
四つ子と湊くん、直幸くん、杏ちゃんの7人で、遊園地へ! みんなでワイワイ楽しいし、気になる人もいっしょでドキドキしちゃう一日……になるはずが、二鳥の『過去』にかかわる『ある人物』があらわれて、波乱の展開に!? つばさ文庫の大人気シリーズ「四つ子ぐらし」の第4巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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6 恐怖のジェットコースター
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「さてっ、アクティブチーム、出発や!」
ピクニックコーナーを出て、野外ステージを素通りして。
私たちアクティブチームは、遊園地の奥へと歩きはじめていた。
メンバーはさっきも言ったとおり、二鳥ちゃん、湊くん、杏ちゃん、そして私の四人。
「何に乗ろっか? 三風ちゃんは何がいい?」
「えっ、えっと、どう、しようかな、ははは……」
湊くんにたずねられるのはうれしいけど、この近くにあるのは、こわそうな乗り物ばかり。
木製コースター、バイキングシップ、ジャンボスイングなどなど。
正直、どれも乗れる気がしない……。
「そういえば、ちょっとこんできたかな」
湊くんがあたりを見回して言った。
杏ちゃんもまわりを見てうなずく。
「本当ね。お昼をすぎたし、ますます人が増えてくるかもしれないわ」
「行列ができる前に、人気ありそうなやつから乗ったほうがええな。……となると――」
「最初に乗るのは、これしかないわね!」
杏ちゃんが、ピシッと指さした、私たちのちょうどとなりにあるアトラクション。
それは……。
《スリリングジェットコースター・スカイホワイトドラゴン》
ええ~っ!?
こ、これ、たぶん、この遊園地で一番大きくて、一番こわそうなジェットコースターだよ!
白い鉄骨が、複雑に組まれて、はるか上のほうまでそびえてる。
あっ、今、ジェットコースターが、レールの頂上から――。
――キャアアアアアァーーーーーーッ!
――ゴォーッ!
すべり落ちた!
――キャアアアアアァーーーーーーッ!
――ゴオォーッ!
いいい、一回転したぁ!
絶対、絶対めちゃくちゃこわいやつだよ、これ!
見ているだけでゾーっとして、足がふるえそうになったけど……。
「いいね! 乗ってみようっ」
ああっ、湊くんは乗り気だ。
楽しそうに私のほうを見て、ニカッと笑った。
「三風ちゃんはどうする?」
そんなまぶしい笑顔で聞かれたら、『私はやめとこっかな……』なんて言えないよ。
「わ、私も乗るっ……!」
『悲壮(ひそう)な覚悟』って、きっとこういうときのための言葉だ。
私は半分やけになって、湊くんたちのあとについていった。
『スリリングジェットコースター・スカイホワイトドラゴン』の列にならんで。
十分も待てば、順番がまわってきた。
ジェットコースターの座席は二列で、それが長く連なっていて……まるで龍の体みたい。
こんなこわそうなジェットコースターに乗るの、初めてだよ……。
というか、よく考えたら私、ジェットコースターに乗ること自体初めてだ。
「杏ちゃん杏ちゃん、一番前行こ!」
「うん!」
二鳥ちゃんと杏ちゃんは、一番前の席に座っちゃった。
「じゃ、俺たち、そのうしろに座ろっか」
「えっ、う、うん!」
私は湊くんのとなりの席。
こわいけれど、湊くんのとなりに座れたことは、ちょっぴりうれしいな。
「安全バーを下ろしまーす」
係員の人が、黒くて太い安全バーを、ガチャン、ガチャン、と私たちの上に下ろしていく。
下ろされたバーを自分で上げようとしても、ガッチリとロックされてて、絶対外れそうにない。
もう、逃げられないんだ……。
あっ、でも、安全バーが絶対外れないってことは、絶対無事に、生きて帰ってこれるよね!?
