにそっくりだけど、二鳥ちゃんじゃないの。二鳥ちゃんは別のところにいるんだ。これから、電話でよぶね」

「にとちゃん……? にとちゃん、べつのとこ?」

「うん、そうだよ。二鳥ちゃんは別のところにいるの」

「あゆむ、おねえちゃん、すき……にとちゃんにあいたいの」

「うん、だから、ちょっとだけ、おとなしく待っててね」

 くりかえし言いきかせてから、私は立ちあがり、スマホを操作して、電話アプリを開く。

 そして、『宮美二鳥』の画面で、『発信』をおした。

 ――プルルルルルル……、プルルルルルル……、プルルルルルル……、プッ

『三風ちゃん? どないしたん?』

「あっ、二鳥ちゃん!」

 出てくれてよかった!

 私は状況を手早く説明した。

「私、今、あゆむくんといっしょにいるの。池谷歩武くん! ベンチのところで、たまたま出会ったんだ。二鳥ちゃんの弟だよね?」

『………………なんて?』

 電話の向こうの声の温度が、スッと下がったのがわかった。

 なんだか、ただごとではないような……。

 緊張を感じながらも、私は言葉を続けた。

「あ、あのね、あゆむくん、二鳥ちゃんに会いたがってるの。きっと近くに、二鳥ちゃんの養父母さんもいるはずなんだ。あの、それで……ちょっと聞きたいこととかもあるから、いったん、こっちに来て――」

『イヤや!!』

 突然耳を打った、二鳥ちゃんのどなり声。

 はげしいいかりが伝わってきて、私はその場でこおりついた。

『イヤや! だってうちは……うちはあの人らに捨てられたんや!!』

「えっ……!?」

 ――プツッ

 息をのんだと同時に、電話は切れてしまった。

 思いもよらない二鳥ちゃんの反応に、私の頭は真っ白だ。

 捨てられた……?

 それって、どういうこと?

 二鳥ちゃんと、養父母さんと、あゆむくんのあいだに、一体何があったの?

 でも、いくら考えたって、手がかりはなくて、答えは出ない。

 もう声の聞こえなくなったスマートフォンを、ぎゅっとにぎりしめて……。

 立ちつくしていたのは、ほんの三十秒くらいだったと思う。

「あっ、そうだ、あゆむくん」

 ふと、あゆむくんのことを思いだして、となりを見ると――。

 あれっ? いない……!?

「あ、あゆむくん!? あゆむくーん!」

 まわりを見回しても、ベンチのウラをのぞいても。

 トイレのところにも、自販機のところにも、坂道にも、あゆむくんのすがたはない。

「な、なんで? あゆむくん、どこに行っちゃったの……!?」

 疑問を口にして、ハッと気づいた。

 私が、『二鳥ちゃんは別のところにいる』なんて言っちゃったから。

 あゆむくんは、二鳥ちゃんを自分でさがしに行っちゃったのかもしれない。

 どうしようっ……!

 鳥肌(とりはだ)が立って、冷や汗がにじむ。

 私のせいだ。

 あゆむくん、本当に迷子になっちゃった!


第8回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319067

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