せわしなく、そんなことを考えていたら、
「三風ちゃん……大丈夫? なんか、顔色悪いよ」
「だだだだ、大丈夫っ」
湊くんに心配されちゃって、あわててごまかした。
「それではスカイホワイトドラゴン、発進です!」
係員の若いお姉さんが陽気にそう告げると、
――ブーッ
大きいブザーの音が鳴って、
――ガタンッ!
「ひいっ」
ジェットコースターが、動きだした……!
私は目の前の手すりをぎゅっとにぎって、もう目をつむっちゃった。
――ガタンガタンガタンガタン、ガチャン!
「っ……」
前のほうに少し進んで、止まった? とうす目を開けた瞬間。
体が、ぐいっ、とななめ上を向いた。
うわあああぁ、めっ、めちゃくちゃ急角度だぁ……!
私たち、ジェットコースターの最初にある、一番大きな山をのぼってる!
――ガタン、ガタン、ガタン、ガタン……
そ……空が、どんどん近づいてくる。
野外ステージの黄色い屋根が、ずっと下のほうに、あんなに小さく見える。
ああっ、あそこに見えるの、フリーフォールだ。
あのフリーフォールより高いところに、私たち来ているんだ!
心臓が、体の中でドキンドキン、うるさくはねまわっていて。
体がふるえてるのか、ジェットコースターの振動なのか、もうよくわからない。
ふたたび目をつむりそうになった、そのとき……。
――ぎゅっ
(え……?)
手が、あたたかい何かにつつまれたような気がして……私は思わず目を向けた。
すると、そこにあったのは……。
手すりをにぎる私の右手に、おおいかぶせるように重ねられた、湊くんの左手。
(え……? ええっ……?)
――ドキン、ドキン、ドキン、ドキン……
はねまわる心臓。
これって、一体、なんのドキドキなんだろう?
「うおーっ、思ったよりこえーっ」
湊くんが、私の手をにぎったまま、いつもよりもくだけた口調でさけぶ。
そうだ、私、湊くんと乗り物の感想とかを話してみたくてついてきたんだ。
目を閉じちゃいけないよ!
なんにもわからなくなっちゃうもん。
「わわ、わ、私もーっ」
こわさをふきとばすように、私もさけんでみて。
右手の親指だけをちょこっと動かして、湊くんの小指にふれてみたら――。
――ガタンッ……!
いつのまにか、ジェットコースターはレールの頂上についていた。
――ドキン…………ドキン………………ドキン…………………………
空気が、音が、鼓動が。
スローモーションになって、息が止まる。
だけど…………ダメ……落、ち――。
「きゃ――」
――キャアアアアアァーーーーーーッ!!
――ゴオォーッ!!
私たちはありえないような速さですべり落ちた。
悲鳴が一瞬でうしろにふきとばされていく。
(あっ! こわいよ!!)
と思う間もなく、
――ゴオォーッ!!
地面と空がひっくり返る!
一回転した!?
それから、ななめに大きくかたむいて、また落ちる!
――ゴオォーッ!!
(わ~~~~~~ッ!!)
やめて~! ななめにならないで~! 落ちる~! こわいよーっ!
私の体は、座席からうきあがったり、反対にものすごい力でおさえつけられたり。
ずーっと目を開けているのは、やっぱり、ムリ、だっ、た………………。
……ちょっとだけ、記憶が飛んでいる、かも。
気がついたら、ジェットコースターの乗り場にもどってきてて。
気がついたら、安全バーが外されて、体が自由になってて。
気がついたら、心配そうな顔をした、湊くん、二鳥ちゃん、杏ちゃんに取りかこまれてて。
それから、二鳥ちゃんにかたをかしてもらって、なんとか乗り場の外に出て……。
「う~~~ん…………」
私は、ジェットコースターの乗り場を出てすぐのところにあるベンチで、へばっていた。
頭がクラクラするよ~……。
「三風ちゃん大丈夫か~?」
そう言って、二鳥ちゃんが、ぬらしたハンカチをおでこに当ててくれた。
ひんやり冷たい中で、目を閉じて。
少したつと、乗り物よいみたいな症状は、だいぶマシになってきた。
「気づかなくってごめん、三風ちゃん、本当はジェットコースター、苦手だった?」
「えっと……」
湊くんに静かに問いかけられると、本当の気持ちをはきだしてしまいそうになる。
杏ちゃんが湊くんと仲よさそうなのを見ていたら、心がキュッと痛くなったこと。
『私も湊くんと仲よくなりたい』っていう下心で、ムリしてついて来ちゃったこと。
でも、そんなこと、さすがに言えないよ。
「えっと…………。……本当は苦手、っていうか、あんまり乗ったこと、なかったんだけど……何事もチャレンジかな、って思って……」
ぼそぼそと答えると、杏ちゃんがほほえんだ。
「そうだったの。三風ちゃん、えらいわ。勇気あるじゃない」
迷惑かけたのに、反対にほめられちゃった。
私、『杏ちゃんに湊くんを取られちゃうのはイヤだ』って、勝手に意識してたけど……。
杏ちゃんは私のこと、なんとも思ってなかったんだなぁ。
申しわけなくて、自分がきらいになっちゃうよ。
もう……こうなったら、こうするしかないっ。
私はみんなに心配をかけないように、へら~っ、と笑ってみせた。
「だけど、やっぱり私、こわい乗り物はダメみたい。本当にごめんねっ。少し休んで、そのあと、のんびりチームに行くよ。みんなは乗り物、乗ってきて!」
「えっ、一人で大丈夫?」
湊くんは、私を気づかうような瞳を向けてくれた。
それはありがたいけど、私のために、湊くんたちが乗り物に乗れなくなるなんて、イヤだよ。
「大丈夫だよっ。一花ちゃんにスマホで連絡して、どこにいるか聞いて、すぐ合流するから」
「んー……まあ一花がおるし、大丈夫やろか」
「そうねえ。三風ちゃんもそっちのほうが、遊園地を楽しめるわよね」
うなずく二鳥ちゃんと杏ちゃん。
「ほんなら、気いつけて」
「またこっちのチームに来たくなったら、いつでも連絡してねー」
湊くんたち三人は、ベンチから離れて、坂を下って……行っちゃった。
「はぁ~……」
一人になって、ため息をつくと、心がヘトヘトになっていることに気づく。
私、何やってるのかなぁ。
だけど、今回のことでひとつ学んだ。
いくら湊くんといっしょがいいからって、ムリはしちゃダメだってこと。
それから――。
私は自分の右手を見た。
あのとき、湊くん、私の手を、たしかににぎってくれてたよね?
ジェットコースターがこわすぎて、はっきりと記憶に残っていないのがくやしい。
湊くん、私がこわがらないように、手をつないでくれたのかな?
男女関係なく他人に優しくできるなんて、やっぱり湊くんはすごい。
あのとき、私、うれしくて、本当にドキドキしちゃったよ。
なんて思いだしてたら、ほおが熱くなっちゃった。
二鳥ちゃんがぬらしてくれたハンカチは、ほっぺたに当てても気持ちがいい……。
そんなことを考えて、しばらくぼんやりしたあと。
さて、そろそろ一花ちゃんに連絡して、のんびりチームに合流させてもらおうかな。
気持ちを切りかえて、顔をぐいっと上げた。
すると。
――じー…………
ん?
私の正面……十歩くらい離れたところに、三歳くらいの小さな男の子が一人、立っている。
ど、どうしたんだろう?
あの子、私の顔を、なんだかすっごく熱心に見つめてきてるよ?
いきなり声をかけたら、お弁当のとき出会った女の子みたいに、泣いちゃうかな?
そう思って、私はできるだけにっこり、その男の子に向かって、ほほえんでみた。
すると、
「きゃーぁ!!」
ほえっ?
その男の子、突然高い声をあげて、すっごく楽しそうに笑って――。
タタタタタッ、と走って、私の体に、ぎゅーっ、とだきついてきた!
「きゃーぁ!! おねえちゃん! にとちゃーん!」
えっ……。
ええええ~!?
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